Yazan@wiki

ヤザン−ユウ 101-110

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集

■第百一章





俺とアルフと小隊長を務めるサカキ少尉の三人は、正面入口から侵入した第二分隊とともに行動していた。
1階の中央まで侵入した所で、第二分隊はジオン兵の猛烈な反撃を受けていた。
ここまで激烈な抵抗をするとなると、この秘密研究所には余程、重要なデータが眠っていると解釈するべきだろう。
…手間取らせやがる!

《糞!糞糞糞糞ォ!ジオンの豚どもが!死ねよ!俺は捕虜には為らんぞ!》
《おい、ライル!早くロケラン(携帯式歩兵用ロケットランチャー)撃て!建物が崩れても構わん!》
《第一分隊が貧乏くじを引いてくれた御蔭で、こちとら裏口は快適に射的中ってね!七面鳥撃ちより簡単だぜ!》
《Aエリア、クリアー!こら、その死体に触るなよ!?良く見ろ!手榴弾握ってるだろ!ブービートラップの初歩だ!引っ掛かったらあの世に逝っても間抜け呼ばわりだぞ、ルーキー(新人)!次行くぞ次!悪い宇宙人狩りだ!》

俺のノーマルスーツのヘルメットに、各分隊からの悲鳴にも似た怒号が、引っ切り無しに入ってくる。
これだ!
この混沌こそが…陸戦の、白兵戦の醍醐味だ!
俺はバイザーを上げ、深呼吸する。
うっすらと匂う、陸戦隊の連中がばら撒いたCSガス(催涙ガス)の香りが俺の股座をいきり立たせる。
…最高だ!俺は今…戦っている!

「第一分隊の奴がママン助けてぇと泣き言言ってやがるぞ!第二分隊!1F制圧後は上階へ向かえ!」
「イエスマム!…って…姐サン!ユウ中尉が!」
「あッ…?!…そんな…中尉?!…危険ですから下が…!?」

ユウの身体は俺の元の身体と同じく、俊敏に動いてくれた。
遮蔽物が無い所に身体をワザと露出させ、敵の射撃を俺は誘う作戦に出た。
味方のバックアップなど期待して居ない。
敵が銃のトリガーを絞る前のタイミングで、速攻で殺る。
案の定、机や椅子を積み上げたバリケードから身を乗り出して来た粗忽者の顔を、俺は小銃弾で柘榴のように割る。
掠めて行く敵の小銃弾や拳銃弾の衝撃波による、身体を伝わる震動が、俺をさらに興奮させる。

「チマチマチマチマ殺ってんじゃ無いぞ貴様等!今こうしている間にも、貴重なデータが敵の手で消されているかも知れんし、第一分隊が全滅するかも知れんのだ!ガッツのある所をこの俺に見せてみろ、お嬢さんタチぃ!」

俺は目の端に次の敵を捉え、そいつに小銃をぶっ放しながら味方を振り向き、怒鳴った。
俺は直ぐに敵に向き直り、バリケードに向かって突進し、両腕に持った小銃だけ下に向けトリガーを引く。
反動で踊る小銃を上手く左右にリードするのがコツだ。
案の定、隠れていたジオンの奴等が『ギャン!』やら『あガッ!』やら、素敵な悲鳴を上げてくれる。

「出来ないと言うなら、俺に貴様等の持つ弾倉を寄越せ!その代わり俺は貴様等を臆病者だと地獄に堕ちても…」
「第二分隊!中尉に続け!名誉に懸けても貴様等を『お嬢さん』と中尉に呼ばせるな!アタシは良いがな!」
「イエスマム!恥は二度とかかせません!俺達だって、やるときゃやりますよ!A班!上階に行くぞ!」

俺は小隊長に向かって親指を立ててやる。
おどけた敬礼をする小隊長は、困った、とばかりに眉をひそめてから、苦笑を返してくれた。
何時死ぬか、誰にも解らん。
だから、精一杯、自分の出来る範囲で愉しまねば…損をする。
焦げた匂いが辺りに漂う。
この匂いは…手榴弾の点火ヒューズの匂いだ!…死にミヤゲ、か…ジオン兵め!
俺が対爆姿勢を取って、伏せた途端に爆発し、当たりに散らばっていただろう弾薬類が誘爆を開始した。フン、甘いな!

「…中尉を陸戦隊にスカウトして構いませんか?アルフ大尉…?」
「…EXAMパイロットの移籍金は、高いぞ少尉…?」

アルフ…お前、冗談も言えたんだな?
俺は身体を起こし、バリケード越しからそっと前を見る。
エレベーターの有った所が大穴に為っていた。
俺は前進し、大穴を覗いた。
…案の定、深く地下に続いていた。上の建物は…多分全てダミーだ。
二ムバス…俺は貴様を、追い詰める!





