願い事

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 「本日七月七日は七夕です――」
リビングでつけているテレビからそんな声が聞こえる。
そうか、今日は七月七日だった、そう思いながら私はそのテレビを見ているミクの方を見て、洗濯物を畳む。
「メイコさん、メイコさん。マスターは? 」
部屋からドタドタと駆けてきたリンとレンがそう聞いてくる。
マスターに言いつけられた発声練習は終わったようだ。
「マスターなら用事があるから出かけてるわよ」
私がそう答えると二人は不満そうに口を尖らせる。
「あれ、二人ともどうしたの? 」
そういいながら笑顔で来たのは、さっきまで庭にいたカイトだ。
彼は家で暮らしてるうちになぜか最低限の手入れしかされてなかったらしい庭を気に入って、以後暇さえあれば庭の手入れをしている。
「カイト、今日も庭の手入れ?
泥ついてるから服は着がえて、手もきちんと洗ってね」
私は彼の姿をざっと見てそう言う。
リンとレンは異口同音にカイトに訴える。
「暇なの! 」
そんな二人の言葉にカイトは苦笑しながら提案する。
「じゃあ短冊に書く願いことでも考えてみる? 」
私と違い、カイトは今日の日付を覚えていたようだ。
そんなカイトの言葉に反応したのはリンでもレンでもなくミクだった。
「カイトさん、七夕がなんなのか知ってるんですか? 」
リンとレンは短冊がなんなのかを分かってないようで、お互い顔を見合わせている。
三人が家に来てから矢のように時間が過ぎていってたから気にしてなかったが、そういえばまだ一年も経っていなかった。
私がそんなことを考えているうちに、カイトが三人に七夕の説明を始める。
それを聞き流しながら私は自分が初めて過ごした七夕の日に思いをはせた。

 

 その日はそれまでの毎日と何も変わらない一日だった。
一つだけ特異点を挙げるならば、マスターが珍しく一人で外出して手持ち無沙汰に一日を過ごしたことくらいだった。
「ただいま」
帰ってきたマスターを見て私はすごく驚いた。
大きな笹を抱えていたからだ。
「マスター、それは? 」
私がそう尋ねるとマスターはちょっと照れながら笑って「毎年断るんだけど、今年からはメイコもいるから貰ってきてみた」と答えてくれた
「今日は、七夕だからね」
笑いながらそう言い足して、マスターは庭まで笹を持っていって家の外壁に立てかけるようにしてそれを置く。
「マスター、家の中が汚れました」
その当時は既に部屋の掃除などを任されていた私は、七夕が何かを尋ねる前にそう言った。
それを聞いたマスターは慌てて部屋の中を見てから罰が悪そうな顔をしていた。
「……め、メイコは何を願う? 」
明らかに話を逸らすために聞いてきていると判断できたが、私はそれ以上追及はせずに質問で返した。
「ところで、七夕って何ですか? 」

 

 ふと気がつくと、カイトの姿は無く、リンとレンが二人でなにやら話し合っていた。
そしてミクは、テレビの前の定位置に居ながら心ここに有らずという様子だ。
私はミクの様子を不思議に思いながら洗濯物を畳む手を再び動かし始める。
「絶対秘密だからな! 」
レンは急に大きな声でそう言うとその場を離れてカイトやマスターとの共有している部屋へと戻っていく。
「分かった分かったー」
そう言いながらリンは笑顔でレンを見送っている。
一体何の話をしているのか、と思いつつそんな二人を眺めていたら服の裾を軽く引っ張られる。
「メイコさん、相談してもいいですか? 」
私は目だけでミクに続きを促す。
彼女は、少し躊躇いつつも聞いてきた。
「あの、七夕の願い事って一つじゃないと駄目ですよね? 」
困った顔をしてそう聞いてくるミクに私は少し考えてから答える。
「昔マスターが、あんまり欲張りすぎると怒られちゃうからって言ってから家では毎年一つねって言ってたけど」
「そうですか……」
そういうミクの声はものすごく悲しげだった。

 

