SF百科図鑑

シオドア・スタージョン『不思議のひと触れ』河出書房

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December 02, 2004

シオドア・スタージョン『不思議のひと触れ』河出書房

ふしぎのひと触れ積読消化、邦訳本も結構たまっております。この本は去年の年末に出ていました。この前に出た『海を失った男』も積読。われながら積読大王だ。
「高額保険」
「もうひとりのシーリア」
「影よ、影よ、影の国」
「裏庭の神様」
「不思議のひと触れ」
「ぶわん・ばっ!」
「タンディの物語」
「閉所恐怖症」
「雷と薔薇」
「孤独の円盤」

「高額保険」は原書のULTIMATE EGOISTの冒頭にも入っている処女作で、原書で既に読んでいました。短いので本書で邦訳を再読。典型的なアイデアストーリーのミステリ。叙述トリックを使っています。レベル的には可もなく不可もなしだが、作者のスタイリストぶりはこの処女作から既に表れていますね。★★
silvering at 23:58 │Comments(8)TrackBack(0)読書

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この記事へのコメント

1. Posted by slg   December 03, 2004 04:06
「もうひとりのシーリア」
訳者の解説通り、スタージョン版「屋根裏の散歩者」。覗き見趣味の男が階下の女の部屋を除く。この女、人間のような顔をしているが、実は自分の皮を2種類用意していて、毎日着替えては、脱いだ皮を洗濯しているのだ。笑い出したくなるような奇想を、シリアスな筆致で不気味に描き出す様は天才的だ。そして、「我々人間全員が人生を送るこの蟻塚の中では、社会の構成員にあらゆる種類の奇行を(その奇行を他人の目に触れさせない限り)許容するだけのプライバシーが維持できる。コウモリのように逆立ちして眠ることを無上の歓びとする男がいたとして、もし彼が自分の寝ている姿や寝場所を誰にも見せないようにして生活するなら、一生の間毎日コウモリのように眠ることも可能だろう」といったさりげない一節に垣間見える人間性や社会への洞察も鋭い。傑作だろう。★★★★
2. Posted by slg   December 04, 2004 00:08
「影よ、影よ、影の国」
これはひどい&&。完全にジョン・コリアの「ビールジーなんているもんか」(1940年)の盗作だ。発表年代(1951年)からしても。父親と母親を逆転させ、「ビールジー」にあたるものを、影の国の何者かにした以外、オチまでほとんど同じだ。気づかずに済ませたかったけれど&&これはもはや偶然の一致の域を超えている。巻末解説を見るとスタージョンが大スランプだった時期の作品らしい。道理で&&。大家を冒涜するようなことを書きたくはないが、これはいくらなんでも&&。
点数なし

「裏庭の神様」
スタージョン版「笑ウせえるすまん」? 星新一のショートショートに近い味わいかも。「何でも願い事がかなうおまじない」もの。その能力ゆえに不幸になり、元の鞘に収まるという予想通りの展開で、可もなく不可もなし。
★★

