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小林泰三『玩具修理者』」(2005/12/06 (火) 00:30:27) の最新版変更点

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<p>1997年日記より</p> <p>4/27<br> 昨日購入した小林泰三「玩具修理者」読了。とにかく面白い。<br> ★★★★1/2。<br> 「玩具修理者」「酔歩する男」の2編収録。<br> 「玩具修理者」★★★★<br> 40ページ足らずの小品だが、とにかく、誰にも真似できない奇妙な着想、明快でユーモラスな文体、奇麗すぎるぐらい鮮やかなオチ。「兆」で一目惚れした作者の才能についてはおれの目に狂いはなかった。スプラッタ色が強いにもかかわらず、全くグロテスクではなく、乾いた恐怖だけがじわじわと肌ににじり寄って来て、最後のオチでここぞとばかり見事に噴出する。天才としか言いようがない。凡百の通俗的な怪奇小説が霞んでしまう。<br> 「酔歩する者」★★★★1/2<br> 最初はぞくぞくするような始まり方だったのが、途中、平凡な歴史改変SFに終わるかと見せかけておいて、一筋縄では行かない展開になだれ込んで行くのがこの作者のすごさ。惜しむらくはラストが凝りすぎて難解になっていること。不用意に読み飛ばしかねない何気ない一こま一こまがこの小説のオチへの伏線となっていて、何度も読み直すうちに恐怖が形となって見えてくる。そして、何度読み直してもどうしても辻褄が合わない点が残り(「わたし」の「波動関数を再発散させない能力」の欠如が、環境の実在の不確かさの原因であるとして、「わたし」の過去においては、「小竹田」は「わたし」の周りに現れず、現に「手児奈」も死なずに「わたし」の妻となっており、「わたし」と「小竹田」が互いの脳に放射線照射することにより時間制御能力等を司る器官を破壊することはなかったはずなのに、いつの時点から、どうして「わたし」の「波動関数を再発散させない能力」は失われてしまったのか、その説明は別に必要なように思われる)、納得の行かない気持ち悪さが胸の中にわだかまって仕様がないのだが、この作品の核にあるアイデアが「因果律の破壊、転倒」にある以上、そのような矛盾や説明不足を不快に感じる心理も「限られた理解力しか持たないわれわれの脳があまりにも複雑な世界に対面した時に壊れてしまわないために脳自身が設定した安全装置-------それが因果律」の一言の下に斬って捨てられてしまう。つまり、そのような気持ち悪さに読む者が襲われること自体、作者の意図するところであり、そう認識するや作中の「わたし」の底知れぬ不安感と読む者の不安感がオーバーラップして恐怖を倍増するという二重仕掛けの構造をこの作品は持っているわけである。<br> 何度かこの作品を読み直して、そのような作者の意図に思い至るや、この作品のラスト1行-------これも心憎いまでに微妙な伏線が引かれていたのだが------が、1回目にそこに達したときに感じたぞっとする感覚にもまして更に強烈な恐怖を与えてくれるのである。<br> またこの作品は、いささか凝った時間ものSFとしてだけでなく、「手児奈」が列車に轢殺されるシーンなどに作者のあっけらかんとした独特のホラー感覚が相変わらず抜群の切れ味を発揮しているし、メインアイディアの説明部分においては(因果律についての考察や「シュレディンガーの猫」の話など)、他の作品ではあまり見られない作者の理系的な知識や思考能力が遺憾なく発揮されており、この作者の異能ぶりを如実に示していると考えられる。<br> とにかく、同じSFでもただのSFに終わってしまわないところが、鈴木や瀬名とこの作者が一線を画すところであろう。もっとも、このトリッキーな作風は長編ではやや切れ味が鈍ってしまうおそれがあり、恐らく短編においてこの作者の才能は最もよく発揮されるのではあるまいか。競馬に例えるならステイヤーではなく、間違いなくスプリンターの才能である。</p> <p> 昨日「世界の幻想文学総解説」を購入した勢いで、「超男性」「イギリス幻想小説傑作選」「彼方」「賢者の石」を購入。全部一気に読みたくて、時間がないのがもどかしい。<br> ついでに、前から読みたかったグレッグ・ベアの「火星転移」上巻も購入。<br> 他方、音楽関係は、UAのアナログ盤が出ているのを発見し即買い。それと、エスカレーターズの新曲。<br> Escalators「Love Woman」★★★★★<br> すげえ気に入った。編曲福富幸宏。程よく分かりやすいファンクネス、陳腐にならない程度に分かりやすい詞、伸びのいいズーコの声。たまらん。今のおれにぴったりはまる、自分内の最も「旬」な音だ。ズーコ、顔は多少不細工でも、惚れてるぜ。<br></p>
