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ヤザン−ユウ 061-070

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■第六十一章




MSの互換性への挑戦。
アルフ・カムラ大尉は俺に軽く微笑み、そう言った。
2号機のコックピットの内装は完全に『お釈迦』になり、脚全体のジョイントも馬鹿に為っていた。
宇宙用の半分お飾りみたいな脚で地上戦を戦ったのだから仕方が無いと言えば聞こえは良いが、メカニックの苦労を思うと鬱に為る。

「…何!溶接する?馬鹿かオマエは!完全に交換だ!手間を惜しむな!弛んでいるぞ!…オレのブルーだぞ!?…手抜きなどユウ中尉が許しても、このオレが許さんからな!!」

3号機で逃げた二ムバスの奴も今頃、同じ思いをしているに違い無い。
3号機の左のマニピュレータを洗うジオンのメカニックに同情する。
血が乾いたら、取れにくい事この上無いからだ。
俺達は『クルスト博士』だった肉塊を直ぐに回収し現地部隊に引き渡した。
現地部隊の指揮官がやけに嬉しそうだったのが引っ掛かったが…まあ、戦争だ。
仕方無い。いちいち良心など期待しては戦えん。

「…何だコレは…!…地上用と宇宙用のフレーム構造の差異などオレは付けて居なかったのだがな…!やり直しだ!オレが作業の監修をする…!…ブルーは美しくなければ…!」

アルフが部下に怒鳴って居る。
『諸般の事情』で、手抜きが有ったらしい。
納期に間に合わせる為に、連邦軍の組織全体が後に良くやるように為る、『裏金づくり』の構図の一幕だ。
俺にとっては珍しくも何とも無い出来事だ。
…3号機はクルスト博士がEXAMのために仕上げた機体だ。
こんなあからさまな手抜きなど無かったと信じたい。
飽くまで俺は、二ムバスの3号機と『同じ条件』で殺り合いたいのだ。

「ジェネレーター?…3号機は新型を使った?!糞!…こちらも同じ奴を乗せろ!型番幾つだ!機体データは残って居るのか!?…見せろ!オレのブルーは全てに措いて完璧で無ければっ…!」

日頃は無口なアルフが、人の変わった様に饒舌に他人と喋っている。
フィリップやサマナも、あれには驚いていた。
『あの何分の一の情熱を、俺のGMにも注いで欲しいね…』
『ブルーは特別ですから…』
と格納庫中のキャットウォークに設置された落下防止柵に凭れながら、2人は呆れている。
その2人のGMは、今は無い。
…近々始まる『ソロモン攻略戦』に向け『宇宙用』に改修される予定だった。
その機体が無事2人の元に還って来る保障は無い。
別の兵士が使用するかも知れないのだ。
…丁度その下では『曹長』がうろたえる事務屋に、とても聞くに堪えない悪罵の限りを尽している。

「ライトアーマーは俺のモンだ!一度廃棄扱いにしてんだろうが?!違うかコラァ?!」

と結局『曹長』は、ゴネ得を勝ち得た。
書類関係で一度廃棄扱いにされたのが思わぬ功を奏したのだ。
宇宙・地上両用に設計、開発されたコイツが手元に残るだけで、俺が『曹長』のためにどんなに安堵したかは表現する言葉も無いほどだ。
勿論、装甲、ジェネレータもアルフが責任を持って『監修』するそうだ。
機動性能とビームライフルの発射速度が上がるのは、『曹長』にとっては朗報だろう。
俺はまだ、動けない。
『ブルー』が再び立ち上がるまで。
『ブルー』の『ゴーグルアイ』をふと見上げると、その奥のツインアイが瞬いた気がした。
…俺の胸が急に切なさに痛み出す。
誰かに恋焦がれるかの様に、だ。
…『マリオン』の声を無性に聞きたかった。
俺は、まだお前と共に戦える『兵士』でいるかどうかと。





■第六十二章




『不安なのか?ヤザン…?大丈夫だ。あの子はきっと、応えてくれる』

完成した『ブルーデスティニー』のコックピットに座った俺は、起動手順を何時まで経っても行わないままに、コンソールに手を伸ばしたまま、固まっていた。
起動したとして…もしも『マリオン』が応えてくれなかったら?
その想像が俺の心を支配していた。
何時から…俺はあの少女に心を奪われてしまっていたのだろうか?
共に戦う同志としてか?
守るべき存在としてか?
信頼する仲間の一人としてか?
それとも…無意識下で、失ってしまった家族の温もりを求めての事なのか?
…俺は知らず知らずのうちに『人間』に戻っていたらしい。
ユウが声を掛けて来たのも仕方無い。
俺は苦笑いを殺し切れなかった。

