SF百科図鑑

Bob Shaw "The Palace Of Eternity"

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April 24, 2005

Bob Shaw "The Palace Of Eternity"

プリングル100冊、ボブ・ショウの「永遠の宮殿」。永遠の宮殿
感想・粗筋2005.4.25
面白かった。
くしくも、本書もまたワトスンの「奇跡の客」同様に、進化テーマ作品で、ボブ・ショウ版「幼年期の終り」というべき作品だった。死後の霊魂をSF的に解釈している点では、ジェフ・ライマンの「子供の庭」とも似ている。
エンターテインメントとしても、本格進化SFとしてもよくできた、バランスのよい作品だ。
第一部では男女の葛藤、三角関係を軸に、人類内部の対立と人類対エイリアンという対立を積み重ねて、普通の冒険SFとして楽しませてくれる。ここまでは、いつものボブ・ショウ作品。相変わらず異星の描写もつぼを突いていてうまい。
ところが、主人公が第一章のラストで死んでしまうことで、全く話が違ってくる。
間に挟まれた短い第二部で、人間の霊魂こそ宇宙のもっとも基礎的生命であるというSFアイデアが初めて開陳され、ここで第一段階の「認識の変革」が生じる。一気にSF的ビジョンが開け、全てが違って見えるようになるのだが、まだ全ての謎は明かされていない。敵のエイリアンの謎を筆頭に、不思議な力を持った少女ベシアの謎もまだ解かれていない。
そして、一度魂になった主人公が再び現世に帰ってくる第三部。しかも、かつて愛した女の「息子」として生まれなければならないという悲哀。こういったところの運びも非常にうまい。そして、今度はベシアに恋するのだが、このベシアとの恋も結局悲恋に&&。
人間ドラマとしてみれば、悲劇としかいいようがない話なのだが、にもかかわらず本作は、最高のハッピーエンドなのだ。何しろ人間の肉体は、「エゴン」という基礎的生命の、幼生のような存在に過ぎないのだから。そして、主人公のベシアとの別れは、人類&エゴンの更なる上位段階への進化に必要なことなのだ&&。
感情移入力の強い熟練した人間ドラマと、スケールの大きな進化テーマのアイデアが見事に結合した、ボブ・ショウの最高傑作。「オービッツヴィル」よりも「襤褸着の宇宙飛行士」よりも上でしょう。

テーマ性   ★★★★
奇想性    ★★★★★
物語性    ★★★★
一般性    ★
平均     3.5
文体     ★★
意外な結末 ★★★★★
感情移入力 ★★★★
主観評価  ★★★★(40/50点)

<粗筋>
永遠の宮廷 ボブ・ショウ

第一部 人間

タヴァナーは、2つの月が衝突した残骸が空中を覆い、地表の随所にクレーターの残るネモシン星で、ニールソン星の新星化を目撃する。
***
その新星化の影に隠れた陰謀を、戦争が始まろうとしていることを、タヴァナーは知っていた。
30歳年下のメリサ・グレノーブルが私用機で現れた。惑星行政官のハワード・グレノーブルの娘で19歳。彼女は10日間の南海岸旅行に行かないと誘った。タヴァナーは渋い顔をした。
***
タヴァナーはリサとセンター街のジャメイの店に行き、喧嘩に巻きこまれ、予備兵にスタンガンで撃たれた。
***
車の中で目覚めたタヴァナーは女が誰かと話す声をきく。ミュランもやられたらしい。金を払っているようだ。タヴァナーはリサの声を聞いた気がした。


タヴァナーは2日後、独房で目覚める。そこは数日前までビルの建っていなかった地域だった。クリー副官は、戒厳令が施行され戦争が始まったといいながら、タヴァナーを釈放。隣のビルで補償金を払うといわれたが、無視し、コーヒーを飲んだあと、レザーウイングに餌をやらねばとタクシーを探す。そして森の方を見て驚く。森は消滅し、二重の柵で囲まれた平地になっていた。


