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笠井潔『薔薇の女』創元推理文庫

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November 04, 2005

笠井潔『薔薇の女』創元推理文庫

矢吹カケルシリーズ初期3部作第3部
『バイバイ、エンジェル』と題名忘れた次のやつを読んだのはもう一昔前(5,6年前?)。カケルとかいう気取ったフランス滞在中の日本人青年が突拍子もない衒学的推理で犯人を当てるというパターンで、ヨーロッパの歴史やテロ、革命、秘密結社といったスケールの大きな流れが事件に背後にあったというパターンが多かったようなうろ覚えの記憶。
本書もそのパターンに当てはまる。「人体をバラバラにして体の各部を寄せ集めて肉人形を作る猟奇連続殺人鬼」の事件と、「密室の中で死んでいた男と同じ部屋で服毒死していた女」という二つの事件。「両性具有」の血文字、背後に暗躍する薔薇の女の影、遙かな昔死んだ女優の謎、そっくりの双子、入れ替わり、アリバイ崩し、変態性欲者&&。本格ミステリ的な煽りは満載。しかし、カケルの<現象学的推理>は傍目には学問馬鹿のトンチキな妄言にしか見えないのが変わっていて、このシリーズらしい。どこが<現象学的>なのかさっぱりわからないが、連続殺人にギリシャ神話などを引っ張り出して、異常な犯人の心理になりきって次の被害者を推理していくこの男、その推理が結果的に当たっていることによって自らも犯人並みの異常さを持っていることを証明しており笑える。
で、二つの事件は本格ミステリ的に真っ当な解決を迎えるのだが、背後に政治組織が存在し2つの事件を操っていた的な真相があかされ、おきまりのパターンになっている。
本格ミステリのスタイルを借りた哲学思弁小説になっているのが本シリーズのユニークな点だが、本格ミステリ部分との結合が必然的であるかどうかに疑問が残るのは確か。思弁の内容も表面的で考究の目的が判然とせず、徒労感が漂う。また、主人公のカケルといいそれに惚れる語り手のフランス人女といい、キャラとしての魅力が全くない。このあたりが今後の課題か。

テーマ性   ★★★
奇想性    ★★★
物語性    ★★
一般性    ★★
平均     2.5
文体     ★★★
意外な結末  ★★★
感情移入   ★
主観評価   ★★1/2(25/50)
silvering at 11:42 │Comments(0)読書
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