『野獣も牙を失えば…ただの獣に過ぎなくなる、か…。俺も弱くなった物だ…』
『…まだ、己の弱さを知っている。畏れを知っているパイロットは…強い。…違うか?ヤザン?』

俺はユウに応えず一気に起動プロセスを開始した。
各スイッチ類を呼称しつつ計器に灯を入れ、操作卓(コンソール)を確認する。
機体状況が表示される。
…アルフの監修の元、1号機と2号機を組み合わせ完成為った『ブルーデスティニー』だ。
…俺はコイツの『GMヘッド』が実は大のお気に入りだ。
量産機の匂いが残った、兵士の『在野根性』や『雑草魂』のエキスが濃縮されている様で、何故か嬉しいのだ。
『羊の皮を被った蒼き狼』とハズカシイ事を『曹長』は真顔で言ってくれた時は…流石の俺も爆笑したが。
少女の声が、聞こえた気がした。
俺はすぐに意識を集中させる。
声に力が入ってくる。
間違い無い。
俺の一番待ち望んだ者が…俺の一番の『理解者』が還って来たのだ!
…ユウには悪いが奴は二番手で我慢だ。

『おかえり…ヤザンさん…。わたし…待たせた…のかな?』
「…マリオン?それは俺の台詞だぞ?…また逢えたな?さあ、行くぞ相棒!奴は何処だ!」
『占領した連邦軍基地でシャトルを接収して…宇宙へ行くの…。行先は…』
「EXAM発祥の地、サイド5こと…ユウと俺の嘗ての戦場…ルウムだな?」

ニュータイプ部隊が連邦にも存在すると触れ回る、連邦軍首脳に踊らされたジオンは、対抗手段としてのEXAMが喉から手が出る程に欲しいはずだ。
何せ、自軍がニュータイプ部隊の実力と『恐怖』を肌で実感しているのだから。
クルスト博士から聞いた事を思い出す。
ジオンのニュータイプ研究機関である、『フラナガン機関』はNTの資質を白鳥の部位に例えていたと言う。
…『マリオン』は最高ランクに近い翼…こと『羽』だ。
その白い羽を紅に染めさせる片棒を担いだ俺は…きっと地獄が有ればそこへ堕ちるだろう。

「…この基地が接収した『06』二機と俺が鹵獲した『07』に一働きして貰うか…。新生『ブルー』のテストも兼ねて、だ。捕まえられりゃあ御の字で、駄目で元々だ。…『曹長』は多分、ゴネるがな…」

奇襲。
俺の脳裏にはこの二文字が明滅していた。
フィリップとサマナは『06』を扱わせてもイケるのだ。





■第六十三章




ジオン製の機体は有っても、その基地の『敵味方識別コード』を入手出来なければ奇襲の意味は無くなる。
情報部の連中は『半日くれ』と言って来ていた。
その間にシャトルが打ち上げられる危険も有るのだが、と俺が意地悪く聞けば、もう整備の人間を潜入させていると言う。
…諜報の分野は奇麗事では動かないのだ。
俺はここまで聞いてその女の頬を平手で張ってやった。
衝撃で女の眼鏡が吹き飛んだが、出血はしていない。
…頬を押さえ俺を睨む女に、俺は心持ち表情を険しくして、渋く言ってやった。
…美男だからな、ユウは…。

「貴女には罪は無い。だが、貴女に踊らされる人間の事を忘れるんじゃ無い。…俺も『例のミサイル基地』のダブデの存在を知らされずに突入させられた。今の平手は…俺の分と今回の作戦で動く奴等の怒りだ。名も無き兵士たちは貴女の命令だけでは動かない。…一刻も早くこの戦争を終わらせたいから動く!」

俺は思った事を忠実に実行するタイプだ。
あの時俺は情報部の人間を一発殴ると誓った。
…『マリオン』は俺のこの行動を褒めてくれるかも知れない。
…現実は俺の剣幕に引いた人間と、拍手する人間がいただけだったのだが…敢えて俺は女に謝罪し、始末書も書いた。
軍は体面を重視する組織だ。
相手の立場を理解してやらねばいけない時も存在するのだ。
この先、彼女が情報部で働き続けるには、誰かに舐められたままでは部下の前で毅然として命令が下せなくなる。
…俺はそこまで彼女を苛めるつもりは無い。
…相手が気に入らなければこんなフォローは入れない。
今、俺の、いやユウの右頬には平手打ちの痕跡がまだ薄く残っている。
…殴り返す根性の有る女は、俺は嫌いでは無い。
はっきり言ってしまえば『食べたく』なる程に好みだった。
で、今はミデアのユウの私室だ。

『…で、ヤザンさん、どうするの?この女の人…』
『…お前も見てるしユウも見てるしモーリン伍長は部屋の外。俺は残念だが、紳士に為るしか道は無い。それともマリオン、俺がオネガイしたなら、見ない振りでもしてくれるのか?』
『…もう…しらないっ!』
『…ヤザン、俺のための配慮、感謝する』