■第百二章




「俺とアルフにランドムーバーを貸せ。お前達は退却しろ。後は、俺の仕事だ…と言っても、聞かん顔だな?皆?」
「それは例え、中尉の命令でも承服出来かねます。…勿論、大尉の命令でも、ですが。なあ、お前達!」
「…此処まで来てそりゃあ無いでしょう、ユウ中尉?姐御と俺達に最後までお付き合いさせて下さいよ」

屋上から突入した第一分隊は、裏口から突入し上階に向かった第三分隊に支援されて、このエレベーターシャフトまで一部が辿り着いていた。
死者はトラップにするためにその場に仕掛けを施し残して来たと晴れやかに言う奴等に、プロの根性を俺は見た。
感傷に囚われず、生死を共にした仲間すら戦争の道具に仕立ててしまう。
立派で素敵な兵士達だ。

「…任務は自分の命より、誇りよりも重い、か。相手が一般市民では無い事が救いだな…」
「?」
「いや…お前達はどいつもこいつも…素敵で立派な軍人だよ!行くぞ!」

任務に忠実な奴等『理想的な軍人』が、コロニーにガスを撒き、そして暴徒鎮圧のために平気で普通のスペースノイドを巻き添えにした事実を知っている『俺:7年後のヤザン・ゲーブル』にとって、それは苦い思いと皮肉めいた可笑しさを想起させた。
自分の仲間には限り無く優しいが、敵には命令が有るまで容赦はしない。
軍人の修正不可能な習性でも有る。

「悪いが一番乗りは、俺が頂くぞ?お、ありがとよ。ついでに、手榴弾も有ると嬉しいんだがな?4個有ればいい」

俺は渡されたランドムーバーを装備すると、小銃とハンドグレネードを抱えて穴倉に飛び込んだ。
深い。この深さは…きっと地下にMS格納庫か、MS機動の研究棟まで有るに違いない。
エレベーターの縦穴の内側から扉を数えて行く内に、少女の声が俺の頭の中に響いて来た。
今になって何故、話しかける?『マリオン』?

『停まって、ヤザンさん。アルフさんが…上から来る。でも…一人だけ…』
「なんだと!奴等はどうした!陸戦隊の奴等は!」
『交戦中なの。アルフさんを送り出してすぐ…』
「…急いでくれ、ヤザン。時間が無い。敵が上から来ている。ケイ少尉達は交戦中だ」

俺は無言で付近のエレベーターの内扉に小銃弾をぶち込み、それから開けに掛かる。
敵が待ち伏せていたならば、最初の射撃で蜂の巣状になって倒れているだろう分量をお見舞いしたので、手動で開けるのに少々時間が掛かった。
上の陸戦隊の奴等が全滅したら、敵は迷う事無くこのエレベーターシャフトに各種爆薬を投下するだろう。
俺はローストターキーには為りたくは無かった。
非常灯の赤い光が、通路を支配していた。
この建物の緊急発電能力は、まだ生きているらしい。

「マリオン!ここは何処だ!二ムバスは何処に居る!俺に教えろ!時間が無い!」
『…ヤザンさん達が居るのは地下8階のサイバネティクス研究棟。大尉は真直ぐ行って右の部屋。…MS戦技研究室』
「…ヤザン?どう云う事だ?誰と話している?マリオンは、いや、ブルーは地上に残し…」
「何時か話しただろう?…頭の中の天使サンとさ。あんまり突っ込むな。付いて来い、アルフ!」

そうか…人間の動作と、MS機動とを繋ぐ研究棟か。
EXAMには相応しい命題と来たモンだ。
しかし何故、二ムバスは逃げない?
まるで俺を待っているかの様な行動を取るとは…罠か?
いや、ジオンの騎士と自称する奴が、卑怯な罠を張るものだろうか?
俺とアルフはMS戦技研究室を目指す。
…アルフには来るな、と言ったのだが…。
二ムバス。狙うのはこの『俺』だけにしてくれよ!





■第百三章




MS戦議研究室のドアをアルフの持ってきた端末を接続してコードを解析して開かせると、俺はその中に持ってきた手榴弾全てをぶち込みドアをまた閉鎖させた。
…罠が張って有ると思われる所に正面から乗り込む程、俺はボケては居ない。
陸戦は、MS戦闘よりも人間の意志に左右される要素が大きい。
詐術、裏切り、欺瞞、錯誤。人間相手だからこそ、油断は出来ないのだ。

「…口を開いておけよ、アルフ…今!」

衝撃波が今の『俺』の身体、ユウ・カジマの身体を直撃していた。
壁越しにコレだから、中に伏兵が居たとしたら…正直、生きては居ないだろう。
流石は陸戦隊、対人用なんて甘っちょろい代物は持って来ては居ないな!最高だ!
アルフがドア開閉装置のコネクターからケーブルを引き抜いた。
…ドアの電装系が破壊されたのだ。繋いでいても、反応が無かったのだろう。
俺はアルフに表情と手振りで、ドアを手動で開ける意志を伝えた。
アルフはそのまま残り、俺は右に廻る。
そしてドアに手を掛け、両側から引き開けた。
…闇に支配された内部に、赤く染まった光条が徐々に太く、差し込んで行く。

「ビンゴ、か。…しかし…誰が誰だか解りゃあせんな…」
「…フン、MSパイロットに比べればマシな死に様と云うべきだろう?ヤザン…」

伏兵が部屋の壁にパーツとなってへばり付いていた。
五体満足な奴は一人として居ない。
だが俺は羨望すら覚える。
奴等は死んだ後に死体を残せたのだ。
MSパイロットはそうも行かん。
機体の推進剤に誘爆すれば骨も残らんだろうし、ビーム兵器に直撃されればチリ同然だ。
アルフも技術者のくせに胆が据わっている。
…多分死体の入った『ブルー』のコックピットユニットの解析で慣れているに違い無い。
突然、俺達の視界が白く染まる。しまった、照明がまだ…!

