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vol.4⑤The Eve

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vol.4⑤The Eve


 久しぶりに晶良と歩く新宿の街は、いつもと比べて浮かれた空気が流れていた。それもそのはず、きょうはクリスマス・イヴ。
 風はなかったが空は雲に覆われ、ホワイトクリスマスを予感させた。それによる期待感からか、街の雰囲気をやけに陽気にもしていた。
「アンタ、風邪ひいて寝込んでたのぉ? どおりで3日もメールに返事がなかったわけだ」
(こういう言い方はしたくはないが…)セックスフレンドのなつめと千春に別れを宣告された日。ぼくは体調を崩してしまった。
 晶良と会いたい気持ちはあったが、それ以上に弱りきった自分の姿をさらしたくなかった。
 だから、火曜日(寝込んでから4日めだ)にようやくパソコンを立ち上げて晶良からメールがきていても、風邪をひいたと本当のことを書いて返信することができなかった。
「で、もぉいいの? 体…」
 心配そうな顔でぼくの顔をのぞきこむ晶良。恋人の仕草というより、弟を案じる姉だ。そんな晶良をしばらくぶりに感じて、ぼくはくすりと小さく笑う。
「ん~。なによぉ。人がせっかく心配してあげてるのに~」
 照れているのだろう、頬が赤くなっている。
「ごめん、ごめん。お姉さま」
 茶化して言うと、晶良は
「すっかり元気になったのはよ~くわかったわ」
 あきれたように言った。
「でもさぁ、メールしてくれれば、お見舞いに行ってあげたのに」
 少し残念そうに言う晶良。考えてみれば、自分の家に晶良を招いたことはなかった。なんとなく照れくさいのと、大学受験を控える晶良に配慮しているせいだった。
「いや、お風呂にも入れなかったし。それに…」
「それに、なによ? お父さまとお母さまにはアタシのこと、話してるんでしょ?」
 晶良は不満そうだ。
「あ、うん。家に連れてきなさいって、いつも言われてるんだけどさ」
「だけど、なによ?」
 せっかちなうえに、ぼくが答えにくそうにすると詰問調になるのは最近わかってきた。
「愛するひとには、自分の情けないカッコは見せたくなかったんだ」
「んもお、バカなんだから。愛してるからこそ、そーゆーときに役に立ちたいものなんだってば」
 まあ、晶良の言うことのほうが正論ではあるんだけれども。男心だって複雑だ。


「で、きょうはどこに行くの? アルバイトも休んでたんでしょ。きょうはアタシにプレゼントを買わなきゃならないし、ね(笑)。アタシが出すから映画でも見にいこっか?」
 屈託のない笑顔を見ていると不安になる。
(晶良さんには、ぼくなんかよりももっとふさわしい男性がいるんじゃないか…)
 そんなネガティブな考えが頭をよぎる。晶良が返事を催促するように言ってくる。
「映画。どーするの? 見にいくの、嫌なの?」
「あ、うん。そーいえば、あの監督の新作アニメ、見たかったんだ」
 ぼくだって普通の高校生。アニメも好きだし、スポーツだって見るのは好きだ。できれば恋人と同じ趣味だといいんだけれども。
「えぇ~。アニメぇ!? ラブロマンスがいいなんていわないけどさぁ、アクション映画とかにしようよぉ」
 あからさまに不満そうな口調の晶良に押されて、
「うん。晶良さんが見たいのにしよう」
 素直に従ったのに、晶良はさらに不満を深めた表情をする。
「? どーしたの? ぼく、なんかした?」
「べっつにぃ。いいんだけどさ。アンタ、もっと自己主張したほうがいいよ」
「あ、うん。でも…」
 性格的にできそうにない。
「あたしのほうが2つ上だけどさ、引っ張っていってほしいときもあるんだ」
 視線を落として、ひとり言のようにつぶやく晶良。
(やっぱり晶良さん、ぼくじゃものたりないんだろうな)
 またネガティブな思考に支配される。会話が途切れたことに気づいた晶良はハっとして、
「あ、ごめんっ。気にしないで。アタシ、そのままのアンタが好きだから…」
 無理に笑顔をつくっているのがわかる。いや、そう考えてしまう。
「ぼくが悪いんだ。優柔不断だし…。晶良さんにふさわしくないよね、ぼくなんか」
 言葉が進むにつれ、ふてくされた口調になっていってしまう。
(ほんとはこんなことが言いたいんじゃないのに…)
 そう思った瞬間、目の前に晶良がまわり、ぼくの歩みを止めた。
「アンタっ、怒るよ!? 本気でそんなこと言ってんの。あんまり情けないこと言ってると」
 まくしたてる晶良。ぼくは別れを告げられるのではないかと狼狽し、怖くて晶良を見ることができなかった。
「ご、ごめん。ぼく、晶良さんに嫌われたくない。ごめん」
 目をつぶって謝ることしかできない。
「もーっ! いい加減にしなさいよね! ホント、イラつく!」
 すがるような目で晶良を見る。てっきり怒りに満ちた表情をしていると思った晶良は、静かで穏やかに微笑んでいた。