夢──8歳のころ、マゾニア星のタヴァナーの家は、エイリアンのシッカン人のコプターに奇襲された。父は銃撃で戦うが、母を助けに家に戻る。タヴァナーは応戦しながら必死で逃げ出した──。
***
タヴァナーはその奇襲の唯一の生き残りとして軍に採用され、兵器開発に回り、TCR銃を開発した。連盟は、外縁を攻撃するシッカン人と40年も戦争を続けていたが、軍事費を拠出するのは中央星域であるため次第に不満が高まり、警察力を強化する必要にも駆られていた。シッカン人はタキオン航法にたけていたものの、宇宙船を小型化する技術においては連盟のほうが上だった(いわゆるバタフライ船)。更に連邦は軍事用の巨大コンピュータであるマクロンを開発活用していた。
マゾニア星では、連盟の支配に不満が高まり、チェンバース教という宗教が勢力を強めた。タヴァナーは42歳のとき戦闘部隊に戻り、マゾニア星にもたびたび行った。故郷の森はまだあったが、様変わりしていた。ある日セルローズの湖のほとりを散歩し、小川の中を見上げる女の死に顔を見た。そのあとすぐ彼は軍を辞め、隠れ場所を探した。


タヴァナーは警備兵を見つけ、自分の家がどうなったかをきくが、鼻で笑われ、殴り飛ばす。そこへ、軍曹が現れ、タヴァナーの家が徴用されたこと、物品はリスト化の上処分されたこと、相応の補償金を払うことを告げる。タヴァナーは逆上し、軍曹を殴る。そこへ、リサの車が現れ、タヴァナーを拾う。
***
タヴァナーは新居が見つかるまでグルノーブルの家にいるようにとハワードに言われた。ハワードは、今夜マルチネス将軍が夕食に来るので同席するように言いおいて、去った。
リサは、戒厳令や収用計画を知っていたが、タヴァナーが拒否することを予想してたので仕方なく、あのような手をとったと言った。拒否したジリ・ヴェイボダは処刑されたらしい。戒厳令は最高ランクの優先度10で、逆らうものは射殺してよい。タヴァナーもリサガ助けに入らなければ射殺されていただろうという。
だが、戦場から百光年も離れたこの星で一体どのような計画が進行しているのだろう。最高機密で、大統領はいっさい口を割らない。あるいは今日の夕食で何かがわかるかもしれない。
タヴァナーは眠った。
***
タヴァナーは目覚めた。ベシアという三歳になるリサの従妹がいた。タヴァナーの下半身の痛む場所に触れると、痛みが引いていった。タヴァナーはシャワーを浴びてから、ベシアと話した。ベシアは、「リサはいつも間違えるの」と言った。また、「ここにシッカン人が攻めて来る?」ときいた。タヴァナーは来ないさ、と答えたが、ベシアは「それで説明がつく」と答えた。
タヴァナーはこの娘について、またこの詩人の星がシッカン戦役の本拠に定められた理由についてもっと情報収集をしようと思った。