『久し振りだな、連邦の闘士よ…逢いたかった…程では無いがな?』

照明装置が、まだ生きていたのだ。
目が光に慣れて行くに従い、俺は状況を把握した。
二ムバスの声がするが、それは電気的に増幅された声で、上方から降ってくる。
正面の、一面に張ってある強化ガラスにヒビが入った向こうの部屋が多分戦技モニター室だ。
そこに一度だけ拝んだ面(ツラ)が得意げに微笑んでいる。
二ムバス・シュターゼン!スカした面ァ、しやがってヨォ!
その隣には各種コード類が接続された、ヘッドマウントと椅子のユニットが鎮座ましましていた。

「ようこそ諸君、と最初に言って置こう…。此処がEXAM誕生の地だ。そして、私とマリオンがともに過ごした地でも有る」

隔壁ドアが両側に開き、二ムバスが戦技モニター室より俺達の部屋に出て来た。
その手には、三振りのフェンシングに使用する、サーベルが握られていた。
その中の一振りを俺に投げて寄越す。
俺は無視して、自分の小銃に銃剣を装着した。
…白兵戦で、相手の得意な武器でわざわざ勝負してやる義理は俺にはこれっぽっちも存在しない。
揺さぶりでもするか…。

「…ジオンの騎士と名乗る貴様が、こうも罠を張るなど、頂けないな?二ムバス?これが騎士の…」
「部下の希望を無下には出来んだろう?違うか?…そこの技術者、EXAMのアーキテクチャはあの部屋の中だ。端末のパスワードは…Probe。古い地球の一地方、ドイツ語だ。私の気が変わらん内に、疾(と)く行くが良かろう」
「…試練…だな…意味は…解った。…そのEXAMの被験者の末路を、良ければ聞かせて呉れないか、大尉?」
「マリオンはサイド6、フラナガン機関の息の懸かった病院に収容された…。この戦争が終わったら…解析して、彼女を救ってやってくれないか?…死に臨まんとする私の、切なる願いだ。彼女は…希望なのだ!頼む!技術者よ!」

おいおい、何か俺がもの凄い悪役に思えて来たぞ?
仕方なく俺は、奴に付き合って小銃から弾倉を抜く。
それが、合図だった。
二ムバスが、双刀を構えたのだ。
足裁き、体重の掛け方を見た喧嘩屋の俺には解る。
相等遣えるぞ、コイツは!面白い!

「…解った。引き受けよう。但し…オレがこの戦争を生き延びる事が出来たらの話だが…」
「…感謝するぞ、技術者…では連邦の闘士よ!二ムバス・シュターゼン特務大尉、参る!」

ハン!後悔するなよジオンの騎士様!
テロ鎮圧で培った、俺の白兵戦技を舐めて貰っちゃア、困るんだよ!





■第百四章




二ムバスの右のサーベルが風を斬り、撓(しな)る。
俺はナイフを装備した小銃で、それを受けた。
強化プラスチックの機関部では無く、ナイフの部分でだ。
兵士に取って銃剣術は基本中の基本だ。
俺がZのビームライフルから伸びたビームサーベルに驚いたのも、それが原因だった。
銃剣の付いた小銃ほど、怖いモノは無い。

「やるな?だが、これは避けられまい!」

二ムバスの左サーベルが俺の腹部を突いて来るが、俺は小銃のキャリングハンドルにそれを通し、思い切り捻った。
サーベルを構成する鋼の靭性の限界を超えたのか、妙に澄んだ音を立てて、サーベルは無残にも中間部で折れた。
ザマぁ見やがれってんだ!

「ハン!二刀流だか何だか知らんが、見切る自信は有るぞ!イカレ騎士が!」

ノーマルスーツのバイザー越しにも、奴の表情が怒りに歪む様が俺にも解った。
素早く右のサーベルが俺の頭が有った空間を薙(な)ぐ。
華麗に避けた俺は小銃を半身に構え、突きを入れる。が、回避される。
だが、それは予想の範囲内だ。
俺は小銃をさらに半回転させ、小銃の台尻を先にして突っ込み、下から奴の顎を目掛けて叩き込む。
…銃剣術の初歩の初歩だ。そして俺の打撃は…

「…やるな?だが!右腕は貰ったぞ!」

奴のヘルムの顎の部品を砕いたに過ぎなかった。
一瞬の隙を奴に見切られた俺は、サーベルの斬撃を避け切れず、ノーマルスーツの右肩を薄く薙がれた。
遅れて、俺のノーマルスーツの強化繊維が弾けた。
…馬鹿が!誰を相手にしていると思っている?ヤザン・ゲーブルだぞ?
そのまま俺はひるむ事無く二ムバスの左肩目掛けてナイフ部分で斬り付け、摺り足で下がる。

「…何故…そこで撃たぬ?連邦の闘士よ?」
「愉しみたいからさ。この生と死のギリギリの狭間を、少しでも長くな!」

そうだ。
俺の小銃の薬室(チェンバー)には、弾倉を抜いたとは言え、実は一発、残っている。
先程の銃剣・台尻・銃剣の三連撃に、最後に銃口を向け引金を引いて撃つのが、真の実戦技だった。

「…嘘だな、それは…。所詮貴様も私も…ロマンの残滓を求めているに過ぎん」
「…サーベル相手に、飛び道具を使う程腐っちゃ居ないって言えば…そうだな」

二ムバスと俺は、互いの武器を構えたまま、意地の悪い微笑みを浮かべ合う。
そうだ。俺達は人間なのだ。
殺し合いにただ効率のみを求める、機械どもとは違うのだ。

「連邦の闘士よ…続きは、MS戦で行ないたいと言えば…受けて呉れるか?」
「貴様に辿り着けたら、の話だろう?…その時は一対一で受けてくれよ?」

アルフが俺の背後に付く。データのコピーが終ったのだろう。
二ムバスは俺達に敬礼し、背を向けた。
俺は撃つ事も出来たが、そうしなかった。
…決着はまだだ。MS戦こそが、俺達のケリを着けるに相応しい
舞台で有る事を、当然の如く理解していたからだ。

