SF百科図鑑 中村融&山岸真『20世紀SF6 1990年代』河出文庫


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2001年


9/3
ヒューゴー賞はショッキングな結果でした。ハリーポッター最新作が受賞! とうとうヒューゴー賞もファンタジーに長編賞を与えてしまいましたね。確かにこの年の候補作はSFプロパー作品のレベルが小粒だったが、それにしてもまさか、ジャンル外の「誰でも知っている」ハリーポッターに取られてしまうとは、世も末です。同じファンタジーでも、せめてマーティンだったら、1作目の抜粋がノヴェラで受賞していたし、もと(悲)SF作家だし、多少の格好はついたのですが。残念な結果です。これでは賞の存在意義が怪しくなってしまいますね。
ノヴェラを最長老のウィリアムスンが初受賞(わが国でいうと今日泊亜蘭が星雲賞をとるようなもんですね^^;)、万年候補の女流中堅実力派ラッシュがノベレット、ファンライター第一人者のラングフォードが短編賞と、中短編が三人とも初受賞という嬉しい結果だったのと対照的です。特にウィリアムスンは、シマック以上の偉業ですよね、生きていること自体が奇跡と言っていいのに(笑)。

さて、ルグィンのゲド戦記4冊揃いました。

9/5
とうとう「20世紀SF6」出たので購入。(略)を使うため、ついでに「夢見る宝石」購入。「ガニメデの少年」「月を売った男」見つからず。

(略)

9/6
バクスター「軍用機」★★★1/2
米ソ熱戦で世界が滅びる改変歴史小説。ただ改変された歴史を舞台に話が展開するだけのこのような小説がSFの正道と言えるのか疑問。いちおう宇宙を舞台にし、最後は破滅するんだけど。あまり好みではありません。やっぱり説明が欲しい。
ソウヤー「爬虫類のごとく&&」★★★★1/2
面白い。やや食い足りないパンチの足りなさはあるけど、俗っぽい分かりやすい娯楽性と程々のところで手を抜いたインチキ科学の融合というSFの伝統を忠実に守っている作家です。
ランディス「ディラック海のさざなみ」★★★★★
ハードSFと文学の見事な結合。雰囲気は「シュレディンガーの子猫」に似ているが、こっちのほうが好き。ネタは、並行宇宙を行ったり来たりするシュレディンガーと違って、反物質のエネルギーを借りて過去と行ったり来たりする話。死から逃れようとして。歴史保存則のためどんなに過去をめちゃめちゃにしても現在を変えられないという発想はコロンブスの卵。ウィリスの長編はこの作品を参考にしているかも。完璧な名作で、時間SFの未来のクラシックの地位を約束された。

9/7
ウルフ「アイランド博士の死」★★★★
難解。精神科の治療SF(笑)。他の病人を殺すことが療法になるという話。主人公は右脳と左脳が別人格に切り離され、一方の人格を緊張病に追い込むことで他方の人格が救われる。とてもではないが難解すぎて、一般受けしそうな内容ではない。ただ精神病者の内宇宙なのか木星軌道の人工宇宙なのか定かではない幻想空間の描写は一種独特だ。バラード的? ニューウェーヴ色濃厚な作風です。最後のオチがショッキング。
スティール「マジンラ世紀末最終大決戦」★★★★★
大傑作。引用をつなぎ合わせるドキュメンタリーのスタイルで描くドタバタ喜劇、ちょっと日米関係について考えさせる楽しい作品です。「ヒンデンブルグ号炎上せず」のような歴史改変宇宙SFで知られる作者としては異色だが、全盛期の筒井を思わせる楽しさ。
クレス「進化」★★★★
クレスお得意のバイオSF、耐性菌に対抗するために別種の細菌をばらまくというアイデアストーリー。あまり深みはないが、よくまとまっている。
「日の下」は既読ゆえスキップ。
イーガン「しあわせの理由」★★★★★
イーガンはやはり別格、集中でもずば抜けて輝いている。初訳作品ながら星雲賞とってもおかしくない大傑作である。前半部分のアイデアだけでも満点に値するのに、後半はそれを超える強烈なアイデアとスペキュレーション、凄すぎます。人間について、人生について、深く考えさせる感動的な名作です。
スペンサー「真夜中をダウンロード」★★
初めて読む作家ですが、この作品は凡作。もともとこの手のネット世界を舞台にした冒険/災厄小説って食傷気味なので、何らかのひねりというか新味がない限り面白いと思いようがないのですが、そのようなひねりもなく予想の範囲で終わってしまい、陳腐の印象しか残りませんでした。スティーヴンスンの「スノウクラッシュ」はメインに驚天動地の強固なアイデアがあったので救われましたが、この作品には何もありません。ただネット世界舞台のVRものなら自分でネットサーフィンしたほうが面白いので、何もわざわざ小説を読む必要はないのです。このような作品がSFだとは思いません。作者も編者も、何かを勘違いしているとしか思えません。とにかく、面白くないのです。初訳という稀少価値を考慮に入れても辛口評価とならざるを得ません。もっと他に訳するものがあるだろ、という感じです。

