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ヤザン−ユウ 051-060

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■第五十一章




「味方を殺っているのか…?あの…MSは…?パイロットは…正気なのか…?」
『二ムバス…あの人も…哀しい人…。だけど…違う!わたしは望んでいない!』

そのMSの持つヒートサーベルは、『サーベル』と言う響きに似合わぬ重厚さを俺とブルーの前に見せ付けた。
まるで騎士の持つ、『大剣』の遣い方だ。
斬る。叩き斬る。撫で斬る。
06が、07が、09が、瞬く間に餌食と為って行く。
凄まじい遣い手だった。
片方の剣で受け、もう片方で斬る。
射撃されると、剣の幅で最小限の部分を防御し、接近して、剣で突き、仕留める。
そのMSの見せる優美な舞を舞う様な美しさに俺は、100㎜マシンガンの砲口を向けるのも忘れて、見入っていた。
戦いたい。
俺は純粋にそう願った。
コイツと、一対一で誰にも邪魔されず、殺り合いたいと。
しかし、ブルーの『EXAM』の稼働時間カウンターが、無情にも漸減して行く。
俺は、もう待てなかった。

「邪魔だ貴様等!消えろ!そいつは俺の獲物だァ!」

俺は蒼いMSに斬り掛かろうとする07改の腕を精密照準で吹き飛ばした。
体ごと蒼いMSが反転し、即座に07改の上半身と下半身とをヒート剣で分断した。
俺の目に写った、蒼いMSのモノアイの残光が消える間も無い間だった。
立っているジオンのMSがその『蒼いMS』以外に無くなった時…。
俺は外部音声出力をONにした。
さあ、総てを出して魅せて見ろ!
俺を、愉しませろ!
その極上の技で!その技量で!
その無慈悲さを以て!
俺の飢えを癒して見せろ!『敵』!

「邪魔者は、消えたな?さあ、始めようか…。自称ジオンの騎士、二ムバス・シュターゼンとやら!」
「随分と無作法だな…?まあ良い…騎士の名誉に懸けて貴様を倒す!連邦のEXAMパイロット!」

まさか外部音声で応えて来るとは夢にも思わなかった。
…御目出度い奴だ。
だが、面白い!根拠の無い自信に満ち溢れたその言や良し!
…もしかして俺も移っちまったか?
と思う間も無く、『蒼いMS』の両脚のミサイルポッドから有線ミサイルが放たれた。
さあ、愉しもうじゃないか。
心行くまでこの戦闘を。
残り3分の、ゲームセットまで。
俺は胸部バルカンを一斉射し、ミサイルを破壊してから廃墟の影に隠れる。
すかさず背後の廃墟が両断される。
なるほど、牽制を見抜く目は有るか。
しかしまだ、ゲームは始まったばかりだ。
焦る事は無い。人でなしの快楽を互いに味わおう。存分にな!





■第五十一章




「奴の…懐に入れんのがっ…痛いなッ!」

ブルーの装備する胸部・頭部バルカン砲の連射で廃墟を薙ぎ倒しながら、俺は蒼いMS…そうだ、確かユウがイフリート改とか言ったMSから距離を取りつつあった。
中・近距離戦のあの圧倒的な破壊力は、正直言ってブルーにとって分が悪い。
相手の得意分野でわざわざ勝負してやる義理は、俺には無い。
しかし、100㎜マシンガンの砲弾にしても無限では無い。
このまま逃げ回り続けるのは、俺の流儀に反する。
『EXAM』の時間切れでゲームオーバーだ。
…リミッターさえ無ければ…。

「フハハハハハハハハッ!!恐れを生したか連邦のEXAMパイロット!このジオンの騎士を愚弄した自らの愚かさと粗忽さを、地獄の底とやらで後悔するが良い!死ねェい!下郎!」

また、有線ミサイルだ。
…ナントカの一つ覚えだ。回避されるの解ってて撃つか?も少し接近して撃てよ?
俺はすぐさまブルーを振り向かせ、胸部バルカンで破壊しようとした。
…破片が、ブルーの機体にさぞや細かい傷を付ける事だろう。
閃光とともに消し飛んだミサイルの発射元が…
居ない?!囮か!奴は何処に消え…

「甘い!甘いぞ連邦のEXAMパイロットォ!囮を囮と見抜けぬ駄馬にも劣る畜生よ、堕ちろ!この私に立ち向かう事自体が、無謀と知れ!喰らえぃ!」

奴は左に廻り込んでいた。
有線ミサイルの、ワイヤーは誘導の為に有る。
そのワイヤーは有る程度ミサイルが推進すれば、切り離される。
奴が何故、わざわざ有線ミサイルをワイヤーの届く範囲内で使っていたか?
この一瞬を創り出すためだったか…。
有線ミサイルが、ワイヤーを引き摺りながらブルーに向かってくるのを、コックピットの中の俺の眼はその光景をスローモーションの如く、捉えて居た。
奴に乗せられた俺が、迂闊だった。
…だが!俺に勝ったと思うのはまだ早いんだよ!

