ギャルゲ・ロワイアル2nd@ ウィキ

ζ*'ヮ')ζ<Okey-dokey!

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ζ*'ヮ')ζ<Okey-dokey! ◆LxH6hCs9JU



 教会の裏手にひっそりと建つ、二階建ての宿舎。
 神父やシスターが住まいとするその建物は、瀟洒な外観に彩られ、備えられた設備も決して悪くはない。
 四人分の寝床と食料、一張羅を失ってしまった女の子のための代えの衣服、諸々整っている。
 なにより心強いのは、北と東のエリアが禁止区域として定められており、襲撃の可能性も低いという点だ。
 既に一人、いや一体、死人を目撃しているネムにとっては……第三者の暴力が、この上なく怖い。

(私が目覚めた場所。まさか、ここで一日を終えることになるなんてね。……ネムとしては、半日ほどだけれど)

 記憶を失った名無しの少女――仮名『音夢(ネム)』は、教会で生まれ、教会から出発した。
 当初は、殺し合いの事実すら忘却していた。恐怖心に駆られるまま周旋を続け、徐々に状況を理解していった。
 今を思えば、一人きりのときによく襲われなかったものだと感心してしまう。
 井ノ原真人と神宮司奏という拠り所を見つけ、高槻やよいとプッチャンも加わり、その安心感はより強固なものとなった。

 子供はなによりも、安心感を欲する。
 母の抱擁、父の称賛、友人の存在、周囲の笑顔、平常の自分。
 なにもかも置き去りにしてしまった赤子同然の少女もまた、安心を望んだ。

(だからこそ、私は真人さんたちを拠り所としている。一緒に食事をして、一緒に床について、一緒に笑い合って……)

 この安心は、混じり気のない純然とした心の安らぎだ。
 仮初にしようとしていた拠り所が、生涯の安住の地にも思える。
 それほどの安心がネムを包む……あるいは、蝕んでいたのかもしれない。
 だが今は、そうとは考えたくない。
 彼ら、彼女らと行動を共にする、一人のネムとして。
 恥のない行動をしたい、というのが本心だった。

「……綺麗な髪」

 ふとして零れた声に――ネムはハッとする。

「へ?」
「……あ、ごめんなさい。ネムさんの髪、とっても綺麗だったからつい」

 気がつくと、ネムは教会裏宿舎の一室で、就寝仕度をしていた。
 満腹の体にパジャマを着て、鏡台の前に座り、シャンプーの香りがする長髪を、同じくパジャマ姿の奏にドライヤーで乾かしてもらっていた。
 とても殺し合いの一ページとは思えない、日常の光景を生きる自分が、鏡に映し出されている。

 こういった境遇を甘んじて受け入れているのも、安心感によるもか。
 それとも、×××××××××××××は天性の楽天家だったのだろうか。

(私の本当の名前は……もっと長かった気がする。パパとママがつけてくれた、大切な名前……)

 奏に髪を梳かされる心地よさは、過去を捨て去りたいくらいの甘美だった。
 なのにやはり、ネムの心中には靄がかったかつての自分が蟠る。
 天秤にかけたとして……傾くのはどちらなのだろうか。
 今のネムか、過去の×××か。
 ひょっとしたら、思い出すのもつらい過去かもしれない。
 ならば、いっそこのままネムとして――。

(これは、好奇心? それとも……)

 自分を知りたい、という当たり前の欲求に、疑問を覚える。
 安心の裏返しなのだろうか、とネムは微かに不安になった。

「……ところで奏さん、一つ訊きたいことがるのだけれど」
「なにかしら?」

 髪も乾かし終わり、割り当てられた二人部屋で――ちなみに真人とやよいとプッチャンとダンセイニは同室。やよいは中学生、プッチャンは目がいやらしい、真人は筋肉愛、などといった理由から――床につこうとするネムと奏。
 あいにくベッドは一人分しか置かれていなかったが、女性が二人寝るには十分なサイズである。
 とはいえすぐにぐっすり、という気分でもなく、ネムは己の好奇心を言葉に綴った。

「記憶喪失の私が言うのもなんだけれど……やよいさんの言う店主とやらを頼りにするのは、少し楽観的すぎないかしら?
 それに……『これ』に関しては、いったいどうするつもりなの?」

 そう言って、ネムは自分の首に嵌められた銀色の枷を小突く。
 首輪。参加者たちに殺し合いをさせられているのだと実感させる、魔法の拘束具。
 決して取り除くことの出来ない形ある不安を、ネムは嫌悪していた。

