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vol.4①Declaration

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taka18r

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vol.4①Declaration






    旅人よ、心せよ。
    夜明け前がもっとも暗いのだ、と。
       <パロルド・フューイック>




          .hack//Missing Ring vol.4          <開始>






──「始まり」はここからだった。

『隠されし 禁断の 聖域』

「終わり」もここで迎える──。







 紅葉が散り落ち、冬もののコートを出したころ、彼女からメールが届いた。あまりにも唐突だったから、メーラーを見た瞬間はスパムメールじゃないか、と疑って削除しかけた。
 差出人は、アウラ。

──お久しぶりですね。
──どうしても…
──あなたたちと話す必要があります。
──今夜20時に『隠されし 禁断の 聖域』に
──いらしてください。

 2度読んで首をひねる。
(あなた「たち」って…、ぼくと…だれだろう? それに)
 そこでケータイが鳴りだした。
「はい。晶良さん?」
 間抜けたことを言ってしまう。ディスプレイには彼女の名前が表示されていたはずだ。
「そーよ。アタシよ。ねぇ、見た?」
 目的語がない。でも、晶良の言っていることはすぐに理解できた。
「うん。見た。あなたたちの『たち』って、晶良さんだったんだ」
「あったりまえでしょー。それとも、アンタにはほかにだれか心当たりがあるとかぁ?」
 意地悪なもの言いも晶良にとっては戯れだ。それはわかっているのだが、心当たりがないわけじゃない、というか、あり過ぎた。
「あははは。いやぁ、フィアナの末裔、って線もあるかなぁ、なんて思った」
「まぁね。あの2人なら呼ばれてても不思議じゃないよね。究極AIの成長速度ってわかんないけど、アウラももうお年ごろなのかもね」
「えっ…と。それって、どーゆー?」
「お婿さん探しかな、って。でも、オルカはむさくるしいし、バルムンクは朴念仁だし…」
(うわぁ、晶良さん、はっきり言い過ぎ。ひどっ!)
 続ける晶良。
「アンタが一番いい男だけどさ。アタシがいるからねぇ」
「あは。いい男かどうかはわかんないけど。7時半にマク・アヌのカオスゲート前で待ち合わせ、でどう?」
「うん、いーわよ。ザ・ワールドかぁ、ひっさしぶりだなぁ。まっすぐ歩けるかなぁ?」
「だいじょぶ、でしょ? 世界に咲いた黒薔薇さま、だもん」
「おーっ! よーし、いくわよっ」
 ザ・ワールドでは、いつだって出たとこ勝負、だった。今回もそうだ。ぼくはパソコンから離れた。


「あれ? おかしいなぁ」
 ログインしたぼくの耳に真っ先に聞こえてきたのは、初心者らしき呪紋使いのそんなつぶやきだった。
「なんで、あんなな~んもないフィールドがプロテクトされてんだよぉ」
 パーティーを組んでいる重斧使いが悪態をついている。
(プロテクトエリア…。そこに行けるのはぼくだけのはず。いや、ぼくのいるパーティーか)
 だとすれば、アウラが呼び出しをかけたのは、ぼくとブラックローズだ。そこに、
「おっす。相変わらず早いね、くるの」
 ぼくは黙って(笑)を表示させ、
「行こう!」
 と、まじめな顔で晶良…ブラックローズに向かって言った。
【カイト>>パーティー編成希望!】と誘うと、すぐさま彼女が応じる。カオスゲートのほうに振り向いて、エリアワード『隠されし 禁断の 聖域』を選択する。
 やはり。警告表示がFMD(フェイス・マウント・ディスプレイ)に現れる。
「プロテクトエリア~!? な、なんでよ」
 ブラックローズが驚きの声をあげる。
「彼女は、ぼくたち2人だけに用があるみたい」
 そう答えながらウィルスコアをセットする。久しぶりのゲートハッキングだ。
「だいじょぶ? コア、足りてる?」
 心配そうに聞いてくるブラックローズ。ぼくは笑顔を向けて
「よゆー」
 と答えた。ほどなくして画面が真っ白になり、ぼくたちは石造りの大きな建物の前、教会にしか見えない静謐な場所へと転送された。
 向かって右側の開き戸だけが、半開きのままになっている。
 扉をくぐった。
 ほんの一瞬で、画面は、聖堂内のマップに切り替わる。
「いつきても、ここって辛気くさくてさ。なんか嫌い」
「ぼくは、そんなに嫌いでもない」
 なにげない会話をして、ぼくはあることに気がついた。足を止めブラックローズに問いかける。
「気がつかない?」
「なに?」
「この聖堂のマップに入ってから、ボイスチャットが、パーティーモードからトークモードに切り替わっている」
「あ…そういえば」
「自動的に、そうなった。ほかのモードを選ぶこともできない」
「ほんとうだ…なんでだろう」
「"神"の御前では、隠しごとも、ないしょ話も、うそも許されない──そういう設定か」
 からからに渇いた喉から絞り出すように声を発していた。嫌な汗がキーボードに落ちた。