「ゴチャゴチャぎゃあぎゃあと…舌噛まねェのかよ、この時代錯誤野郎がァっ!」

俺はビームサーベルをブルーの左手に握らせ、ミサイルを斬り払うと、直ぐに装備しているシールドで頭部をガードし、イフリート改にブーストを掛けて突っ込んだ。
避けられるのは最初から解り切った事だ。
狙いは相手の火力の漸減。
何だかんだ言っても、『飛び道具』は封じて置かねば為らない。
左脚部のミサイルポッドを、俺は斬る事に成功した。
…フン、舐めるなよ、ジオン公国の勘違い騎士!
俺が下郎や駄馬なら、テメェは旧世紀の物語の人物の『ドン・キホーテ』そっくりだ!

「…連邦の闘士よ、名は何と言う…?貴様の墓碑に私が刻んでやらんでも無い」
「うるせえよ『ドン・キホーテ』!能書きは良いから掛かって来いコラァ!びびってんじゃ無ェ」
「命は要らんと言う事か…良かろう、疾く、散れィ!」

背後のイフリート改のヒート剣が赤味を帯びる。
冷静さを失った奴が負けるんだよ、闘争って奴はな!





■第五十二章




背後で飴の様に切り裂かれてゆく廃墟ビル群に、ブルーの胸部バルカンで薙ぎ倒される前方のビル達。
…俺が必要最小限を破壊して行くのに、奴と来たらヒート剣の触れた物は根こそぎ切り刻む。
執拗に追ってくる奴に、俺は苛立ちを隠せ無かった。
間合いが、取れないのだ。
足止めを画策し、廃墟の影に隠れ、やり過ごそうとすればたちまち発見され、瓦礫を作って足止めをすれば、機動力を生かしすぐに乗り越えて背後に迫って来る。

「偏執狂め!いい加減に諦めて疲れろ!…くおっ!」
『ヤザンさん?!』

グレネードを避け切れず、遂に一発喰らってしまった。
炸薬の量が多かったのか、機体にダメージが発生したとの表示が浮かび上がる。
運が悪い事に、それも推進系だった。

「この私に勝負を挑む事自体が、貴様の大きな間違いで有り、不幸なのだ!」
「…遺言がまだ有ったら、聞いてやる。…テメェは今、俺を本気で怒らせた!」
『ヤザンさん、駄目、逃げて!殺される…』
「マリオン!そのような下種に憑いて居るとはな…私こそがお前を守る騎士!お前を縛る者はこの私のみ!さあ、私の元へ戻るのだ、マリオンッ!」
「テメェの相手はこの、俺だ!命の遣り取りをしている最中に、トチ狂うな!」

俺は『ブルー』に機体ごと振り向かせ、100㎜マシンガンを残弾が無くなるまで奴に向け、撃ち尽くすと同時に、左手のビームサーベルを発動させ、斬り掛かった。
間抜けな騎士殿は片方のヒート剣を右腕ごと失った。
…『ブルー』も無傷では済まなかった。瞬時に奴の反撃を喰らい、右肘から下を斬り落とされた。
次で、勝負が決まる。
俺と『ブルー』に残された時間は残り時間1分を切っていた。
リミッターが作動するまで後、50秒弱。
『マリオン』頼みの『奇跡』は期待出来ない。
恐らく『EXAM』の強制力から俺を守るのに精一杯と言う所だ。
俺は溜息を吐き、外部音声出力をOFFにした。
息も絶え絶えな少女の声が俺の胸を打つ。
予想通りだ。
『マリオン』も、もう限界に近いのだ。

『ヤザンさん…あのMSの』
「解っている…頭が蟹の様に平べったくデカイのは、アレがEXAM搭載機だからだろう。奴の頭を破壊出来れば、俺達の勝ちだ。しかし…」
『それを二ムバスも、狙っている…』
「…俺は、お前を…失いたくは無い!俺の総てを曝け出せた相手を…こんな所でっ…!」
『有難う…ヤザンさん…わたしはその言葉だけで…もう…充分…』
「マリオンっ?!止せ、止めろォッ!俺は…俺は…お前をッ…」

紅い表示が、再びモニター画面に明滅した。
『EXAMSYSTEMSTAND-BY』。
『ブルー』が、いや、『マリオン』がゆっくりとイフリート改に向き直る。
…俺のペダルやスティック操作を待たずにだ。
ありったけの勇気を搾り出し、少女が戦う意志を見せたのだ。
イフリート改は、余裕を見せ付けるかの様に、左腕のヒート剣を持ち上げ、突きの体勢を取る。
この一撃が、全ての決着を付けるのだ。
俺は覚悟を決めた。
情け無い姿を、もう見せられ無い。

