【SPICE!】恋愛ゲーム土俵入り未満【ミクレン】

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匿名ユーザー

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*注意*
・曲テーマになってるかは微妙なラインですが、

登場する曲は流星Pの名曲『SPICE!』です。http://www.nicovideo.jp/watch/sm2528674
・レンの曲ですが、ミク→レンです。CP等苦手な方はBackしてください。

・長いです、コンパクトにできませんでし、た。



日曜の昼下がり、マンション(フォルダ)特有の無機質な静けさの中を、
彼女は短いスカートを気にも留めず、鼻歌を歌いながら軽快に階段を飛び降りていく。
長い二つ結びを揺らしながら、傍目から見るといまにも足を踏み外しそうなほど浮かれているのは、
今の時間は説教臭い姉と兄がいないため、彼女に誰にもはばかる必要がないのも拍車をかけている。
とうとう歌詞まで歌いだした彼女、初音ミクは、残りの数段を歌に合わせて飛び降り着地した。

 

初音ミクはボーカロイドにも関わらず、いまやオリコンでも注目を集めるほどのアイドルである。

取りつく島のない多忙の毎日だが、未成年のため、月に二回は日曜に仕事が入らないよう配慮されている。
彼女にとって、今日はその、待ちに待った日曜休日なのだ。

 

階段を駆け降りた勢いそのままに、迷うことなく彼女は一番端の部屋に向かう。
「リンちゃん、レン君、おはよーー!!」
ノックもせず勢いよく扉を開け、彼女はその部屋の主である双子のいつもの不平とツッコミを待った。
双子の鏡音リン、レンはミクと同じ未成年とはいえ14歳のため、日曜は大抵休みになる。
休みなると決まって遊びにくるミクのために、双子は家にいる間、いつも鍵を開けていてくれているのだ。
ミクも双子がここに住み始めた頃は礼儀正しくノックをしていたが、今ではノックのノの字を忘れているため、
いつもいきなり開けては双子の文句をサラウンドで浴びている。

 

「…、あれ?」

 

しかしながら、今日はいくら待っても彼女の好きなサラウンドが聞こえなかった。
首をかしげながら、ミクは玄関に膝をついて身を乗り出した。
黄色の小物で揃えられたキッチンは暗いが、リビングに続く廊下には光が漏れ出て、奥からテレビの音が聞こえる。

「リンちゃん、レン君、いないのー?」
考えていることが独り言になって出てくるのは、一人暮らしの者の癖である。
部屋の主の返事を得ずに、彼女は靴を脱いで上がりこんだ。
家の鍵が開いていたということは、少なくとも双子のどちらかは家にいるはずなのだ。


キッチンを通り過ぎる前に、ミクはふと思い出して黄色い冷蔵庫にかかったカレンダーをチェックした。
ミクと同じように、双子もカレンダーに仕事のスケジュールを書き込んでいる。
ありゃ、とミクはまた独り言をもらす。
彼女の記憶では今日はリンとレン二人とも休みのはずだったが、双子の姉のリンに仕事が入ったらしい。
今日一番したかったのは、リンと一緒に可愛い服を買いに行くことだったので(もちろんレンも一緒に)、
昨日の夜考えた計画がいきなり崩れたのは残念ではあるが、

先輩として後輩が売れているのは誇らしく、かつ嬉しいものだ。

 

ということは、今家にいるのは双子の弟、レンだということになる。
「よし、今日はカッコいい服探しだ」
生意気だし扱いにくいこともあるが、ミクにとってかわいい弟分であるレン。

彼女の知るボーカロイドの中で一番服のセンスがいいと思う。
彼女は予定の変更に沈むことなく、むしろ意気揚揚と目的の少年を探してリビングに向かった。

 

「れっんくーん、いる?」
ひょっこりリビングに首だけ出して、中を覗き込む。返事はない。
テレビには映画祭の映像が映っているが、向かいに位置するソファの背から、少年の金色の頭はのぞいていない。
あ、とミクは声をこぼす。
ソファの奥側のほうに、頭ではなく、ミクより少し日焼けした左足がだらしなく垂れているのが見えた。
フローリングにひっつく足音を気にしながら、そろそろとソファを覗き込むと、
案の定そこには、赤い表紙の冊子を抱え込んで締まりのない寝顔を晒す、珍しく無防備なレンがいた。

 