まあ、思いっ切り辛さを吐き出させ、満足させた、と言って置こう。
組織の中で性別を感じさせず己を演じるには…何時の時代でも女が辛い事には変わり無い。
ユウの胸で女が泣いている最中に『わかりやすく』飲み物を差し入れに来るモーリン伍長に、俺は心行くまで心の中で『大爆笑』させて頂いた事を正直にここに告白して置く。
女が化粧を整え、頬の辺りを紅に染めながら俺に礼を言って出て行った後、今度は『曹長』が遠慮がちに来た。

「…みんなが…ああ、あの子供達がな…死んだ男の子の…お別れ会をな…?だから…」
「フィリップとサマナには俺から話を通して置く。07の習熟訓練には少し遅れるのだな?『曹長』?」
「行って…いいのか!?『中尉』!本当に、いいんだな?!」
「俺とアルフも出席する。…子供達と面識のあるのはお前だけでは無い。知らせてくれて感謝するぞ、曹長」

作戦開始まで後20時間。
俺達は人間と兵士の狭間で揺れながら、もう二度と還らないだろう『今』を過ごしている。





■第六十四章




NT研究所の前の植え込みにひっそりと置かれた、大き目の石。
それが、此処に少年の居た証だ。

「…人は、繋がることができる…。ねえ、おじさんには、信じられる?」
「ああ、信じられるさ…。失った者とは…直接には語れんと言う違いは有るがな…」
「おじさんは…それでも、人殺しを…!?ごめんなさい…!」
「…お前達に、させたくないからさ。こんな嫌な思いを、な?それが大人の義務だ」

しんみりとした状況を想像していた俺は、少女の言葉を聞いた途端にその明るさが理解できた。
子供達は、死者を『感じる』事が出来るのだ。
オカルトの分野だと、研究者連中は笑うかも知れん。
だが、俺達も自然に出来ている事なのだ。
彼女達の『それ』が…リアルタイムだとしたら、俺達の物は『プレイバック』だ。
己に蓄積された死者との思い出や、記憶。
俺達はそれらの断片を元にして、死者の言いそうな事を想像する。
だが…同じ死者を悼む行為に…何が違うと云うのだろうか?

「…欲しかったセイバーフィッシュの模型、埋めといたからな!…他の欲しかったら、言えよ?俺が…買って…置い…糞ぉぉぉぉぉぉっ!何が研究だ!死んでもまだ実験動物扱いかよ!そんなのって有りかよ!墓さえ作んないのかよ!…間違ってる!間違ってるぞ!」
「…それが、組織だ。敵に勝利を収めるには…どうしても非人道的に為る。いい加減に理解しろ」
「…『中尉』…アンタはっ!」
「…殴るならオレの方だ。…ヤザン曹長。現にオレも『中尉』をモルモットにしているのだからな」

少年の遺体は、還って来なかった。
NTの貴重な、『人道に配慮せず解剖可能な』サンプルなのだ。
研究者達の喜々とした様子に反吐を吐きたく為ったのを俺に我慢させたのは…俺より自制心の無い奴が居てくれた御蔭だった。
一々、俺が言わなくても解るだろう。
…取り押さえられるまで、重軽傷者が両手では効かん程出た。
…俺の右ストレートと左ボディーブローの、コンビネーションを『曹長』が喰らうまで、だが。アルフと俺がワザと早急に停めなかったのは…被害者には悪いが当然の事だ。
軍人として許せても、人間として許せん事が有る。
俺達大人の、せめてもの、死者への手向けだ。

「…あの子にはまた、逢えるから…。ね?ヤザンのヤザンおじさん?」
「…クソっ、眼にゴミが入りやがった…!こら、お兄ちゃん、だろうが!?」
「老け顔なんだよ。お前は?年を取れば、自然と周りから若く見られるさ」
「…己に対しても容赦せんのだな?ヤザン?それが戦士の心得か?」
『…お兄ちゃん達、きてくれて、ありがとう』

俺達が祈りを捧げ、立ち去ろうとする時、誰も居ない筈の背後から誰かに呼ばれた気が、した。
それは俺達の幻聴だったのだろうか?
…亡くなった少年の声が俺達の耳に届いた気がしたのだ。
人は、繋がっている。
信じよう。俺も誰かと、繋がっている。
この素晴しい、過去の人間達と。
元に居た、未来で共に戦った、戦友や部下達と。
そして、死んだ家族達と…『マリオン』とも。