「良いだろうマリオン!飽くまでこの私を拒否すると言うのか!このマリオンと同じく!」
「機体の管制を俺に渡せ。…俺に任せろ。死ぬ時は、俺も一緒だ。本当は、怖いんだろう?」
『…勝って…!ヤザンさん…勝って…わたしと…』
「二ムバス・シュターゼン、参る!」

イフリート改が、動く。
俺は体の力を抜き、ただ見ていた。
奴の赤熱するヒート剣の『剣先』が、迫る。





■第五十三章




ブルーの残った左腕を、俺はイフリート改の腕に当てる様にして、剣先を逸らす。
そう、ボクシングで言うクロスカウンターの要領だ。
突き出したブルーの左手には、ビームサーベルが発動していた。
見事にイフリート改のモノアイを貫いたその一瞬を俺はコックピットの中に巻き起こった電装系のスパークの中、確認していた。

「…さすがに無傷と言う訳には、行かんな…?機械風情が余計な真似を…!」

ブルーは、いや『EXAM』は、密かに俺に抵抗していたのだ。
スティックとペダルの俺からの反応(レスポンス)が途絶えたと判断し、自らを、頭部を守るため『勝手に』行動し…その結果、イフリート改のヒート剣の剣先を…コックピットに誘導しようと、
スラスターを吹かした。
俺のスティックとペダルの操作を確認し、慌てて従った結果が『コックピットすぐ脇への』ヒート剣の直撃だった。
衝撃で吹き飛んだ部品の直撃で、俺のノーマルスーツのヘルメットのバイザーにヒビが入っている。
胸部バルカン砲の弾薬やスラスター推進剤を遣い切る寸前まで暴れ回ったのが、俺の生死を分けた一因だ。

「フューエルカット確認、胸部バルカン残弾強制排出確認!誘爆危険性無し、周囲に他の敵影見られず!ユウ・カジマ中尉、これより脱出する!」

機体保護の手順を緊急時のマニュアルに従い、呼称しながら手順を進めた後、俺は脱出のため、ハッチを爆破しようと手動ハンドルを握った途端、不意に何かが頭の中にするっと入り込む感触が俺を襲った。
…頭痛などと言う、不快な感じとは違う。
まるで失われた何かが戻った様な、そう、懐かしい…?

「二ムバス!出て来い!今回は俺の勝ちだ!…敗北を味わう気分はどうだ!」
「いつぞやの雑兵だな…腕を上げたのか?いや…私はその蒼い機体に負けたのだ!貴様などに遅れを取った訳ではない!…マリオンめ…どこまでも小癪な真似をする…」

俺が意識しないのに、口が勝手に動き、喋った。間違い無い。
この体の持主の意志が…『ユウ・カジマ』が喋っているのだ。
俺はこの場をユウに任せ、マリオンの存在を探った。
…弱ってはいるが…俺に笑って見せてくれた。
俺も微笑み返す。
ちゃんと『俺の顔』で。

『…あと…『EXAM』の残りは…2つ…これと…3号機…』
『何だって?3号機は完成して居ないはずだろうが?まだリミッターも噛ませて居ないはずだ。普通のパイロットでは使い物にならんとアルフが俺に…?』

拳銃の発射音が俺達の逢瀬を断ち切った。
ユウとニムバスが脱出のために、牽制し合っているのだ。
機体の自爆スイッチに手を触れようとするユウに、俺は抵抗した。

『…アルフが待機している。回収を依頼した方が早い。胸部バルカンの残弾や推進剤の引火の危険性は…今の所無い。これで終わりじゃあ無い。クルストが…まだ何かを…』
「…解った、ヤザン。従おう。…ユウ・カジマ中尉、機体大破に付き、脱出する!」
『了解。ただちに回収に向かいます。…ユウ、もう少し待っていて!生きていて!』

回線を開き、ユウはモーリンに伝える。
俺は底知れぬ不安と不信感を博士に感じていた。
奴は最初から2号機を引き渡すつもりで…ニムバスを此処へ呼んだのでは無いか、と。





■第五十四章




『ブルー』から、大地に降り立った『俺』とユウは、辺りを見渡した。
…ニムバスの姿が、消えていた。
荒れ果てたビル街の中、2体の巨人の残骸が互いに交差する姿が戦闘後の『俺』の心の空しさを助長した。
俺は確かに勝った。
敵にも、『EXAM』にもだ。しかし、得られた物は…?
無きに等しい。
生死を共にした『ブルーデスティニー』を失ったのだ。
大事に乗って来たつもりだった。
型番からして、予備パーツの存在の少なさを覚悟し、為るべく損耗しない様に動かして来た…。
北アメリカ大陸の大半を稲妻の如く蹂躙しつつ、幾多の戦場を閃光の如く駆け抜けた、この蒼い機体は…ここにその力の総てを出し切り、斃れたのだ。