「ではドネル…後は任せたぞ…」

二ムバスが呟くと同時に、俺達の足元が揺れ、床に大きなヒビが入る。
そのまま床を砕き、現れたのは…EXAMが見せた『過去のヴィジョン』の中の、『MS−05』、二ムバスの僚機の姿だった。





■第百五章




俺の目と、MS−05のモノアイが合った。
戦技実験室が無駄に広いので、MS−05の頭だけが出た格好となっていたのだが、どうやら頭を天井に支(つか)えたまま無理に回転させたらしく、部屋全体のフレームが軋む音がし始める。

「…脱出するぞ、ヤザン…」

アルフが俺に声を掛けているのは解る。
だが、それは酷く遠い所から響く様に俺には思えた。
何だ?何がこのMSに有ると言うのだ?
見ての通り、TYPE06より一つ前の05だ。何の変哲も無い、旧式に過ぎぬMSに過ぎん。
しかし…このMSには違和感を感じる。
言ってみればそう…不快感だ。
なにかこう…人の、乗り手、パイロットの意志をあまり感じさせないこの雰囲気…無機質で味気無い、殺意すら無いと言うのは…

「…ヤザン!来い!」

俺は業を煮やしたアルフが始動したランドムーバーの音で我に返った。
そのままアルフに引き摺られる様に、研究室を飛び出していた。
振り返れば、後ろで建物が轟音と共に潰れて行く。
やっとエレベーターシャフトの縦穴まで辿り着くと、俺もランドムーバーを始動させる。
…そう言えば…上のサカキ少尉達、陸戦隊の連中は無事なのだろうか?
下方を覗くと縦穴が見る見るうちに左右からひしゃげ、潰れて行く。
あの05め、そのまま地上に出ると言うのか!どういうつもりか!

《『中尉』!生きていたか!命令違反のシミュレーター漬け、覚悟はしてる!済まないな!》
「中尉…済みません。ユウ中尉の部下に止むを得ず支援して頂き、研究所を制圧完了致しました」

縦穴から出た俺は、光の眩しさに眼を細める。
徐々に眼が慣れてくると、駐機したGMライトアーマーにホリゾントの青空が目に飛び込んできた。
研究所の地上建築部分が半壊していて、ライトアーマーの腕の上で陸戦隊の連中が笑顔で俺に手を振っている。
『曹長』め、完全に命令違反だな!だが…恩に着る!
しかし、奴をこれ以上調子付かせたくは無いので、俺は『曹長』を褒めない事にした。
軍隊では命令違反は重罪なのだ。
場合によっては銃殺すら有り得るのだからな!

「…済まないと思うのならその馬鹿な英雄気取りを即刻止めて、陸戦隊をランチに移動させろ!敵が来る!MSだ!」

アルフが俺に代わって怒鳴ってくれた。有り難い!
慌てて陸戦隊がライトアーマーの腕から駆け下り、ランチへと矢の様に走って行く。
俺は駐機させたブルーに向かい、ランドムーバーの出力を最大にまで上げ、移動させようとしたその時…

《こ、こいつは…!死んでる…!死んでる人間が何でMSを動かしてんだよォ!》

『曹長』が外部音声で妙な叫び声を上げ、脅えていた。
振り向くと戦技研究室で見た05が地上部分に半身を乗り上げている所だった。
死人?『曹長』、一体何を言っているんだ?
俺は頭に浮かんだ疑問を振り払い、前方を向く。
バ、馬鹿な…!

「『ブルー』!何故、お前が動く!お前はただの機械の筈だろうが!」

俺の目の前でシステム、動力まで完全にシャットダウンして置いた筈のブルーが、駐機姿勢から立ち上がり、俺に正対をしようとしていた。
…何故動ける?そして、何故俺がお前の、MSの力を欲している事まで解る?…
ついに立ち上がった『ブルー』は、俺を誘うが如くその胸のコックピットハッチを開けていた。
俺はコックピットの上空2mまで移動すると、ランドムーバーの出力を切り、自由落下する。
その間にランドムーバーを外し、背中をフリーにして置くのを忘れない。
俺がコックピットに座ると同時に、ハッチが閉じる。
外部の景色を写すモニターに点滅表示されていた《ready》表示が消える。
…俺はコネクターをヘルメットに差し込んで行く。
…さあ『ブルー』よ、ジオンの騎士様と殺り合うまでに前座どもを軽く一掃するぞ?
この俺、奴曰く『連邦の闘士』、ヤザン・ゲーブルとな!





■第百六章




 「こ、コイツは…」

 ヘルムのジャックにピンを差し込んだ途端に、曹長のGM・LAとMS-05をモニター越しに見ていた俺の視界が
一瞬だけ、『文字情報』に支配される。瞬(まばた)きを繰り返すと、俺の眼には交互に映像情報と文字とが映る。

 『敵MSを破壊せよ』
 『敵パイロットを殺害せよ』

 破壊、抹消、殺害、殲滅等、ネガティヴな単語が際限無く羅列される中に、俺は酷く小さく、そして妙にポジティヴな
言葉を発見していた。俺の意識がその言葉に向くと、その言葉がネガティヴな単語を押し退けて、現実のモニターの
映像と交互にシンクロナイズして行く。遂に、ネガティヴな単語が消え、文字情報はその言葉だけに為る。

 『素晴しき、我が仲間、二ムバス・シュターゼンを、守る』

 俺はモニター映像の中のMS-05の頭部をズームで見た。何かの冷却機構のスリットが数本、追加されていた。
俺は反射的に喉の奥から笑いが滲み出るのを、殺せなかった。二ムバス…そうか、そうだったんだな? 甘いんだよ!