「たしかに、方針としては心許ないところもあります。けれど、何事も挑戦してみないと始まらないですから。
 それと……ふふっ、首輪に関しては、実は当てがあるんですよ?」

 軽く微笑み、奏は自信ありげに言った。

「ひょっとして、真人さんの話にあったドクター・ウェストという人かしら?」

 ネムは薄らと、出会った頃の真人の話を思い出す。
 ドクター・ウェスト――自称天才科学者にして、屈強な肉体の持ち主。
 ゲーム開始当初に真人と出会い、様々な考察を垂れ流した。
 その頭脳は、奏が知り合った大十字九郎からも称賛されている。
 現在も生存し、当てにするには最適の人材と言える彼だったが……その行方は知れない。

「九郎さんのお墨付きもありますし、彼なら……というのはありますね」
「けれど奏さんも、ウェストさんとはお会いしたことがないのでしょう?」
「ええ。でも大丈夫です。……とても心強い味方が、動いてくれていますから」
「……?」

 ネムや真人は知りえない、会長だけの隠密の姿を思い出しながら――奏が微笑む。
 対して、ネムは怪訝な顔を浮かべる。
 が、奏の微笑を眺めていると、どうにも安心が伝染してしまうような気がするのはなぜだろうか。

(ドクター・ウェストといえば、そう……彼が言っていたという推論も……)

 やたら馬鹿な割に、記憶力だけは鮮明な真人の言を、再び思い出す。
 当人が蟲毒に例えた、殺し合いの全否定にも繋がる仮説……保身を優先する者にとっては致命的な論。

 ――優勝したとしても、生は拾えない。

 主催者側にとって、優勝者は生け贄、この殺し合いはゲームというよりも儀式、それがドクター・ウェストの推論だ。
 優勝者に生を保証する発言がなかったというのも、開会式を覚えていないネムには確認のしようがない。
 ただ、生き残るためには他者を欺けばいいと――本能で直感し、今の今まで渡り歩いてきた。
 記憶を失った故の軽挙か、元々頭が回らない子だったのか、そのあたりは判然としない。

 だが、思うところはある。妥協にも似た、甘えを含む案だが。
 他者を欺くことが生に繋がらないとするならば……この際、とことん信用してみよう。
 そんなことを、漠然と胸に思う。

(記憶を取り戻すため、私を取り戻すため、この人たちと共に……それが、近道?)

 謳うように問いかけるネムだったが、答えてくれる天の声はなく、疑問が心の底へと鎮座する。
 最適解を導き出すには、知識も、常識も、思慮も、記憶も、やはりなにもかもが足りない。
 このまま流され……そうやって生きていくことに、不思議と不安はない。

 不安だ、しかし安心だ。
 安心だ、しかし不安だ。
 矛盾を孕む曖昧な心が、ゆらりゆらりと揺れていた。

 だけど、

 この揺れが――なぜか心地いい。

(私の居場所は、ひょっとしてここ――なのかしら?)

 再び問いかけるが、やはり答えは出てこない。
 疑問を抱き続けるモヤモヤは身を蝕まず、安穏を呼ぶ。

「……私からも、一つ訊いていいかしら?」

 僅かな間ボーっとしていたネムに、奏が喋りかける。

「――聞かせて。ネムさんは、なにがしたい?」

 こっくり、と首を傾げながら尋ねてくる奏。
 ふとした質問には、なにかしらの意味が内包されているようにも思える。

 それが、かつて金城奈々穂が奏に問いかけた言葉だと知らずとも――。

 ネムは真摯な眼差しに意識を奪われ、僅かに頬を上気させる。
 しばし奏と見つめ合い、恥ずかしそうな仕草で、訥々と語り出す。

「私は……やっぱり、知りたい。本当の私を……」

 記憶を取り戻したい、という欲求は潰えてはいない。
 このままネムとして生き続けるのだとしても、知りたいという願望は根強く残る。

「本当の私を知って、そして故郷に帰ってみたい……奏さんたちと、同じように」

 自身の胸中を曝け出すように、ネムは無防備な想いを綴った。

「記憶の片隅にある、パパとママに会いたい。うん。うん……私は――」

 確認するように頷き、ネムは未来を見据える。
 思惑を他人に吐露する。
 信頼と安心の証たる行為を、自然と。

「――私に、会いたい」

 ネムの本意を知り、奏はそれを受け止め、またふっと微笑む。
 聖母のような穏やかさを纏って、笑みだけでネムを抱擁する。
 それがくすぐったくもあり、嬉しくもある。

「今は休みましょう。私たちには、明日があるのだから」
「……ええ、そうね。お休みなさい、奏さん」
「お休みなさい、ネムさん」

 屈託なく笑い合い、二人揃ってベッドに横たわる。
 電気を落とした部屋は暗闇に塗れ、よりいっそう静寂を纏う。
 その中で、ネムは思い続ける。

(不思議……やっぱり不思議。この、ほわっとする感じはなんなのかしら……?)