「…ブルーの2号機の体は、無事回収に成功している。子供達の大型エレカもだ。そして、1号機の頭部もまだ『生きて』いる。当然、1号機のメインコンピュータもだ。…ヤザン、俺の考えている事が解るな?」
「…アルフとその仲間達に期待するしか無い。ベースが共通とは云え、移植が成功するとは限らんからな?頭を乗せ換えるだけなら、ハード的には可能だろう。RX−79ベースだからな?ただ、問題が…」
「『マリオン』か…。彼女は『EXAM』では無いと、お前は俺に言った。信じるんだ。それが大きな力に為る」

性質の悪い一人芝居の様に思えて、俺は喉の奥で笑った。
『本物』のユウなら絶対に演らない、笑い方だ。

「…どうした?ヤザン?…可笑しい事じゃない。誰にだって…その…少年の日に、純粋なあの頃に、戻りたく為る時が必ず有る。顔が良いとか悪いなど関係無く、頭の天辺まで敵の血に染まった男でも…」
「…これが哂わずに居られるか?味方に野獣とさえ言われた男が、数え切れない程、敵を堕として来た男が、たった一人の女に、心を砕いているんだぞ?戦場に女が居るのが気に食わないと言っていた、この俺が!」

ただの偽善に過ぎん、と発しようとした俺は、ユウの体に遮られた。
…俺の話を最後まで聞いてくれ。頼む。

「…まだ、幸せさ。心が、有る。機械じゃ無い。言いたくは無かったが…今の俺はお前の総てが『解る』。お前は…大量殺戮には…手を染めなかった。自分のために指揮官とブリッジ要員を謀殺したが、結果的には、駒として、兵士として死んで行く者達のために無能な奴を排除した。…己自身を恥じる生き様を、ヤザン、お前はして来たのか?…お前と同じ兵士に過ぎん俺は、とてもそうとは思えない…」
「…艦船は堕としたがな?…解っている。ああ、ユウ、混ぜ返すつもりは俺には無い。兵士として戦場に存在する人間は、殺し合う覚悟が出来ていると俺は認識していたよ。その覚悟も無く、生の、娑婆の感情を剥き出しで戦う人間を…俺は赦せなかった。最も俺の居た戦場は…そんな奴ばかりだったがな」

辺りに響く轟音に、慌てて俺達が空を見上げると、徐々に一機のミデアが接近しつつあるのを視認出来た。
難航する回収作業の中、俺とユウはクルストとニムバスの捜索の提案をしたが、アルフに、即座に却下された。
『オレの『ブルー』の再生が最優先だ!』と額に青筋を走らせ、目を充血させた、物凄い怒りの形相で怒鳴られた俺達は頷くしか術が無かった。ふと背後を振り向くと、モーリン伍長が、瞳を潤ませて立っていた。
感極まって、俺に、いやユウに抱き付いて来る。
『おかえり…ユウ』と。…不粋な真似は止めにするか。
俺はしばらく、眠る事にした。
『ブルー』が再び、俺の前に立ち上がるまでの短い休暇を愉しむとしよう…。





■第五十五章




しかし俺の休息は、残念ながら許されなかった。
宙に浮いていた体を、無理矢理引き戻された様な感覚が、『俺の意識』を引き戻したのだ。
何が、起こった?
俺は、まず情況を確認した。
…ミデアの格納庫内だ。
俺は、いや、ユウは何をしようとしていたのだ?
ノーマルスーツを着用して?
目の前に首の無い『BD-2』が立っていた。
その隣には『BD-1』が各種パーツを剥ぎ取られて整備用ベッドに寝かされている。
まだ、作業も終わっていないのに…?

『ヤザンさん…!三号機が…!急いで…!あの子達が…!』
「此処は何処だマリオン!あの基地なのか?何が起こって…?」
『…ニムバス大尉が三号機を奪取したのっ!クルスト博士の手引きでっ…!フィリップ少尉にサマナ准尉、『曹長』さんが喰い止めているけれどっ…嫌!触らないでっ!こんな事っ…わたしは…わたしは望んでなんかっ!』
「頑張れ…!今俺が行く!耐えろよ、マリオォォォォンッ!」

事情は切迫していたのだ。動悸と息切れを俺は認識する。
俺が呼ばれた時間は多分、三号機の計器にニムバスの手で『灯』が入れられた瞬間なのだろう。
三号機にはリミッターが噛まされては居ない。云わば『クルスト純正EXAMマシン』だ。
適性の有るあの『ドン・キホーテ』が操るのならば…答えは一つしか無い。
『最悪の事態』だ。基地の戦力を総動員しても、止められん。
警報が五月蠅く鳴り響く中、俺は二号機のコックピットに入り、機体を始動させた。足元が揺れる。
ミデアが離陸を始めたのだろう。

「何をする気だ、アルフっ!戻れ!奴等を、仲間を見捨てて逃げるのか!?俺はやるぞ!」
『…ブルーを失う訳にはいかん。…我慢しろ…と言いたい所だが…オマエは聞かんだろうな…。良いか、それは今と為ってはオレの手に残った最後の『ブルー』だ。壊すな。そして…必ず帰って来い。それがオレの命令だ。最も、その機体にはEXAMを未だ搭載しては居ないがな…』
「ユウ・カジマ、ブルーデスティニー2号機、出すぞ!格納庫ハッチ、早く開けろ!」