 《…中尉?、中尉! 駄目だ! 、コイツ旧型の癖に、撃っても駄目なんだよ! ビームライフルで腕吹き飛ばしても、
 退けぞらネェんだ! どうすりゃいいんだ? 乗ってるのは死人だしヨォ!? た、助けてくれ中尉、聞こえてるんだろ! 》 

 俺の笑いを聞きとがめた『曹長』が、血相変えて助けを求めていた。このMS-05の『意志』、いや『遺志』をダイレクトに
感じられるだろう奴の恐怖は、俺の想像可能な範囲の外だ。俺は努めて、明るくそして簡潔に、『曹長』に命令する。

 「『曹長』、コックピットを狙い三連射だ。復唱は要らん。俺は『港』に向かう。そいつを潰したら追って来い。以上」
 『ヤザンさんも…甘いわ』

俺は『曹長』に命令を下達した後、通信回線をOFFにし『マリオン』に応えた。今の状況でEXAM発動を押さえ込んでいる
事に敬意を表して、だ。普通の俺の状態ならば無視する言葉だ。俺は生き残るためならばどうにでも己を変えられる自信
が有るし、現にそうやって生きて来た心算だ。善や悪など知ったことか! 生き残った奴が明日を迎える事が出来る!

 「誇り高き騎士達の残骸を見るのは…耐えられんからな…」

 …MS-05を動かしていた正体は、昔の二ムバスの『仲間』達から抽出された戦闘データだった。クルストの外道は、
マリオンに施す前、既に実験を繰り返していたのだ。…そうでなければ、『貴重な仮想敵:NTのサンプル』をEXAMの母体
になど撰ぶ筈が無い。実験を繰り返し、『イケる』と踏まなければ、学者連中は無茶はしない。…そう言う人種だ。

 「二ムバスが此処を撰んだのは…仲間達を土に還して欲しかったのだろうさ。つくづく…」

 ロマンチストだ。と、言いかけた俺は言葉を飲み込んだ。そのロマンチストに付き合う馬鹿は何と言うのだろうか?





■第百七章




 「出迎えご苦労! しかし、もうサヨナラだな? 堕ちろ! 」

 俺と『ブルー』を、死人が動かすMS-05改が2機、コロニー内部と『港』とを繋ぐ
『通路』で待ち構えていた。二ムバスを守るためだけに動く、悲しき機械人形と
化した戦友達だ。100mmマシンガンを2機に掃射するも、怯む事無くヒートホークで
向かってくる。

 「…灰は灰に、塵は塵に…死人は大人しく死んでいろ! 」

 俺は迷うこと無く、頭部・胸部バルカン砲と腰部ミサイルを使った。ビーム兵器は
正直、勿体無かった。この先の『港』にはザンジバル級2隻が待ち構えているのだ。
こんな人形どもに消耗を促されてはあの『ジオンの騎士』がほくそ笑むだけだ。

 「二ムバスのお仲間の残りはあと何機だ、マリオン? 」
 『…人が…たくさん…死んでいく…隔壁の向こうで…こんなの…こんなのっ…! 』
 「何を言っている? 『港』で何があった? 」

 俺はブルーのマニピュレーターからビームライフルを一旦手離して、隔壁ハッチの
ノブを開放側に回す。100mmに40mm砲弾、さらにはミサイルの破片まで食らったと言う
のに、隔壁は若干の凹みで済んでいる。隔壁と言うだけあって流石に丈夫に出来ている。

 「…手間が省けたと礼を言うべきか、それとも敵味方を識別出来ん失敗作と言う
  べきか…? 何にせよ俺の前に立ち塞がるのならば、残らず撃破しなければな! 」

 隔壁を開いた俺が見た光景は、『港』に漂うザンジバルの残骸と、残りのMS-05改だった。
二ムバスの昔のお仲間『だった』奴らだ。しかも今度は火器、マシンガンとバズーカ装備だ。
2機の連携で、おそらく最新型であろう、14の高機動型が屠られて行く。…まあ推測すると、
恐らくザンジバル級の奴らは、接近するMSの識別コードが無いため、『敵』と認識して攻撃を
開始したのだろう。この二ムバスの『昔のおホモ達』は研究所の防衛システムも兼ねていた
はずだ。そいつに『異物』として認識された者は…殲滅される。

 「哀れだな…? 来いよ、死人ども? もう一度俺が、あの世とやらに送り返してやる! 
  この蒼き死神とともに! 」

 二ムバスめ…見下げ果てた奴だ。 自分の手で戦友を看取ってやる事くらいは出来るだろうに!
それを人任せとは少々、虫が良すぎるな? 代価は後で必ず払って貰う! 首を洗って待っていろ!