 出会いがしらは、こうではなかった。
 トーニャに素性を疑われ、彼女を含む三人が皆、信用ならない敵とも思えた。
 寺を出ても、考えるのは自分の利ばかり……いったい、なにがそんなに怖かったのだろうか。
 記憶を失ったという事実が、必要以上に己を怯えさせているのかもしれない。しかし、

(今は……大丈夫。うん……とっても、落ち着く……)

 惑いの中で、パパとママを思い出したときのような、
 両親の慈愛に近しい、僅かな恋情を察知した男の子にも似た、

(あら? ひょっとして、これって……)

 この感覚は、ひょっとしたら『恋』に似ているのかもしれない。
 記憶を失った身でありながら、女の子としての絶対の感覚だけは、忘れていなかった。

(この安心感は、愛しいという証拠なの? だとしたら、いったい誰を……?)

 枕に上気したままの顔を埋めながら、思案に耽る。
 出会ったばかりのやよいやプッチャン……ではない。
 早々に喧嘩別れしてしまったトーニャ……であるはずもない。
 粘着性を伴った軟体生物……を愛するほどの器量はない。
 となれば、必然的に選択肢は真人か奏の二人に絞られるが、

(……馬鹿馬鹿しい。真人さんはともかく、奏さんは同性じゃない。女の人を愛するなんて……)

 心の呟きで否定する。が、どうにも頭の中が悶々とするのはどういうことだろうか。
 奏の微笑みと、真人の筋肉が、脳内で綯い交ぜになって溶け合う。
 混沌とした夢の先には、確かな安心がネムの到来を待っている。
 浸る、浸る、包まれていく……。
 そうやって、少女は眠りに落ちていった…………。


 ◇ ◇ ◇


 星屑のカーテンが、天然の照明となって暗がりの地表を照らした。
 見上げる分には眩しくもなく、灯りとするには明度も十分。
 手元の機械……首輪レーダーをチェックする作業も、滞りなく順調だ。

(思わず腕立て伏せでもしたくなる夜だぜ……おっといけねぇ。今は我慢だ、我慢……)

 奏やネムが眠る宿舎の屋根に上り、一人星空を眺める井ノ原真人の姿があった。
 平らな屋根の上は胡坐をかくのにも不自由なく、見晴台とするにも一等だ。
 加えて、手元には来訪者を知らせる便利な探知機がある。
 女子たちが就寝する傍ら、自ら見張り役を買って出た真人は、孤独な夜を過ごしていた。

「てけり・り?」
「寒くはないかって? ありがとよ。けど大丈夫だ。筋肉の保温はバッチリだぜ」

 孤独……とはいえ、ゲーム開始当初から連れ添った相棒は健在だ。
 忠誠心の強いダンセイニは一時も筋肉チョッキを脱ぐことなく、真人の話し相手として見張りにも付き合っている。

(結局、教会に来ても収獲はなしか……ま、怪しいとこは見つけたがな。とりあえず一歩、ってとこか)

 教会に行こう、と言い出したのは真人本人だ。
 言峰が神父だったから、などとは言ったが、なにもそれだけが根拠ではない。
 鍵を握るのは、記憶。ある一部分が鮮明で、それ以外はぼやけた……曖昧で不完全な記憶だ。

(今回は後悔したくねぇ。今回は、あの少女を…………アレ? あの少女って誰だっけ?)

 儚げで、でもどこか明るかった――真人が『前回』の殺し合いで、救えなかった少女。
 非は真人自身にある。直接手を下したというわけではないが、少女の死因は真人が彼女を信じなかった点にあるのだ。
 信じていれば、きっと結果は変わった。疑心暗鬼が、悲劇を生んでしまったと記憶している。

 逆に言えば、それ以外のことは……あまり覚えていない。
 覚えているのは、少女との断片的なやり取り。
 彼女の笑顔、彼女の言葉、彼女の想い――そんな曖昧なものばかり。
 教会を目的地としたのも、そんな断片的な記憶を辿った結果だった。

(これだけはしっかり覚えてる。俺は教会の中で、死なせちまった少女を抱きしめて……泣いた。
 滅茶苦茶になるくらい泣いて、泣きまくって、そんで逆上して……結果、俺も殺されちまったんだったな。
 どんな奴に殺されて、どんな風に殺されたのかまでは覚えてねぇが……前回は確かにあった。これだけは絶対だ)