 以前、ここには8本の鎖に縛られた女の子の像が立っていた。いまではそれもない。2年前のクリスマス。究極AI、アウラが再誕したときに像は消えた。
 静寂が支配していた。パイプオルガンの音もきょうは聞こえない。
「お久しぶりですね」
 天空から声が響いた。
「アウラ!」
 ぼくとブラックローズはユニゾンで、少し驚いたような声を出した。
「ひ、久しぶり。あ、元気、だった?」
 ブラックローズの問いにアウラは天使のような微笑みを返してきた。
「おとなになったね、アウラ。とてもきれいだ」
 究極AIがほんのり頬を染めている。表情など人間以上に人間そのものだ。CGグラフィクスだなんて、とても思えない。
 アウラのリアクションに目を細めていると、殺気に満ちた視線を感じた。
「アンタっ! アタシの前でほかの女を『きれいだ』なんて言わないでくれる?」
 トークモードのため、怒気をはらんだブラックローズの声が高い天井に反響する。アウラはおかしそうにくすくすと笑っている。
 無駄と知りつつウイスパーモードへの切り替えを試みる。
(やっぱりダメか…。え~い、こうなったら、最後の手段)
「ごめんっ!」
 ひざまずき両手を頭の上で合わせて謝る。ブラックローズは、しようがないなぁ、のポーズ。助かった…。
 ほっとしていると、アウラが本題をきりだしてきた。
「フラグが立ちました」
「えっ?」
 ユニゾンで聞き返す。アウラは小さくうなずいて話し始めた。
「母親。子供。わたしにその2つの言葉が浮かんできました」
「母親…」
 ぼくはなんのことかわからずにつぶやいていた。
「子供…?」
 ブラックローズもそう口にして、やはり首をかしげている。ぼくは思ったことをアウラにぶつけてみる。
「そのフラグって、アウラが『子供』を産んで『母親』になるってこと、かな?」
 あきれたようにブラックローズが
「アンタねぇ、アウラってAIでしょーに。そんなこと、できる、わけ、が…」
 そこまで言ってブラックローズも気がついたようだ。相手はAIではない、究極AIなのだ、と。そして、ここは彼女そのものともいえるザ・ワールドなのだ、と。