■第六十五章




06の2機を左右両脇で『ブルー』の腕を抱えさせ、07に両足を持たせる。
そして『ブルー』はスタンバイの状態で待機させる。
…メインスイッチを切って置くのが最上だが、この『お芝居』が露見した場合が怖かった。
作戦名『コン・ゲーム』。
平たく言えば『詐欺』だ。
…もう一機『ブルー』を鹵獲したとジオン軍に思わせ、シャトル打ち上げ基地の懐深く潜り込み、シャトルを推進不可能にさせ、3号機を再奪取する。
それが目的だ。
不可能な場合は…当然、シャトルごと破壊だ。
…事前に入ってきた情報に因れば、シャトル整備員に偽装した工作員は処刑されたと言う。
シャトル打ち上げは事実上、この作戦が失敗すれば完全に阻止不可能と為る。
…俺は、こう言う失敗出来ない一発勝負の焦燥感と緊張感が堪らなく、好きだ。

『♪ポッポッポぉ〜宇宙人〜っ、『ブルー』が欲しいかやらネェぞぉ〜♪欲しけりゃ自分で獲りに来い〜っ♪と来たもんだな?どうだねサマナ准尉クン?小官の朗々たる美声は?』
『フィリップ少尉…もう少し真面目に出来ませんか?そろそろ通信傍受可能区域に到達します!』
『あのな、オッサン…?ジオンの奴ら、もう『ブルー』の3号機盗ってっちまったんだがな…?』
『下手な突っ込みアリガトサン!…眉無しィ〜?のぼせ上がって台詞、トチるんじゃ無いぞ〜?』

『曹長』があからさまな煽りに釣られる前に、俺は早めに停めねば為るまい。
…何処まで打ち上げ基地に接近ができるかが、この阻止作戦の成否を分かつのだ。
…ジオンの守備隊を何処まで騙せるかが、鍵だ。
俺は07に乗る『曹長』に熱心に演技指導を施した。
ジオン訛りから無線交信パターン、階級制度から奴らの軍制度、慣習に至るまで、多岐に渡ってだ。
07に乗る奴は小隊長役を務めねば為らない。
怪しまれたら最後、そこから即、守備隊相手の実戦が始まるのだ。
…念入りにも為る。
未来から呼ばれた俺は、教導隊時代に仕事で付き合った、ジオン軍関係者からの情報がたんまり有る。
俺本人が担当するならば、騙し通せる自信は有る。

『『曹長』、フィリップ、そろそろ御出迎えの時間だ。さあ、本番スタート!アクション!』
『了解!ユウ、多分…奴らは引っ掛からんと俺は思うがな?それにしてもお前さん、ジオン訛りなんぞ、いったい何処で覚えたんだ?宇宙人どもの通常無線交信の通話パターンもだ?』
『…男ってモンはな、謎が多いとミステリアスかつセクシーに見えるモノだよ、フィリップ?』
『へ〜へ〜、黙ってるお前さんはモーション掛けなくてもゴマンと女が寄ってきますよっ、と。りょーかい、一部マニアにしか『受けない』サミシ〜いボクちゃんは黙ります黙りますっと!』

フィリップが黙った、と云う事は…索敵レーダーに何らかの反応が有ったと言う事だ。
フィリップはふざけて居る様だが、実は筋金入りの連邦軍人だ。
…普段の態度は『新人』達の力を抜いてやるために演じているに過ぎん…と断言したい所だが…案外アレが地かも知れん、と最近になって俺も解ってきた。
俺自身もそういう風に演じた経験が有るので、奴もそうだ、とてっきり思い込んで居たのだが…。
まあ、『仕事』に関しては優秀なので、俺に文句は無い。
軍隊と云う組織は、『結果』が全てなのだ。





■第六十六章




「どうやら巧く行きそうだな…?」

俺はフィリップが敵と行う交信を傍受しながら、底意地悪く哂って見せた。
敵の守備隊である、09が主体の、打ち上げ基地攻略部隊が俺達を発見して、接触して来たのだ。
交信パターンを熟知し、情報部から当日の識別コードを入手した俺達を、疑う道理など、奴等には毛ほどの筋も無いだろう。
後はこの間抜けどもの誘導に従って、潜入を行えば完璧だった。

「フィリップの奴…巧すぎるぜ…。渋めに、それも真面目に演れるじゃないか…?あの路線ならモテるのになぁ?」
『…ヤザンさんの方が…わたしはいいな…?』
「フン、俺の本当の顔見て…言ってるか…そりゃお前の目には何かのフィルターが何重にも掛かってる御蔭だろう?」
『あのね?ヤザンさん…?わたしはモビルスー…そんな…大尉っ!」
「どうした、マリオンっ!?エグザム発動だとっ?!…やってくれたな…二ムバァァァァァス!」