(略)。

9/8
(略)

ビッスン「平ら山を越えて」★★★★
ビッスンの特徴が良く現れた南部ホラSF。ラファティなどとの違いは、結構しみじみとした田舎チックな味わいが全編を覆っていること。成層圏をこえるほどの高さまで隆起した山を越えるドライバーと少年ヒッチハイカーのかけあいを、独特の情感に満ちた筆致で語り上げた作品。奇想ととぼけたユーモアの持ち味がよく出ています。「熊が火を発見する」ほどの頭抜けたインパクトまではないが、ビッスンの特徴が満遍なく出た作品という意味でサンプルとしては最適と思います(カントリー好きというのは初めて知った)。ただし、個人的にはもう一方の特徴である強烈な風刺、社会派作品のほう(例「マックたち」)をもっと読んでみたいですけど。

ううむ、最近読むペースが遅いな、頑張ってスピードアップしないと。

9/9
サージェント「ダニーの火星旅行」★★★★★
クエール副大統領が火星に行く話。ネタは冗談なのだが、内容は迫真の出来。火星でのサヴァイバルの物語も結構リアル。奥さんが大統領選に出ることになるというオチも笑えるし、最後のゴルフのシーンがまた最高。冗談をここまでリアルな本格SFに仕上げている以上、満点つけないわけにはいかんでしょう。
ケイディ「ぼくらがロード・ドッグを葬った夜」★★★
非SF。古い車への走り屋たちのノスタルジアを蜿蜒綴った話で、ファンタジーですらない普通小説です。車に興味のないわたしには、何が面白いのかさっぱりわかりません。車好きには面白いのでしょうか? 伝説の正体不明の走り屋の意外な正体が暴かれる後半は少し話として盛り上がりますし、完成度は高いのですが、作品の基調をなしている「車への愛」「走ることへの愛」といった心理が全く理解できないために、「だから何なの?」で終わってしまいます。そして何といっても、これがネビュラ賞に選ばれる理由が全くわからない。SFの賞じゃなかったっけ? 何でこれがネビュラ賞なの?
ルグイン「孤独」★★★★★
ハイニッシュ宇宙もの中編。異種族間のコミュニケーションを扱うというテーマは「闇の左手」等のアプローチと全く変わっていない。これを進歩がないととるか、確信犯的なテーマ追究とみるかは人それぞれだろう。本編のユニークさはそのお馴染みのテーマを、「異種族と同化し、異種族の観点から一人前の女性として成熟するまでの娘の成長物語」という観点から、家族の絆の問題とからめて描き出した点にある。またこの娘が同化していく異星文明の設定もユニーク。特に面白いのはセックスの取扱い。80年代以後のルグインはセックスを正面切って扱うようになっているところに面白さがあるが、この作品でも満喫できる。女が男あさりの旅に出るとか、近所の男の村に行って手ごろな男にセックスしてもらうとかいう設定は爆笑もの。
クレス「密告者」★★★★★
間違いなくクレスの最高傑作! 90年代中短編でも屈指の傑作でしょう。異種族間の比較、意思疎通というテーマは奇しくもルグィンと通ずるが、本編の見事さはそのユニークなアイデア。共有現実から逸脱する<非実在>を罪として扱う文明という設定がまた何とも強烈。ミステリアスな前半の展開を経て、後半のどんでん返しが見事。人工的に妄想を植え付けて精神分裂病にする人体実験というのが強烈。ストーリーもメリハリが効いて、うまい。人間について、文明について深く考えさせながら、物語としての面白さにもよく目配りをした、本格SFの傑作の見本ともいうべき作品。こういう作品がメインストリームにならなければ、SFは衰退すると断言できる。ケイディのような作品や、ハリーポッターが受賞するようではいかんのである。

これでSFM掲載分は残り1作、チャンのみとなりました。なんとか誕生日までには制覇できそうです。

9/10
シモンズ「ケンタウルスの死」★★★★1/2
メタ小説、作中作はRPG的なファンタジーで外側のストーリーは教師と生徒の触れ合いを描いた普通小説。サイエンスフィクションではないが、重層的なプロットの面白さはスペキュレイティヴといえるだろう。新奇な科学的アイデアは全くなく、使い古しのネタを組み合わせて新しいものを作り上げるというシモンズの特徴がよく出た作品。シモンズの才能が中身ではなく、組み合わせの巧みさにあることがはっきり現れているといえよう(「ハイペリオン」然り)。


(略)
マクドナルド「キリマンジャロへ」★★★★★
「ライアへの讃歌」のナノテク的再話ともいうべき強烈な作品。キリマンジャロ山頂から広がる動物と植物の中間形態の奇妙な生命体のグロテスクな視覚的描写が圧巻。
「遺伝子戦争」は「ハッカー」で既評。以上で読了。
「20世紀SF6」★★★★1/2
5よりはレベルが高かった。ただし、90年代の最高作品を集めたとまではいえない。