ジャメイの店で、ジョーグ・ビーン、クリス・シェルビー、老ジャメイらが反戦デモの相談をしていた。そこで飲んでいたタヴァナーは、そんなことはやめろと忠告した。コムサックは星を爆破し、引き続いてここへ本部を移してきたのだ。何をたくらんでいるかはわからないが、ただごとではない。無駄な抵抗をしても痛い目を見るだけだ、と。
***
タヴァナーは補償金3万ステラを確認の上、必要額を下ろし、タクシーでグレノーブル邸に向かった。途中でデモ隊による渋滞に出くわし、運転手は悪態をついた。タヴァナーは芸術家の星として知られるこの星を銀河の各所で噂にきいていた。多くの巡礼がこの星を目指したし、芸術に疎いタヴァナーですら有名芸術家の名前ぐらいは何人も知っていた。したがって今までこの星に生々しい政治や経済があるということを実感したことはなかったのだ。
目的地につくと運転手は言った。「あいつら、今度見たらそのまま車を突っ込んでやりまさあ」
***
グレノーブル邸につくと、ちょうど他の車から若い副官が出てくるところだった。邸に入ろうとすると、警備員に止められた。そのときちょうど玄関からハワードが出てきて、二人を互いに紹介した。若い副官はバークレイ・H・ゴッホ連邦最高大統領の甥、ガーヴェイス・ファレルだった。
奥に行くとバルコニーでリサが基地の正面玄関の方向に向けて望遠カメラを設置していた。彼女によるとガーヴェイスはここに滞在する予定らしい。タヴァナーは嫉妬を感じ、滞在先が見つかったので退去することを告げながらリサの反応を窺ったが、リサは聞いていなかったように、デモ隊について文句を言い始めた。
タヴァナーは中に入ってベシアの部屋に入ったが、寝ているようだったので、そのまま出てきた。すると、リサとファレルが話していた。ファレルはタヴァナーを見ると話しかけてきたが、タヴァナーが「私はもうここを出ますんで」というと、「僕が追いだしたんですね」とファレルは笑った。そして、友人を呼んで夕食会をやるので二人ともお越しくださいというので、タヴァナーは、用事がありますからと断った。
リサは基地のカメラの映像を見入っていた。デモ隊が基地に向かって突進していったが、ジャガーノートを先頭に行進する兵に蹴散らされていた。戒厳令に反対する住民デモである旨をリサが説明すると、ファレルはいたく興味を引かれていた。


たった一週間で森の跡地に都市が建設された。
タヴァナーは補償金から、船の修理工場に預かっていた船の賠償金を払った。
失敗に終わったデモ隊の話はなかなか聞かせてもらえなかった。だが数少ない生存者によると、ピート・トロヤノスという男が警備員を殺し、多くのデモ参加者が逮捕され、その他の者も逃亡中らしい。
***
街ではファレルが街宣車で演説をしていた。敵と戦うため戒厳令とセルリア軍第一基地建設はやむを得ないこと、これに抵抗する者は連邦国民への抵抗であり重罪に値すること。
タヴァナーはレンタカーを借りて海辺を走った。これまでの人生を振り返り、しばらく猛スピードで走り、途中で引き返した。軍のヘリコプターが追ってきて、副官が降りてきた。逃亡を疑われたらしい。


タヴァナーはヘリコプターの尋問を免れたものの、センター市を去る決意を固めた。彼は最後にリサを呼び出し、別れを告げ、抱いた。リサが泣いたのには驚いた。
タヴァナーは徒歩で森の中を海岸に沿って北へ歩いた。その方向にデモ隊の逃亡者が行っていると思ったからだ。ファレルがその場所をつきとめるのは時間の問題だから、その前に追いつかなければ。
彼は、ヘリコプターの銃撃の標的になっているクリス・シェルビーらと合流した。ヘリの攻撃が再開する前に彼らは逃げ出した。


タヴァナーは、この追跡を行っているのは事実上ファレルであることをシェルビーに告げる。シェルビーは、人々が魂を携えてレミングのごとくこの星に集まりつつあること、ヴェイボダの壁画が絶望的戦況を伝えていたことを語る。
彼らは軍の張った非常線の外縁を何とか突破し、未踏地帯へ逃げる予定だった。
***
タヴァナーは彼らに弓矢などの訓練を施し、洞窟で非常線ステーションの突破法をいろいろと話しあった上、弓矢を持ち、皆でいっせいにステーションへかけだした。空に火炎が上がり、ヘリ2機出現。1機はマシンガンでタヴァナーが撃墜したが、落下時に爆発した破片でシェルビー死亡。最後に来たメンバー4名は2機目のヘリに皆殺しにされ、タヴァナーは先に行った仲間を追って森に逃げ込んだ。


タヴァナーは海岸沿いのセンターに通じるハイウェイを越えた集落に行き、パーソンズ博士の家に入り、風呂に入りながら寝てしまう。
***
タヴァナーは目覚めて食事をしながらラジオをつけ、リサとファレルの結婚のニュースに驚き、センター市に戻る。