 この記憶の正体がなんなのか、真人は知りたかった。
 ひょっとしたら前回などというものはなく、何者かに捏造された偽りの記憶なのかもしれない。
 ひょっとしたら記憶の本筋は前回などに留まらず、実際はもっと大きかったものが、作為的に添削されていったのかもしれない。
 古書店に潜むという、黒幕と思しき謎の存在……その力によれば、真人の記憶の操作なども容易なのだろうか。

(あの少女が誰だったかなんて、俺の頭じゃ思い出しきれねぇ。けど、大事なのはそこじゃない。
 信じることだ。俺は今回、とにかく信じ通す。このみも信じる。ネムだって信じる。疑っちゃいけねぇ。
 ……トーニャの言うこともわかるがよ、これだけは譲れねぇ。今回は、今回は……)

 考えるのは得意ではない。真人は、考えるよりもまず筋肉を動かす行動派だ。
 だからこそ、直感と流れに身を任せ、ネムを信用したままこの地を訪れた。
 信じ続ける、という揺るがない志を保って、今回の殺し合いを動こうと決めたのだ。

(ってか、俺ってこんなに記憶力よかったか? あの焼け跡で見つけたコレだって……)

 傍らに置いていたデイパックから、布によって梱包された長物を取り出す。
 それを紐解けば、鞘に収められた鍔なしの日本刀が姿を現した。
 思うところがあるように、真人は刀を睨む。と、

「あ、いたー。真人さ~ん」

 背後から少女の元気な声が届き、真人は真剣味を潜めて振り返った。

「おう。なんだ、やよいとプッチャンじゃねぇか。寝たんじゃなかったのか?」

 立てかけておいた梯子から、ひょっこり顔を出すやよいの姿があった。
 この宿舎で調達したシスターの衣装を纏ったまま、屋根の上まで上ってくる。

「それが、あんまり眠くなくて。真人さんのお手伝いをしようかなって」
「アイドルの体力をなめんなよ。そんじょそこらのガキと一緒にしてもらっちゃ困るぜ」
「わかるさ。歳の割に大した筋肉を持ってやがる……そういや、朝方にもえらい筋肉を持った奴を見たな」

 二人の名も知らぬ男女、その片割れであるボーイッシュなほうの筋肉を思い出し、真人は微笑する。
 まさかそれがやよいの捜している真だとは思いもせず、離別してしまった良質筋肉をしみじみと懐かしんだ。

「まぁそれはそれとしてだ……ところでこいつを見てくれ。どう思う?」
「どう思うって……刀だろ。真人の支給品か?」
「うっうー、なんか危なそうな刀ですっ」

 眺めていた一本の日本刀を、やよいとプッチャンにも見せてみる真人。
 返ってきた反応は予想通りであり、だからこそ余計に、それを覚えている自分に違和感を覚えた。

「やよい、ちょっとこいつを持ってみてくれねぇか?」

 真人は足元に日本刀を置き、やよいに試しに持ってみるよう促した。

「んー? いいですよ……ってうわっ!? お、重いぃ~……」

 すぐに駆け寄り、やよいがその柄に左手をかけてみるが、ピクリともしない。
 片手だけでは無理と判断し、右手に嵌めたプッチャンの協力も仰ぐが、やはり持ち上がりもしなかった。

「なんだこりゃあ。いくらなんでも重すぎだろう。こんなんじゃ使い道ねぇぜ」
「やっぱな。俺の筋肉を持ってしても、持ち上げるくらいしかできなかった。振るなんてもってのほかさ」
「う~ん、いったいなにでできてるのかなぁ?」

 見た目には、極一般的な白鞘の日本刀。
 ただしその重さは桁違いであり、振るうことはもちろん、鞘から抜くこともままならない。

 娼館跡に取り残されたデイパックから発掘した、誰かの忘れ物。
 参加者にランダムに配られた支給品であることには間違いない。
 当初はネムがデイパックからそれを引き抜き、あまりの重さに即手放してしまった、

 その化物刀の銘を、『弥勒』という。

 曰く、『星詠みの舞』と呼ばれる儀式に用いられる刀であり、『黒曜の君』にしか扱えない特別な刀。
 単純に重量があるというわけではなく、なにかまじないめいた要素で、使用者を選別しているようだ。

 ……そして、真人はこの刀に見覚えがあった。
 あの場に立ち会わなかったプッチャンは知らず、立ち会ったとしても、多くの者がそれどころではなかっただろう事変。
 思い出すのは、殺し合いの開幕がなされた式場だ。
 その場において、真人はこの弥勒がしっかと振るわれた光景を記憶している。

 ゲームの運営管理者、神崎黎人。

 彼がノゾミとミカゲという大蛇を斬り殺す際に使っていた刀、それが正しく、この弥勒なのだ。
 もちろん、白鞘の日本刀など一目には判別がつきにくい。酷似しているだけの別品という可能性も、十分にありうる。
 ただ、やけに鮮明な真人の記憶は、これが神埼黎人の振るっていた刀と同一であると、脅迫するように告げていた。

(ってことは、あの神崎って奴が黒耀の君か? ってか、コクヨの黄身ってなによ……?)