宇宙用機体に調整された二号機の脚部が自重を支えるだけの『飾り』同然で無い事を祈りながら、俺は星の瞬く夜空に躍り出た。
無謀極まりない行為だ。
…俺はノーマルスーツを着ているとは言え機体のコックピットハッチを『開けたまま』で搭乗して居るのだから。
風の渦巻く音と響く砲声をBGMに、俺は舞い降りた。
戦場と成り果ててしまった基地と研究施設の真っ只中に。
着地の衝撃に二号機の脚部は耐え切った。
流石だよアルフ。
コイツは…上出来のマシンだ。ああ、お前の誇りだ。
通信が即座に入る。
フィリップにサマナ…お前達も立派だよ。
よく…生き延びていてくれたっ!

「…随分待たせたなぁ!真打登場って奴だよ、お前等!そら、拍手拍手ゥ!」
『バカヤロウ…逃げろって言ったろうが、ユウ!でもな…信じてたよ』
『ユウさん、ユウさんッ…!ううッ…!グっ…な、泣いてなんかぁ!』
「基地守備隊は全滅か?そう言えば、あの馬鹿はどうした?!まさか…殺られたのか?」
『研究所から三号機を引き離すんだって、只今交戦中だ!俺達も支援ちゅ…おっとぉ!』
『曹長、現在ライトアーマーの機動性で囮を引き受けていますけれど…曹長ぉ!』
『来たか『中尉』っ!機体の推進剤の残量がヤバイ!早く…ぬおっ!』

その交信の直後、一条の光線が闇夜に閃いたのを俺は視認した。
…選りに選ってビームライフルを装備か…!クルスト博士め、やってくれる…!
そんなにNTが怖いのか?理解出来ないのは解る。
しかし、相手はまだ…非戦闘員なんだぞ?
俺は二号機を疾走させた。
光線の源流、三号機の元へと。





■第五十六章




大気中では、ビームライフル内で加速され撃ち出された粒子の速度が減殺され、その威力を失う。
これは動かせない大原則だ。
しかしビームコーティング技術など未発達な『この時代』に措いて、ビーム兵装は脅威以外の何者でも無い。
正確に『BD−2』の頭のあった場所を奔って行った光線に、俺は恐怖する所か、興奮した。
太い射線より漏れ出た重金属粒子が、ハッチの開きっ放しのコックピット内のそこら中に拳大の穴を開けて行くが…機体状態表示の端末モニターは…無事だった。
…俺が穴だらけに為る確率は高くなるのだが、撃たれた瞬間に仰け反ったのが功を奏したのだろう。
踏ん張れず、機体は斃れ付す。
早く起こさねば、良い的に為る。
…幸運なのが、ミサイルやバルカン
のまだ射程外と言う事実だ。
星空が…いつに無く、綺麗だった。

「…俺は不死身だ!殺されたって死ぬものか!」

俺の、いやユウの体は奇跡的に無傷で済んだ。
今度は、こっちの番だ。
機体を起こしながら兵装を確認すると…最悪だ。
マニピュレータに何も装備してはいないのは知っていたが…内臓兵装の弾薬が…何と総て訓練弾にペイント弾だった。
腰部ミサイルも、胸部バルカンも…MSを破壊すると言う用途には哀しい位に無力だった。

「…あの腐れ外道がァっ!読んでやがったのかっ!最初からこのつもりでッ!」

俺の頭の中の感情的な部分が瞬時に沸騰した。
クルストは俺が2号機を止める事を見越していたのだ。
あの時の2号機のマニピュレータの武装だけは、実弾入りだったのだろう。
エレカ一台にマシンガンを構えること自体に、あの時の俺は違和感を抱くべきだった。
使える兵装は…ビームサーベルのみか!

『ユウ、無事か!?やられたのか?!ユウ!』
『ユウさんっ!ユウさんッ!』
『中尉、殺られた…?…糞ォっ!あのビームライフルさえ無ければッ!』

強風の唸る中、立ち止まった『BD-2』を気遣ってか、回避運動を取りつつも三人が通信を入れて来た。
直ぐにでも応えたかったが、俺の頭の中はある事で一杯だった。
次の発射まで…5、4、3、2、1…!
来た!何で俺を狙うんだよ、あのアナクロニズムの塊がっ!
まあ、残念ながら華麗に避けたがなッ!

