SF百科図鑑 中村融&山岸真『20世紀SF4 1970年代』河出文庫


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2001年

6/4
長編に飽き飽きして、お預けにしていた「20世紀SF4」を読み始めました。今日は291ページまでいきました。
冒頭のティプトリー「接続された女」は既読のためコメント済み。いわずと知れた大傑作。
ウルフ「デス博士の島その他の島」★★★★
ウルフは初めて読むが、凝った作風ですねえ。初心者には向かないでしょう。この作品はジャンル的にはファンタジーなのでしょうが、作中作がウエルズだそうでSF批評になっていること、ラストにおいて前半の幻想世界が現実世界に収斂して行くところがSF的といえます。ただ、やはりネビュラ賞受賞作の「アイランド博士の死」のほうが手軽に読めない状態なのによりマイナーな(かつ分かりやすくもない)この作品のほうを収録されてもねえ&という気もしますが。なお、ドラッグの取扱いなどはいかにも70年代的で、LDGの一人とされたのはこういうところに理由があったのかも知れません。
ラス「変革のとき」★★★★★
さすがネビュラ賞受賞作です。短いながら、ラスのエッセンスが詰まった名作ですね。ネタは、後年ティプトリーも「ヒューストン、ヒューストン、聞こえるか?」でダブルクラウンに輝いたように、この時期フェミニズムSFが好んで用いた「女だけの社会」もの。その走りともいうべき作品でしょう。SFという手法とフェミニズムの主張をここまで効果的に結合された作品は他にないかも知れません。
ルグィン「アカシア種子文書の著者をめぐる考察ほか、「動物言語学会誌」からの抜粋」★★★★★
ルグインが実はユーモアに溢れた作家だというのは意外に知られていませんが、この作品はその方面のルグインの才能が最もよく表れた名作でしょう。「コンパスローズ」で読んだときにも驚嘆しましたが、見事な新訳でリニューアルされたので再読し、またもひとりにやけてしまいました。しかし、ギャグじゃなく、似たようなことをおお真面目にやっている学者は世間にいっぱいいますけどね。
ヴァーリイ「逆行の夏」★★★★
初期ヴァーリイの有名作。「残像」の冒頭に入っています。ヴァーリイの特徴が最もよく出た作品であることは間違いありません。個人的には、初期のヴァーリイはストーリイテリング等があまりこなれておらず、苦手で、この作品も世評は高いけどストーリイが今一単純なので、正直言って何がそんなによいのかよく分かりません。水星での生活とか、水銀洞の描写とかは流石だと思いますけど、ストーリイが平凡だよなあ&&。ただし、性転換が日常化して性別が意味を持たなくなった社会における家族の有り様、といういかにもヴァーリイ的なテーマは非常によく出ており、SFならではのテーマでかつ一般の人にも入り易いネタなので、初心者には最適な作品ではありましょう。初心者ということを言うなら、小説としてこなれた「ブルーシャンペン」に入っている諸作の方が、もっと初心者には向くと思いますけど(もっともSF的思弁は確かにやや後退しているかも知れない)。
ビショップ「情けを分かつ者たちの館」★★★★1/2
これは凄い。ビショップも初めてなんですが、いかにも玄人受けはするけど素人には評価されない作家っぽい作風ですねえ(笑)。ネビュラ賞は取るのにヒューゴー賞とは縁がないのもうなずけます。デーモン・ナイトの「仮面」を引用しているように、身体改変と人間のアイデンティティ探究というシリアスなテーマを極限まで追究しており、ほとんど内容は純文学です(笑)。しかも文体やキャラクターたちの暗さ、情景描写の陰鬱さがほとんどフランス世紀末文学のような雰囲気です。正直言って重すぎて、とうてい初心者にはお薦めできません。
プリースト「限りなき夏」★★★★1/2
いかにもプリーストらしい奇想と文学的技巧の結合した佳作です。この凍結員と言うのが何なのか、何のために過去の人や物を凍結したり凍結解除したりするのか、凍結した人にとって時間はどうなるのか、といった点についての合理的説明は全くないのもプリーストらしいと言うか(笑)。同じネタを扱ってもベイリ-やワトスンは、理屈をとことんまで突き詰めようとするんでしょうけどね。この結末もいかにも小説としての綺麗さを信条とするプリーストならではですよね、いい意味でも悪い意味でも。