「アンタだから、いままでやってこれたんだよ? 完全な人間なんていない。とくにアタシはあれもダメ、これもダメ。アンタだって不満があると思う]
「そ、そんなことないよ!」
 ムキになって否定するぼくに、晶良はゆるゆると顔を横に振り、
「いまは気がつかないだけかもしれないし、わざと目をそらしているのかもしれない。でもね、我慢するってことは、健康によくないでしょ? 心にも体にも」
「うん」
 晶良の言ってることはなんとなく理解できた。付き合いはじめたばかりの彼女とつまらないことで別れてしまったクラスメイトのことを思いだした。
「だからね。アタシ、我慢しないことにしたんだ。なんでも言いあえるのがホントの恋人ってものじゃない?」
(確かに晶良さんの言うとおりだと思うけど…、8対2くらいの割合でいっぱい文句言われそう)
 8対2どころではなく、少し不満をもらすと倍になって返ってくることになるとは、このとき知るよしもなかった…。
 なにはともあれ、仲直り。ぼくたちは手をつないで歩きだした。
「ねぇ、晶良さん。さっき、ぼくが情けないことばかり言ってると、どうするって言おうとしたの?」
 気になっていたことを恐る恐る聞いてみる。
「え? な、なんだっけ」
 とぼける晶良。
「晶良さん、最後まで言わなかったから気になってるんだ。別れる、っていう気だった?」
「バ、バカ。別れるなんて言うわけないでしょ」
 晶良は顔を赤らめて否定する。
「じゃあ、なんて言おうとしたの?」
「んもぉ、しつこいなぁ。いいじゃん。気にしない気にしない」
「そんなふうに言われると、よけい気になっちゃうよ」
 ため息をつく晶良を見ていたら、かわいそうになってきた。
(あんまり追い込んじゃまずいかな)
 そう思ったが、晶良はもじもじしながら、いかにも話しづらそうに、ぼそぼそと口を開いた。
「あのさ…、んっとね…」
「うん」
 ごくりとつばを飲み込んで晶良の次の言葉を待った。


 さまざまな雑音、騒音が入り乱れる新宿の雑踏。耳に全神経を集中させていなければ聞き取れないほど小さな声で、晶良が途切れ途切れに言う。
「…させて、…あげない、…から、…なんて」
「はい~?」
 思わず顔を晶良に向けて聞き返したが、耳まで真っ赤にした晶良はもうしゃべらなかった。
(させてあげないって…、セックスのこと? だよね。う~ん、別れるよりつらいかも…って、そんなわけないじゃん)
 自分でボケて自分でつっこんでいる。
(バカだ…。い、いや、そ、そんなことよりも! しばらくしてなかったから、晶良さんも…ごくっ)
 握った手に力が入ってしまう。
「痛いってば、そんなに強く握っちゃ」
 晶良に抗議され我に返った。
「あ、ご、ごめん」
 そうこうしているうちにシネマコンプレックスの前まできた。
「ん~。次の上映は…、満員ですぅ? ダメじゃん」
 こういうときこそイニシアチブをとったほうがいい。
「その次の上映を見よう。指定席の前売りチケット買っておけばいいんじゃないかな」
「うん。そーだね。ちょっと待ってて。アタシ、買ってくる」
 即断したぼくに満足げに笑んで、晶良は小走りでチケットを買いにいった。ほどなくして戻ってきた晶良がうれしそうに言う。
「キャンセルがあって、隣り合わせの席が取れたよ」
「へぇ。よかった」
「だよね。隣で見なかったら意味ないもんね。ね、どこで時間つぶそっか?」
 今度は即答すると、ちとまずい。
(ホテル! とは、いいにくい…けど、晶良さんのこと、抱きたい)
「歩こっか」
 晶良にうながされ手をつないで歩きだす。行き先を決めている感じではない。
 少し歩いたところで人だかりができているのが目に入った。
「あそこでなんかやってるみたい。なに、やってるのかな?」
 歩くスピードを少し上げて、人だかりの後ろにとりつき、つま先立ちをしてのぞき込んだ。


「ちゅい~っす!」
 いきなり元気な女性の声が響いた。
(この声、この言い方…、まさか)
 続いて、
「どぉもぉ~」
 カン高い男の声がした。どうやら漫才かなにかの路上ライブをやっているようだ。
「面白そう、かな。ちょっと見てこーか?」
 晶良が目を輝かして言ってくる。異論はない。いや、声の主を確かめたかった。
 深々と頭を下げた男と女のコンビは、まじめな調子で『枕』をふってくる。観衆の反応、イマイチ。
(つかみは…うまくいってるとはとてもいえない…。とゆーより、面白くないよぉ~)
 晶良も反応に困っている様子だ。
「よーし、ほんじゃそろそろいってみようか!?」
 話が進むにつれ、観衆が一人、また一人、輪から離れていく。ぼくたちは押し出されるように少しずつ前にいき、つま先立ちしなくても見られるようになるのに時間はかからなかった。
 ひたすら自分たちのネタを繰り出すコンビだが、周囲から聞こえてくるのは、笑いといっても失笑もしくは苦笑のみだった。
 なんといってもボケとツッコミという漫才の基本が守られていないのが致命的だ。いや、そんなものをブッとばすパワーがあれば問題ないのだが、それもない。
 ここ『笑うトコ』という場面ではことごとくボケとボケの応酬が繰り返され、惨憺たるライブとなってしまっていた。
 袖を引っ張られ、かがんで晶良に顔を近づけると、
「いこっか」
 とうながされるが、立ち去りがたい気持ちを抑えられない。
「もうちょっと」
 片目をつぶりお願いする。晶良はしかたないなぁといった表情を浮かべ、舞台に視線を戻してくれた。
 そのとき、舞台の上の女性を目が合った。厚い化粧をしているが間違いない。
(やっぱり、レイチェルだ)
 忘れられるはずがない。『初めて』の女性。懐かしさとともに複雑な思いが頭をよぎった。
(編集長を目指したほうがいいよ、レイチェル。漫才は…、サムいよ)
 そのときの位置はぼくとレイチェルが向き合い、その中間50㎝ほど右にずれて相方の男性の背中が見えていた。