 アウラは目を閉じて小さくうなずいた。
「わたしもそう理解しました。それから、ヒントなのでしょうか、『ゼフィ』という言葉が示されました」
 ブラックローズが声をあげる。
「それ…、アウラの子供の名前?」
「それは…わかりません」
 うつむいて横を向くアウラ。
(母親になるってことは…、アウラもだれかとセックスするってこと? い、いや、まさか。ザ・ワールドがいっくらリアルに近いからって、これはゲーム、だよね。そんなことするわけないか)
 自分の考えにほっとするとともに、少し残念な気持ちにもなった。
(えっ!? まさか、ぼく…アウラとしたい、とか…。そ、そんなこと、違うよ、ね)
 動揺してしまう。PCのカイトが余計な動きをしないようにコントローラーから指を外す。
「そのフラグが立ってから、わたしはいろいろなPCから役に立ちそうなデータを収集しました」
「へぇ~」
 アウラの話に感心して聞き入る。
「でも、役に立ちそうな情報はありませんでした。ザ・ワールドの有名PCの2人は、リアルでは…」
 バルムンクとオルカだ、とすぐにわかった。
「異性の話がまるで出てきませんでした」
 うんうんと納得するぼくとブラックローズ。アウラは話し続ける。
「PCは男性呪紋使いと女性重斧使いなのに、リアルでは女性同士で愛し合っている、というケースも。わたしのフラグには役立たないですよね」
 寂しそうに目を伏せるアウラ。愁いを帯びた美少女という風情も、ブラックローズ…晶良には申し訳ないが、やっぱりきれいだ。
「ある女性は、5つ年下の男のコの筆おろしの相手をしたとか。…あの、筆おろしってなんですか?」
 アウラが純真無垢な瞳でぼくの目を見て聞いてくる。困る。
「え? え…っとぉ、あぁ、あの、その…、ぁ~、初めての相手をする、ってこと、かな」
 しどろもどろで答える。よくわからないとアウラの顔にはあったが、それ以上の説明を求められることはなく、安堵の息をつく。
(でも、いまの話って…レイチェル!?)
「恋人のいる男性を好きになってしまい、ずるずると関係を続けているという女性もいました」
(そ、それって…)
 アウラはどんな基準でPCを選び、情報を収集したのだろう。それを思うと汗が噴き出した。
「関係とは、どのようなことを?」
 語尾を上げて質問であることをわからせるアウラ。


「フリン、不倫ってゆーのよ、そーゆーの。人のものを盗もうって根性が気に入らないわ、アタシは」
 怒りの感情をあらわにするブラックローズ。
「そういうものなのですね、人とは」
 困惑した表情ながらも、ブラックローズの勢いに気圧されて納得したようなアウラだ。
 アウラの語りが途切れたのをいい機会に、ぼくは聞いてみる。
「アウラ。いま話したPCって、どうやって選んで、どうやって情報を得たの?」
「お父さんはわたしの成長のために、PCの情報を獲得するシステムをザ・ワールドに組み入れました。その方法は、例えばアイテムの売買、NPCとの会話、いろいろです」
 いまさらながら、ザ・ワールドとは奥の深い、というか、得体の知れないゲームだと考えさせられる。
「わたしは"人"と交流することで成長してきました。さらなる進化を遂げるためには多くのサンプルデータが必要なのです」
 ぼくもブラックローズも黙ってアウラの話を聞いている。
「フラグが立ってから、わたしには多くの情報が集まってきます。そのほとんどは即ゴミ箱行きです。残ったのが紹介した情報です」
 安心した。
(ぼくに関係のあるPCですよ、なんて言われないでよかった~)
 胸をなでおろす。大きく息をつくと、ブラックローズはそれを聞き漏らさず、
「ん~? なんでアンタがため息ついてんのよ?」
 疑惑の視線をぼくに向けてくる。
「い、いや、べ、べつにぃ。きゅ、究極AIって、アウラって、すごいなって、思っただけだよ」
「ふぅ~ん。ま、いいか。ねぇ、アウラ。もっとほかになんかないの」
 明るく言うブラックローズ。
「はい。とある女性剣士は…」
 ドキっとする。心臓の鼓動が大きく速くなる。
「彼のお姉さんの恋人と寝た、などと。ただ寝ることが自慢になるのでしょうか」
 心臓が爆発するんじゃないかと思った。コントローラーを落としそうになり、ぎゅっと目をつむった。
「信じらんない。体を許すってのは心も許すってことでしょ。セックスフレンドなんて、アタシはイヤっ! 考えらんないっ」
 爆発したのはブラックローズだった。PCの目に怒りの炎が燃えさかっている。
(ひぃ~。もぉ、やめてぇ)