6/5
いやあ、うまくいきそうなものがうまくいかなくなり、うまくいかなそうなものが急にうまくいくもんですねえ。やはり確率論の問題なのでしょうか。

「20世紀SF4」続きです。
ベイリ-「洞察鏡奇譚」★★★★★
すげえ! 大傑作だ。初期でいうとハミルトンの短編あたりを彷佛とさせる奇想の凄さ。しかもハミルトンの素朴さから進化し、科学的、論理的思弁を突き詰めて行くような作風はいかにもSFの王道という感じですね。キワモノ的イメージからマニア以外には敬遠されがちだが、さすが玄人筋の評価が高いだけのことはありますね。
ラファティ「空」★★★★1/2
そして、いくとこまでいってしまいましたね(笑)。時間も空間もねじ曲げてしまうマッドな誇大妄想的破壊力。宇宙法螺話であると同時にドラッグ小説のパロディにもなっている。ネタは「スカイダイビング」の語から連想を膨らませたものでしょうかね。未訳でこんな凄い話が残っているんだから流石というか(笑)。まあ、しかし、初心者にいきなりこれを読ませるのはきついでしょう。初心者なら「素顔のユリ-マ」でしょう、まとまりがよすぎてマニアには物足りないのかも知れんけど。
ライバー「あの飛行船をつかまえろ」★★★★★
再読で、前回は満点つけなかったと思うけど、どこを読んでいたんでしょうか。頸動脈を切られていたのに気づいていなかった。「歴史上の尖点」理論という硬質のSFアイデアを核に、近現代史批判と内宇宙の幻想描写と陰鬱なユーモアをからめた、非常に複雑に凝った力作でした。しかも巻頭の解説で自伝的作品であることも知り、認識を新たにしました。ライバー恐るべし、まさに円熟の境地。
しかし初心者にいちばんいいライバーは「バケツ一杯の空気」か「影の船」のどちらかでしょう。

後はマーティンのみ。
この・、1つだけ苦言を呈させてもらえば、初心者には少し重すぎるだろうということ。・~・はいずれも軽く分かりやすい娯楽作品が程よい割合で入っていたので、初心者にも取っ付き易い内容になっていたと思う(それを例えば大森あたりは「ディクスンの「イルカの流儀」はレベル的にどうか」のように安直に貶してしまうわけだけど(笑))。ところがこの・、1つ1つの作品のクオリティは異常に高いのに、いや、そうであるがゆえに、軽く読み飛ばせる息継ぎの箇所がないのである。この中で初心者がいきなり読んで多分大丈夫そうなのはヴァーリイぐらいではないだろうか。ラスもテーマが明解に伝わる内容なので(過激さの点を除くと)支障はないだろう。しかし、しょっぱなからいきなり強烈なパワーの「接続された女」では、はまる人と面くらう人と半々ではなかろうか。ウルフは「アイランド博士の死」を入れるほうが初心者には親切だし、マーティンも「ライアへの讃歌」のほうが「SFの教科書」向きの作品でしょう。ルグインは大好きな作品だけどルグイン中かなり異色だし、ビショップは難解でしょう。ラファティも玄人好み。というわけで「SFの教科書」を目指すのなら、もうちょっと「レベルの低い」作品も入れるべきだったのでは?というのが素朴な感想です。屑あってこそひきたつ名作なんですから。

6/6
マーティン「7たび戒めん、人を殺めるなかれと」★★★★★
マーティンってこんなに難しかったっけ?というぐらい、一回目ではよく分からず2回目でワイアット教主が吸魂鬼の餌食になって発狂したということがようやく合点がいきました。一回目なんて、城壁に吊るされているのが「天使」の子供だったというところすら読み落としていましたから、よほど疲れていたんでしょう(笑)。インチキ宗教の教義の内容にまで踏み込んだネタのため、とっつきにくいけど、凝った凄い作品です。ピラミッドも彫像も吸魂鬼の霊夢のための媒介のようなものということなんでしょうね。文学的香気溢れる色彩感覚豊かで詩的な文体といい、人間性とモラルの本質に迫るテーマといい、ホラー指向のセンスといい、マーティンのあらゆる特徴が詰まった見本のような作品です。やはりマーティンの初期作品は思弁的で深みがあって、読みごたえがありますね。「サンドキングズ」の頃になると娯楽性が前面に出ていますが、マーティンの最良の短編群はやはり「ナイトフライヤー」等に入っている初期作品に集中しているように思われます。日本人好みの作風だしなぜ訳さないの?と不思議でしょうがありません。

20世紀4、読み終わりました、★★★★★、何だかんだいってもこのクオリティの高さでは、いくら「息抜きがない」とはいえ満点をつけないわけにはいかんでしょう。うーん、やっぱりSFは短編が一番だねえ。

さて、90年代に戻り、いよいよ短編に入るなりよと。未読は次のとおりっしゅ。(読んだら消して行く)
91
ヘミングウェイごっこ(ホールドマン) 
92
ゴールド-黄金-(アシモフ)(訳) 
94
底地にて(タートルダヴ) 
ナイルに死す(ウィリス)
95
オルドワイ峡谷七景(レズニック)
火星の子(ジェロルド)
96
リンカーン列車(マクヒュー)
97
★龍の血(マーティン)
自転車修理人(スターリング)
★魂がわが社会を選ぶ(ウィリス)
98
さあ、魚を飲もう(ジョンソン)
99
祈りの海(イーガン)
タクラマカン(スターリング)
機械の鼓動(スワンウィック)
2000
大理石弓の風(ウィリス)
ティラノサウルスのスケルツォ(スワンウィック)
で読む順序としては、
 
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