SF百科図鑑 アーシュラ・K・ルグィン「帰還」


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2002年

4/6

ルグィン「帰還」★★★★
体調が悪い中、何とか読み終える。
老境のテナーとゲド、魔法の才能を秘めた娘テハヌ-(テルー)の物語。ゲドは魔法を使い果たし、魔法の道を拒絶し平凡な主婦の道を選んだテナーの元に戻ってくる。二人は何十年ぶりかで初めて互いの愛を確認し、平凡な人間として老後を生きて行く決心をする。ファンタジーとしての物語の焦点は、既にゲドやテナーを離れ、テハヌーに移るであろうことが、タイトルおよびラストにおける竜とテハヌーのやり取りで暗示される。
途中、まじない師アスペンとの絡み、竜に助けられるラストなど活劇的要素も絡めてあるが、あくまでも味付け。本作の焦点は、人生のピークを過ぎた者が残りの生に如何にして意味を見い出して行くのかという、すべての人間に共通する普遍的なテーマにある。それに絡めて、男と女の役割の問題、児童虐待の問題等の現代的な問題に対する関心も語られる。つまり大人(それも高齢)向けの普通小説というべき内容である。前作までの冒険活劇を期待する読者には肩透かしだろう。
同一の舞台設定を用いて、このような全く違う物語を作り出したことについては当然、批判も考えられる。しかしルグィンはあえてこのような批判を承知で、かつてヒーローでありヒロインであったゲドやテナーをこの新しい物語の主役に据えずにはいられなかったのではないか、と思われる。ルグィン自身も20年近い時間が流れ、老境を迎えている。このシリーズが魔法と言葉や知といったものをオーバーラップさせた寓話的内容になっていることに想到するならば、ゲドやテルーは恐らくルグィン自身の分身に他ならない。つまり、ゲドやテルーの老後はルグィン自身の老後である。ルグィンがこのシリーズを愛すればこそ、このシリーズの枠組みでこの作品を書かずにはいられなかったであろうことが容易に理解できる。
ただ、作品としてみるならば、このテーマを十分に深く掘り下げ切っているかはやや疑問の残るところではある。それはつまり、ルグィン自身がまだ自身の老後の生を把握し切っておらず、答えを出し切れていないせいではあるまいか。その意味でこの作品は、テーマと裏腹にやや空回りの感のある、過渡期の作品ということができる。それゆえの★4つである。ルグィンがこのテーマで成功するのか否かは、本作以後のシリーズ作品の出来にかかっている。
その意味で、本作以後に出たシリーズの短編集や、第5長編「テリング」の翻訳が待たれるところである。ちなみに「伝説は永遠に」にもシリーズ短編が収録されているので、必読。