10
タヴァナーはグレノーブル邸に忍びこみ、ベシアに見つかり、その部屋に入る。ベシアは「リサを奪いに来たの?」ときく。ただ話したいだけだというと、「なぜ奪わないの? フェレルは悪い男だよ。でもあなたとリサは一つの光を持ってる」そういって寝てしまう。
バルコニーでハワーズとフェレルが話していた。フェレルは、ここを本部にしたのがマクロンの分析に基づく判断であることを話した。ヘリの撃墜についてタヴァナーのせいだといい、五人の侵入者という言いかたをしていた。なら、先に行った連中は見つかっていないのだ。彼はしばらく休みをとると言っていた。
タヴァナーは寝てしまい、午前2時ごろ目覚め、外へ出てリサの部屋へ向かう途中、誰かに気付かれ逃げた。ドアを開けたところで警備員と鉢合わせる。家人のふりをしてやあといい通りすぎるが、先ほどの男が追ってきてつかまえろと言うので下に飛び降り逃げた。
***
タヴァナーはつかまり手錠をかけられ、フェレルに尋問を受ける。ヘリの件でフェレルの経歴に傷がつき、配置替えになったと言う。いつもあなたは僕の邪魔をする、だから嫌いなんだ、と彼は言った。そして、逃げている連中の居場所を教えてくれれば名誉回復できると言い、軍曹に自白剤を持ってこさせた。タヴァナーは注射されたとたんに体ごとフェレルにぶつかり、喉笛に噛みつく。フェレルは銃を撃ち胸にあたる。

11
タヴァナーの遺体を収めた棺を見送りながら、リサは泣く。彼はファレルを暗殺に来たのか。それとも、私の婚約のニュースをきいてきたのだとしたら&&私は婚約を取りやめる。誰とも結婚しないわ&&。
そこへベシアが来た。リサは、ここから出て行くと言う。地球でもどこでもと。
ベシアは、ゆうべタヴァナーがベシアの部屋に来たことを言う。そして、ナイフで騒ぐと殺すと脅された、フェレルを殺すと言っていた、と嘘をつく。

第二部 エゴン

タヴァナーは宇宙の最も基礎的生命、自立したエネルギーたる不死のエゴンとして目覚め、カエサルを宿主としていたラビ-ナスと名乗るエゴンに導かれ、父母のエゴンを探す。ところが、タヴァナーのエゴンは宿主肉体との絆、その激しい怒りの感情や、リサへの愛を絶ち切れないことに気付く。
またエゴンの群の中に二枚の黒い羽根が現れ、悲鳴が上がる。エゴンたちが殺された。一体誰が? 人間どもだ。やつらはそれと気付かずエゴンたちを殺している。
そしてあの黒い羽根は、ネモシンにやってくる連盟のバタフライ船だ&&。


人類のラムジェットの使い方がエゴンを真の死に導いていた。シッカン人による人類殺戮の理由はここにあるのか?
タヴァナーは、スーパーエゴンとリンクしたウィリアム・ラドラムと話す。人類の過ちを正すため、ある条件の下に別のホストの体に戻る気があるか? その条件とは、前のホストと同じ遺伝子を持つ子孫であること。そして新たなホストは一人だけ、リサの腹に宿る二ヶ月の子供。だからリサはファレルと婚約したのだ。子供の魂はエゴンマスの中心近くに場所を確保してくれると言う。
タヴァナーは応じた。彼はリサの子宮の胎児に復活した。

第三部 シッカン人

ファレルとリサは地球で婚礼をあげ帰って来たが、気持ちは通わなかった。ある日リサは妊娠を告げた。ファレルは中絶しろと言ったが、リサは拒否した。
***
ハルバート・ファレル誕生。ファレルはカメラの前では可愛がるふりをしたが、家では指一本触れなかった。子供が1歳になることにはリサはやつれはてていた。