<p>1998年日記より</p> <p>4/27<br> 昨日購入した小林泰三「玩具修理者」読了。とにかく面白い。<br> ★★★★1/2。<br> 「玩具修理者」「酔歩する男」の2編収録。<br> 「玩具修理者」★★★★<br> 40ページ足らずの小品だが、とにかく、誰にも真似できない奇妙な着想、明快でユーモラスな文体、奇麗すぎるぐらい鮮やかなオチ。「兆」で一目惚れした作者の才能についてはおれの目に狂いはなかった。スプラッタ色が強いにもかかわらず、全くグロテスクではなく、乾いた恐怖だけがじわじわと肌ににじり寄って来て、最後のオチでここぞとばかり見事に噴出する。天才としか言いようがない。凡百の通俗的な怪奇小説が霞んでしまう。<br> 「酔歩する者」★★★★1/2<br> 最初はぞくぞくするような始まり方だったのが、途中、平凡な歴史改変SFに終わるかと見せかけておいて、一筋縄では行かない展開になだれ込んで行くのがこの作者のすごさ。惜しむらくはラストが凝りすぎて難解になっていること。不用意に読み飛ばしかねない何気ない一こま一こまがこの小説のオチへの伏線となっていて、何度も読み直すうちに恐怖が形となって見えてくる。そして、何度読み直してもどうしても辻褄が合わない点が残り(「わたし」の「波動関数を再発散させない能力」の欠如が、環境の実在の不確かさの原因であるとして、「わたし」の過去においては、「小竹田」は「わたし」の周りに現れず、現に「手児奈」も死なずに「わたし」の妻となっており、「わたし」と「小竹田」が互いの脳に放射線照射することにより時間制御能力等を司る器官を破壊することはなかったはずなのに、いつの時点から、どうして「わたし」の「波動関数を再発散させない能力」は失われてしまったのか、その説明は別に必要なように思われる)、納得の行かない気持ち悪さが胸の中にわだかまって仕様がないのだが、この作品の核にあるアイデアが「因果律の破壊、転倒」にある以上、そのような矛盾や説明不足を不快に感じる心理も「限られた理解力しか持たないわれわれの脳があまりにも複雑な世界に対面した時に壊れてしまわないために脳自身が設定した安全装置-------それが因果律」の一言の下に斬って捨てられてしまう。つまり、そのような気持ち悪さに読む者が襲われること自体、作者の意図するところであり、そう認識するや作中の「わたし」の底知れぬ不安感と読む者の不安感がオーバーラップして恐怖を倍増するという二重仕掛けの構造をこの作品は持っているわけである。<br> 何度かこの作品を読み直して、そのような作者の意図に思い至るや、この作品のラスト1行-------これも心憎いまでに微妙な伏線が引かれていたのだが------が、1回目にそこに達したときに感じたぞっとする感覚にもまして更に強烈な恐怖を与えてくれるのである。<br> またこの作品は、いささか凝った時間ものSFとしてだけでなく、「手児奈」が列車に轢殺されるシーンなどに作者のあっけらかんとした独特のホラー感覚が相変わらず抜群の切れ味を発揮しているし、メインアイディアの説明部分においては(因果律についての考察や「シュレディンガーの猫」の話など)、他の作品ではあまり見られない作者の理系的な知識や思考能力が遺憾なく発揮されており、この作者の異能ぶりを如実に示していると考えられる。<br> とにかく、同じSFでもただのSFに終わってしまわないところが、鈴木や瀬名とこの作者が一線を画すところであろう。もっとも、このトリッキーな作風は長編ではやや切れ味が鈍ってしまうおそれがあり、恐らく短編においてこの作者の才能は最もよく発揮されるのではあるまいか。競馬に例えるならステイヤーではなく、間違いなくスプリンターの才能である。</p> <p> 昨日「世界の幻想文学総解説」を購入した勢いで、「超男性」「イギリス幻想小説傑作選」「彼方」「賢者の石」を購入。全部一気に読みたくて、時間がないのがもどかしい。<br> ついでに、前から読みたかったグレッグ・ベアの「火星転移」上巻も購入。<br> 他方、音楽関係は、UAのアナログ盤が出ているのを発見し即買い。それと、エスカレーターズの新曲。<br> Escalators「Love Woman」★★★★★<br> すげえ気に入った。編曲福富幸宏。程よく分かりやすいファンクネス、陳腐にならない程度に分かりやすい詞、伸びのいいズーコの声。たまらん。今のおれにぴったりはまる、自分内の最も「旬」な音だ。ズーコ、顔は多少不細工でも、惚れてるぜ。<br></p>

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