マジックアカデミー文化祭

マジックアカデミー文化祭 1日目

 10月に入り、夏の暑さが嘘のように涼しくなり俺を含む生徒達は活き活きとしていた。
気候のおかげだけではない。もうすぐ、文化祭が始まろうとしていたのだ。教室内では
生徒が文化祭の出し物を考えている。無論、俺も何にしようか考えているのだが。

俺 (やっぱ、無難に喫茶店かなあ・・・。去年は大問題起こしちゃったし・・・)

 投票用紙に喫茶店と書こうとしたとき、俺のシャーペンが何者かに奪い取られた。

悪友「よう、相棒。喫茶店とはいい趣味だ。やっぱウエイトレスはいいよな」

 俺の斜め後ろには目つきの悪い悪友が立っていた。目つきは悪いものの、顔立ちは
端麗で今で言う”イケメン”と言うやつだろうか。

俺 「まったく、黙っていればいい男なのに・・・」
悪友「うるせえ。 んで、また去年のあれやるか?」
俺 「いや・・・、あれやってこっ酷くガルーダ先生に怒られたろ。超リアルお化け屋敷
  ”スプラッターハウス”」
悪友「ああ・・・、そういやそうだったな。んじゃやめようかな」

 悪友は俺のシャーペンを机に投げ捨てるとどこかに立ち去ろうとしていた。

俺 「メイド喫茶でもやるか?」
 俺は肩をすくめて見せた。
悪友「メイドなら家にいるからいいや。見飽きたし」
 どこかに行ってしまった悪友を見送り、今になって悪友に対する謎が深まっていった。
悪友とすれ違うように今度はルキアがやってきた。
ル 「ねえねえ、何にするか決めた?」 
俺 「いや、まだ決めてない。ルキアは?」
ル 「ん~。無難に喫茶店か、思い切って演劇とか・・・、面白そうなのがあればそれにするけどね」
俺 「そっか、俺も真面目に考えようかな」

 その後、俺とルキアはくだらない雑談をした。無責任な言い方だが、文化祭の出し物なんてどうで
も良かった。俺はただ、ルキアと一緒にいたい。それだけだった。ただ、ルキアの笑顔が見れれば・・・。

 文化祭当日、前日の準備で疲れ果てていた俺は寝坊してしまった。とはいっても
今日は文化祭。少しぐらい遅れても問題はないだろう。
 校門を通り、玄関を抜けて教室にたどり着くと俺の目の前にはありえない光景が
広がった。いや、何と言うべきか。ある意味別世界のようだった。
「あ、おはよう」
 教室は喫茶店そのものだった。内装だけではない。人まで喫茶店そのものなのだ。
 つまり・・・。
「る、ルキア・・・?何その服?」
 簡易キッチンから俺の前にルキアが歩いてきた。ルキアはいつもの制服ではなく
どこかの喫茶店の制服を着ていた。白のYシャツに白と水色のチェックのエプロン。
それはルキアだけではない。クラスの女子生徒達も同じ服装をしていた。
「あ?これ?昨日届いたエプロンが突然なくなってて、かわりに置いてあったんだって」
「・・・。それ、大丈夫なのか?」
 何だかいわく付きのものなんじゃないだろうかと思う。だが、意外にも女子への受けが
いいようで、何だかんだでみんなお気に入りのようだ。
「えへへ、どう?似合ってる?」
 ルキアはスカートの裾をつまんで見せる。その愛らしさに俺の顔を自分でもわかるほ
ど赤くなってしまった。
 ルキアの会心の笑み+ウインク+胸が強調される服=俺の理性の限界点。 という
方程式が頭の中でどよめき、言葉を失ってしまった。アキバ系の人の気持ちがわかる
ような気がした。
「あ、ああ。と、とても似合ってるよ」
 俺がようやく口を開くと学園祭開始5分前のチャイムが鳴った。

 俺のクラスの出し物は予想以上の大盛況だった。最初は制服姿目当てで男の
客が多いんだろうと思っていたが、男と女の客の割合はほぼ 5 : 5だった。
「ショートケーキ二つに紅茶二つ」
「あいよ!」
 ウェイトレスのルキアの注文を聞き、俺は手早くショートケーキを作る。横では
悪友が紅茶を淹れている。
「しかし、誰があの服を・・・」
「さあな。だが、いいじゃないか。最高のプレゼントをしてくれた色男に感謝しろよ。相棒」
「・・・悪友よ。お前だろ?」
「さあ、なんのことだ?」
 悪友はそれだけ言うとトレーに紅茶をのせて客のもとへ行った。
「ねえねえ、ちょっとつまんでいい?」
 横からルキアが覗き込んできて生クリームに指を突っ込もうとしている。
「駄目駄目。ほら、客がまた入ってきたよ」
「なによ~・・・。 文化祭ぐらい二人で楽しめると思ったのに・・・」
「ん?何か言った?」
「何でもないよ」
 明らかに何か言いたそうな顔だったが、厨房からでるとルキアは魅惑の接客スマイル
で客の前に行くのだった。