ハルは父母やミス・パルグレイブらに育てられる。
***
母によると祖父は死んだらしい。ハルはシュローター博士のセッションを受けていた。次第にマック・タヴァナーの存在が大きくなるのを感じていた。
***
ハルの一家はベシアらを迎える。ハルの中のタヴァナーがベシアに「こんにちは、ベシア」と話しかける。


ハルは一八歳になり、学者になろうと論文を書いていた。ある日母親が病気で倒れた。ハルが父に電話しようとするとリサは「違うわ、あなたの父親は」といって言葉を濁した。ハルは「母さんを死なせるわけにいかない。最後まで言って」と言った。だがリサは顔をそむけた。額に触れると冷たい。電話をしようとして、やめた。自室に行って論文に取り組んだ。
ファレルが帰ってきて、死んだリサを見つけた。そして、泣きながらハルを殴った。「母さんは、父さんから逃げるために死にたがっていた」とハルは言った。「お前は真実を聞いたのか?」と言いながら、ファレルは殴りつづけた。


その年のうちにネモシンへの攻撃が訪れた。猛スピードで「それ自体が武器」の船を送りこんできた。その巨大な質量の船が惑星に衝突すればセルリア系の六つの惑星は全滅だろう。それに耐えられる星系は連盟圏域内でも少数だった。
***
ハルは考える。人の魂が不滅なら肉体の生に何の意味があるのだろう。進化の階段の一段階にすぎないのか。
***
エゴンのマザーマスは、もう時間がないと判断し、マーク・タヴァナーを意識レベルに引き上げる。


マークは意識レベルに復活し、青年になった自分の姿を鏡で眺め、大学院で心理歴史学を学んでいるベシアのことを考える。真相を話すなら彼女しかいない。
***
マーク=ハルはファレルと戦局について話した。父によると、ここは既に敵によって包囲されている状況で、タキオン船の進路をキャッチすることも難しいらしい。やはり避難するしかないのではないか、しかし迅速に大規模な避難は難しい。
マークはベシアに電話をし、会って話したい旨を告げた。そして、ファレルに車を借りた。
***
マークはベシアを車に乗せ大学に向かう途中、マーク・タヴァナーの名を出し、自分がマークであることを打ち明けようとする。が、そこへ、シッカン人の戦艦が現れる。


車が動かなくなったので、マークとベシアは徒歩でファレル邸に向かった。シッカン船は月の破片に張り巡らされたシールドをくぐり抜けてきたようだった。ファレル邸に着き、ライフルを受け取り、防戦に向かおうとしたとき、マークは衝動に駆られ、気がつくとマーク・タヴァナーだと名乗りながらファレルの首を絞めていた。だが、ベシアに止められやめた。そこへ、窓からシッカン人が攻めてきた。防戦空しく三人とも捉えられた。そして驚くべきことに、70年のファレル戦役で初めて、マークとベシアは捕虜としてベッカン船に運び込まれたのだった。


船の中で二人は透明のシリンダーの部屋の中に入れられる。部屋の中は人間用にあつらえられており、初めから生けどりを想定して設計されたようだった。ベシアはすっかりふさぎこんでいた。マークは世話係のシッカン人を観察したが、行動は単純かつ愚鈍に見えた。
***
船は23日目にタキオン空間を抜けてシッカン人の故郷についた。そこは星全体が雲に覆われ星空の見えない世界だった。二人の部屋はそれぞれシャトルに積みこまれ母船から切り離された。マークはベシアに「僕らは生きる義務がある!」と叫んだが反応はなかった。船は着地した。


二人はトラックで運ばれた。ついた場所にはシリンダーの部屋を差し込む二つの穴があった。ここで死ぬまで飼われるのだろう。マーク=八ルは、シッカン人の隙をついてナイフを奪い切り付けると、ベシアのシリンダーを開け、中に入った。彼女はハル=マークと言う話を信じていた。マークはベシアに生きて欲しいと話した。ベシアはマークに森へ逃げようと言った。マークはベシアを連れ、やってくるシッカン人にナイフを振るいながら立ち向かった。ところが目を離した隙にベシアは、柵を越えて飛び降りてしまった。
***
マークは柵へ駆けより下を見る。かなり下のフロアにベシアが倒れていた。マークは柵を越え、柱を伝って飛び降り、ベシアに駆けよった。ベシアは虫の息だったが、まだ生きていた。彼女は言った。「お願い、彼らが私を生きかえらせないように、守って」そして信じられない言葉をささやいた。「私は新しいタイプの人間なの。私を生かすことが、シッカン人にとって決定的に重要なことなのよ」そして死んだ。