 レイチェルの射抜くような視線は微動だにしない。ぼくは身じろぎもできなかった。
「なんやぁ、シケたツラしくさってぇ!」
 それまでのフニャけた漫才の口調とはガラリ一変した女性の声が響く。それがぼくに向けられているのは明らかだ。
 いきなりやってきた緊張感に観衆が再び舞台に集中した。
(こんな展開、あり!?)
 金縛りに遭ったように動けない。視線すらもずらせない。
 困っているのはぼくだけではなかった。相方の男の人も困り果てた様子で、ボケるどころかツッコミすら放てないでいる。
「せぇっかくオトコにしてやったちゅーのに、なんっつぅなっさけないツラしとんのや」
「アホぉ。オレは生まれたときから男だっつーの」
 レイチェルの言葉はぼくに向けられている。だけど、それをわかっているのは2人だけだ。
 ボケることもできず必死に対応しようとする相方。
「じゃかましいわ!」
 上段まわし蹴り一閃。見事なノックアウトキック。相方は一撃でリング…いや舞台に沈んだ。
 なぜか大ウケの観衆に背を向けたレイチェルは、
「しまいや、ボケっ!」
 と捨てゼリフを残して引っ込んでしまった。ボー然とするぼくに晶良が話しかけている。
「なんか、よくわかんなかったけど、最後は笑えたね。あーゆーの、ドツキ漫才っていうのかな」
 舞台ではまだ相方の男がのびていた。それを見て晶良がまた笑う。
「本気でやってるんだねぇ。笑いをとるためにカラダ張るって、なんかすごいね」
 晶良に合わせて笑いたかったが、顔が引きつっている。
(あれ…、さっきの…、やっぱ、ぼくに言ってるんだよね、絶対)
「どしたの?」
 敏感にぼくの変調を察知して聞いてくる晶良。
「あ、いや、なんでもないよ。うん、なんでもない…」
「そっか」
 追求されずホっとする。次の出しものはないようだ。その場にいるわけにもいかない。


「いこう」
 晶良の手をとって歩きだすが、あてがあるわけではなかった。いまはその場を離れたかった。考える時間と場所がほしかった。
 でも、デートの最中にそんなことは無理。一緒にいる晶良に気を使わないわけにはいかない。いまできること。つとめて明るく振る舞うこと。
「ね。どこかいきたいとこある? ぼくは晶良さんへのクリスマスプレゼントを買いにいきたいな」
 かなり頑張ってつくった笑顔を向けて話を振るが、晶良が乗り気でないのがわかる。
「どおしたの? 晶良さん」
 心配になって聞いてみる。我ながら心細げな声だ。晶良は少し考え、それから言う。
「アタシ…。アンタと2人きりになりたい。プレゼントはうれしいけど、あとでもいいよね…」
「うん…」
 映画が始まるまで時間は、ある。考えごとは映画館でしよう、そう決めた。
「いこう」
 目的地が決まったいま、ぼくはそれに向かって突き進む。
 ホテルが建ち並ぶ街の一画にきて、なにかがいつもと違う気がした。
「あれ?」
 立ち止まり"異変"の正体を探ろうとする。
「どしたの?」
 怪訝そうに聞いてくる晶良。周囲は体をぴったりと寄せて歩くカップルばかりで、ぼくたちのことを気にしているのは一人もいない。
「あの…『満』って、なんだろう」
 ホテルの入り口には赤く『満』の文字が光っている。よく見ると、その上には『空』の文字が暗くなったいるのがわかった。
「満室、ってことかな。『空』は空室あり、ってことか」
 晶良にではなく、自分に向かってつぶやく。
「なんか、どこもいっぱいみたいだね」
 あきれたように、不満そうにいう晶良。
「と、とにかく、いつものとこにいってみよう」
 再び歩きだし、もう5回もきている(晶良とは1度しかきていないが…)ホテルを目指す。
「あっ、『空』って出てる。やった!」
 小躍りしたい気分だ。声を弾ませると、
「そんなに、はしゃがないの」
 顔を真っ赤にした晶良にたしなめられた。