ミクはとりあえず垂れ流されているテレビを消し、レンを起こさぬよう、正面の床に座り込む。
本当に珍しいものを見る。レンの寝顔を見るのは、双子がまだクリプトンの開発室にいたころに、
ミクが個人的に開発室のデータベースに侵入し、そこで寝ている双子を見つけたとき以来なのだ。
あのころはリンしか公表されていなかったから、レンを見つけたときは、驚きのあまり網羅されたセキュリティにひっかかりかけた。

 

さっきまで独り言ばかり呟いていたのに、ミクは黙り込んでまじまじとレンの寝顔を覗き込んでいた。
窓の外から疑似日光が差し込んで、金色の髪を眩しく輝かせている。
その光に釣られるように手を伸ばし、リンと同じふわふわした髪の毛をなでると、ほんのりと温かく気持ちよかった。
こうしてると、本当に弟みたいだなぁ。
彼女は口元に微かな笑みを浮かべて、その温かさをもう少し堪能しようと、ソファに手を掛け身を乗り出そうとしたときだった。

 


かすかに、こもった旋律が聞こえる。
一度その旋律が止むが、また同じ旋律が流れだした。

 


レンの頭の後ろにずりおちた、黒色のヘッドホンからだった。
音楽を聴きながら眠ってしまったらしい。
同じボーカロイドとして、先輩として、身に覚えがたくさんあって、ミクは思わず笑ってしまった。
しかもこの曲には覚えがある。
確かすごく寒い時期に、目の前で眠りこける少年が部屋で練習していたのを、彼女は上の階の自分の家で聞いていた。
なぜ今頃聞き込んでいるのか、彼女にはわからず頭をかしげる。
しかし、ふと、彼女自身も忙しすぎて、双子からmp3をもらっても、なかなかじっくり彼らの歌を聴けていないということに気づく。
それに気づくと、自然とその曲に好奇心がわいてくる。

彼女は少年の瞼が開かないよう気をつけながら、そうっとヘッドホンを少年から外そうと手をかけた。
しかし、耳をかすったのか、レンがくすぐったそうに寝返りをうち、彼女はヘッドホンを胸に抱えて慌てて飛びのいた。
自分が飛びのいた音と、寝返りを打った拍子に床に落ちたレンの冊子の音がかなり響いたような気がするが、

どうやら少年の起きる気配はないようだ。
再び少年の背が規則正しく寝息を立て始めたのを見届けて、ミクは息を深く吐いて、ソファに背をもたれてヘッドホンを付けた。


ちょうど曲の出だしらしく、イントロが流れてくる。あぁ、これはちょっと大人っぽい曲調だなと感じた。
曲名は何だっけ、と考えるミクの目に、赤い冊子の表紙に印字された文字が見えた。

そうだ、『SPICE!』だ。

イントロが終わり、ミクにはない声量と伸びの良さをもった、レンの歌声が流れ出す。
なんだか新鮮なレンの歌声に感心しながら、ミクは赤い冊子を手に取り、何気なくページをめくった。
最初のページには配役と、スタッフリストが書いてあった。どうやらPVの台本らしい。
Bメロが流れだし、次のページのコンテが目に入った瞬間、ミクは思わず勢いよく冊子を閉じた。

 

「……ッ!!」

 

叩きつけるような閉じる音で彼の目が覚めなかったかどうか、一瞬頭をよぎったが、
とても今のミクに彼の様子を確認する勇気はなかった。
顔が熱い。耳まで熱い。なのに息が詰まってやたらと冷や汗が出てきて止まらない。
耳には一方的に、彼の妙に艶っぽい大人びた声で奏でられたサビが、押し寄せる波のように流れ込んでくる。
両手でほほを押えて、必死に冷まそうと頭を抱え込む。
いつか聞いた途切れ途切れのかすかな歌声や、Aメロだけでは正直彼女には見抜けなかったが、コンテを見て一気に理解してしまった。


胸の鼓動がおさまって、ようやく息ができるようになったミクは、後ろでだらしなく眠りこけるレンを盗み見た。
寝ぐせがついて乱れた黄金色の頭や、見慣れたはずの、でも自分のよりも広く感じる彼の背中。
またもや胸の奥で何かが弾けて、彼女は息ができなくなった。
集まって昇ってくる熱は顔を通り越して、頭にたまり、
彼女の感情は怒りに変わって爆発した。


「…このっ! ッ破廉恥!!」


クッションで袋叩きにあうという最悪の目覚め方をしたレンは、顔を真っ赤にして泣きわめくミクに、
なにも分らないままどうすることもできずに、顔面でクッションを受け止めるのだった。

 


胸の奥で「なにか」に落ちる音を聞いたばかりの彼女には、ゲームをするにはまだまだ早いようである。

 


<End...?>

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