俺がマリオンと戯言を交わしている時に、突然EXAMが発動した。
…ブルーのメインスイッチを切って置かなかったのは、不可抗力だ。
守備隊から報告を何らかの形で聞いたシャトル内の二ムバスが不信感を抱き、ワザと自分の機体、3号機のEXAMを発動させたのだろう。
…奴はEXAMを制する事が出来る。
その上での『この行為』なのだ。
何も起こらなければ良し、起こったら…!
俺の視界が、ブルーのそれと重なる。
…マリオンの阻止が追いつかず…俺はEXAMに呑み込まれたのだ。

『フィリップ!サマナ!俺を置いて逃げろ!支援はいい!出来るだけブルーから離れろ!EXAMが、発動した!』

俺は残った理性を総動員して、通信回線をONにしてコックピット内で叫んだ。
湧き上がる破壊衝動が俺を、殺戮へと駆り立てる。
06二機が最大加速で遠ざかって行くのを背後の気配から察する。
今の俺はそれを装甲越しでは無く、体感していた。
NTにはNTを。
それが不可能ならば認識力の拡大させた『人間』をぶつける。
NTがコレを日常的に感じているならば、普通の『人間』は逆立ちしても敵わないだろう。
しかし、『EXAM』はそのハンディキャップを埋めてくれる理想的なシステムなのだ。

「悪いが09、後ろからでも、今の俺には『解る』んだよッ!残念だったな!そうそう、殺られんッ!」

慌ててヒート剣で突き掛かって来る09を、首だけ振り向き、頭部バルカンで牽制してから左にかわし、そのまま背後にビームサーベルを突き刺す。
EXAMが次に撃破する近くの敵の存在を示すが、俺は無視してジャイアント・バズを放とうとする奴を100㎜マシンガンで潰す。

「戦うのは人間だっ!命を張るのはこの『俺』だっ!たかが機械風情がこの俺に、指図などぉッ!」

…哀しむべき事は、それがMS本体に限定されると云う事だけだ。
どんなものにも、『限界』が存在する。
EXAMの送り込む戦闘情報が人間の情報処理能力の限界を超えているのは承知の通りだ。
だからEXAMは、人間の意向を無視し始める。
それが『強制力の発動』だ。
自らの意に従わぬパイロットの操作を『エラー』として処理し始め…やがてMS本体がその2つの異なる命令に反応しきれずに誤動作を起こす。
それが積み重なり、最終的には暴走を引き起こすのでは無いか、と俺は今までの経験とアルフとの会話で認識していた。

『大尉を宇宙(そら)へと上げるのだ!白い悪魔と戦い、無念に散った同胞の為に戦う、大尉とその乗機を!』

…俺の思念に飛び込んで来る声が有った。俺は確かに『聴いた』。
コックピットを破壊され崩れ行く09の、死ぬ間際のパイロットの『声』を。





■第六十七章




『EXAM』は執拗に、『ブルー』を狙う総ての敵の『思念』を俺の脳裏に送り込んで来た。

家族を想い、残った勇気を振り絞り立ち向かう、06のパイロットの切ない思念。
原隊をオデッサのガンダムに潰され、ただ復讐の念に駆られ突撃してくる09乗りの無念。
ジャブロー攻防戦で恋人を失い、捕虜に為り、連邦軍の非道をその身で体験した女兵士。
己の身を捨て、二ムバスの3号機に己と国の運命を託し、爽やかに笑って死んでいくMS中隊長。

俺は『EXAM』に試されていた。
『完全に戦う相手を理解して、それでもお前は人間を殺せるのか?』と。
俺は…合格だった。
相手には何かしらの『守るべきもの』や『信ずるべきもの』が有った。
だが、奴等と戦う今の俺の心には…『何も無かった』。
戦士の義務は戦う事だ。
武器を取り向かって来る以上、どのような理由が存在にするにしろ、相手は俺に取ってはただの『敵』で、『喰い応え』が有るならば『美味しい敵』だ。
俺がMSを降りたならば、彼らを悼む事も出来るだろう。
同情も可能だ。
しかし揺るがせぬ大前提が有る。

俺とブルーがこの戦闘を生き残らなければ、意味が無い。
生きて居ればこそ、それは出来る事なのだ。

「だから何だ?!この俺が躊躇すると思ったか?!わざわざ殺られてやる義理など無いッ!」

回避。相手の09の、必殺の一撃と信じたヒート剣の斬撃を紙一重でかわす。
敵の驚愕する思念に、俺は歯を剥いて哂う。
心地良い。
敵の裏を読み、その狙い通りに行動してやり…そして…裏を掻き、隙を突く。
通常では解らぬ、相手の思念までをも嫌味なまでに忠実に伝えてくれる『EXAM』は、今の俺には堪らない快感を与えてくれる『素敵なデヴァイス』だった。
信念やら恨みやら、面倒でお堅いモノを抱えている連中を楽にしてやる『救世主』にでも為ったような爽快な気分を感じさせてくれる。

「さあ、楽に為りたい奴は向かって来い!すぐに娑婆から退場させてやる!俺とこの、『蒼い死神』がな!」

敵の抵抗を排除しながら、俺とブルーはシャトルの存在を確認した。
『奴』が、居る。
真摯な顔で、『済まぬ…兵よ』と薄暗い3号機のコックピットで呟く二ムバスの姿が俺の脳裏に飛び込んで来る。
…吐き気がした。完全に偽善だ。
多数の犠牲を悼むならば、何故自らの手で俺を止めに来ない?
己の体面や使命とやらがそんなに大事なのか?