 入り口をくぐり中に入る。部屋を選ぶパネルを見上げて絶句した。1つしか明かりがついていなかったからだ。
「なんか、すごい、ね」
 そう言いながら晶良がボタンを押した。選択の余地がないからできたのだろう。
 4階の部屋だった。入ったことはない。
(全部屋コンプリート・キャンペーンとかあればいいのに)
 などとバカなことを考える。それがあったとして、浮気の証拠をさらけだすだけなのに。
 エレベーターの中、いつもと違って手をつないでいるだけ。2人とも気持ちを高めていこうとするかのように、なにもしゃべらない。たがいの息遣いが興奮を誘っている。
 部屋に入ってからも焦らない。コートを掛けてからソファに並んで座る。それから、じっと見つめあう。視線を絡めるだけで室温が上がった、気がした。
 どちらともなく顔を近づけていった。荒くなった息が顔を撫でていく。2人の距離がようやくなくなった。
 唇が重なると同時に抱きしめあう。腕に晶良を感じ、体にも晶良を感じた。
 舌がゆっくりと絡みあう。
 いつもと違う。これまでのキスは相手を屈服させるかのごとく、だった。相手の思考を奪い、力が抜けるのを待って肉体をむさぼるためのような、そんなキスをしていた。
「愛してる。晶良さん、愛してる」
「あぁ…、うれしぃ。アタシも…、好きだよ。愛してる」
 もっとしていたい、というタイミングで唇を離し、愛をささやく。瞳を潤ませた晶良が漏らすせつなそうな声が、どうしようもなくぼくを昂ぶらせた。
 セーターを脱がす。静電気がパチパチと音をたてて、晶良の髪を乱した。手ぐしをいれようとする晶良の仕草が色っぽい。
 シャツのボタンを外す。晶良はされるがまま。シャツを脱がし、背中に手をまわしてブラのホックを解除する。
 されるがままでは恥ずかしかったのだろう、晶良は自分でブラを取り去った。腕を上げて胸を隠そうとするが、その動きより速く、ぼくは顔を近づける。
「あぁ、あぁ…、あぁん」
 乳首を口に含んで舌でころがすと、晶良は顔を下げ吐息を漏らした。ぼくの口の中では乳首が次第に大きくなっていく。
「ん…、んあぁっ、あっ!」
 左手がやわらかなふくらみをさすり、撫で、揉む。晶良の声が上ずってくる。


 晶良の右のおっぱいを舌が愛撫する。こちらはいきなり乳首を攻めるのではなく、麓から迂回するように嘗め上げていった。
 右手は大きくなった左の乳首をつまんで、さらに硬さを加えさせていく。
「あぁ~、あぁ…ぁ…あっ! あんっ!」
 唇がついに乳首を挟んだとき、晶良はびくっと体を震わし、一際大きな声をあげた。
 両の乳首がこれ以上ないほど硬くしこったのを舌と指で感じとり、ぼくは次の段階に移行する決意をした。
 そっと体を離し、晶良の"熱"が下がらないように素早く服を脱いだ。パンツ1枚になる。
「晶良さん、ベッドにいこう」
「ぅん」
 迎えるように上体をかがめると、晶良はのろのろと腕をぼくの首にまわしてきた。
 軽々と抱き上げる。すぐにはベッドに向かわず、その場で熱のこもったキスをする。晶良が腕に力を込めるが苦しさは感じない。むしろ、もっと強く締めあげてほしかった。晶良を感じさせてほしかった。
 舌を深々と晶良の口内に差し入れたまま、ぼくはベッドへと歩みだす。
 舞い落ちる羽根のように、晶良をベッドに降ろす。間接照明の薄明かりで肢体をじっくり観察したかったが、晶良は離してくれない。キスに没頭している。
 舌を絡め互いの唾液を混ぜあう。と、ぼくの舌が強く吸われ、晶良の腕からふっと力が抜けた。
 絡みあった舌がほどけ、ぼくは顔をあげてキスを解いた。
「あ…ぁ、あぁ…、は…ぁぁ、はぁ、はぁぁ…」
 軽い酸欠だろうか。そういえばぼくも少し苦しい。目を閉じて深く息を吸い込み、大きく吐き出す。
「ふぅぅぅぅ…、…はぁぁぁあ…」
 目を開けると、泣いているんじゃないかと思えるほど目を潤ませた晶良と視線が絡みあった。
「愛してるよ」
 満足そうに目を閉じ微笑む晶良。目の端から本当に涙がこぼれた。
「…うん」
 晶良がコクンとうなずいた。ぼくは顔を下げていき、晶良の左右のまぶたに5秒ずつ口づけをした。
 続いて頬に唇を落とす。唇を少し開き、そこから顔をのぞかせた舌先が少しずつ移動する。
「はっ! はぁぁん」
 すぐそこで聞こえる晶良の喘ぎは熱を帯びている。ぼくの興奮を引き上げる声が発せられた艶やかな唇が、次のターゲットだ。


