「さよなら兄さん」(2008/09/05 (金) 23:16:34) の最新版変更点
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<p> さよなら兄さん<br />
<br />
文:gatsutaka</p>
<p> 注意:ボーカロイドは出てきません<br />
<br />
両親が交通事故で死んだ。<br />
葬儀を終えて遺品を整理していたら、兄の遺した物が大量に保管されていた。<br />
<br />
兄は勉強もスポーツも万能で、楽器を奏で、絵を描き、詩を作り、歌を作り、およそ創造に関する全てのことで人より秀でていた。<br />
その上で、兄は科学者を目指していた。<br />
<br />
兄は15才で死んだ。両親の悲しみは深く、その2年後に僕が生まれた。<br />
両親は僕に兄と字が違うだけの同じ名前を付けようとしたが、それは祖父が止めてくれた。でも両親はよく、特に母は頻繁に、僕を兄の名で呼んだ。<br />
兄が死ななければ僕は生まれなかったとも言われた。<br />
<br />
僕はピアノを習い、バイオリンを習い、絵画教室、作文教室にまで通った。<br />
僕は凡庸で、両親の過重な期待はいつも僕を苦しめた。<br />
<br />
15才を前にして、両親が諦めた。<br />
僕は兄の呪縛から解放され、僕自身の人生はそこから始まった。<br />
怖かった未来が、僕の手の届く範囲に降りてきたような気がした。<br />
<br />
-----<br />
<br />
兄の遺品は年齢毎に整理されていた。小さい頃の絵から、作文、学校のテストも全て。それらを辿ることで、兄の才がいかに優れていたかが改めて分かった。<br />
<br />
一番底に手書きの楽譜が添えられた歌詞があり、日付は兄の死の前日だった。僕はその歌詞を読んでその内容に驚愕した。15才の兄は何を見ていたのだろう。<br />
<br />
余白にメモが記されていた。<br />
「僕らはアトムの歌を聞き、アポロが飛ぶのを見て育った。遠い先、次の世紀、大人になった僕らは、今想像している未来の自分とのギャップに苦しむのかもしれない。それとも」<br />
<br />
-----<br />
<br />
兄さんは「それとも」に続けて何を書くつもりだったの?<br />
ありがちではない未来をつかむつもりでいたの?<br />
兄さんだったら今頃スペースシャトルに乗っていたかもしれないね。<br />
それとも、兄さんも本当は未来が怖かったの?<br />
<br />
兄さん。僕は兄さんの倍の時間を生きてきたよ。<br />
人並みの恋をして、家庭を作り、家族も増えたよ。<br />
ネットも携帯もパソコンも。<br />
兄さんの知らないことを知り、兄さんが経験しなかったことを経験したよ。<br />
でも兄さんが見ていたものを、僕は今、やっと見ているのかもしれないね。<br />
<br />
-----<br />
<br />
最後の歌だけを残して、兄の遺品も全て処分した。<br />
さよならアストロノーツ。<br />
僕はこの歌をボーカロイドに歌わせて、サイハテにいる兄さんに届けよう。<br />
<br />
了<br />
<br />
(あとがき)<br />
</p>
<p> 投稿二作目です。<br />
畏れ多くも、小林オニキスさんの「<a href="http://piapro.jp/content/j4wu6h1nsr7muyyf">さよならアストロノーツ</a>」をイメージして書きました。この曲は、今10代の人の10年後に向けて作られたそうです。でも、10代は勿論、20代よりも30代、40代の、今の大人のほうがよりじんと来る内容だと思います。こう書くと歳を想像されそうですね。<br />
<br />
設定はありがちです(かな?)。その上、「僕」の意識の変化を十分には表現しきれていません。<br />
尚、「兄」の死因は意図的に明示しませんでした。<br />
<br />
タイトルから、「兄さん=カイト」と勘違いして読みに来られた方、ごめんなさい。「兄=カイト」「僕=レン」としてもよかったのですが、今の内容でもここへの投稿要件を満たしていますし、そうすることにあまり意味がないと思ったので、やめておきました。<br />
<br />
作者:<a href="http://piapro.jp/gatsutaka">gatsutaka<br /></a> <br />
履歴:2008/09/05 投稿</p>
<p> さよなら兄さん<br />
<br />
文:gatsutaka</p>