『…私は『ジオンの騎士』なのだ!果すべき使命が、有る!名誉が何だ!幾多の同胞を屠った『白い悪魔』を倒すには…同じ悪魔の力、いや、それ以上の力が必要なのだ!使命の為に私情を殺す!それが騎士たる者の心得!ただ戦闘を愉しむだけの貴様には死んでも理解出来ぬ事だろうよ、連邦の闘士よ!』
「ニムバァァァァァァァス!」

二ムバスの思念を受け取った俺は、純粋な怒りを覚えた。
自分の事を遠く高い棚に放り投げ上げて、良く言った!
スラスターの出力をミリタリーパワーからさらに限界の『テスト領域』まで引き上げ、俺と『ブルー』は突進を開始する。
…俺は二ムバスに嫉妬していた。
根っからの『兵士』である俺が金輪際持てぬ、揺るがぬ信念を持つ、ジオンの騎士を。

「…俺は俺の存在に懸けて貴様を許さんッ!貴様の存在をッ!戦場に己のロマンを持ち込む愚劣さをッ!」

群がる敵を薙ぎ倒す中、シャトルが徐々に視界の中で拡大して行く。
宇宙には行かせない!行かせるものかよッ!





■第六十八章




前方に接近し続ける総ての事物を破壊しながら、最短距離で俺と『ブルー』は、ロケットノズルから冷却剤の蒸発して行く白煙を上げ始めたシャトルに向かう。
機体表面塗装が傷付くのも構わず、木々をひたすら薙ぎ倒し、立ち塞がるジオンのMS群を両手に持たせたビームサーベルで切り刻む。
100㎜マシンガンの予備マガジンは既に切れ、俺は廃棄していた。
ニ刀で戦闘を続けると機体のエナジー消費が激しいが、仕方が無い。
作戦目的は飽くまで『シャトル発進阻止』なのだ。
軍人たるもの如何なる犠牲を払おうとも、作戦目的を達成する事がその存在意義だ。
…言うまでも無く俺は失格なのだが、な。

「あの07…?!!…曹長かッ!よくもこうも生きていたッ!偉いぞ!」

各部の装甲が傷付き、返り血ならぬ、オイル塗れになった07が、俺の真逆の方向からシャトルに接近していた。
俺はフィリップとサマナには撤退命令を出してはいたが…頭の中から『曹長』の存在を綺麗サッパリ忘れていたらしい。
そして命令を出されなかった『曹長』は…当初の作戦に忠実に行動していたのだった。
シャトルの、破壊の為だけに!

「糞、間に合わんか!…届けェい!」

俺と『ブルー』の眼前で、発射台のタワーが離れ、ノズルから炎が噴き出し、シャトルが浮き上って行く。
胸部バルカンに、腰部ミサイル、頭部バルカンを一斉発射するが…哀しい事にまだ有効射程外だった。
…あと、たった50mの距離が遠い!

『ぬぉぉぉぉぉぉぉぉ!黙って行かせて堪るかヨォっ!!』

外部音声が俺の耳を焼く。
07がその場で回転する。
陸上競技の『ハンマー投げ』の要領でだ。
右手一本で赤熱させたヒート剣を保持し、一回転、ニ回転、三回転とスピードを上げて行く。
07の機動性重視の構造上、機体の強度はそう持たない。
だが奴は、恐らくコックピット中で鳴り響く各種警告アラームを無視して回転を続けているのだろう。
自らの体の限界まで。

『これでも喰らえィ!宇宙人がぁぁぁぁぁぁ!』

遂に07が、ヒート剣を手放した。
赤く光る矢が、ようやく大地からの呪縛を解き放とうとするシャトルを目掛けて飛んで行く。
ロケットエンジンが本格的に起動し、炎が一瞬だけ大きく為った、まさにその瞬間…!
ヒート剣はシャトルの翼に突き刺さった。
そして、余熱でヒート剣はそのままシャトルの右翼を切り裂き、地に堕ちて行く。
…しかし、シャトルはそのまま、天へと白煙をなびかせ昇って行く。
『作戦、失敗』。
すぐさま俺の脳裏にその四文字が浮かび上がる。
決着は、宇宙に持ち越されたのだ。