 晶良の薄い上唇を自分の唇で強弱をつけて挟み、舌先でつつき、そして嘗める。
「んっ! ん~、はぁぁぅ」
 めくり上げるように舌を使い、上唇の裏側や歯茎を舌で愛撫する。くぐもった晶良の喘ぎが、これはこれで悩ましい。
 上に比べてぽってりと柔らかな下の唇も楽しむ。ただ重ねているだけで気持ちのいい晶良の唇を思う存分味わった。
 チュっと音をたててキスをして、唇は終わりだよと告げる。次は耳だ。
 はぁっと熱い息を吹きかける。
「はっ! …はぁぁぁ…」
 びくっとして目をぎゅっと閉じる晶良。耳たぶに歯を当て甘がみすると、
「ぅうんっ! あんっ! あ…あぁ…」
 思った以上の反応だ。
「あいしてる」
 息で撫でるようにささやく。
「んあっ! あ──っ!」
 もう一度。
「愛してるよ、晶良」
 さん付けはしらける気がして、後で怒られてもいいやと言ってみる。
「あっ…、ふぅ」
 晶良から力が抜け落ちていった。じっと動かない晶良の首筋を唇と舌を駆使して愛撫する。反応がないのは少し寂しいが、晶良の肌を十分に堪能できるのはうれしい。
 右手が晶良を求めている。その求めに応じて、おっぱいに運んでやる。喜々として揉み始めるぼくの右の掌。ぼくの右手の指。弾力あふれる柔肌に指がくい込む感触がたまらない。
 少し乱暴だったか、意識を取り戻した晶良がうめく。
「う…ぅうん、あんっ…、あぁ、も…っと」
「えっ?」
「あぁ、もっと! もっと強くっ!」
 戸惑いながらも晶良の要求を聞き入れ、おっぱいが変形するほど強く揉みしだく。
「あぁ、いいっ! いいのぉっ!」


 すべすべの肌にじんわりと汗と浮かび、きらきらと輝いている。
 晶良の体を隅々まで味わうぼくの舌は歓喜に打ち震えている。指と掌は弾力に喜び感触を堪能する。
「んあ──っ!」
 ついにぼくの唇が乳首に到達。軽く歯を当てた瞬間、晶良は大きくのけぞり声をあげた。
「あっ…、あっあっあっ、あぁっ、んあ──っ!」
 硬くしこった乳首を包み込むように舌を動かすと敏感に晶良が反応する。強く吸うと感極まったあえぎがこぼれる。その声がぼくに自信をもたらしてくれる。
 無駄な脂肪などいっさいついていないお腹を嘗めまわし、おへそを中心に円を描くようにキスの雨を降らす。
「あふっ、あっあっあっ…あ──っ、あぁんっ」
 ここでぼくは"順番"を変更。体をずり下げ、晶良の足を攻めることにする。
 姫にかしずくようにうやうやしく足首をもち、甲に音をたててキスをする。そのまま唇を押し付けて痕が残るほど吸う。
「あ…、あぁ~」
 体に感じる快感より気持ちが満足していくのがわかるような晶良の声。
 ぼくの唇と舌は足首からふくらはぎ、膝を経て内腿に到達。ここまでと違った柔らかな感触が官能中枢を大いに刺激する。舌を大きく伸ばしペロペロと嘗めると、晶良の声が大きくなった。
「あぁっ! あ…あぁぁっ! あんっ! あ~んっ!」
 晶良の両足を大きく広げる。"目的地"はすぐそこだ。でもぼくは焦らない。いや、晶良を焦らす。
 右足も同じように、足首から愛撫する。
「あ~んっ」
 少しじれったそうな晶良だが、どこをどうしてほしいかを口にはしない。そんな恥じらいがますますぼくを興奮させていく。
 晶良の両足の間に体を割り込ませ、晶良の秘所を下から上へ一気に嘗め上げる。
「ひあっ!」
 晶良の体がのけぞるが、ぼくの両手がくびれたウエストにしっかりくい込み、動きを制限していた。
 あそこにチュっとキスをしてから顔を上げる。
 右手がウエストから外され次の使命を待っている。人差し指を立てて割れ目に押し当てた。
(熱い)
「あ───っ、あぁっ、あ───っ!」
 晶良の声に後押しされて、指が熱い蜜壷に埋没していく。


