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vol.2⑦Girls talk

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taka18r

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vol.2⑦Girls talk


 始業式の日は、お昼前に学校から帰れる。部活もきょうは休みだ。さっさと帰り支度をすませ、自転車置き場へと急ぐ。しかし、気持ちとはうらはらに思うように速く歩けない。まだ、きのうの痛みが股間に残っているからだ。
 3年生になって進路別にクラス替えされ、仲良し4人組はバラバラになった。なんとか彼女たちより先に帰りたかったのだが…。自転車置き場に行くと、そこには獲物を待ち構えていたハンターが3人。翔子、美穂、理沙だ。
「あ~きらっ。ご飯、食べにいこ」
「あちゃ~。捕まっちゃったか…」
「晶良ぁ。きょうは逃がさないわよぉ。まったくぅ、せっかくケータイ鳴らしてるのに、ことごとく無視してくれちゃってぇ」
 美穂が頬を膨らまして言ってくる。事情を知っている翔子は横を向いて笑いをかみ殺している。
「ん~。しようがないか…。はいはい。どこへでも行きますよ」
「それではっ! じ~っくり話が聞けるとこ。翔子ぉ、いい?」
 理沙が元気に仕切っている。
「いいよ。ウチでピザ頼んで食べよっか」
「グーっ!」
 理沙と美穂が親指を立てて、アタシにウインクしてくる。
「はぁ~。あんま、話したくないんだけどなぁ」
「そう言われちゃうと…、よけいに聞きたくなるよねぇ?」
 理沙が2人に同意を求める。
「もっちろん!」
「あー、あー、もうっ! わかった、わかりました」
 そう答えはしたものの、頭の中では『詳しくなんか話せるもんか』と考えている。翔子がこっちを見て含み笑いをしているのが気になるが…。
 4人で翔子の家のほうに歩きだす。アタシはすぐに遅れてしまう。
「晶良ぁ、どーしたのよ? いつもなら速すぎるくらいなのに」
「えっ? あっ、なんでもない…」
 美穂が振り返って聞く声に、あまりうまく反応できない。
「ふ~ん。どっか痛いの?」
「いや、あの、うん、べつに、だいじょおぶ、だよ?」
 しどろもどろに答える。


「痛いんでしょ? ど・こ・か・が」
 翔子のきつい一言。勘付く2人。
「ははぁ~、痛いんだぁ。…ってことは…、きのうなの?」
 まだ外だと言うのに、美穂が遠慮なしに聞いてくる。
「美穂の声、おっきすぎ! その話は後で」
「後で、ね。うん。後で、じっくり聞かせてもらいましょう」
 翔子の家に着いたとき、アタシはみんなから50mも遅れていた。
 翔子の部屋に上がり込み、まずピザを注文。すぐに翔子は缶ビールを冷蔵庫から取ってきた。
「またビールなのぉ?」
 酔っぱらってしまうと、言わなくてもいいことまで話してしまいそうで、思わず不満が口をつく。
「なんなら、缶チューハイもあるよ? 晶良」
(さっきの含み笑いはこれか…。"自白剤"の効き目、よくわかってるってわけね…)
「ん~っ、お酒、嫌いっ!」
「え~っ!? 晶良はイケるクチだと思うんだけどなぁ」
「んなことはないっ」
「まあまあ、とりあえず乾杯といきますか。みんな、無事に3年生になれたことだし」
 理沙の言うことも、まあ、もっともだ。
「そうね」
 と言って缶ビールを手にする。
(アタシがあんま飲まなきゃいいだけよね)
「じゃあ!」
 と理沙が音頭を取る。すぐに3人が声をそろえて、
「晶良っ。ロストヴァージン、おめでとーっ! カンパ~イっ」
 まだ一口も飲んでいないのに、アタシの顔は真っ赤になっている。
「う~。そんなこと言われたら、恥ずかしいぃぃぃぃっ!」
「まあ、飲んで。飲めば落ち着くよ」
 やさしい言い方で勧める翔子。ついビールをあおってしまう。