<p> 注意:ボーカロイドは出てきません<br />
<br />
両親が交通事故で死んだ。<br />
葬儀を終えて遺品を整理していたら、兄の遺した物が大量に保管されていた。<br />
<br />
兄は勉強もスポーツも万能で、楽器を奏で、絵を描き、詩を作り、歌を作り、およそ創造に関する全てのことで人より秀でていた。<br />
その上で、兄は科学者を目指していた。<br />
<br />
兄は15才で死んだ。両親の悲しみは深く、その2年後に僕が生まれた。<br />
両親は僕に兄と字が違うだけの同じ名前を付けようとしたが、それは祖父が止めてくれた。でも両親はよく、特に母は頻繁に、僕を兄の名で呼んだ。<br />
兄が死ななければ僕は生まれなかったとも言われた。<br />
<br />
僕はピアノを習い、バイオリンを習い、絵画教室、作文教室にまで通った。<br />
僕は凡庸で、両親の過重な期待はいつも僕を苦しめた。<br />
<br />
15才を前にして、両親が諦めた。<br />
僕は兄の呪縛から解放され、僕自身の人生はそこから始まった。<br />
怖かった未来が、僕の手の届く範囲に降りてきたような気がした。<br />
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兄の遺品は年齢毎に整理されていた。小さい頃の絵から、作文、学校のテストも全て。それらを辿ることで、兄の才がいかに優れていたかが改めて分かった。<br />
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一番底に手書きの楽譜が添えられた歌詞があり、日付は兄の死の前日だった。僕はその歌詞を読んでその内容に驚愕した。15才の兄は何を見ていたのだろう。<br />
<br />
余白にメモが記されていた。<br />
「僕らはアトムの歌を聞き、アポロが飛ぶのを見て育った。遠い先、次の世紀、大人になった僕らは、今想像している未来の自分とのギャップに苦しむのかもしれない。それとも」<br />
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兄さんは「それとも」に続けて何を書くつもりだったの?<br />
ありがちではない未来をつかむつもりでいたの?<br />
兄さんだったら今頃スペースシャトルに乗っていたかもしれないね。<br />
それとも、兄さんも本当は未来が怖かったの?<br />
<br />
兄さん。僕は兄さんの倍の時間を生きてきたよ。<br />
人並みの恋をして、家庭を作り、家族も増えたよ。<br />
ネットも携帯もパソコンも。<br />
兄さんの知らないことを知り、兄さんが経験しなかったことを経験したよ。<br />
でも兄さんが見ていたものを、僕は今、やっと見ているのかもしれないね。<br />
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<br />
最後の歌だけを残して、兄の遺品も全て処分した。<br />
さよならアストロノーツ。<br />
僕はこの歌をボーカロイドに歌わせて、サイハテにいる兄さんに届けよう。<br />
<br />
了<br />
<br />
(あとがき)<br />
</p>
<p> 投稿二作目です。<br />
畏れ多くも、小林オニキスさんの「<a href="http://piapro.jp/content/j4wu6h1nsr7muyyf">さよならアストロノーツ</a>」をイメージして書きました。この曲は、今10代の人の10年後に向けて作られたそうです。でも、10代は勿論、20代よりも30代、40代の、今の大人のほうがよりじんと来る内容だと思います。こう書くと歳を想像されそうですね。<br />
<br />
設定はありがちです(かな?)。その上、「僕」の意識の変化を十分には表現しきれていません。<br />
尚、「兄」の死因は意図的に明示しませんでした。<br />
<br />
タイトルから、「兄さん=カイト」と勘違いして読みに来られた方、ごめんなさい。「兄=カイト」「僕=レン」としてもよかったのですが、今の内容でもここへの投稿要件を満たしていますし、そうすることにあまり意味がないと思ったので、やめておきました。<br />
<br />
作者:<a href="http://piapro.jp/gatsutaka">gatsutaka<br /></a> <br />
履歴:2008/09/05 投稿</p>
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