(晶良さん、すごく濡れてる)
 中の熱さ、こぼれ出てきそうなほどあふれている愛液に驚く。人指し指はするりと入っていくが、途中で締めつけの強さに気がついた。
 潤滑がよすぎて、そのことがなかなかわからなかったが、指2本を入れることが不可能と思えるほどだった。
(こんな狭いところに、ぼくの、入っちゃうんだ…)
 いまさらながら女体の神秘に感嘆する。
 いやらしい行為に夢中になっている間、晶良はあえぎっぱなしだった。
「んあっ! んあぁっ! あ~んっ! あんっ! あっ! あ───っ!」
 指に加えて口が攻撃参加する。
 染み出てくる愛液を嘗めとり、クリトリスをチロチロと舌先で撫でていく。
「んくっ! やっ! だめっ! あっ! い…いいっ!」
 別人のような晶良のあえぎが壁に、天井に反響する。
 いますぐ挿入したい気持ちと、前戯をもっと楽しみたい気持ちが葛藤していた。ぼくは怒張しきったムスコに、
(もうちょっと待ってろ)
 と命じ、後者を選択した。
 膣を指でかきまわしながら、左手が晶良の足首をつかみ、体を裏返していく。
「ん…あっ!?」
 予想していなかった行為に晶良が戸惑っている。
「うつ伏せになって。晶良さん」
「えっ!? そ、そん…な…、やぁ、だめぇ」
 指の出し入れの速度を少し速めると、晶良はあっさり陥落した。力が抜け落ちたのがわかった。
「あ~ん、やぁ」
 丸くてかわいいお尻の間にぼくの指が見え隠れする。晶良の足の間に膝を割り込ませ、さらに左手で太腿の後ろを押していく。動かしやすくなった人指し指にひねりを加え、いままでよりも深く挿入。
「んあっ! あっ! ひっ!」
 晶良は両手でシーツをぎゅっと握り、羞恥と快感に耐えている。
 大人の女のなめらかさはないが、弾けんばかりの肌に目を奪われる。
 指は入れたまま晶良に覆いかぶさるようにのしかかる。首筋から肩にかけて唇でついばみ、舌を這わせ、我慢できずに歯をたてた。
「あぁ~、あふぅ、あっあっ、あーっ」
 背骨に沿って嘗め下げると、晶良の声が1オクターブ高くなった。


 晶良のお尻にキスしながら、ぼくはどうしようか迷っていた。
(このまま四つん這いにはなってくれないよね、晶良さん。指を抜かないとお尻を持ち上げられないし…。う~ん)
 悩んだ末、指を抜くことにする。名残惜しいので、思いきり奥まで挿入して、かきまわすように動かしてから一気に抜いた。
「あっ! はぁぁぁっ」
 残念そうというより、ほっとした感じの晶良の吐息。しかし、ぼくは休む暇など与えない。
「んあっ!? えっ? やだっ、恥ずかしぃぃ」
 晶良のウエストをつかんだ右手に力が込められ、晶良のお腹をシーツから引き剥がし始めた。秘所が丸見えになっていく。晶良は抵抗するが、それを許すことはできない。
 両膝で晶良の足を大きく広げ、左手も動員して一気にお尻を突き出させた。
「やっ! やだってばっ。ばかっ! はずかしぃよぉぉ」
 真っ赤になった晶良の頬をなるべく見ないようにして、ぼくは顔を下げた。
「だっめぇぇっ! だめっ! やぁっ!」
 あそこにキスをして、舌で割れ目をまさぐる。
「あんっ! …や…ぁ…、ひっ! あっ!」
 活発に動く舌がもたらす快感が羞恥を凌駕していく。
 もう一度、人指し指を入れる。あふれ出る愛液に濡れた指の腹でクリトリスを強くこする。
「ひぃ───っ! あっ…あ────っ!」
 入れたかった。熱い秘所に雄々しく猛ったムスコを突き立てたかった。もう我慢の限界だ。
 舌と唇での愛撫を続けながら、ぼくはムスコにスキンを被せていく。
 数秒後、白くて丸くてかわいくて、そして欲情をそそる晶良のお尻を眼下に見すえていた。ムスコに目をやりスキンがちゃんと装着されているかを確認。準備はOKだ。
「あぁ、あぁ、あぁぁ」
 挿入の期待を晶良の息に感じる。左手で晶良のウエストをつかみ、天を衝くように勃起したムスコを右手で握って押し下げ晶良のあそこにあてがう。
「いれるよ、晶良さん」
 言い終らないうちに腰を前ににじり出した。
「はっ…あぁ───っ! あ───っ!」
 亀頭が沈み、ゆるゆると幹が埋まっていった。


(あ…熱い…、すごく熱い、晶良さんの中)
 1ミリも余さずムスコのすべてを晶良に埋没させた。ぼくは晶良の感触を味わうためにじっと動かなかった。
「あっ、あぁっ、あんっ! あぁっ、あ…あっ」
 ビクビクと脈打つムスコが晶良に声をあげさせる。久しぶりに入った晶良の中に慣れてきたこともあり、
「動くよ」
 と、ぼくは宣言する。返事はない。
 腰を引くと、ムスコが空気に触れる。両手でつかんだウエストを引き寄せると同時に腰を思いきり前に突き出した。
「あ──────っ!」
 晶良の絶叫が響いた。シーツが引っ張られる。
 ぼくは徐々にスピードを上げて晶良を攻めたてていった。ムスコが熱い蜜壺を喜々として往復する。ぐずぐずに濡れていても、押し入れるとき、引いてくるときの抵抗感は格別なものがあった。
「あぁ、いいっ! 晶良さん、いいよっ」
 腰を前後に激しく揺すっていると、あまりの快感に声がもれてしまう。それは晶良も同じだった。
「あっ! あひっ! あっあっあっ…あ───っ! あっ! んあ────っ!」
 指1本だけでもきつきつだったのに、やすやすとムスコを呑み込み受け入れている晶良のあそこ。ぐちゅぐちゅという"悲鳴"をあげさせつつ、ぼくは感動していた。
(おんなって…すごいっ。なんか、うまくいえないけど…すごいっ!)
 どうすれば空気なんか入るんだろう。時折聞こえる
「ぐぼっ、ぐぽぉっ…びぃ、ぶびぃ」
 という音がひどくいやらしい。その音がもれるたびに発せられる晶良の羞恥にあふれたあえぎが、また興奮を引き上げる。ムスコの硬度を引き上げる。
「ぅあぁっ! やっ! やぁっ! …あっ、あんっ、…ぃやっ、あんっ、あ──っ!」
 若さのすべてを直線的な動きにぶつける…が限界はすぐにきた。射精をこらえられなくなったわけではない。息があがっていた。奥の奥まで突き入れ小休止することにした。
「はぁ、はぁ、はぁぁ、はぁーっ、はぁ、はぁぁあ」
 肩で息をする2人。落ち着いたところで、ぼくは前かがみになって晶良の耳元でささやく。
「愛してる。愛してるよ、晶良さん」
「あぁ…、アタシも。アタシもよ」
 振り返ろうとする晶良のほうに顔を寄せ唇を求めた。