 こんな些細すぎる部分を記憶している自分に、得体の知れぬ違和感を覚える。
 前回の記憶も含め、やはり神の手によって脳を弄られでもしたのではないか、と考えるほどに。

(そもそもだ……前回の殺し合いに、あんな奴らいたか? ってか前回の殺し合いを始めた奴らって誰だっけ……)

 答えの出ない自己問答を繰り返しつつ、真人は記憶喪失のネムと境遇を同じくする。
 偽りではない、絶対的真実だとは思っている。信じる、という強い教訓がその証拠だ。

「……真人、なんだか似合わないくらい難しい顔してるな」
「どうしちゃったんでしょうねぇ?」
「てけり・り?」
「……ん? ああ、なに、ちょっと脳内筋トレをしてただけさ」
「いや、意味わかんねぇよ」

 心の葛藤は、決して表には出さない。
 表面上は、あくまでも筋肉大好き井ノ原真人として。
 他者と接する際にも、おどけることは忘れない。

「あ、そうだ。これ、使ってください」

 思い出したように言い、やよいは真人にビニール袋を差し出す。
 見た目にも重みのある袋を受け取り、真人が中身を確認してみると、

「うん? こ、こりゃあ……乾電池じゃねぇかー! しかもどっさり袋詰め!」

 そこには、大量の単三電池が入っていた。
 アルカリやマンガンの区別もなく、メーカーもまたバラバラだったが、たっぷり数十本はある。

「そのレーダー、電池式だったろ? 肝心な時に使えなくなったら困るからな」
「うっうー! 宿舎中を回って、いーっぱい集めてきたんですっ!」
「時計とかラジオとかからなぁ!」
「てけり・り!?」
「おおおおお……なんてこった! こいつぁ乾電池祭りができそうだぜ!」

 誰が発端となってか、おかしなテンションに集った四者が同調する。
 道化の半面に、真面目な半面も被る真人としては、どちらが素の表情なのだろうか。
 それすら、考えて答えの出るものではないのかもしれない。

 レーダー用の予備の乾電池を確保し、真人は見張り番を続行する。
 ダンセイニに並び、やよいとプッチャンもそれに付き添う。
 時折煌く星空を眺めながら、静かな時が過ぎていった。

「……そういや、やよいは理樹に会ったんだったよな」
「え……っと、あ、ハイ」

 唐突に吐き出された故人の名に、やよいは躊躇いつつも返答した。
 その名を口にする真人自身も、決していい気持ちでいたわけではない。
 しかしながら、気持ちの整理のためにも聞いておくべきだろう、という考えが働いた。

「理樹のやつはどうだった? こういう局面でも、立派に自立できてたか?」
「それはもう、すごかったです! 私なんて、プッチャンと葛木先生がいなかったらダメダメだったのに……」

 あれはまだ、なにもかもが平穏無事に進捗していた頃の話。
 若くして自らが発案する計画を実行に移そうとする女の子のような男の子は、やよいの観点から見てもリーダーと呼ぶに相応しい人材だった。
 彼をガードしていた髑髏面の暗殺者も、見た目に違わぬ実力者であると当時の葛木宗一郎は語っていた。
 あの二人ならきっと上手くいくだろう、と思って別れたのも束の間、

「そうか……本人は筋肉に恵まれなかったようだが、そのガリガリさんってのには感謝しなくちゃな」
「アサシンさんですよぉ」

 綻びは、真アサシンの死という形で生じ、ついには先ほど訪れた直枝理樹の訃報により、崩壊した。
 やよい自身、理樹のミッションに助力するどころではなかったが、彼らの思いはどこに消えたのか。
 リトルバスターズ……その執念を受け継ぐ者が、木彫りのヒトデを受け継いだ者が、まだどこかに残っているのかもしれない。

(謙吾も、鈴も、理樹も死んじまった。残ってるのは俺と恭介、それに来ヶ谷か)