「フィリップ!サマナ!曹長!…俺に命を預けられるか?!素敵な無鉄砲三人衆!」
『お前さんには負けるがな、ユウ!軍人だろ、俺達は?メーレーには従いますよっと!』
『…なんですかその素敵な無鉄砲って…モルモット仲間じゃないですか、僕たちは!』
『何か良い手が有るのかよ?中…このッ!ミサイルを俺にだとっ!?舐めるな!…了解!』

揃いも揃って、感動モノの良い答えだ。
軍人はこうで無くてはいかん。
『個人の命など消耗品に過ぎん』
この心構えが『生粋の連邦軍人』の有難さだ。
戦闘もそいつ等に掛かれば気の効いたゲームと同じなのだ。
俺は唇だけで微笑み、囁く様に呟いた。
『確かに預かった。行くぞ、フォーメーションYだ。掛かれ』と。





■第五十七章




フォーメーション『Y』。
文字通りの、3機のMSでの、三方向からの同時吶喊だ。
数え切れぬ実戦の中で磨き上げ、奴等に仕込んで来た、俺の戦闘の記憶の中に有る数多くの連携の中でも、地上戦では
かなりの難度を誇る。宇宙用には立体化バージョンが存在するが…正直付いて来られるか解らない。
NT研究所からはそう離れてはいないが…この際、躊躇はしていられない。殺らなければ殺られるのだ。

『待たせたな!ユウ!フィリップ機到着!あとは合図待ちだ!』
『っとお!…曹長に負けたら僕の立場が…サマナ機、準備よし!』
『…酷ェ言い草だなぁ、准尉…!中尉ィ!取ったァっ!行けるッ!』
「偉いぞ『曹長』!BD−2…位置に…付いた!…もう少し…3…2…1…今!全機突入!」

フォーメーションが完成するまで、俺は各機の通信を聞きながら、三号機の眼前で陽動に徹していた。
目的は一つ。ビームライフルを封じるためだ。
この戦闘中、俺は三号機の持つビームライフルの斉射後のチャージに掛かる時間を計測していた。
あのドン・キホーテのビームライフルを撃つタイミングを読んで掛からないと、フォーメーションを組む三機の内の誰かが餌食と為るのはこの『俺』には簡単に想像出来た。
3号機の兵装は、頭部バルカン、胸部バルカン、腰部ミサイル、ビームサーベル×2、ビームライフルの5種。
その上シールドを装備の完全武装だ。
右のマニピュレータはビームライフルで塞がり、左は空だ。
俺がビームライフルを奴に使わせれば、別方向への急遽対応可能な兵装は…バルカンとミサイルだ。
しかも胸部バルカンと腰部ミサイルは3号機の構造上…同じ方向を向く。
そして今、ジオンの騎士サマはまんまと引っ掛かり、ビームライフルを『俺』に斉射したのだった。
その2種の攻撃が集中するクジ運の悪い奴には災難だが、これは『並みの腕』のパイロットには事実上回避不能な、必殺の、罠だ。

「さあ、二ムバス!避けて見せろ!俺がポンコツの06で出来た事が貴様に出来ん筈は無いぞ…」

…俺の教導隊時代に、最新鋭MSを型落ちのMSで仕留める際に使った戦術だ。
練度の高いパイロットが揃わないと各個撃破されてしまう脆さももちろん内包してはいるが…。
俺は奴等を信じていた。が、実は避け方が2通り、有る。
その内の一つを、必ず奴は選択する。俺はそう読んでいた。
戦闘は常に二手三手先を読んで罠を仕掛けて置く物だ。
即座にBD-2の外気に剥き出しの計器が、鳴り響く風切音に負けずにロックオンアラームを奏で出す。
そうだ。3号機が取り得る回避手段は『跳ぶ』か、『前に出る』の2種だ。
そして奴の機体は『ガンダムタイプ』であって、圧倒的な推力を誇る『ガンダム』では無い。
答えは一つだ。

「さあ来いニムバス!この俺が後腐れ無く、ビームサーベルでぶった切ってやる!覚悟しろ!」

3号機はそのツインアイを真紅に染めたまま、真直ぐ俺に向かって、スラスター全開で突進を開始した。
3号機のバルカンとミサイルのフルコースが、BD−2の剥き出しのコックピットに乗った『俺』を、襲う。
俺はBD−2の両腕にビームサーベルを発動させた。
迫り来る砲弾とミサイルを、俺は何故か一つ一つ認識出来た。
『看える』。
何故だ?何故、『看える』のだ?
俺は頭の何処かで引っ掛かるものを感じながらも、本能の命ずるままにBD−2を操り、回避に掛かった。
一発当たるだけで肉片と為り兼ねないバルカン砲弾を、機体姿勢を変化させる事で潜り抜け、迫り来る腰部ミサイルの弾頭をビームサーベルで『正確に』斬り離した。





■第五十八章




巻き起こる土煙の中、3号機は止めとばかりに、体勢を崩した俺のBD−2にシールドを前面に構えチャージを敢行して来た。
何故かビームサーベルを持たずに、だ。
俺はその時、あの羽音の様な唸りを頭の中で『聴いた』。
『EXAM』が俺を…いや、助けを求める『マリオン』が俺を呼んでいたのだ。
コード類、コネクター類は接続などしてはいない。
しかし、俺は『マリオン』を除けば、『EXAM』に最も近しい精神だった。
云いたくは無かったが、俺は『EXAM』に撰ばれ、遙か7年後より招かれた存在だ。
『EXAM』発動中の3号機中の『マリオン』と…信じたくは無いが『共感』作用が働いたのだろう。
その時、俺の推測を裏付けるかの様な、増幅された二ムバスの声が3号機から響いて来た。