 それから三時間、お昼を過ぎて午後2時。さすがに客足は減ってきた。もっとも減らない
とこちらの体力がもたなかっただろう。
「○○君、自由時間にしていいよ」
 厨房でルキアと遅めの昼食を食べているとクラスメイトの女子数人がやってきた。
「いいの?夕方はさらに混むんじゃないの?」
「大丈夫だよ。あとルキアも自由時間ね」
「え、でも・・・」
「いいからいいから。ほら、ルキアと一緒に楽しんできなさいよ」
 女子に背中を押されて俺とルキアは教室から出されてしまった。
「何なんだよ・・・。まあ、いいか。 ルキア。 どこから行こうか?」
「とりあえず、君の妹さんの出し物に行こうよ」

 その後はルキアが制服のままであることを除けばいつものように
登校・下校の時のように自然な会話をしていた。
 ルキアの友達のこと、最近あった出来事、面白かったテレビのこと、
午前中に俺の母が来てウエイトレスの服を着たがっていたこと等。
 本当に何気ない会話が本当に楽しかった。これからもこの時が続けば
いいのにと思うほどに。
 ”俺はルキアのことが好き”ということに俺は今更になって気がついた。

「じゃあ、また明日ね」
「ああ、また明日な」
 文化祭が終わり、いつもの帰路で俺とルキアはわかれた。自室でくつろい
でいると、突然携帯電話がなった。
(ん? ルキアからメール? あ、添付ファイルも付いてる)
 ルキアからのメールの内容はこうだった。

「件名・今日の文化祭楽しかったね
 本文・お疲れ様。君の作ったケーキがおいしいって評判だよ。今度私の誕生日
    にも作ってね。 明日の文化祭二日目も頑張ろう!

    PS・おまけに写メをつけとくね。悪用しないでよ!」

 何だろう?と思い添付ファイルを受信すると俺は思わず息をするのも忘れてしまった。

 それは、ルキアのウエイトレス姿の写メだった。
(こ、これは・・・、反則だ・・・)
 このあとしばらく鼻血が止まらなかったことは言うまでもなかった。

マジックアカデミー文化祭 2日目

 文化祭二日目。昨日の大盛況もあり、朝から教室で下ごしらえが始まっていた。
昨日の大盛況ぶりは異常とも言えるほどであった。当初はせいぜい30人来れば
いいほうだと思っていたが、いざ開店してみればウエイトレスの制服効果が覿面。
材料はあっという間になくなり嬉しい誤算となった。
 もっとも、俺が買出しに行かされたことは少々不服だったが。

「さあて、今日も頑張ろ!」
 ルキアは俺の背中を軽く叩くといつもの元気そのものの笑顔を見せた。
「ああ、今日も親父直伝の腕をみせるぜ」
 俺が意気込むと学園祭の始まりを告げるチャイムが鳴った。

 だが、このとき事件が起きようとは誰も思っていなかった・・・。

 二日目も相変わらず忙しかった。学園祭開始の9時から客は多く、
ましてやお昼前となった今では廊下にも行列が出来るほどである。
(客が多いのはいいのだが・・・。あまりにも手が足りない・・・)
 俺はため息をついた。
「俺もルキアのウエイトレス姿がみてえ・・・」
 いかに自分が病んでいるかがよくわかる。周りには汚れのない少年
を装ってはいるものの、俺だって男だ。情けない話しだがルキアのウエ
イトレス姿には下劣な妄想が頭をよぎったりもした。
「大丈夫?」
「あ、ああ。ルキアか」
 ルキアが仮設の厨房を覗き込んできた。
「かなりきつい・・・。意外に料理作れるやつ少ないんだもんな」
「む、悪かったわね」
「い、いや、そういうわけじゃ・・・。お、お前の料理は俺好きだぜ」
「はいはい、口動かさないで手を動かしてね」
 ルキアはそれだけ言うとまた客の注文をとりに行った。

(まったく、自分勝手なんだから。ま、昔からそうなんだがな。ルキアは)
 俺はルキアとの幼い頃のことを思い出した。
 公園で遊んだり、家族ぐるみでお花見行ったり、遊園地行ったり、一緒に
お風呂に入ったり・・・。

 お風呂? 一緒に? ルキアと・・・?
「ぶはっ!!」
 一気に脳内を駆け巡ったルキアとの入浴シーン。とはいっても幼少時代の思い出だ。
だが、異性に興味を持ち始める年頃だけあって、さらに俺が鼻血が出やすい体質なこと
も重なってか大量の鼻血が噴出した。 何とか料理に鼻血が入ることは防げたのが不幸
中の幸いだった。