 真人は、潰えていった友たちの想いを夜空に廻らせる。
 理樹はこのゲームの不条理に反逆の牙を突きたて、志半ばで絶えてしまった。
 謙吾や鈴は、なにを思って死んでいったのだろうか。彼らを知る人物から、話を聞いてみたいとも思う。

(恭介……鈴も理樹も死んじまって、今おまえはどうしてる? 腑抜けてんじゃねーぞ……)

 残された者、棗恭介にとって、理樹と鈴はなによりも大切な存在だったはずだ。
 彼らの死による悲しみも、おそらくは真人の比ではない。
 真人自身、前回の記憶が残っているからこそ、辛うじて前を見据えていられるのだ。
 なにもかもなくしてしまった恭介が、真人と同じようにまた前を向けるかは、計りきれない。

(前、か。そうだな……前を向かなくちゃならねぇ。うだうだ悩まず、筋肉の赴くがままに突き進めばいいのさ。それしかできねえしな)

 真人は自嘲気味に笑い、横のやよいが首を傾げる。
 死んでしまった仲間たちを省みて、しかし立ち止まってはいけない。
 この意志は前回の記憶がある故の『慣れ』ではなく、心の芯たる力だと信じよう。

「よっしゃああああああ! 今宵は血沸き肉踊る筋肉祭りの開催だぜぇぇぇ!」
「おわぁあ!? び、びびびビックリした~っ」
「急に大声出すなよ! 驚くじゃねぇか!」
「てけり・り!」
「なんだとぉ!? すいませんでしたーっ!」

 突拍子もない発言を諌められ、筋肉祭りの開催は未遂に終わる。
 やや勢いを削がれた真人がまた視線を空に投げ、しょぼくれた。

「いっそ懺悔室の前で筋肉旋風でも巻き起こすか。楽しそうだと思って中の奴も出てくるかもしれないぜ」
「あ、なら私は歌って踊ります! ごまえ~♪」
「なら俺はいよいよ、ダイナミックの封印を解くか……」
「てけり・り」
「な、なんだって……!? おいダンセイニ、いくらなんでもそりゃヤバすぎるだろ……!」
「え、うぇ? い、今ダンセイニさんなんて言ったんですか!?」
「てけり・り」
「うおおおおお! 試合前から負けた気分だあああ!!」
「っていうか、なんでおまえはこいつの言葉がわかるんだよ」

 いくら喚声が木霊しようとも、レーダーの反応は四つから変わらない。
 安全な夜が続き、明日の朝への希望と昇華されていく。

「いやぁ、でも真人の案は案外有効かもしれないぜ」
「なにを隠そう、私とプッチャンもそれを考えてたんです」
「え? 筋肉のことか?」
「ちげーよ。懺悔室の扉についてさ」

 いつものおどけた真人に戻りつつ、やよいとプッチャンの語りに真面目に耳を貸す。

「私、あの店長さんはそんなに悪い人じゃないと思うんです」
「悪いかどうかはともかくとして、言峰や神崎って奴らとは、根本的に考えが違うと思うんだよな」
「黒幕さんって言ったけど、なにも悪いことがしたくてこのゲームを始めたんじゃないと思うんです」
「言峰や神崎と同じ舞台裏にいたとしても、必ずしも仲間ってわけじゃないかもしれねーし」

 すずろに語るやよいとプッチャンの顔は、希望に満ちていた。
 その言動がどこまで真に迫っているかなど、誰にもわかりはしない。
 少なくとも……この時点では。

「でだ! 俺とやよいでナイスな解決策を思いついたのさ!」
「ほほう。で、どんな?」

 興味深い、と真人とダンセイニが耳を傾ける。
 途端、プッチャンは口を閉ざし、やよいはしばしの間を置いて、もったいぶるように発言した。

「うっうー! あの店長さんを、『黒幕』からこっちの『味方』に引き込んじゃうんですよ!」

 ――ピクリ、と真人の全筋肉が蠢いた。

「あの店長、とにかく楽しさ優先って感じだったからな。なら、俺たちの力でとことん楽しませてやろうって寸法さ」
「そ、そうか……つまり、筋肉で魅了すりゃいいわけだな! よっしゃー! この俺に任せろ!」
「いやぁ、真人の筋肉じゃ無理だろ」
「んだとぉ……真人の筋肉なんぞ世界最大の余興、ボディビル大会の中継映像の前座にもなりませんよ……とでも言いたげだなぁ!?」
「す、すごい言いがかりです!?」
「てけり・り!?」