■第百八章




 MS-05改デュオの内の一機が、俺と、いや、ブルーと『眼』が合った。大方こちらの武装を認識して
いるのだろう。ピンクのモノアイが小刻みに動いている。…フン、主兵装しか認識出来んだろうがな…。

 「…マリオン。奴らに自由意志は? 」
 『…二ムバス大尉を守る、と言う妄執だけ…』
 「その他は撃破、か…。騎士の亡霊が…来るぞ! 」

 マシンガンの砲口がワンアクションで向けられると同時に、俺はAMBACで機体を90°縦に旋回させる。
そうして見た下方には、ザクバズーカを構えたもう一機が、ロケット弾を射出していた所だった。今度も
俺はAMBACで機体を横に向かせ、回避を試みる。『港』内は狭いが、『壁』が有る。回避にも気を使わねば
『壁』を向いたまま砲撃を喰らう羽目になる。当然、俺の視界はリニアシート時代のコックピットのような
全周囲モニターでは無い。それでも、この陸戦型ガンダム改、ブルーデスティニーの視界はGMよりも良好だ。

 『ヤザンさん、このままじゃ…』
 「楽しいなァ、こいつは! 」

 背後に廻り込ませないように戦うのがセオリーだ、と並みのパイロットならそう判断する。つい先程見た
MS-14高機動型のパイロットは、挟まれないように、挟まれないように回避し、その挙句に撃破された。
クロスファイアにびびり、奔命に回避し、疲労の極致に追い込まれた結果だ。MSを扱うパイロットを苛む
Gは、思考力・判断力の根源となる体力を奪っていく。だが、俺は回避を続けて行く。ある狙いとともに。
数十パターンの末、その絶好の機会が訪れた。前後に挟まれる。それが俺の狙っていた瞬間だった。

 「機械風情が! 全てが貴様等の思い通りに為るものかよ! 」
 『…ッ!! ア…! 』

 前後に挟まれ、双方が射撃する瞬間。俺はそれを待っていたのだ。ロケット砲弾とマシンガンの弾速は、
速い。しかし、メガ粒子砲程早くも無い。構えのモーションから、1呼吸。そのタイミングで回避すれば…
この機体…ブルーデスティニーの速さならば、可能だ。俺はまた、機体を90°縦、続いてまたそのまま
の姿勢で前進させた。同時に放たれたマシンガンとバズーカは、バズーカの弾体のみを撃破し、バズーカ
装備のMS-05改をザクマシンガン弾は穴だらけにし、推進剤に引火させ爆散させる。

 「残った奴はマシンガン装備のみ! …勿体無いが一発御馳走だな? ほらよッ! 」

 バズーカ装備のMS-05改を撃ってしまい、首を左右に振って相方の反応を捜すもう一機のマシンガン
装備の05改に、俺はビームライフルを真上より放つ。頭から股間までメガ粒子の束はMS-05改を貫いた。
この機体の命令系統が頭に有ろうがコックピットに有ろうが、これならば関係無いだろう。推進剤に引火、
そしてまた…火球が音も無く生まれた。…俺には見飽きた光景だった。

 「…もう一隻ザンジバルが残っているが…最早死に体だな? 」

 各種砲台は無残に破壊され、所々電装系のスパークやら小爆発が起こっている。みるからに撃沈寸前だった。
内火艇を積載しているのならば、即座に用意しなければならない所だ。…俺の狙いは飽くまで、残りのEXAM、
ブルーデスティニー3号機の二ムバスだ。…俺に手出しさえしなければ、見逃す。が…砲台がこちらを向く。
一対の砲身の内の1砲身が無傷だったのだ。迷わず俺はマシンガンで砲身を、ビームライフルでブリッジを潰す。

 「フン、腐ってもジオンだな? 死ねよ! 」
 『駄目ェェェ!!  もう人を…!! ああ…そんな…』
 「殺らねば自分が殺られるんだ! 我慢しろ! マリオン! 行くぞ! 」

 己が生きていてこそ、生きていてこそ嘆き、悼む事が出来るのだ。感傷など二の次だ。俺は小爆発を続ける
ザンジバルを残し、『港』を出る。…09…後機動型の06に14…まだまだ居るじゃないか! 俺を愉しませろ!





■第百九章




 「何処だ…二ムバス…何処に居る! 」

 採光ミラーが半壊したコロニーを背に、俺はBD3号機をモニターで捜す。散発的な敵の攻撃も有ったが、
出会った奴から全て撃破済みだ。シールドの内側にホールドして置いた、100㎜マシンガンのマガジンも残り
3本を数えるまでに為っていた。残弾が残り少なく為っているのに気付いた俺は、躊躇せずマグチェンジする。

 『まだ…10発も残っているのに…? 』
 「ン…タクティカル・リロードだ。06なら兎も角、装甲の厚い09、動き回る14相手には、な…」
 『…まだ…殺し合いを続けるの…? ヤザンさんは…』

 マガジン交換時にビームライフルを一々手放さなくてはならないが、戦場が宇宙空間で有った事が幸いだった。
何せ地面に落ちる事は無い。下手に力を加えれば、慣性の法則が働き際限無く飛んで行くので、素人には余り
御勧め出来ない行為だ。ブルーの背部…人間の腰に当たる部分には、マウントが付いているのでそれを使えば
良いのだが、バックパックのスラスターから受ける熱の影響が怖い。…この時代、携帯型ビーム兵器は貴重なのだ。

 「二ムバスさえ出て来れば直ぐにでも…ハン! ネズミがチョロチョロとぉ! 」
 『…駄目! 逃げて! 貴方ではヤザンさんには勝てない! 』

 マグチェンジの瞬間を狙って、09が間抜けにも上方から急制動を駆け、正面から突っ込んでくる。…馬鹿が!