シリンダーのベッドで眠りながら、マークは「スーパーエゴン」の一部となり「肉体に宿ったエゴン」と交信できる「道」となったベシアと語る。ベシアは、人類のエゴンが肉体に宿ったままスーパーエゴンと直接交信できる進化の次段階へと進む最初の遺伝子を宿した存在だった。祖父の代にその遺伝子が生まれ、ベシアとリサの両方にあったがリサの側は劣性遺伝子で発現していなかった。しかし、ハルもまた紛れもなくその遺伝子を持っている。ベシアとハルが死ねば人類がスーパーエゴンとの「道」を手に入れてしまうため、シッカン人は彼らを生けどりにし隔離したまま人類を滅ぼすまで生かそうとしつづけたのだ。死なれても困るし、生きたまま子孫をふやされても困るのだ。
シッカン人はエゴンとの交信が可能な存在だった。だからエゴンと切り離されたシッカン人自体の知性が低くてもあのような技術を擁することができたのだ。そしてシッカン人のエゴンは人類のエゴンと全く相容れない存在だった。人類はみずからの宇宙船で自分のエゴンすら殺している野蛮な種族であるから、ほうっておくと脅威になるので、進化しないうちに滅ぼそうとシッカン人のエゴンたちは考えたのだ。
シッカン人を倒す方法は簡単で、そのエゴンが住まう空域にバラフライ船を乗りいれてエゴンを殺戮すればよい。だが、既にシッカン人のエゴンはこの空域を去ることを決めたからその必要はない。
そして、ハル=マークには肉体に生き残って進化遺伝子をできるだけ多く広める重要な役割がある、とベシアのスーパーエゴンは語った。
そして、連盟中の全ての要人にベシアはこのメッセージを送った。この星に連盟の船が助けに来るのだ。
***
タヴァナー=ハルは部屋の外に出た。シッカン人は去っていた。彼は助けが来るまでここで生きなければならない。食べ物を探し、部屋を快適にする方法を考えよう。そしてベシアの墓を作ろう。
ベシアを失った悲しみは計り知れない。だが未来は彼の前に、無限に伸び広がっている。
そしてそれは、人類のどんなにとんでもない夢想をも超えた未来になるだろう。
~完~


























silvering at 05:41 │Comments(3)TrackBack(0)読書

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この記事へのコメント

1. Posted by SLG   April 24, 2005 14:48
投票内容
件数 場名 レース 式別 馬組 金額
(1) 福島(日) 11R 複 勝  13
100円
(2) 福島(日) 11R 馬 連  12-13
100円
(3) 東京(日) 12R 単 勝  02
100円
(4) 東京(日) 12R 複 勝  02
100円
合計 400円
2. Posted by slg   April 25, 2005 00:54
70ページ。無難に面白い。ボブ・ショウは分りやすい人間ドラマを必ず中心に据えてくれるから読みやすくていいね。主人公と19歳の娘と連邦大統領の甥の三角関係が一つの軸。もう一つの軸は連邦軍と「詩人の星」の住民の対立。連邦全体はエイリアンと戦争をしている。こういった指標になる分りやすい対立概念がいくつか設定されているので、興味が持続する。
そしていちばんの核になるのが、「何故この星に連邦は軍の本部を設置したのか?」という謎だ。
3. Posted by slg   May 05, 2005 04:40
アイデア   ★★★★
ストーリー  ★★★★★
キャラクター ★★★★★
文体     ★★★★
主張     ★★★
合計     ★★★★(42/50点)
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