 筋肉が脈動を開始する。
 全身の血が沸き、心も躍る。
 こんな子供や人形でも、明日を見据えている。
 大切な人との別れを抱えて、それでもなお前を。
 嬉しくなり、楽しくなったのも、また事実だ。
 真人の心は笑い、残された者としての希望を見い出す。

(信じる……か。なんでぇ、俺が重く考えすぎてただけじゃねぇか。
 トーニャ、おまえも帰って来いよ。今ならまとめて面倒見てやるぜ?
 ネムやこのみだって心配ねぇ。疑ってばかりじゃ、なにも始まらねぇさ。
 恭介、来ヶ谷、おまえらもだ。ちゃんと前向けてんなら、筋肉に群がってきな。
 そうしてみんなで筋肉旋風だ。古本屋で引き篭もってる誰かさんを、こっちに引き摺りこもうぜ!)

 誰にも悟られることのない筋肉の裏側で、真人が咆哮を上げた。


 ◇ ◇ ◇


「あ、そうだ。私も宿題があったんでした」

 屋根の上で見張りを続ける中、やよいが思い出したようにデイパックを漁り始めた。
 なんだなんだと真人とダンセイニが視線を投げ、やよいが取り出したそれを凝視する。
 子供の頃に見たような、イラストつきの冊子。やよいはそれを、微笑ましげに抱いていた。

「なんだ、それ?」
「えっと……えっへへー、これはですね~」

 やよいが筆記用具を用意する傍ら、真人が疑問を言葉に乗せる。
 プッチャンは口を挟まず、ただニヤニヤしていた。
 やよいも頬を赤らませながら、もったいぶるように答えを示す。

「素敵な先生が残してくれた、宿題です」



【B-1 教会裏手の宿舎の屋根の上/1日目 真夜中】

【高槻やよい@THEIDOLM@STER】
【装備】:プッチャン(右手)、シスターの制服
【所持品】:支給品一式(食料なし)、弾丸全種セット(100発入り、37mmスタンダード弾のみ95発)、
      かんじドリル、ナコト写本@機神咆哮デモンベイン、木彫りのヒトデ10/64、
      エクスカリバーMk2マルチショット・ライオットガン(4/5)@現実
【状態】:元気
【思考・行動】
 1:真人と一緒に見張り番。
 2:『入店証』の正体を探り、懺悔室の扉を開く。
 3:真を捜して合流する。
 4:古書店の店主をどうにかして味方に引きずり込む。
 5:暇ができたら漢字ドリルをやる。
【備考】
 ※博物館に展示されていた情報をうろ覚えながら覚えています。
 ※死者蘇生と平行世界について知りました。
 ※教会の地下を発見。とある古書店に訪れました。
 ※古書店の店主は黒幕、だけどそんなに悪い人じゃないと睨んでいます。


【プッチャン@極上生徒会】
【装備】:ルールブレイカー@Fate/staynight[RealtaNua]
【状態】:元気
【思考・行動】
 1:やよいと一緒に行動。
 2:りのを捜して合流する。
 3:『入店証』の正体を探り、懺悔室の扉を開く。
 4:古書店の店主をどうにかして味方に引きずり込む。


【井ノ原真人@リトルバスターズ!】
【装備】:僧衣、木魚、マッチョスーツ型防弾チョッキ@現実【INダンセイニ@機神咆哮デモンベイン】
【所持品】:支給品一式。スラッグ弾30、レトルト食品×5、予備の水
      SPAS12ゲージ(6/6)@あやかしびと-幻妖異聞録-、大山祈の愛読書@つよきす -Mighty Heart-、
      首輪探知レーダー(残り約X時間)、単三電池袋詰め(数十本)、
      餡かけ炒飯(レトルトパック)×3、制服(破れかけ) 、銅像、弥勒@舞-HiME 運命の系統樹
【状態】:胸に刺し傷、左脇腹に蹴りによる打撲、胸に締め上げた痕
【思考・行動】
 基本方針:リトルバスターズメンバーの捜索、及びロワからの脱出。『信じる』。
 1:朝まで見張り番。放送により逐一対応。
 2:『入店証』の正体を探り、懺悔室の扉を開く。
 3:恭介、来ヶ谷を捜して合流する。
 4:主催への反抗のために仲間を集める。
 5:クリス、ドライを警戒。
 6:柚原このみが救いを求めたなら、必ず助ける。
 7:今は無理でも、いつかトーニャと分かり合いたい。
 8:なんかやけに記憶力がいい気がするが気のせいか?
【備考】
 ※防弾チョッキはマッチョスーツ型です。首から腕まで、上半身は余すところなくカバーします。
 ※真と誠の特徴を覚えていません。見れば、筋肉でわかるかもしれません。
 ※杏・ドクターウェスト、奏、やよい・プッチャンと情報交換をしました。
 ※大十字九郎は好敵手になりえる筋肉の持ち主だと勝手に思い込んでいます。
 ※『前回』の記憶については、微々たる部分しか覚えていません。
 ・儚げでどこか明るかった少女(詳細不明、本人の記憶も曖昧)を、疑心暗鬼で死なせてしまった。
  直後、自分も何者かに殺されてしまった。そのときの現場は教会。
 ・前回の主催者は、言峰や神崎ではなかった。
 ※見張り番をするため、レーダーを始めとした奏の荷物一式を預かっています。

