SF百科図鑑 クリストファー・プリースト『スペース・マシン』(創元SF文庫)


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October 24, 2004

クリストファー・プリースト『スペース・マシン』(創元SF文庫)

スペースマシンプリーストの最後の未読邦訳書。これを読めば、あとは未読長編は『暮れ行く島へのフーガ』とAffirmationだけになります。
本書はH・G・ウェルズのパスティーシュらしいです。素直に楽しめそうで、期待。
silvering at 04:37 │Comments(3)TrackBack(0)読書

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この記事へのコメント

1. Posted by silvering   October 26, 2004 05:02
60ページほど読んだ。面白い。正統派SF。『逆転世界』みたいな正統派SFが好きな人には特にお薦めかも。いいなあ、やっぱりプリーストは。全作品揃えなければ。

で、プリーストと同じく小説としての練度やキャラクター描写重視(それゆえ、エンターテインメントしての一般性は高く、よりジャンル外読者向けと思われる)の作家で、私が同じぐらい好きな、マイクル・コーニイという作家がいるのだが、その最高傑作といわれる『ハローサマー、グッドバイ』という作品が手に入らず困っている。ついでに『冬の子供たち』も欲しいのだが。サンリオ文庫は入手が無理そうなので、アマゾンで原書を見たところ、コニイの作品はほとんど絶版か品切れ。80年代に出した3部作と『キャット・カリーナ』という作品はまだ出ているようだが&&。ただ、英国アマゾンが古本の取り扱いを始めており、絶版本も含めかなり網羅しており値段も安めなので、ここで原書を揃えるのが最も効率的でコストパフォーマンスも高そうだ。
よし、コニイも全部揃えよう。
2. Posted by silvering   October 26, 2004 22:04
面白くて200ページ突破。遅読のぼくでも、しかもビジョルドと併読でも、あと2日ぐらいで読み終わりそうな感じだ。

19世紀末の初々しい英国男女がタイムマシンで火星に飛んでしまう話。モロ、ウェルズのパスティーシュなわけで、そういう意味ではバクスターの『タイム・シップ』と比べ読むと面白いかも。バクスターのは、後半の壮大なイマジネーションに読みどころがあるものの、小説としての出来はよくなかった。それに比し、プリーストのこれは、小説としてよく練れている。人物設定や世界設定のディテールがよく書き込まれていて、不自然なところがない。火星に社会があるという荒唐無稽さは承知の上で、「これはウェルズのパスティーシュですから」と露骨にアピールすることで巧妙に回避している。その上で、その借り物の題材の上に、火星社会のディテール構築を巧妙に行っている。多分傑作だな、というのが今の印象。ウェルズに、(長編をまともに読んだことはないけど、火星のプリンセスの冒頭短編版を読んだ印象に基づく限り)バロウズ的な胸躍る冒険談を融合しました的な感じの話だ。
3. Posted by silvering   October 28, 2004 16:13
読了。むちゃくちゃ面白かった。

プリースト最大の異色作が、最も真っ当なエンターテインメント王道SFであるというこの事実が、プリーストがどういう作家であるかを示している。

第一に、本書はサービス満点のエンターテインメント小説である。恋あり、冒険あり、悪役あり、戦いあり、主人公は正義感で美女の愛を得るために、正義と平和のために、困難や悪役に立ち向かい、それを克服して行く。ヒロインや名傍役H・G・ウェルズの助けを借りながら。そして、主人公がヒロインと結ばれ平和を取り戻すというハッピー・エンディングも定石通りである。公式通りの優秀なカタルシス小説となっている。
で、第二に、ウェルズが登場することからも明らかなように本作はウェルズ作品のパスティーシュであり、「タイム・マシン」と、(未読だが恐らくは)「宇宙戦争」の内容をふまえそのモチーフを借用している。そして作中にウェルズが登場し、物語内の創作であったはずの事件が実は現実であったというメタフィクション的な一種の改変歴史小説ともなっている点が作者らしい点として挙げられる。
第三に、19世紀末から20世紀初頭にかけての、科学技術の進歩に夢を見る牧歌的なイギリス社会の描写が秀逸である。中村保男の古風な文体や会話文(「ドリームマシン」では内容にそぐわなかった)が、本作ではぴったり適合している。ディテールまでよく構築・描写されており、リアリスティックである。ウェルズ的世界を現代的にバージョンアップし解像度を上げたかのような観を呈している。
第四に、ある種の科学技術(の誤用)に対する素朴な風刺が、上記した文体的特徴と見事に調和して効果を上げている点である。火星人類の社会はデフォルメされた現代社会であり、彼らが技術の粋を集めて作った新生物が情のない知性のみの存在となって火星人を支配・殺戮し、地球を侵略するというのが本作のメインプロットとなる。これは極めて素朴といわざるを得ないが、このようにウェルズの古典のプロットラインを極めて忠実になぞったことで、古典のみがそのシンプルさ故に持つ素直にテーマを伝える力を現代SFに甦らせたという点が本作のもう一つの特徴といえよう。

プリースト作品中では恐らく最も読者を選ばず万人に薦められる作品であろう。ウェルズのパスティーシュとして読み解こうとか、そもそもウェルズ作品に関する予備知識など全くなくても、否、ない方が楽しめる、良質のエンタテインメントであるので、肩の力を抜いて読むべきである。

テーマ性 ★★★★
奇想性   ★
物語性   ★★★★★
一般性   ★★★★
平均      3.5点