「きゃ!」
「ち、違う!俺は断じてエロイことを・・・!」
 絹を裂くような悲鳴に俺は鼻血を出していることを見られたかと弁明したが、
それは違った。悲鳴は教室内からだ。それも、ルキアの悲鳴だ。
 俺は考えるも速くルキアの元へ駆け寄った。そこには今にも泣き出しそうな
ルキアがいた。
「どうした!?」
「この豚がルキアを盗撮したらしい。しかもスカートの中をな」
 悪友が一人の男を睨みながら苦々しく言った。その視線の先には、肥肥とした
体の醜い男がいた。
「しょ、証拠はあるんですか?」
「貴様・・・許さん」
 俺が憎しみを握りこぶしに全てを込めると何人かの生徒が俺を止めた。
「証拠ないのにそんなこと言わないで欲しいですねぇ」
「ルキア・・・、こいつなのか?」
 俺がルキアの側により優しい声で話しかけるとルキアが俺に抱きついてきた。

 ルキアが俺の胸で泣いている。小さな声で。
 それはこの醜い男のせいだ。
 このままでいいのか?   いいわけがない。
 ならどうする?
 決まってるだろ?

 ルキアが俺に抱きついてきたことで男子は俺から少し離れていた。俺はその隙を逃さなかった。
次の瞬間、俺は拳を醜い男の顔に捻り込むように打ち込んだ。
「許さん・・・。貴様だけは!!」
 さっきの一撃で倒れた男にトドメの一撃を放とうとした。男子が止めようとするが、俺の拳のほう
が早かった。

 拳が男の鼻の骨を砕こうとする寸前、誰かが俺の手首を掴んだ。そして、そのまま
俺は宙を舞って床に落とされた。
「だれが戦意喪失している人を攻撃するように教育したのかしらね」
 誰かが俺の腕をそのまま引き、優しく立たせてくれた。それは母だった。いつもは微
笑みを絶やさない母だが、その目はナイフのように鋭かった。
「乙女を盗撮し、それを素早くSDカードに保存。いい手際ね」
「SDカードか・・・。カッカしすぎて気づかなかったぜ・・・」
「しかし、暴力は問題・・・。ならば・・・」
 母親はあっという間に男から携帯電話を奪うと、まるで紙コップを潰すように携帯電話
を握りつぶしてしまった。
「あら、やだ。ちょっと確かめようとしたらSDカードごと潰しちゃったわ。これじゃあ、証拠
うんぬんなんて関係ないわね?」
 誰もが唖然としているなか、血相を変えたガルーダ先生が入ってくると事態は収拾し
はじめた。


「大丈夫か?」
 教室から出て俺とルキアは校舎裏にいた。悪友が気を使ってくれたのだ。
「・・・うん」
 朝に見た元気なルキアが嘘のようにルキアは泣き崩れていた。そのルキアの姿を見る
たびにあの男への憎しみが膨らんでいった。
 でも、それ以上に。
 俺の胸で泣くルキアがいとおしくてたまらなかった。ルキアの頭を優しく撫でながら複雑
な心境で時を過ごした。

 その後、事件はあっさりと片付いた。目撃者が数人いたことと、自白により男は逮捕された。
それでも、何かすっきりしないものがある。
 結局ルキアは救われていないのだ。
 苛立ちを覚えながらも自室の寝台で寝転んでいると携帯電話が鳴った。ルキアからだ。
「ルキア・・・?」
「今、会えるかな?」

 ルキアに呼び出され近所の公園に行くと、ベンチにルキアがいた。
俺は無言で横に座った。
「今日、ありがとね」
「あ、ああ・・・。いいってことよ・・・あれぐらい」
「・・・」
「・・・」
 それっきり俺とルキアは言葉を失った。今日の出来事を思えば無言になるのも
仕方がない。だが、それは俺にとってもどかしかった。

 ”俺はルキアを救えないのか?”

 今日のあの行動は正しかったのか?俺は自問して、自分を激しく罵った。
「明日は・・・」
「・・・」
 ルキアがゆっくりと口を開いた。そして、ベンチから立ち上がって数歩前に出て
こちらに振り返った。
「今日のこと忘れるぐらい、最高の文化祭にしようね!」
 必死に元気に見せようとするルキア。だが、その目は赤かった。
(馬鹿野郎・・・。泣いてんじゃねえかよ)
 俺がルキアにかける声はもう決まっていた。
「ああ、一生の思い出になるぐらいの文化祭にしようぜ!」
 これしかなかった。いや、これでいいんだ。今は少しでもルキアの気持ちをやわらげる
ことができれば。
 ルキアが俺の胸に抱きついてきた。今度は泣いていない。ただ、俺の胸に顔をうずめ
ているだけだ。それだけなのにルキアは嬉しそうにしていた。俺は夜空を見上げると綺麗な
三日月が俺達を照らしていた。
(”欠けたることの月を思えば”とは、このことだな)
 俺はルキアの幸せと笑顔を守ろうと密かに心に誓うのだった。

 そう・・・。ルキアの笑顔が幸せなのだから・・・。
最終更新:2006年01月04日 19:05
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