「顔」

「顔」 -- ルキアスレのじゅ~にん 2006-01-15 05:16:46


「ふぅ、やっと終わった。疲れたな、目薬でも差すか・・・。」
「ん、いい感じだ。さてと。」
誰もいない教室。クラスの仲間はとっくに帰っていった。
俺はというと、今日の最後の授業で宿題が出たので、さっさと終わらせてしまおうと思い、居残りで勉強。
そして、宿題も終わってこれから寮に戻ろうと思っていたところだ。
ルキア今頃なにやってるかな。いつもなら隣には彼女がいる。休み時間も一緒なら、学校終わって寮に戻るのも一緒。
しかし、今日の宿題は集中して一気にやってしまいたかったので、先に1人で帰ってもらった。
居残ることを告げたときのルキアの不満そうな声。
「帰りにあいつのところに寄ってってやるか。今日は色々忙しくて、全く構ってやれなかったしな。」
そう思い、足早に教室の出口へと向かう。

 ドアを開けて敷居を跨ごうとしたとき、目の前に赤いものが飛び込んできた。予想しなかったことに少し驚く。
「おっと、ルキアか。どうした?忘れ物か?」一瞬何かと戸惑ったが、その赤みが強い髪の色に、緑色のきれいな大きな瞳、すぐにルキアだと解った。
内心、わざわざルキアの部屋に行かなくてすんだことを喜んだ。部屋を訪ねたはいいが、留守である可能性もなくはない。
こうして会えたことは、本当にラッキーなことだと思ったからだ。
「ん?どうした?さっきから俺の顔を見てるけど。なんか、おかしいか?」
俺のことを見つめるルキアの瞳、いつもの輝く瞳が少し鈍く悲しそうな瞳をしている。
心配になり、顔を覗こうとしたとき突然ルキアに抱きしめられた。
「え?ちょい本当に大丈夫か?」本気で心配になり、そう尋ねると、ルキアは
「心配なのはあなただよ・・・。どうしたの・・・?そんなに目を真っ赤にして、泣いていたの・・・?」
何を言ってるのかわからなかった。だって、俺は放課後、宿題をやっていただけで、悲しいことなど一つもなかったのだから。
まぁ、欠伸くらいはしたかもしれないが、涙を流した覚えなど・・・。
そんなことを考えていると、頭の中の何本かの線が1本の線につながった。
全てを理解して、笑い出す俺。いきなり笑い出した俺を顔を見ようと抱きしめていた手を離し、少しだけ距離をとるルキア。
俺の顔を見たその顔は、驚きや疑問などが入り混じった複雑な表情をしている。
「違うんだよ、ルキア。泣いていたように見えたのは、今さっき、目薬を差したからなんだよ。」
俺は少しでも安心させようと、できる限り優しさに満ちた顔を作った。
「で、でも、目赤いよ!泣いていたからじゃないの?」
「違う、違う。これは昨日、寝付けなくて寝不足だったから。ほら、目の下に少しクマができているだろ?」

少しの沈黙が二人の間に流れる。

「もう、バカじゃないの?」そう言って、再び俺に抱きつく。
「おまえが勝手に勘違いしたんだろ。」
「だって~・・・。」そう言って、俺の背中に回した手でさっきより少し強く抱きしめてくる。
「てか、普通は気づくだろ? 今日だって、何度か話したんだしさ。」
「話したけど、目合わせてくれないんだもん・・・。」
そういえば、そうだ。ルキアと話をするときに限って、仕事やら何やらで
まともにルキアの顔を見ていない。
「いや、悪かった。」正直、このことには反省はしていないが、ルキアに心配をかけたことには深く反省したので、素直に謝った。
すると「いいよ。なんでもなかったんだもん。」といつもの眩しい真夏の太陽のような笑顔を見せてくれた。
そんなルキアを今度は俺から抱きしめ、片方の手をルキアの頭にまわし少し髪をクシャクシャとやると、どうやら喜んでいるようだ。何となくだが、仕草から喜んでいるのが解る。

「ねぇ、帰ろっか。」


 「で、何しに学校に戻ってきたんだよ。何か教室から持ってきたようには見えなかったけど。」教室で会ったときから思っていた質問を何気なくぶつけてみる。
「それは~・・・、我慢できなくなっちゃった。」
「はぁ?」
「会いたくなっちゃった。」
「なんだよ、それ。」俺は恥ずかしくなってルキアから顔をそらす。
すると「また、そうやってあたしの目を見てくれない・・・。」
ルキアがうつむき、また少し落ち込んでいるように見えた。なので、慌てて彼女に目を合わせるようとする。
そうすると、「ウソだよ~。今、慌てた? 慌てたでしょ?」と小悪魔的な笑みを浮かべ、俺を見つめ返してきた。
そんなルキアに「アホか。慌ててねーよ。」と吐き捨て、歩くペースを少しだけ上げた。
「ちょ、ちょっと待ってよー。」と言って慌てて小走りでついてくるルキア。

「おい。」
「なぁに?」
「腕組んでやるよ。」
「え?いいの?だっていつも、恥ずかしいからダメだっていうのに。」
「いいんだよ。今日だけだからな。まぁ、ルキアがしたくないって言うなら別だけど。」
と相変わらず、ルキアの顔を見ずに言う。
「えへへ、やったぁ!」としっかり俺の腕にしがみついてくるルキア。
「ちょ、しがみつきすぎだ。歩きにくいだろうが!やっぱ、離せ。」
「やだよ~。ぜったい、離さないんだから♪」
俺を心配してくれたときのあの手、そして今、俺の腕をつかんでいるこの手。
たまには腕を組むのもいいかな、と思える自分がそこにはいた。

おわり








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最終更新:2006年01月18日 14:50
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