 その話に持ち込みたくて、うずうずしながら目を輝かせている3人。
 そこにピザが到着。ほっとひと息だが、黙って食べるなんて女子高生には無理。必死に話題をそらせようとするものだから、ピザの味なんてまるでわからない。
「あ~っ、お腹いっぱい」
 最後の一片をかたずけた美穂が、お腹をさすりながら言う。
「翔子ぉ、缶チューハイ、ちょーだぁい」
 理沙がねだる。
「いいよ。4本ね」
「あ、アタシはまだ残ってるから」
 これ以上飲まされたら、たまらない。しかし、勘の鋭い翔子はアタシの缶ビールを持つと、
「あんまり残ってないじゃない、晶良」
 そう言って、台所に向かってしまった。翔子が戻ってくると、美穂が口火を切る。
「さあ、デザートにしますか。あっ、メインディッシュはこっちか」
 すかさず理沙が引き継ぐ。
「で、晶良ぁ。彼、やさしくしてくれた?」
 …微妙な質問だ。答えないでいるわけにもいかないか。
「うん。まあ」
「ひゅ~ぅ。いいですなぁ。やさしい年下の彼氏かぁ」
 理沙がひやかす。
「1度目は失敗…しちゃったんだよね」
 それとなく翔子が経過を話し、さらに美穂が話をつなぐ。
「あ~。それでケータイ、無視したのね」
「うん。まあ」
「それで、2度目がきのうで、そんでもって、うまくいった、と」
「うん。まあ」
 生返事でごまかそうとしていると、翔子が、
「最初の日ときのう、彼氏はずいぶん違ってた?」
 と聞いてくる。


(そう言われてみると、ずいぶん余裕ができてたかな、アイツ。ずっとアタシのこと考えてた、って言ってくれたっけ)
「晶良。どうなの?」
「えっ、あっ、うん。最初のときは、すごく焦ってたみたいだったけど、きのうは…大人になってた、っていうか、うん、余裕があった、かな」
「へぇ~。意外と、どこかでお勉強してきてたりして」
 からかうように翔子が言う。
「ま、まさか」
「冗談だけどね。そんなにお小遣いないだろうし、中学生プラスアルファじゃ、風俗には行けないだろうしね」
「そうだよね」
 なぜか安心する。ほんの少しでも疑って、アイツに申し訳ない気持ちになる。
「ねぇ、晶良ぁ。痛くなかった? 実はさぁ、私も春休みにナンパされちゃって…」
 と理沙が話してくる。自分の体験を聞いてほしくて仕方ないみたいだ。
「あ~ら、理沙。ロストヴァージン、おめでとー」
 話題をそらすには今しかない。アタシは逆襲に転じようと試みる。
「相手は大学生で、けっこう遊んでそうだったんだ。でも、も~、無理矢理って感じ。体が真っ二つにされるかと思ったよぉ」
「うん、わかる、それ。すっごく痛かったぁ」
 思わず答えている。これでは逆襲も何もあったものじゃない。
「でしょ~。私なんか、大流血。それ見てビビって、最後までイケなかったんだよぉ、そいつ」
「理沙ぁ。そいつ、よっぽどヘタだったんじゃないのぉ」
 美穂がつっこむ。よかった、話題の中心はアタシじゃなくなった。
「そーかもねぇ。ホテル入ってから、15分もたってなかったんだぁ」
(15分!? そーいえば、時間なんか気にしなかったけど、もっともっと長かった気がする…)
「あ~ぁ、理沙ったらぁ。いっくら晶良に先越されるのが嫌だったからって、相手くらい選べよぉ」
 と美穂。
「ほんとに…。前戯もろくにできない男は失格!」
 タバコに火をつけた翔子の目がマジになっている。
「…アイツは…、やさしかったな…。でも…痛かった」
 きのうのことを思い出して、つぶやいていた。


「ねぇ、晶良。彼のモノ、見た? どれくらいあった?」
 翔子の問いに、バスルームでの出来事が頭に浮かんでくる。顔に熱が帯びてボーっとしてきた。無意識に口をカパっと開ける。
「ぉぇぅぁぃ…」
 彼をくわえたときを思い出しながら、『これくらい』と答えてしまっていた。しばしの沈黙の後、
「晶良…」
「あきら…」
「アキラ…」
 みんなのあきれたような声で、ようやく我に帰る。
「…ぅえっ…!? あっ! ひぃぇ~っ、アタシ、何やってんだろぉ」
 火がつくんじゃないか…いや、爆発するんじゃないかってほど真っ赤になる。頬杖をついた翔子は下を向いて頭をかいてる。理沙は頭をテーブルにつけたまま悶絶してる。後ろにブッ倒れているのは美穂だ。
「ま…ったく…」
「はしたない…」
「娘…ねぇ…」
 3人で1つの文をつないで、それから声をそろえて、
「初体験で、そこまでするかぁ~」
 と言って、大きくため息をついた。アタシはひたすら小さくなっている。言い訳がましく、
「…だって、アイツが、してほしいって言うんだもん…」
 と小声で絞り出す。
「だからって…しないって、フツー」
「晶良って…見かけによらず…」
「淫乱、なんだぁ…」
 3人の視線が痛い。
「そ、そ、そんなことないっ! アイツが、アイツが…、悪いのはアイツっ!」
 反論するが、これではまるで子供だ。言い訳にもなっていない。
「やさしくて、やらしい、年下の彼氏、ね」
 翔子が『やらしい』を強調して言う。アタシは黙ってうつむくしかない。