『曹長!まだ余力が有るな?!作戦目標変更!当打ち上げ基地を占拠するの敵MS部隊の殲滅!動けるか!』
『正直カンベン…と言いたい所なんだが…他ならぬ中尉殿の命令だ。やって見るさ!』
『無理はするな?まだまだお前には生きていて貰わねば困るのだからな?まだまだ宇宙(そら)で鍛えなければならん』
『なら…死ね無いな…そいつは…楽しみだっと!』

生き残れてさえいれば、挽回のチャンスは幾らでも転がっている。
二ムバスめ!せいぜい頸を洗って待っているがいいさ!
俺が貴様を裁いてやる!
戦闘とは、戦う兵士の義務とはどう言う物なのか、この俺自らがそのイカレたオツムに教育してやる!





■第六十九章




「第11独立機械化混成部隊は、本日午前0時を持って解散、再編成される!残る者、去る者も居るだろうが…しかし、我々はいつまでも共に戦った『戦友』である!部隊員諸官よ、貴官等の未来に幸有らん事を願う!」

ヘンケン少佐の肉声が、MS格納庫に集合した全部隊員の耳に届いた。
…二ムバスを『取り逃がした』俺達を待っていたのは、当然の如く、『即時追撃命令』だった。
しかし、俺達の所属部隊は機械化歩兵部隊等の『陸戦兵力』も抱えていた。
宇宙には当然それは必要が無い筈だが…俺だけは知っていた。
今回、どうしてもその『陸戦兵力』が必要な事を。

「ヘンケン少佐、お偉いサンに直接回線を開けるか?2、3分で構わんのだが…」
「…中尉、中尉、言葉遣い、言葉遣い!俺に五月蠅く云うクセに、自分は良いのかよ自分は!」
「構わんよ、中尉。端末と認識コードを貸す。訊かれたならば私から借りたと云えば良い」

二ムバスの、いや、ジオンの特殊任務部隊の行き先がルウムの廃棄されたコロニー内に有る、秘密研究所に有る事を俺はマリオンから『訊いて』いた。
陸戦兵力、いや、歩兵支援さえ有れば、先に占拠されているかも知れん研究所の制圧も可能だ。
熟練歩兵をここで切り離されたら…最悪、探索者に死人が出る。
俺の『仲間や部下』をこんな『下らん事』なぞで戦死させるのは御免だ。
…例え何年か経って、『嘗ての戦友が敵味方に別れ、戦う事に為ったとしても』、だ。

『ユウ中尉…と言ったな?用件は何かね?私は忙しいのだが?』
「ヘリやミデアのパイロットや軍用車のドライバーは仕方無いが、第十一独立機械化混成部隊を『そのまま』宇宙(ソラ)に上げろ。でなければNT研究所で行われている事を洗いざらい総てマスコミにぶちまける。非人道ネタはさぞや奴等にとって美味しい事だろうな?」
『やってみたまえ。こちらは痛くも痒くもな・・・』
「アンタのその発言、RECしたぞ?さらに美味しいネタ一つだ。アンタ等上層部がサイド2のGガス攻撃を察知していた事実。世論作りに黙殺し、利用した。証拠だって用意可能だ。アンタ方『上』は、軍隊の横の繋がりを、舐めてるだろう?同期や先輩後輩の絆ってのは、階級差を超越する!さあ、どうする?ああ、俺を消せば、当然の如く総て暴露だぞ?マスコミを操作可能なのは連邦軍人なら誰でも知ってはいるさ。だが、絶対民主主義下では、『公然』と言ってはイカンよなぁ?」

ユウの出世の道を断った心算は無い。
逆に異様な程にその後の昇進は早く為る筈だ。
…ティターンズで同じ手でジャミトフに掛け合った俺が保証する。
…俺の場合は『アル・ギザ』で一緒に為ったパイロット仲間の『愚痴』だ。
内容は『デラーズフリート』の一件の裏話だった。
後は推測、資料蒐集…そして『想像力と交渉術』だ。
…俺はそれで『ティターンズで好き勝手をやる自由』を手に入れた。

「さあ、どうする?俺は黙る事にやぶさかでは無いがね?条件は先に提示した!簡単だろう?命令を一つ書き換えるだけだ」
『…解った。後、何が欲しい?金か?名誉か?い、言いたまえ!君!どうにかして見せようではないか!』
「フン!前線の兵士がそんな物が必要だと思う時点でアンタ等の腐りの程度が知れるってモンだな!MS搭載可能戦艦の一つでも廻してくれるとでも言うのかよ!まあ、ソロモン要塞を落とす兵力は死んでも割けんだろうがな!用件はそれだけだ!切るぞ!」

