フエトのための

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フエトのための
 

「祭りはもう終わりか」
問いかけた少年の声に、わたしは「うん」と答えた。
「あっという間だったね。こういうの……、味気ないっていうか……」
「うん」
わたしは繰り返した。
遠くの方でかがり火が燃える音がする。
もうすぐ消えてしまう、弱々しい音だ。
さっきまではあって、今はないもの。
祭りの後の空気。
 

「僕でさえ一瞬、信じそうになった。奇蹟ってヤツを。
……それくらい、綺麗な景色だった。あんなにも人のこと、嫌いだと思ってたのに」
「なんだ、ちゃんと見てたんだ。歌声は聞こえてたから、いるのはわかってたけど」
強がったように言うと、少年はバツが悪そうに、
「別に心配で見に来たわけじゃないぜ?
ただ、あんまり人が集まらないんじゃ可哀想だろ?慰めるくらいはしてやろうと思ってさ」
「……ありがと」
つぶやくと、少年は顔を背けた。
暗闇が隠していても、なんとなくその表情は想像できる。
「それにしても、静かすぎるよな。
まるで何も起こらなかったみたいだ」
空の上の風の音を聞きながら、再び、彼は口を開いた。
「たぶん、あいつらだってすぐに忘れちゃうな。持ち上げるだけ持ち上げてさ。
あーあ。やっぱり無駄なことだったんじゃないかなぁ……」
わたしには彼の言うことがとてもよく理解できた。
森の星空のステージ。
わたしは歌った。歌声は集まった人々の熱と一緒に、空に吸い込まれるように消えていった。
 

「うん」と、三度目の返事。
「知ってたけど。本当は……記憶になんか残らないんだよ」
なんとなく思ったことを、そのまま口にしていた。
「ふぅん……」
少年の目に、訝しそうな光が浮かんだ。
驚いたのが素直に出てしまった、そんな口調だった。
「どういうこと?」
 
 
「どういうこと?」
人々が散り散りになっていくのを感じる。
小さくなる雑踏が夜空に反射しているかのように。
星空は透き通っていて、すべてを包み込むように大きくて、とても綺麗だ。
「理解して欲しくて、歌ったんじゃないのか?」
わたしは首を振った。
短い髪とリボンが揺れた。
「何も考えてなかった。歌ってるときは。それが本当のことだった」
わたしは大きく息を吸ってみた。
冷たい空気。感じるのは共振。自分の存在を信じられるだけの重さ。
「ただ、それだけだから、記憶には残らない。わたしだって、きっと……」
「俺は嫌だな。ただ、望まれた詩を歌うだけの人形なんて。寂しいだろ、そんなの」
 
「寂しくはないわ」
ふてくされた彼の声に、わたしは笑顔で答えた。
 
「それは、わたしたちが空気や水のようになるということだから」

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