 右手でおっぱいをまさぐる。
「ぅうん…、んっ、んあっ、あ~んっ」
 乳首を人指し指と親指でつまむと、晶良の目がぎゅっと閉じられる。その反応を楽しむが、せっかく絡めた晶良のかわいい舌が引っ込んでしまう。
 唇を離し、腰の動きを再開する。今度は少し腰を回転させるようにして出し入れする。ウエストをつかんでいた左手も離し、左右のおっぱいを揉みしだいた。
「あんっ! あっ、あぁんっ、あんっ、あ~んっ」
 ほんとうにかわいい声だ、と思う。少しかすれてきているのも艶っぽさを含んで、実にそそる声になっていた。
 体位を変えたいと思った。後背位は好きだけど、晶良の顔を見ながら交わりたかった。
 晶良のおっぱいを解放し、お尻に手を置いてムスコをぐぃーっと引き抜く。
 ビンっと音をたてそうな勢いでこぼれ出てきたムスコは晶良の愛液でてらてらと光り、最大仰角で反り返って自分のお腹にくっつきそうだった。
「あぁんっ」
 背後から晶良をやさしく抱き、ベッドに寝かせる。手を握り指を絡ませ見つめ合う。先に言葉を発したのは晶良。
「愛してるよ」
「ぼくも。晶良さん、好きだ。愛してる」
 満足そうに目を閉じた晶良が再び目を見開いて言う。
「きて」
 晶良の両足の間に入り、両手で体を支える。真上から晶良を見下ろす。その瞳に吸い込まれそうだと思った。
 もぞもぞと腰を動かし、亀頭の先端で晶良の秘裂を探る。すぐにわかった。いったん動きを止め、それからムスコが再び晶良の中に入っていった。
「んっ! …あ…あぁ…、あっ! あぁっ!」
 晶良が顔を横に向け、目を閉じてムスコの侵入に耐えている。晶良の手はぼくの腕をつかみ、完全にムスコが自分の中に収まったのち、ぼくの首にまわされた。
 晶良の手がぼくを引き寄せていく。ぼくたちの体は密着し、おたがいの体温と鼓動を共有した。
「あぁぁ、好き。アンタ…だいすきっ!」
 くっついた頬と頬。晶良の喜びの声が振動とともに伝わる。
「愛してる。愛してる。愛してる。愛してるよ、晶良さん」
 それ以外に何を言えばいいのだろう。ぼくの頭にはその言葉しか浮かばない。


 シーツにつま先立ちする感じで、ムスコを晶良の秘所に送り込み、そして引いてくる。浅く浅く、そして一気に深く、を繰り返す。奥まで突き入れると、晶良の腕がぼくの首をきつく絞めた。
「あっ、はっ、あんっ! はっ、はぁっ、あ~んっ! んっ、んあっ、あ──っ!」
 晶良の腕をほどき真横に広げてシーツに押しつける。上体を起こして晶良の顔に見入った。
(かわいい。ほんとにかわいい。離したくない。離さないっ)
 ストロークが大きくなっていく。浅くでは我慢できなくなっていた。大きく腰を前に出し、欲望のすべてを晶良の股間にぶつけた。
「あ──っ、あ──っ、あ──っ」
 晶良のあえぎが単調になってきたのを察知し、ぼくはより深い挿入を求めて晶良の足を持ち上げるように広げていった。
 少し晶良のお尻が浮き上がるところで固定し、激しい前後運動を再開。下を向くと結合部が見えた。
 晶良の肉色のあそこにヌラヌラと光るムスコが出たり入ったりしている。
 全体重をかけて息子を押しつけ、ねじ込むように腰を動かす。
「んぐぅっ、あひっ、あ──っ、んあ──っ!」
 顔をのけぞらせ悲鳴にも似た声をあげ続ける晶良。左右の手はなにかつかむものを探してシーツの上を滑っている。
 晶良の足を両肩にかつぐ。
 ぬちゅっ、にちゃっ、ぐちゅっ…。晶良のあそこがいやらしい音を奏でる。どんどん興奮していくのがわかった。
 ぱん、ぱん、ぱんという音がリズミカルに壁や天井に反響する。
「ひっ、ひあっ、んあっ、あぐっ、んっ! んあっ! ひぃっ!」
 千変万化する晶良のあえぎもなまめかしい。
 いくらコンドームをしていて感覚が鈍化しているといっても、久しぶりに味わう晶良とのセックスは強烈な刺激だ。
 もう体位を変えようという気にはならない。最後のときに向けて、ぼくはよりいっそうのスピードアップを腰に、ムスコに命じた。
 体を起こしてのピストン運動はムスコに角度がついて痛いほどだ。晶良の足を離し、上体を下げて体を密着させた。
「あぁ…、はぁ…、はぁぁ…、はぅ…、あ…あぁ…」
 晶良の顔を間近に見ながら、息が落ち着くのを待つ。