 「『ブルーデスティニー』にはな、固定武装が3つも有るんだ! 喰らえよ! 」

 頭部バルカン砲、胸部バルカン砲、そして、腰部マイクロミサイル。強力な実体弾兵装を持つ、この『ブルー』の
火力は正直、ジオンの並みのパイロットでは手に余るだろう。09は案の定、俺の作り出した弾幕の中に突っ込み、
腕や脚をもがれ、装甲を傷つけて行く。

 「折角の重装甲だが、見通しが甘かったな! 」

 弾幕を抜け出した先に待っているのは、ビームサーベルを持ったブルーだ。一撃でコックピットを貫き、バックパック
のスラスターを吹かせて蹴ってやる。…マシンガンや、ビームライフルを漂わせた宙域から機体の位置にズレを生じ
させないための処置だ。そしてまた、火球が生まれる。細かい破片がカンカン当たるが、マシンガンやビームライフルは
無事だ。蹴りを入れるにも考えて入れないと破片でダメージを喰らう。…パイロットが低脳では、宇宙に死にに来るに
等しいのだ。

 『あの人…勝てるって…最後まで…信じてた…』
 「…09Rはいい機体だが、装甲を過信したのと『ブルー』の火力を見誤ったのが…』
 《EXAM SYSTEM STANDBY》
 『ヤザンさん!』
 「来たか! 来たんだな! 奴が! 『ジオンの騎士』め! 待たせ過ぎだ! 」

 その電子音声は、退屈しのぎに『マリオン』に応えていた俺にとって、体中の血液が沸騰しそうな興奮を与えてくれた。
モニターが最大望遠でBD3号機を捉える。その両肩はカーマイン、血の色に染められていた。ツインアイも同じ色に
光っている。一年戦争時代の機体とは思えないスピードだ。望遠倍率のカウンターが見る見るうちに少なくなって行く。

 《待たせたな! 連邦の闘士よ! 共に酔い痴れようでは無いか! 》

 ああ、そうだな? 互いに骨の髄まで愉しもうか! EXAMマシンが与えてくれる、この実戦の、MS戦闘の快楽を!





■第百十章




 『ヤザンさん…わたしを…助けて! 』

 目の前の白い機体から『マリオン』の声が聞こえて来る。糞、そう言う事か、クルストめ! 
【EXAM】は『NT:マリオン・ウェルチ』の精神を取り込んで最終的に起動した『OS』なのだ。
完全にそのアーキテクチャを理解している者、即ちクルスト・モーゼス本人の手ならば
データ的に転送、アップグレードは可能と見て良い。…少なくとも3号機の『マリオン』は…
俺の事を知っている…俺の知っている…『マリオン』のコピーだ。

 《フハハハハ! 無駄だマリオン! 私からは逃れられん! 永遠に私とともに闘うのだ!》
 『嫌、嫌、嫌ぁぁぁぁぁ! 』

 3号機が頭部・胸部バルカン砲と腰部ミサイル、ビームライフルを放ちながらすり抜けて行く。
クッ! 相対速度を合わせるのが遅かったか…!戦場では戦闘以外の事を考え過ぎた奴は
死ぬ。しかし…ここは狂犬の様に、闇雲に噛み付けば良い戦闘では無い。唯のドッグファイトで
終わらせては為らないMS戦闘なのだ。片付けるだけなら簡単だ。…俺は、その上を目指さねば
為らない。…俺はそうやって、今まで生きて来た。いつも昨日の自分を越えるために・・・!

 「戦場に女を駆り出すなんてのはっ…弱い男の証明なんだよ、二ムバスっ! 」

 両腕と右足を『ブルー』に振らせ、AMBAC機動で背後を向かせる。残った左足で微調整を行う。
一年戦争の連邦の量産型MSには、こんなマニューバは基本OSに組み込まれていない。ジオン
のアドヴァンテージは正にこの部分に有るのだ。戦時MS運用は戦術面だけではない。個人の
運用技術の蓄積も関係してくる。人型のもたらす利点を研究し尽くさないまま素人パイロットを
MSに乗せたならば…オモチャの兵隊そのもののギクシャクした不自然な動作を取ってしまう。

 「悪いがAMBACは貴様ら宇宙人だけの物じゃ無いんでね! 」

 モニター上のロックオンマーカーがまだ激しくぶれているにも関わらず、俺は目視のままで100㎜
マシンガンを『ブルー』に斉射させる。流れる曳光弾が反転を開始した3号機に吸い込まれて行く。
弾幕を張るのが主目的だ。まずは冷却機構を潰さねば! リミッターを噛ませていないだろうからな!

 『ヤザンさんっ…まさか二ムバス大尉を…!? 」
 「俺は…ヤザン・ゲーブルだ! やってみせる! 」

 さまざまな思考が俺の脳裏を怒涛の如く流れて行く。【EXAM】が敵の思考までダイレクトに
伝達してしまうのはこれまでの経験上から理解していた。相手も【EXAM】を積んでいる。向こうの
3号機の『コピーされたマリオン』にも俺とこの『ブルー』の『マリオン』の意志が伝わっている筈だ。
…当然、パイロットの二ムバスにもだ。

 『私に勝ち、さらに生け捕りにするだと?! 連邦の闘士め! この・・・身の程知らずがぁぁぁぁ! 』

 ハン! 身の程知らずは貴様の方だ二ムバス! 七年間のキャリアの違いを見せてやるよ、若僧!