(やっぱり、お酒は魔物だ。もう、絶対に飲むもんか)
 ほとんど二日酔いの愚痴だ。もちろん、そう思って酒をやめた人間はいない…。
 静寂、というか空々しい空気が流れたが、それは長続きしなかった。翔子が、
「それにしても、晶良の彼氏、いいモノ持ってるみたいね」
「うんうん。そんなの入れられたら、血が出てすごかったんじゃない? 晶良」
 美穂が真顔でうなずいて、聞いてくる。
「血は出なかったんだ」
 アタシの答えに理沙が驚く。
「え~っ!? うっそぉ。なんでよ~」
 経験者の美穂が、代わりに正解を言う。
「入れる前に、た~っぷり、かわいがってもらえたみたいね、晶良?」
「いや、まあ、そう、…なのかな、って、知らないっ」
 そのとき突然、翔子が真剣な眼差しをしてアタシを正面から見て言った。
「晶良っ。お願い。彼氏、1回、貸してっ!」
「え~っ。そんなこと…、ダメぇぇっ」
 うろたえる。美穂がくすくす笑いながら、
「な~に、翔子ぉ、欲求不満なわけ~?」
「いや~、そういうわけじゃないと思うけど…」
 口ごもる翔子に、すかさず美穂が
「思うけど、何よ?」
「だって、美穂。若くて、元気で、やさしくて、やらしくて、立派なモノ持ってて、エッチが上手なんだよ?」
「うん」
「興味、あるじゃない。1度くらい、そんな人としてみたいじゃない」
(いつもの冷静な翔子とは別人みたい。やっぱ、お酒って怖い)
「う~ん。私はテクニックとか大きさより、まずは愛かなぁ」
 美穂らしくない発言。これもお酒のせいか!?


「それは、私だってそうよ、もちろん。でも、満足させてもらえないのって…寂しいんだもん」
 伏し目がちに話す翔子。
「へぇ~。祐士って、もしかして淡白?」
 美穂がくわえタバコで聞く。2人の話が続く。
「ん~、スケベ。なんだけど、小さくて、早い。しばらくやってないと、前戯で出しちゃうし」
「何、それぇ。パンツの中で暴発ですかぁ」
「私の…口の中」
「うわっ」
「口でされるの、好きみたい…。それで、私が飲まないと悲しそうな顔するんだ」
「あれ、まっずいよね~」
「大嫌い。でも、嫌われたくないから…」
 アタシと理沙は黙って聞いている。というか、何もしゃべれない。
(口の中に出されるって…なにそれ? 飲むって何なの? あの白い液のこと?)
 アタシの頭の中は、理解しがたいことばかりで大混乱だ。と、美穂がアタシに話を振ってくる。
「晶良は、まさか、そこまでしてないよね?」
「もちろん!」
 頭を縦にブンブンと振る。そんな会話など耳に入っていないかのように、翔子がひとり言のようにつぶやく。
「私にあきちゃったのかなぁ」
 ふぅっとタメ息をつく翔子に、アタシたち3人は
「そ、そんなこと、あるわけないよ」
 口をそろえて必死になだめる。翔子はいまにも泣きだしそうだ、と思ったら、
「ん~、いけない、いけない。晶良を酔わすつもりだったのに、私が酔っ払って、どーするのよ」
 と顔を振る翔子。ハラハラしていたアタシたちは、なんだかバカみたいだ。
「もぉ~、翔子ぉ、ビックリしたじゃんよ~」
 理沙が不満を漏らすが、その表情はほっとしている。気持ちはアタシも美穂も、たぶん同じだ。
「ごめん、ごめん。でも、やっぱり、女の幸せって、愛とサイズとテクニック、よね?」
「知らないっつーの!」
 4人で大笑い。