数時間後、解散命令は撤回され、数十名の移動命令が新たに発令された。
ヘンケン少佐はニヤリと笑い、俺に親指を立てたのは言うまでも無い。
…2日後、宇宙に上がった俺達は『連邦軍の腐れ度合い』を舐めていた事に気付かされた。
宇宙に上がった俺達のシャトルを待っていたのは…!
『MS搭載可能のマゼラン改』と『GM2機』だった。
…艦長は一挙に『何故か』あの『ガディ』だったりするのが俺にとっての『ご愛嬌』だった。





■第七十章




「この度、当艦の艦長を拝命した、ガディ・キンゼー大佐で有ります!戦時だとは言え、私のような若輩者が大佐などと…ユウ中尉、笑わないで頂きたいモノだな?この私とて戸惑っているのだ!」
「いやあ失敬!反則だぞガディ?丁寧な口調で喋り始めるからつい、笑ってしまったのさ…。いや、済まん。謝罪する。どうぞ話を続け為さって下さい、大佐殿!…ああ…悪い…他意は無いんだ、許せよ?ガディ…?」
「貴官にファーストネームで呼ばれる程、親しい間柄では無い!以後、言動を謹んで貰おう!カジマ中尉!」

おっかなびっくりな顔で俺を叱責するガディのその表情が、俺の笑いのツボをまた正確に突いて来る。
例の紋切り口調で、さらに何時も自信たっぷりで指揮する姿を知っている俺、『7年後のヤザン・』に取って見れば…今の姿とのギャップが悪い冗談以外の何物でも無かった。

「いやぁスマン、ガディ。で、要はこの艦の艦長を仰せつかったのは、他に適当な人材を廻せなかった訳では無いのだろう?何せこの艦のタイプは最新型で、艦名もまだ、艦番83以外の何も付いていない状況だしな?」
「…ヘンケン少佐!早急に部下の言動を指導して頂きたいものですな!このままでは貴官の指導力を…」
「貴官も北米戦の噂を聞かなかった訳では無いだろう、大佐?それに格納庫で見たな?…あの『蒼い死神』を…」
「!!では…あれが…軍機指定の…!ブルーデスティニー…!そしてそのパイロットが…貴様だと?!」
「これからの指導力を問われるのはお前さんだよ、ガディ?ま、精々頑張るんだな?期待しているぞ?ン?」

血の気の引いたガディの狼狽振りをひとくさり愉しんだ後、俺はブリッジを出て行った。
当然行き先は…MS格納庫だ。
面白い『余興』が有る、とアルフから聞いていた。
この艦に搭載されたGMが見えてくる。
どこか見覚えの有る、GMだ。

「逢いたかったよ、マギー!お帰りぐらい言ったらどうだ?俺はお前のご主人サマだぞ?」
「フィリップ少尉、軍のMSに適当に名前を付けないで下さい!私物じゃないんですから!」

二人のコックピット前の漫才を聞きながら、俺は粋な計らいをした軍の補給・輸送担当官に酒の一杯ぐらい奢っても惜しくは無い、いい気分に為る。
アルフに依ると…更なる『余興』はブルーのコックピット内に有るらしい。
コックピット。
ああ、『アレ』の事だ。
今、思い出した。誰が最速で『アレ』を堕とせるかが、教導隊で一時期、流行ったものだった。
俺の目の前でブルーのコックピットハッチが開く。
黄色いノーマルスーツがヘルメットを脱ぎ、振り回す。
…『曹長』だ。

「たぁー!反則だぞありゃあ!コッチが一発撃つ間に四発も撃って来やがる!ガンダムだろ?コイツも!」
「…テムの創ったモノに負けん性能は持っているのだがな?後はパイロットの腕の問題だ」
「何だよ…俺の腕ががヘボだって云うのか!」
「その通りだ!パターンすら読めんのか?お前のMS宇宙戦の訓練が足りんのは言い訳に為らんからな!」
「ゲ…中尉…嫌だな…聞いてたのかよ…」」
「…真打登場だな?さあ、やってくれヤザン。相手は若干15歳のパイロット、そして…ガンダムの開発者テム・レイの息子、アムロ・レイ曹長だ。戦時任官で、元々軍人でも無かった。そんなデータに、負けたのが貴様だ。『曹長』…」
「俺は餓鬼に負けたってか?!それも戦時任官の軍人未満に?!」

俺だけは知っている。
相手が『ニュータイプ』の片鱗を見せ始める以前の『アムロ・レイ』で有る事をだ。
この『模擬戦闘シミュレーター』には、カラクリが有る。
…あるパスワードを入力すると…多分…『ニュータイプ』の能力を発揮した全開のガンダム』と対戦可能な筈なのだ。
ガンダムの戦闘データは最優先で常に訓練機関と開発機関で同期を取っている。
俺は、この場でその事をアルフと曹長に話すつもりだ。
この俺が相手にしたいのは『餓鬼』じゃ無い。…『ニュータイプ』だ。

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