 心の中で血の叫びをあげるぼくを無視して、アウラの話はまだ続いた。
「自分の彼に満足できず親友の彼と試しに寝てみた、なんて言う呪紋使いの女性もいました」
 サーっと血の気が引く。怖くてブラックローズを直視できなかった。
「ったく! まともな人間はいないんか、ザ・ワールドには」
 単にアウラの話に出てくるPCに激怒しているブラックローズに、ぼくは複雑な気持ちになる。
(いまの話って、おそらく、たぶん、絶対、全部ぼくがかかわってるんですけどぉ)
 まずすぎる状況を打開しようと、ぼくは強引に話題を変えることにした。吉とでるか、それとも…。
「あ、あのさ、アウラ。それで、ぼくたちを呼んだのは、なぜ? わざわざこのエリアにプロテクトまでかけてさぁ」
 アウラは落ち着いた表情を取り戻してうなずき、ぼくの問いに答え始めた。
「あなたがた2人はザ・ワールドで知り合いました。ザ・ワールドがなければ出会うことはなかった、とも言えるんじゃないでしょうか」
 黙ったままうなずくぼく、そしてブラックローズ。アウラは続ける。
「ザ・ワールドが生んだベスト・パーティー、いえベスト・カップルならば、わたしに良いサジェッションを与えてくださるのでは、と考えたのです」
 アウラの話を聞き終えて、
「ぼくたちがきみのお役に立てるのなら、とってもうれしいことだよ」
 笑顔を見せつつ軽い気持ちで答えていた。
「うん。アタシたちなんかでいいのかな、って思うけどさ。で、どうすればいいの?」
 ブラックローズもアウラに穏やかな笑みを向けて言った。
「はい。では、ブラックローズ。こちらへ」
 少し高い位置に浮遊していたアウラがブラックローズの目の前に降臨する。
「…してください」
 アウラがささやく。なにを言ったのか、ぼくには聞こえなかった。ブラックローズはアウラの両肩をつかむと、ゆっくりと顔を近づけていく。そして、唇が重なった。
 2人の顔の周りを色とりどりの「0」と「1」が舞い踊っている。
(データドレイン!? いや、そんなわけないか)
 女性同士のキスシーンに心臓が高鳴る。リアルでは頭をぶんぶんと振って冷静さを取り戻そうとした。
(そうか。ああやってデータを吸い出してるんだ。…ってことは、次はぼくがアウラとキスするのか)
 ゲームの中で究極AIとキスをする、なんて考えたこともなかった。心臓の鼓動が速くなった。


 キスは数分に及んだ。ようやく顔を離す2人。ブラックローズの目はトロンとして焦点が合ってないようだ。
 ブラックローズの…、晶良のデータを吸い出したアウラは、
「ほんとうに幸せな人生を歩んでいるのですね、あなたたちは。うらやましい…。わたしもまだ見ぬ子供に幸せな人生をあげられたらいいなって思いました」
 これまで見たことのない、女を感じさせる笑顔でそう言った。それから、ぼくのほうに向いて
「次は、カイト。あなたの番です」
「うん」
 歩を進めアウラの正面に立つ。右手を伸ばして柔らかな髪に触れ、そっと引き寄せる。唇が重なった。
 脳が真っ白になった。思考が完全に停止した。感覚はもちろんない。
 数秒後。アウラが大きく目を見開く映像が脳に飛び込んできた。
「?」
 急に視界が戻った。目に映ったのは、嫌悪と憎悪に揺らめくアウラの瞳だった。
「な、なんと…いう、こと…を…」
 暗いトーンで言葉を吐き出すアウラ。
「なに? なになに? なんなのなん」
 ブラックローズは激しく動揺している。ブラックローズの存在を思い出したかのようにアウラは、
「あなたは、ここにいるべきではない」
 とつぶやき、ブラックローズにしゃべるヒマさえ与えず強制的にログアウトさせてしまった。
「これ以上、見たくありません! …でも、見せていただきます。さあ、続きを」
 抵抗はできなかった。ぎゅっと閉じたアウラの唇を奪い、舌を入れた。ぼくが「0」と「1」に変化して彼女に流れ込んでいった。
 はっと気がついたとき、ぼくはアウラから離れていた。静かな目をしたアウラがかえって怖かった。
 沈黙をアウラが破った。
「ひどい…。これほど、ひどい人に、わたしは力を与えてしまった…」
「アウラ…」
「初めに言ったはずです。思い出せますか?」
 言葉が出てこない。
「そうですか。忘れてしまったのですね」
 アウラは悲しげに目を伏せ、絞り出すように言った。