 場が和んだところで、アタシは気になっていたことを聞いてみようと思った。
「ねぇ、翔子、美穂。なんで、あんな痛いこと、できるの?」
 顔を見合わす2人。ニコっと笑みを浮かべて、
「晶良。あんな気持ちのいいこと、もうしないとか言わないよね?」
「そーそー。痛いのは初めの何回かだけ。そのうち、すんごい快感が襲ってくるのよぉ」
 2人にそう言われても、にわかに信じられない。あの痛みの感覚、忘れていない。
「ウソ…」
「ウソじゃないって」
「ホントのことだよぉ」
 それでも半信半疑だ。すると理沙が口をはさむ。
「ねぇねぇ、何回くらいすれば気持ちよくなるのかなぁ」
 美穂が目を閉じて記憶をたどり、
「そーねぇ、私は5回目か6回目、だったと思う」
「それまでずっと、あんな痛い思いするの?」
 理沙とアタシ、ユニゾンで聞き返す。
「痛みはだんだんと小さくなってったよ」
「へぇ~、そーなんだぁ」
 ちょっと安心する。今度は翔子が、
「理沙はともかく、晶良は前戯で気持ちよくなったでしょ?」
 と聞いてくる。
「うん…。アタシは別に入れられなくても、それだけでも、よかった…」
「ダメよ。それじゃあ、彼氏が満足しないでしょ」
「う~ん、そーなのかなぁ。わかんない」
「そうよ。それに、2人が気持ちよくならなきゃ、する意味がないでしょ」
「そうかもしれないけど…」
「大丈夫。痛くなくなる回数は個人差あると思うけど、女の体のほうが快感はすごいって話だよ」
(ううむ。そー言われても、こればっかりはよくわからないなぁ。また、するしかないか…)


 晶良にとって居心地の悪いような、なんともいえない時間はようやく終わったようだった。ところが、さらに具合の悪い展開になろうとは──。
 それぞれ家に帰るため、酔い覚ましにジュースやお茶を飲んでいると、美穂がこちらをじっと見つめて、
「それにしても、晶良。どこで見つけてきたのよ?」
「えっ、何を?」
「彼氏」
 ぶっきらぼうに答える美穂。翔子も理沙も、再び目が輝きだしている。
「そーそー。あまりにも自然に付き合いだしたから、聞きそびれちゃったのよねぇ」
 と理沙。翔子は、
「私は、てっきり告られた先輩にOKしたのかと思ってたのよ。それが、年下って言うからビックリ」
「え~っ、先輩に告られたのぉ、晶良。だれなのよ?」
(あちゃー。翔子ったら、余計なことを。美穂と理沙は知らなくていいのにぃ)
 猫じゃらしに飛びかかろうとする子猫みたいに、目をらんらんと光らせる2人。
「ねぇねぇ、だれなのよぉ」
 2人、にじり寄ってくる。アタシは助けを求めるように翔子に視線を向ける。しようがないなぁ、という感じで翔子が口を開いた。
「ほら、文化祭でライブやった…、え~と、なんて人だっけ、晶良」
(うわっ、こっちに振るなよぉ)
「あー…っと、えー…っと。…萩谷先輩」
「え────っ!?」
 驚きの声をあげる美穂、理沙。
「あのカッコいい先輩にぃ? 晶良もやるなあ~」
「でも、断っちゃったんだよねぇ。ほんと、もったいない」
 と翔子。それを聞いた美穂と理沙がまたも、
「え────っ!?」
 と大きな声をあげた。


 ひとしきり萩谷先輩の話で盛り上がった3人は、早く帰りたいと願うばかりのアタシを再び"料理"し始めようとしていた。
「で? どこで捕まえたの?」
「晶良。きょうは逃がさないわよ」
「そーそー。白状なさい」
(げっ。ここまで隠しとおしてきたっていうのに…)
 形勢は圧倒的に不利だ。シャラポワ相手にマッチポイントでサーブを受けるくらい敗色濃厚。何が嫌だって、みんなに内緒でネットゲームをプレイしていたことがバレるのはバツが悪い。いくら意識不明になった弟を救出するために始めたからって、いまさら言いたくない。
(翔子にバレそうになったときだって、ごまかしたんだ)
 そんな晶良の思惑など、3人にはお構いなしだ。
「あ~きらっ。言わないと家に帰さないぞぉ」
(それは困る…。まあ、いまさらゲームしてたって言っても、みんな許してくれるよね)
「…えっと。実は、その…」
 言おうと思っても、行きつ戻りつする晶良の気持ち。3人はじっと黙って耳に全神経を集中している。
「…ネット、なんだ」
 言えた。しかし、ザ・ワールドをプレイしていなかった理沙が、とんでもない勘違いを口にする。
「え~っ!? 晶良、出会い系なんか、やってたのぉ」
「ちっが~う! ネットゲーム!」
 ついに言ってしまった。
「ネットゲームって…ザ・ワールド?」
 美穂が聞いてくる。
「うん」
「やっぱり」
 と翔子。美穂が反応する。
「翔子。やっぱりって、どーいうこと?」