■第百十一章(頼むからページを追加してくれ)




 星空と曳光弾のハーモニーが、絶える事無くモニターを流れて行く。…放たれた曳光弾の正体はBD3号機の
頭部・胸部バルカン砲弾だ。BDの持つ機体武装の最も得意とする、中・近距離戦で俺は3号機に挑んでいた。
 頭部・胸部の4門のバルカン砲に、腰部に1対のマイクロミサイルランチャー。ミサイルの携行弾数は、陸戦Ver.
の時と比較しても上がっているだろう。宇宙では弾体を推進させる推進剤が少なくて済むからだ。

 『この距離じゃあ、撃たざるを得んよなぁ? なぁ、マヌケ騎士様』
 『舐めるな、連邦の闘士ィィィィ! 』

 二ムバスの憎悪に唸る声が脳内に飛び込んで来る。俺はそれを聞きながら、嘲笑のイメージを投射してやる。
勿論、発射された全弾をロールで回避しながら、だ。何の理屈だか理由だか知らんが、EXAMは闘う俺達二人の
パイロットの意志を、互いに筒抜けにさせていた。真直ぐで素直過ぎる二ムバスの意志に、俺は既視感を感じて
いた。冷静さを持たん奴は、冷静な奴にそこを突かれて早死にする。常にアタマの何処かは冷めているべきだ。

 『ヌ…! 馬鹿な…?! 』

 常に3号機が撃ちながら接近してきた、バルカン砲弾の奔流が唐突に止む。バカスカバカスカ撃ち放題に撃って
来たツケを払う時が来たのだ。まあ、俺がワザと撃ち易い距離をキープし続けて来た為だ、と言う至極尤(もっと)も
な理由があるのだが、な? ロックオンしたからと言って直ぐトリガーを絞るのは素人に毛が生えた連中が良くやる
事だ。貴様に限った事では無いさ!

 『タマ切れで撃ち止めってか? もう少し骨が有ると思ったがな! 』

 ここで俺は100㎜マシンガンをリロードし、3号機に向かって投げてやる。 浅ましく使うならジオンの騎士の看板を
返上しちまえよ!





■第百十二章(頼むからページを追加してくれ)




 『甘いな! 連邦の…! 』
 『馬鹿が!貰ったぞ! 』

 慌てて左マニピュレーターを開き、100mmマシンガンに向けて伸ばす3号機の下腕部を
俺は2号機の空いた右手に持たせたビームサーベルで切り飛ばす。リロードした時点で、
俺は当然、『ブルー』の右手からビームライフルを離している。近距離戦仕様って奴だ。

 『シールドなど要らん! 』
 『この俺相手に大きく出たモンだな、騎士殿』
 『抜かせ、下郎がぁぁぁぁぁ!』

 当然、3号機の左腕にマウントされていたシールドが外れる。3号機の武装はこれで、
腰部ミサイル×2に、ビームライフルとビームサーベル×1だ。俺は漂う自分のビーム
ライフルをキャッチし、二ムバスの3号機と距離を取る。その際、チカッ、と敵意が自分を
刺すのを感じた。二ムバスでは無い、これは…

 『そこだ! 』

 『ブルー』のビームライフルが狙ったが如く、超遠距離でジャイアント・バズを構えた09Rの
コックピットを射抜き、火球が生まれる。コックピットを一撃で仕留められたのは、『EXAM』の
影響だろう。俺は慌てて『自分の身体』に意識を集中する。視覚が、コックピット内の計器を
やっと捉えた。これほどまでにMSとの一体感を味わえるEXAM SYSTEMの量産は、戦争狂を
大量生産するに等しい。

 「リミッターは…残り4分15秒だと?! 」

 どれだけの速さで俺達は殺り合っていたと言うのか? ふと、視界の端に桃色の光条を捉えた。
二ムバスが遠距離戦に切り替えたのだ。頭を隠さず肉迫して来る。奴の射撃武器はあと…

 「ミサイルだと? ハンッ! 擦れ違い様にか? そうそう当たる物じゃないなぁ! 」
 『死ねィ、連邦の闘士ィィィィ!』

 交差の瞬間に奴は2発発射するも、俺には当たらなかった。そしてまた、3号機はAMBACと
スラスターを駆使して交差を伺おうとする。端から見れば、『ブルー』と3号機のスラスター光で、
まるでDNAの様な2重螺旋を描いている事だろう。絡み合い、激突し、また離れ、絡み合う。
廃棄コロニーの残骸で暗礁空域に近い状況なのだが、不思議と障害物には接触していない。

 「フン! ビームライフルは、こう…」
 『ガンダムタイプ同士のDACTにしては…何故実弾を使っているんだ? 』
 「何でこんな所にGMが居る! 退いてろ! この! 邪魔だ! これは実戦だぞ!? 」
 『?! 一体全体どうして…』
 「糞、間に合わん! キチンと避けろよ」

 俺はロックオン表示に目を疑う。何でこんなミラーの影にGMが隠れているんだよ! …4th Plt?
第四小隊だと? 何処の所属だ! 俺の思考に動作が追いつかず、ビームライフルは発射された。

 『ウ、ウワァァァ!』
 「もう少し離れてろ! 巻き添え食って死にたくはなかろうが! 行けよ!」
 『誰だか知らんが…俺の不死身の第四小隊はまだ解散させん! 』
 「援護はいい! ギャラリーは手を出すなよ! これは俺の闘いだ! 」

 幸い、光条はGMの隠れていたミラーの一部を粉砕しただけだった。…全く! 二ムバスに殺られるなよ?

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

目安箱バナー