ねえマスター。
ソファベッドに寝転がって、音楽雑誌なんか読んで、学校にも行かないで、だらだらしてばっかりのマスター(でも好き)。
ソファベッドにもたれかかって、わたしもそのへんにある漫画を読む。ゆっくり流れる時間、不意にマスターは立ち上がって、
「ひらめいたあ!」
アンプにつなぎっぱなしのギターを抱えて、ボリュームを上げてコードを弾きはじめる。
この瞬間がたまらなく好き。
マスターの頭の中の、大事な大事な音楽の部分からあふれ出したばかりの、切ないような懐かしいようなメロディ。
ぼさぼさ頭のマスターが、一心不乱にギターを弾く。
漫画から目は離さないで、耳だけで聴く。大事な瞬間、音楽が生まれる瞬間。ひとつひとつの音を拾って、組み上がるパズル。
「じゃ、歌ってみて」
パソコンの前に座り直して、マスターがようやくわたしに向かって言う。
手早くバックトラックを打ち込んで、ディスプレイに起動する譜面。六畳フローリングのこの部屋が、わたしのスタジオ。
わたしは立ち上がって、スタンドマイクにぶら下げていた黒いヘッドセットを、耳にはめる。かちり、と音がするようになじむ、わたしを構成するパズルのひとつ。
音楽。
ねえマスター、わたしは今日、どんな歌を歌うの?