「強い力…。使う人の気持ちひとつで、救い、滅び、どちらにでもなる」
 忘れていたわけではなかった。
 しかし、まさか、女性たちをひきつけたのが腕輪の力だったとは…。
 アウラが半信半疑のぼくにとどめを刺す。
「ザ・ワールドがリアルに及ぼす影響。知らない、とは言いませんよね?」
「…あっ!」
 そうだった。思えば、ネットとリアルのあり得べからざる相互作用こそがぼくを勇者たらしめ、ぼくとブラックローズを結びつけたのではないか。
「ただれた過去を消すことはできません」
 厳粛な"神"の声が響く。怯えと焦りが自分を支配した。震える声で"神"に問う。
「ぼくは…、ぼくはどうすればいいの?」
「その答えは、あなた自身のなかにあるのでしょう」
「ぼくのなかに…」
「救いはあります。運命のひとはただひとり。そのひとを大切に」
 翔子を抱いたあと、遅まきながら気がついたことだった。いまさらながら、後悔という言葉が「後になって悔いる」と書くのだと気付かされる。
(遅かった…。なにもかもが遅かった…)
 肩を落とし、うなだれたぼくにアウラの決意が降りそそぐ。
「わたしは探します。フラグはすでに立ちました。だから探し続けます。『母親』『子供』それに『ゼフィ』…。これらの言葉がなにを意味するのか、なにをもたらすのか。わたしはそれが知りたい」
 ゆるゆると顔を上げたぼくの視界に、アウラの凛とした顔が飛び込んできた。ぼくを慰めるように、諭すように語りかけてくる。
「愛とはきれいごとではないのかもしれませんね。思えば母さん…、モルガナのしたことも愛だったのでしょう。あなたのしてきたことも愛なのでしょう。でも、わたしは、わたしの信ずる愛を探します」
 愛という言葉が心にしみこんでくる。
「アウラの信じる愛?」
 ぼくのつぶやきを聞き逃さなかったアウラがきっぱりと言いきる。
「純粋なもの、そう信じています」
(それは…そうだ。ぼくも経験する前は、そう信じていたはずだよね)
 晶良に対する気持ちは神に誓って純粋だ。


「ぼくは失格だったけど、アウラは、アウラの信じる愛に、きっといつかめぐり会えるといいね」
 自分にそんなことを言う資格があるのか、とも思ったけど素直に言葉が出ていった。
 アウラはうなずき、少し考えてから話してくれた。
「わたしが信じ求めていく愛。それは…男女の愛ではないのかもしれません。例えば、双子…兄妹…。運命により引き裂かれた肉親のそれ…。いまのわたしには漠然としたイメージしかありませんが…」
「ぅ~ん」
 イメージが湧かない。腕組みをして首をかしげ考え込んでしまう。そんなぼくを見てアウラはくすりと小さく笑い、
「いつか、探し求める愛を見つけることができるでしょう。いえ、どのような手段を使っても見つけてみせましょう。…そうですね、ふふふ、あなたたちのことを利用することになるかもしれませんね」
 あっ気にとられているぼくをよそにアウラは楽しそうだ。
(なんか…、さっきの件、ぼくの女性関係は不問かな。これなら、いままでどおりザ・ワールドで遊ぶことができそう…。はぁ~、よかったぁ)
 ほっとしたぼくの気配を敏感に察したアウラが表情と態度を一変させる。ぎくりとするが、PCはいつものカイト。動揺しているのはリアルのぼくだ。
(やっぱり、ダメだよね。でも、罰はちゃんと受けなきゃ)
 アウラは厳しい眼差しでぼくをにらみつけるように見て、厳かに判決を下した。
「これ以上、腕輪の力を悪用されるのは困ります。かといって、一度託した腕輪を消滅させることは不可能です」
 アウラは目を閉じて考え込んでいる。しばらくして考えがまとまったのか、アウラはぼくをまっすぐに見て言い放った。
「ザ・ワールドの安寧と平和を司るアウラの名において宣言します。あなた、カイトと彼女、ブラックローズのアカウントを無期限に停止といたします」
 ショックはなかった。むしろ安堵のため息をついていた。
「ありがとう。アウラ」
 本心からそう言えた。よけいなことかもしれないが、ショートカットキーを操作してPCのカイトに微笑ませたりしてみる。
 アウラは答える代わりに愛らしい微笑みを返してきた。その顔は、これまで見てきたどのアウラよりも美しく輝いていた。
 次の瞬間、ぼくは光の輪に包まれ強制的にログアウトさせられていた。

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