「EXAMに撰ばれたこの私よりも…あの連邦の闘士をお前は撰ぶと言うのか、マリォォォォォンッ!」

遂に俺のBD-2と3号機が石を投げれば届く距離で対峙した。
3号機の、ニムバスの兵装が火を放つ様子は見られない。
『EXAM』の強制した稼動が、機体の持つ稼動限界を越えたのか?
それとも『マリオン』が抵抗しているのか?
どちらにせよ絶好の好機だ。
俺は迷う事無く3号機の頭にビームサーベルを叩き込もうとした。

『駄目!いけない!クルスト博士は…あの子達を人質に…!お願いヤザンさん…!博士を停めて!』
「どういう事だマリオンっ!残りは1号機とこの3号機だけだ!これでお前を解放出来…」
『…即刻、この戦闘を中止するのだ、ユウ・カジマ中尉!ミュータントどもの命が惜しければの話、だが』

汎用通信の周波数に通信が入った。
聞き覚えの有る、クルストの声だ。
何処に居た?とっくに逃げた筈では無かったのか?
連邦軍に捕獲される危険を冒してまで俺達の戦闘を見ていたと言うのか?
俺はこの急転直下の展開に解せぬものを感じながら、紅く光る3号機の『目』を睨み付けた。
この俺は、ガンダムになど負けん!
何よりも先ずは、事態の掌握だ。
俺のBD-2には『頭』が無い。
これではズームで確認など出来はしない。
研究所に一番近いのは…ようやく部品が揃い修理完了したばかりの『曹長』の愛機、GM・ライトアーマーだった。

「『曹長』!メインカメラ最大望遠で確認しろ!NT研究所の方角に何が見える?俺からは確認出来ん!」
『あのオッサン正気か…!子供の頭を拳銃で狙ってやがる!しかもニヤニヤ笑いながらだと…?ッ!!』

曹長が息を呑んだ理由は、俺の耳にも伝わった。
…それは…銃声だった。
3号機の『目』が、さらに紅さの度を増した様に俺は思えた。
恐怖…怒り…哀しみが…解る。
『EXAM』が、いや、『マリオン』が感じているだろうそれを、俺は感じていたのだ。
…今、罪も無い子供が一人、死んだ。
『苦いクスリを飲まされるんだ』と嫌がっていた、
男の子だった。
俺の心はまだ冷えてはいたが…胎の中は沸騰していた。
クルスト・モーゼス…!
俺の心の中の処刑リストのトップにランクアップだ。
一番はZのパイロットだったが、たった今、変わった。





■第五十九章




俺が歯軋りを漏らす中、耳障りな上に俺のカンに障るクルストの声が続く。
此方を小馬鹿にする高慢さが言葉の節々に見え隠れしている喋り方だ。
己が賢いと信じ切っている者特有の、鼻に付く『匂い』だ。
言うまでも無く、この俺は、そんな奴がジャマイカンを筆頭に挙げるまでも無く、大嫌いだ。
金を払ってでも殺してやりたくなる。

『ビームサーベルを仕舞い給え、中尉。このままだと攻撃の意志ありと看做すが?』
「貴様の交換条件は何だ!クルスト・モーゼス!」
『まず戦闘を中止して、3号機をこちらに廻して貰おうか。…まだまだ改良せねば、『EXAM』は使い物にならん』
「…貴様が次の犠牲者を出さんと言う補償は何処にも無いッ!断るっ!俺の答えは、断じて否だっ!」
『…連邦の闘士に告ぐ、これ以上の犠牲はジオンの騎士、二ムバス・シュターゼンがその名誉に懸けて出させん。行かせてくれ。…騎士にとって…兵士では無い、守るべき無辜の民草が殺されるのは…耐え難い苦痛ッ!』

俺は博士の言葉を信用出来ないまま、ビームサーベルの出力を絞った。
肉眼では確認出来ない程に光の刃は短くなる。
自らジオンの『騎士』と名乗るコイツのアナクロニズムとロマンに賭けるのは典型的な馬鹿の見本だが…。
俺は、ニムバスの言葉を信じた。
同じ『マリオン』を知り、感じる者としてだ。
しかし…個人的感情と職業意識は別だ。

「フィリップ!サマナ!3号機に照準を合わせろ!3号機が下手な真似をしたら指示を待たず即座に撃て!『曹長』はそのまま監視!次に子供を撃ったら遠慮無くビームライフルで全員焼き殺せ!これは命令だ!俺は3号機の傍に付き同行する!子供達の安否の確認の為だ!聞こえたな、クルスト!」
『クルスト…次に同じ真似をするならば…私は容赦せん…!お前は聴こえるのか?私の『マリオン』が…泣いているのだぞ?悲痛な声で…!貴様はそれだけで万死に値する事を忘れるな…!』