 夕方になり、そろそろマスターが帰ってくるころだと思いながら私はマスターたちの部屋へと向かう。
カイトとレンがいるだろうから扉をノックしてから返事を待つ。
数秒してからレンが「いいよー」と言ってくれる。
それを聞いてから私は部屋の扉を開けると、レンはマスターの持っている本を読んでいて、きちんと着がえていたカイトは何か悩んでいた。
「ねぇ、メイコさん。やっぱり今年も願い事は一つだけだよね? 」
「そのはずよ」
ミクと似たようなことを言うカイトに、私は彼女につげた言葉よりも短いものを返す。
すると彼は困ったように笑ってからまた悩み始めた。
そんなカイトの様子に疑問を感じながら私はマスターの机の引き出しの奥からめったに使わない折り紙と糸を取り出し、部屋を出る。
「ただいま」
リビングの方からマスターの声が聞こえたので急いで行くと、丁度マスターが庭から上がってくるところで、ミクとリンはその様子にものすごく驚いていた。
「お帰りなさい、マスター」
そう言いながら私は棚の中をあさってはさみと穴あけパンチを取り出す。
今年は六人だから折り紙は二枚。縦に三つ折にして折り目にしたがってはさみを入れる。
「あ、そうだミク、リン。今日は七夕なんだよ」
「さっきカイトさんが説明してくれました。今、何をお願いしようか悩んでるんです……」
説明しようとしたマスターに、カイトがもう既にしたという事を告げるミク。
それを聞いたマスターは少しだけ残念そうな顔をする。
「マスター、願い事を書く短冊ってどれですか? 」
リンが目を輝かせながらそう聞いている。
丁度切り終わった私はリンに出来上がった短冊を一枚渡す。
「はい、これが短冊。こっちの白い方に願い事を書いて上に穴を開けて紐を通して笹に結ぶの。
笹は庭にありますよね、マスター? 」
最後だけマスターに向けて質問しながらミクにも一枚渡す。
「あぁ、今年も庭にあるよ。穴はパンチがあったと思うけど……。あと糸もどこだったっけ……」
頭をかきながらそう言うマスターに私はさっきまで折り紙を切っていた机の上を指差す。
「全てあそこに置いてます」
そう言ってからマスターにも折り紙を手渡してから、カイトとレンを呼びにいくためにもう一度リビングを出る。
「あ、メイコさん。もうマスター帰ってきてますよね? 」
丁度部屋から出てきたカイトとレンに鉢合わせてそう尋ねられたので肯定の返事をしながら二人にも折り紙を渡し、手元には一枚だけが残る。
私はここに書くことをもう決めている。

 

 翌日の朝になり、私は庭に出て笹を眺める。
まだ陽は昇っていないが、それなりに明るいから同じ色の短冊が六枚、よく見える。それぞれの願いが書いてある。
「もっともっと上手く歌えますように リン」
「色々と歌を歌いたい レン」
二人はもう発声練習に飽きたらしい。リンは丸い文字で、レンはちょっと雑な文字で書いている。
「アイスがたくさん家に来ますように……後できたらネギも ミク」
「ネギが豊作になって安くなりますように、あとアイスの価格も…… カイト」
悩んでいた二人は、似たような願いを書いている。
諦めきれずに最後に付け足してるところまでそっくりなそれを見た私は、一瞬VOCALOIDにも遺伝子みたいなものがあるのではないか、と考えてしまった。
「もっとみんなの歌声を活かせるような曲をかけますように」
なぜか名前を書いてないが、マスターが書いたということはすぐに分かる。マスターは、去年もその前も同じ願いを書いていた。
「メイコさん、何やってるんですか? 」
後ろから声をかけられて振り返ると、そこにはミクが。私が短冊を見てるのに気づいて慌ててほほを少しだけ赤く染めてから声を上げる。
「な、何見てるんですか! 」
そんなミクの様子に私は少しだけ笑いながら空を仰ぎ見、少しずつ昇っていく太陽を眺めながら言う。
「今日は買い物日和になりそうね」
私の言葉を聞いてキョトンとしているミクを横目で見ながら私は部屋の中へと戻る。
「え、ちょっとメイコさん。ごまかそうとしたってそうはいきませんよ!
メイコさんは何て書いたんですか! 」
そう言いながらも私の後を追いかけるミク。
外では相変わらず笹に六枚の短冊が吊るされている。
私は昨日書いた願いを思い出しながら朝ごはんを作るために台所へと向かう。
――ずっと、マスターのつくる歌を歌い続けたい メイコ

 

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