「不思議のひと触れ」
人魚に恋をした男女がそれぞれの相手の人魚に愛に来て出会い、結果、恋に落ちる、その恋こそが最高の「不思議のひと触れ」ですた、というスタージョン節炸裂のスタイリッシュな恋愛ファンタシイ。「時間のかかる彫刻」といい、この手の恋愛ものはスタージョンの得意中の得意。少し赤面しそうな話ではあるが、佳作。★★★1/2
3. Posted by slg   December 04, 2004 01:40
いくら優等生でも、カンニングはいかんよチミ。
4. Posted by slg   December 04, 2004 02:03
ところで、最近、わが畏友がノンフィクションとフィクションの秀逸な定義をしている。その中でフィクション(小説)を「偽書」と定義付けている。奇遇にも、私も、すべてのフィクションはファンタシイであるという結論に最近たどり着いたところだ。用語法こそ異なれ、発想はかなり近いのではないかという気がしている。
要するに、純文学であれ、実話「を元にした」文学であれ、SFであれ、ミステリであれ、ハードボイルドであれ、必ず想像力による「フィクション」の部分が存在し、そのフィクションの部分こそが作品の肝であることがフィクションのフィクションたるゆえんである。
きわどいところで、佐木隆三はフィクションなのか? ノンフィクションなのか? という問題があるが、あの作家は事実をつなぎ合わせているにしろ、余白の部分を想像で『創作」しているとはいえる。父に強姦され父を殺した娘の話を書いても、引用の合間に多少の想像が入っており、そこの面白さで読ませる以上は、フィクションであろう。ただ、彼の場合長いものはともかく、「殺人百科」あたりになるとほとんどフィクションの部分がなく実録に近いものになっているから、やはり境界線上にいるといっていいだろう。
フィクションとは、何らかの外在的な素材を用いて、自己の内面で自律的に構築された心象を表現する行為と大雑把に定義できる。利用される素材によって、SF、純文学、ファクトノベル、ミステリ、ホラー、ポルノなどのジャンルが分かれるものであろう。しかし、その源流はやはり、想像力に対する足枷を最も取り去った形態としての「ファンタシイ」という結論に落ち着こう。事実、ギリシャ・ローマの最古の文学はまごうかたなきファンタシイばかりである。神話もそうであろう。
近代、現代の文学はジャンルの発達とともに論壇が近視眼的なセクショナリズムに陥り、普遍的な科学としての文学理論の後退を帰結していた感がある。すべての文学はファンタシイであるという原点に謙虚に立ち返って、この観点からすべての誤った文学理論を洗いなおす必要があるだろう。

&&と、こんなことを考えている最近である。SF、ミステリなどといったジャンルごとの評価尺度というのは確かにある程度役に立つが、自分が面白いという本は必ずしも特定のジャンルにとどまるものでない。それはなぜなのか、やはりジャンル固有の評価尺度を超えたもっと普遍的な指標というものが存在し、その指標においてとらえ直す作業をしなければ、その法則性を把握することはできないのでないだろうか。そしてその普遍的指標定立にあたっては、すべての文学がファンタシイであるという大原則を認識することこそまず前提となるであろう。現在、用いている指標についても、その観点から再度検討してみたいと考えている。
5. Posted by SLG   December 04, 2004 17:09
「ぶわん・ばっ!」
何か訳がおかしいと思ったら、擬音語だけ田中啓文だった(笑)。
ジャズの演奏を小説化したという以外に新規さはなし。物語性皆無。ライバーにも似たような「ビート村」という作品があったがSF設定を工夫してた分100倍面白かった。陳腐でつまらなく退屈。★1/2

「タンディの物語」
やっとSFが出てきた。本短編集で初のSF。やはりSFは見違えるように面白いねえ。子供を介して地球上に展開するエイリアンというネタ的には、むしろ長編向きで、短編ではいかにも物足りない。シリーズ化する予定だったが飽きてやめたとか、実にもったいない。★★★★




6. Posted by SLG   December 05, 2004 00:07
「閉所愛好症」
筋立てはシンプルすぎるが、着想が面白い。やはり普通のSFだと面白い。★★★1/2
7. Posted by SLG   December 05, 2004 02:04
「雷と薔薇」
さすがに名高いだけあってよくできている。テクノロジー描写はさすがに古さを隠せないが、核戦争後の報復攻撃にまつわるドラマは、人間性の本質に迫る重みを持っている。ちょっと訳文に色気がない気がするのは少し残念だが。福島アンソロジーの「破滅の日」に入れたかった(単行本版には入っていたかも知れない)。★★★★1/2
8. Posted by SLG   December 05, 2004 02:39
「孤独の円盤」
これはすごい。一見陳腐なSF設定、スタージョン版「おれに関する噂」的展開が、孤独で劣等感にうちひしがれた人間のパーソナルな問題に内向した上で、人間性の本質を突く(ちょっと気恥ずかしい)エンディングへと高まる魔法的な一瞬。スタイリスト・スタージョンの真骨頂はこれだ!という感じの名品。★★★★★

以上で読了。
収録作品のレベルにやや波があるのと作品の選択や配列にも疑問はあるものの、最後の2編はやはり別格。平均すると★★★1/2ぐらいだろう。

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