「あっ、ぅんっ、ぁんっ、い…ぃいっ、はぁっ、あっ!」
 晶良の息が荒くなくなったのを見てとり、ぼくはゆっくりと腰を動かす。晶良がぼくの背中に腕をまわしてくる。
「ね…ぇ…、あっ…、あっあっあっ…、キ…キス…、あっ、し…て…」
 声を出し続けたせいだろう、晶良の唇は乾いてた。外がカサカサで中は柔らか。シュークリームが食べたいな、と思った。
 動かなくてもムスコには快感が与えられている。晶良の中にいるだけで満足だった。でも、だからといって、射精までいかないわけでは、もちろんない。
(あぁ…出したい。晶良さんの中で…中であってそうではないけれど…。出したい)
 そっと唇を離し、ぼくは晶良の目を見つめた。晶良はぼくがどうしたいのかを察してコクンとうなずいてくれた。
 両肘で体重を支え、ムスコの出し入れを再開する。最初は小さくゆっくりと。
「はっ! あっ、いいっ! んっ…、んあっ!」
 かわいい顔が快楽にゆがみ、かわいい唇からあられもないあえぎ声が吐き出されていく。
 腰の動きは大きく速くなっていく。抜け落ちそうなところまで引き、突き破らんばかりに奥まで侵入する。ムスコが、亀頭が快感に打ち震えだしているのが自覚できた。
「んあっ! んあぁっ! あぁ───っ!」
 晶良の絶叫が頭をくらくらさせる。背中にくい込む晶良の爪の痛みが、少しだけ射精の時間を遅らせた。しかし、それもつかの間、反り返るような2次曲線を描いて快感は限界を突破した。
「あっ! いくっ! いくよっ」
「んあ────っ! あ────────っ!」
「いくっ! 晶良っ! あきらぁぁあっ!」
「──────────っ!」
 深く深く挿入したまま、ぼくは何度も射精した。
 真っ白な世界が広がっていく。
 目を閉じて晶良の肩のあたりに頭を落とした。
「はぁはぁはぁ、はぁ、はぁぁ、…はぁ、…はぁぁぁ、ふぅ、はぁ」
「ん…」
 晶良は気を失ってしまっていた。息が普通に戻って、ぼくはやけに重く感じる頭を持ち上げ、眠っているような晶良の顔をずっと見つめていた。


「ビーっ」
 無粋な音色のブザーが鳴り明かりが落とされた。
 心地よい疲労感と満足感に浸りながら、シネマコンプレックスのシートに座っていた。隣の席に目をやると、瞳を輝かしてスクリーンに見入っている晶良がいる。
 時間ぎりぎり、ダッシュで駆け込んだため、ほっとする間もなく上映時間となった。それでも手にはコーラとポップコーン。やっぱり映画にはこれよね、と晶良に言われ大慌てで買った。
 あとで晶良と話すときに困らない程度に映画を鑑賞。あらすじと手に汗握るポイント、笑うトコはしっかり押さえて、ぼくは考えをめぐらせていた。
(さっき、なんでレイチェルはあんなに怒っていたんだろう?)
 答えは浮かばない。いや、答えの選択肢すら思いつかなかった。もう一度、レイチェルの言葉を思いだす。
(せぇっかくオトコにしてやったちゅーのに、なんっつぅなっさけないツラしとんのや…だったよね)
 レイチェルには感謝していた。初めてが彼女でよかったとすら思えた。未熟な自分をやさしく導いて男にしてくれた。自信を与えてくれた。
 はっとした。
(…じ、しん? 自信? …そうか!)
 正解かどうかはわからない。でも、トンネルの先に光が見えた、気がした。
 恋人との別れに怯え、現状を守ることばかり考えていた。それは、けっして好ましい結果を生みだしはしないのに。
(そおか! …でも…)
 ふたたび答えの出ない悩みに包まれる。
 人の感情はもともとネガティブにできている、という。そのほうが生存に有利だから、だ。ポジティブに考えようとするといつも裏切られる、からだ。
 だから、こう考える。考えてしまう。
(ぼく…、自信なんか、ないよ)
 考えれば考えるほど深みにはまっていった。なんで晶良が自分の恋人でいてくれているのか、それこそが疑問だ。
──疑問ではない。それこそが答えなのだった。自分と晶良が恋人であること。これで十分なのに。
(晶良さんはかわいくて、素敵で、チャーミングで、気持ちよくて…。ぼくには、もったいないよね)
 映画のクライマックスシーンはうわの空になってしまった。

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