俺はこの緊張感の中、二ムバスの台詞が醸し出した妙な可笑しさに引っ掛かり、思わず笑い出しそうになった。
俺と、同じだ。
コイツも『マリオン』と『自分の欲求』のまま、己に正直に生きている。…嫌いな奴では無い。

「…俺の声が聞こえているか?ニムバス?」
『何の用だ?連邦の闘士よ?』
「その…な…?…『マリオン』に伝えてくれ。俺は、博士のこのやり方を許さん、とな…」
『…奇遇だな?私も『マリオン』にそう言おうと思っていた…。貴様は解るのだな?『マリオン』が?』

2号機の右手に持たせたビームサーベルを3号機のコックピットに突き付けながら、俺達は傍から聴けば奇妙極まりない会話を続けていた。
戦闘中での『マリオン』の反応、『EXAM』の融通の利かなさ…。
この邂逅は戦場と言う場所に似合わない程、弾んだ。
俺が確信を持って云える事が一つ有る。
『俺達の性根は、実は兵士向きでは無い』と言う事だ。
何処の世界に、戦闘の只中で、己の扱う兵器について、敵兵に共感を持って愚痴を垂れあう兵士達が居るだろうか?
そんな奴はこの俺と目の前の騎士サマしか、居ないだろう。
NT研究所までの道程が、俺が短く感じる程、会話は続いた。





■第六十章




NT研究所の建物の屋上に、拳銃を持った博士と、子供達の一団が居た。
…小さな血溜りの中にうつ伏せになった男児の死体も視認出来た。
クルスト博士は左腕に一人の『女児』を抱き抱え、その頭に拳銃の銃口を突きつけつつ、3号機の顔と2号機のコックピットの俺を眩しそうに、笑みさえ浮かべながら見上げている。
俺は奴の顔に今すぐにでもヘルメットのバイザーを上げ、唾と罵声でも吐いてやりたい衝動に駆られた。

「良くぞ来たニムバス大尉!君こそが人類の希望!さあ、私を連れて逃げるのだ!私が居れば連邦も迂闊に手は出せまい!私は人類の未来の為に、研究を続けなければならん!例えあらゆる非難を浴びようとも!」

ニムバスの3号機が、盾を装備した左腕を博士に向けて差し出した。
喜々として博士は『女児』と共にその手に乗る。
女児の髪の色は…青緑色をしていた。
その時見せた、何故か女児の物哀しげな表情が…俺の『人間』の部分を苛んだ。

「クルストォ!その子を離せ!貴様の目的は達成したろう!この場の誰もお前を撃てん!だから離せ!」
『…クルストよ。解放だ。騎士たる私の名誉をこれ以上傷付ける行為は…最早、容認出来ん。人質を解放せよ』

クルストはニムバスの言葉に従い女児を解放した。が、背を向けて走りだす女児のの背に、即座に拳銃を向け発射する。俺が2号機のマニピュレーターで阻止しなければ…銃弾は女児の小さな体を容赦無く貫いていただろう。博士のその行為は、俺には理解出来た。飽くまで子供達は博士にとって『人類の敵』だ。その『敵』が『子供の形』をしているに過ぎないのだ。

『…連邦の闘士よ…感謝する。悪いが行かせて貰う。だが…その代償は払う。このジオンの騎士、二ムバス・シュターゼンの名と名誉に懸けて、支払う。通話回線を、黙って開いて置くが良い。後でこの私が、面白く、痛快な物を聞かせてやろう』
「さっさと行け、騎士様…。俺がその手の中のオッサンに胸部バルカンの真っ赤なペイント弾をぶちかましたくなる前にな?」

俺が2号機のビームサーベルを収納させると、3号機はそのまま背を向け、スラスターを吹かせて、脱兎の如く奔り去る。
そして、俺達の装備したGMマシンガンやビームライフルの射程外まで到達すると、こちらを向いて高々と左腕を掲げた。

『騎士の名誉を汚し、華麗なる闘争の興を削いだ貴様の罪、万死に値する!その命を以て、償うが良い、クルストォ!』
『や、止めろニムバ…』

プチッ、かグシャリ、か、音が聞こえた様な気がした。
先程の女児は…このクルスト博士の結末を『知っていた』のだろう。
そしてこの事件の御蔭で…3号機の顔、『白いガンダムの顔』は間違い無くNTの子供達に、『悪の象徴』として記憶された筈だ。
後の強化人間としての彼らの『刷り込み』はさぞ容易な事だろう。
そしてEXAMは…もう生産される事は無い。残りは2つだ。
1号機のEXAMと、3号機のEXAM。
2号機と1号機の寄せ集めと、完全な3号機。
俺にとってそれは僥倖なのか不幸なのかは…
未だ知る由も無かった。

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