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小池真理子『恋』新潮文庫

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投稿1時間: 2006年4月14日(金) 20:20 題名: 小池真理子『恋』新潮文庫 引用返信 記事を編集/削除 この記事を削除する 投稿者のIPアドレスを表示

読了。
この作者は以前に『ゆがんだ闇』に収録されたサイコサスペンス短編1編を読んだのみだが、酷い出来で酷評したのを覚えている。
なぜこの本を持っていたかというと単に直木賞受賞作だったからというだけである。正直、のっぺりした魅力に乏しい文体と、女性的皮膚感覚を必要以上に前面に押し出した登場人物のうじうじした性的執着心や行動力の乏しさには自分との感性的隔離間が大きく、わたしが好んで読むタイプの作家でないことだけは間違いない。
実際、この本も冒頭数十ページを読んで退屈さに辟易し、数年前に一度匙を投げていた。
今回、読む本に窮し再度手にとってみたわけだが、ここ1年ほどの膨大な読書量にもかかわらず、この種の作家への苦手意識は全く改善されておらず、やはり前半は相当退屈した。
本書は基本的には、浅間山荘事件と同日に殺人事件を犯し服役した女性の<犯行動機>の謎を追う話である。だから広い意味ではホワイダニットのミステリに含まれるのだろうが、実際読んでみると、むしろ純文学作品に近い内容になっている。作品の大半を、この犯人の女性の回顧録が占めており、しかも、その内容の大半を克明な心理描写が占めているからである。
ただ、遺憾ながらこの作者のよくいえば平易、悪くいえば香気に欠ける平板な文体が、どうも足を引っ張る。読みやすい反面、語り手の女性が大学生時代にのめりこんで行った<謎のフリーセックスの夫婦>の魅力がさっぱり伝わってこず、ただ気持ち悪いだけである。なぜこの語り手がこの頭のいかれた変態夫婦にそれほど魅了されるのかがさっぱり伝わってこず、共感ができない。正直、前半はかなり冗長で不出来な<腰砕けへっぽこポルノまがい小説>にしかなっていない。物語的事象の発生にもメリハリが乏しく、非常に退屈な感じがする。
だが、後半で、この夫婦に割って入る若者の登場により不協和音が生ずると、俄然物語が変動し面白くなる。前半の退屈さはこの後半を引き立てるためのものだったと考えれば何とか納得ができる。そして、<フリーセックス夫婦>の驚くべき背徳の秘密が明らかになるや(ありがちなネタではあるのだが)、この夫婦の一見ただの放埓な行動の背後でそれを基礎付ける心理的基盤が明確になり、ストーリーが一気に迫真性を増す。語り手の娘がなぜ犯行に及んだのかの心理的基盤も明確になり、強い印象を残す。
その犯行動機も表面的には結局、男女の色恋沙汰のやや変奏的なものに過ぎないといってしまえばそれまでなのだが、作者のフリーセックス的な頽廃的自由への憧憬が強固に思想的根底にあってそれが随所に垣間見え、その反面として<独占的偏愛及び排他へと至る一般的な男女の恋愛>を自由を侵す汚らわしい背徳とみなす倒錯的なセックス観が正常であるかのごとく語られる異常さが根底にあるせいか、それほど陳腐な感じがしないのは長所であろう。それゆえ、オチもうまく決まっている。
フリーセックス、近親相姦、同性愛&&フランス世紀末文学を思わせる背徳、頽廃の美学を平易に換骨奪胎した良作と評価してよいと思う。この作者の持つ<キモイ>持ち味が偶然にもうまく作用して傑作に仕上がっているが、ただこのキモさは、苦手な者には受け入れがたい独特さである上に、この作者の場合すべての作品に抜き去りがたく浸透している要素であるから、本書のようにうまくまとまることは滅多にないことだと思う。
要するに、この本は評価するけど、他の本は読む気にならないなあということです。

テーマ性   ★★★★
奇想性   ★★
物語性   ★★★
一般性   ★★★★
平均    3
文体    ★
意外な結末★★★
感情移入 ★★★
主観評価 ★★1/2(25/50)

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