「晶良、みんなにザ・ワールドやめなよ、って言ってたじゃない? 何かあるんじゃないかって思ってたんだ」
 勘のいい翔子だけに、ごまかしきれてはいなかった。
(それでも、あのときは黙っていてくれたんだ。翔子、ありがと)
「晶良の弟、文和くんが意識不明になったのとザ・ワールド、関係あったんでしょ?」
 翔子に問われるが、時間がたった今でもはっきり答えたくなかった。
「えっ、まあ、そんなこともあったかな」
 とお茶を濁す。
「まあ、無理に言うことないわ。文和くんも元気になったみたいだし」
「そーそー。とりあえず、彼氏のことよ」
(あ~も~、美穂、しつこい!)
「晶良の職業(クラス)はなんだったの?」
 翔子に聞かれる。いきなり彼の話から入らないあたり、さすがに付き合いが長いだけのことはある。
「ん~、重剣士」
「あー、それ、ピッタシ(笑)」
 美穂に茶化される。翔子はニコっとして質問を続ける。
「で、PC名は?」
「えっと、…ブラックローズ」
「ふ~ん。ブラックローズ、どっかで聞いたことある気が…。ザ・ワールドで出会ったことあるっけ?」
「いや、ないよ」
「そっか。じゃあ、気のせいかな。でさぁ、彼氏は? 彼氏のPC名は何?」
「カイト」
「! カイトォ~!?」
 翔子と美穂が驚きの声をあげる。しまった、と思ったが、もう遅い。
(あっちゃ~。アイツ、ザ・ワールドじゃ有名人だった…)
「勇者カイトが晶良の彼氏なのぉ」
 美穂の声が裏返ってる。と、何かを思い出そうと考え込んでいた翔子が、
「ブラックローズ! 思い出した! 勇者カイトとブラックローズって」
 美穂も気付いたみたいで、2人そろって、
「ドットハッカーズ!」


 ザ・ワールドのBBSで、一時『.hackers』が大いに話題に上ったが、晶良にはそれがどうしても自分たちのことだとは感じられなかった。まるで他人ごと、だった。
「そんなふうに言う人もいたみたいだけど、アタシは別に…」
 なんと言っていいかわからず口ごもる。
「それに、アタシはもうインしてないし。アイツも受験前はほとんどインしてないはずよ」
「なるほどねぇ。伝説のパーティーがこんなに身近にいたなんて…」
「ビックリしたぁ」
 だれにも想像しえない出会いだったのだ。
「ゲームの勇者がリアルでもいい人でよかったね」
 そう言う美穂に、翔子も理沙も笑顔でうなずいた。
 外はすっかり暗くなっていた。美穂と理沙、3人で翔子の家を後にする。帰りがけに翔子が
「晶良。今度、ザ・ワールドで勇者カイトを紹介してね」
 と片目をつぶって言い、美穂も同調して
「うん。ことしはうちらが受験だけど、たまの息抜きにザ・ワールドも悪くはないわねぇ」
「う~ん、アカウント使用料は払ってるけど、しばらくプレイしてないから、まっすぐ歩けないかも」
「な~に言ってんのよ、伝説のパーティー、ドットハッカーズのブラックローズが」
 美穂につっこまれても、アタシはただ『はははっ』と空虚に笑うのみ。リアルでアイツに会ったあの日、自分の中でザ・ワールドにピリオドを打ったように感じていたからだった。
「PCよりもリアルに夢中、か」
 美穂はそう言って、タメ息をついた。別れ際に理沙が突然、
「よーしっ、私もザ・ワールドで素敵な彼氏、みつけるぞぉ~」
 と右手を上げて宣言する。これには、美穂と顔を見合わせ苦笑するしかない。
 家に帰って部屋に入り、理沙の言葉に懐かしさを感じていた。
(そういえば、あんな感じのコ、ザ・ワールドにもいたっけ。…あのコ、元気かなぁ)
 それは、晶良の知らないところで炸裂する、まさに地雷だった──。

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