【ダンセイニの説明】
アル・アジフのペット兼ベッド。柔軟に変形できる、ショゴスという種族。
言葉は「てけり・り」しか口にしないが毎回声が違う。
持ち主から、極端に離れることはないようです。
杏の死とトーニャの離散で、ショックを受けているようです。
プッチャンのことが気に入ったようです。


【B-1 教会裏手の宿舎/1日目 真夜中】

【神宮司奏@極上生徒会】
【装備】:パジャマ
【所持品】:なし
【状態】:健康、爪にひび割れ
【思考・行動】
 基本方針:極上生徒会会長として、ゲームに対抗する。
 1:『入店証』の正体を探り、懺悔室を調査する。
 2:蘭堂りのを探す。
 3:古書店の店主が鍵を握ると信じ、調査を進める。
 4:藤乃静留を探し、神埼黎人の素性を調べる。
 5:首輪に関してはドクター・ウェスト、トーニャを頼りにする。
 6:いずれ大十字九郎と合流を果たし、恩を返す。
 7:いつかまた、トーニャと再会する。
 8:『参謀役』が欲しい。
【備考】
 ※加藤虎太郎とエレン(外見のみ)を殺し合いに乗ったと判断。
 ※浅間サクヤ・大十字九郎、トーニャ・真人、やよい・プッチャンと情報を交換しました。
 ※ウィンフィールドの身体的特徴を把握しました。
 ※主催陣営は何かしらの「組織」。裏に誰か(古書店の店主?)がいるのではと考えています。
 ※禁止エリアには何か隠されているかもと考えてます。

【ファルシータ・フォーセット@シンフォニック=レイン】
【装備】:パジャマ
【所持品】:支給品一式、リュックサック、救急箱、その他色々な日用品、デッキブラシ
      ピオーヴァ音楽学院の制服(スカートが裂けている)@シンフォニック=レイン、
      ダーク@Fate/staynight[RealtaNua]、イリヤの服とコート@Fate/staynight[RealtaNua]
【状態】:熟睡中、重度の記憶喪失(僅かだが記憶が戻り始めている)、強い安心感、
     頭に包帯、体力疲労(小)、精神的疲労(小)、後頭部出血(処置済み)
【思考・行動】
 基本:記憶を取り戻し、故郷に帰る。優勝しても生が拾えないなら――とことん信用してみよう。
 0:これは――恋?
 1:奏たちと行動。拠り所とする。
 2:『入店証』の正体を探り、懺悔室を調査する。
 3:男性との接触は避けたいが、必要とあれば我慢する。
 4:パパやママ、恋人を探し出す。
【備考】
※ファルの登場時期は、ファルエンド後からです。
※仮初の名前はネムです。
※頭を強く打った衝撃で目が覚める前の記憶を失ってますが、徐々に思い出しつつあります。
※記憶を失う前は男性に乱暴されてたと思ってます。
※奏たちと一緒にいることに、強い安心感を覚えています。


【弥勒@舞-HiME 運命の系統樹】
神崎黎人が物語終盤で使用していた刀。儀式用のクサナギとは違い、武器としても高い完成度を誇る。
『星詠みの舞』において、選ばれた舞姫をその刃で貫き封印する――媛星の力を得る――ための刀でもある。
『黒耀の君』である神崎黎人にしか扱えず、他の者では振るうこともできない。
単に重量があるというだけではないので、実質『黒耀の君』以外が武器として用いることは不可能。
作中では美袋命のエレメントかと思われていたが、彼女の本当のエレメントは柄の部分のみ(カムツカ)であり、弥勒自身はエレメントでもなんでもない。
唯一の例外として、命のエレメントであるカムツカに収まった状態であれば、『黒耀の君』でない彼女も弥勒を振るうことができる。


189:ζ*'ヮ')ζ<Okey-dokey? 投下順 190:HEROES
時系列順 192:love
高槻やよい 200:mirage lullaby
ファルシータ・フォーセット
井ノ原真人
神宮司奏

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