国会質疑 > 児童ポルノ法 > 1999-12

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衆議院・法務委員会(1999/05/14)/木島日出夫議員(日本共産党所属)

○大森参議院議員 前回、木島委員の方から、合成写真のことで質問を受けました。言いわけをするつもりはありませんが、実は通告をいただいていなかったので、少し思考の整理ができておりませんで、一部不正確なところがありましたので、改めて正確に答弁させていただきたいと思います。
 まず、この法案では、児童ポルノとは、児童の一定の姿態を「視覚により認識することができる方法により描写したもの」をいうとされており、ここにいう児童とは十八歳に満たない者、つまり実在する児童を意味します。そして、今回の法案の中では、外国の立法例にあるような疑似ポルノについて明文の規定は置いておりません。
 したがって、写真等が実在する児童の姿態を描写したものであると認められない限り児童ポルノには該当いたしません。ただ、合成写真等を利用した疑似ポルノの中には、実在する児童の姿態を描写したものであると認定できるものもあると考えられ、このようなものについては、今回の法案の児童ポルノに当たり得ると考えます。
 具体的な事案における証拠に基づく事実認定の問題でありますが、例えば、実在する児童についてその身体の大部分が描写されている写真を想定すると、そこに描写された児童の姿態は実在する児童の姿態に該当いたします。そこで、その写真に描写されていない部分に他人の姿態をつけて合成したとしても、ある児童の身体の大部分を描写した部分が実在する児童の姿態でなくなるわけではありません。
 以上により、合成写真についても、児童ポルノに当たり得る場合があるということになります。
 一応、ここまでお答えいたしまして、先ほど先生が児童の特定は顔ではないかということですが、顔だけで十八歳未満のものか特定できるかどうかということも問題があると思います。
 それから今、首から上が別で、首から下が別の児童ということでしょうか、姿態であると。そうしますと、これはだれの姿態かと、どちらの姿態と考えるかということですけれども、ポルノに該当するかどうかにつきましては、先生は首から上が特定していればいいのではないかとおっしゃるのですが、例えば、この二条三項一号のポルノを例にとりますと、性交に係る児童の姿態とありますので、首から上のその人をもって、そして首から下が別の姿態である、そして、性交の場面というのを想定しますと、果たしてそれをもって、首から下が違うのに、それで性交に係る部分はまさにあそこであるのに、顔をもってそれで特定して、その人を特定するということが言えるかどうかは疑問であると考えております。
    〔委員長退席、橘委員長代理着席〕

○木島委員 だけれども、そういう解釈をやりますと、これはざる法にならざるを得ないし、首から下で特定しようなんという解釈をとったらこれは大変なことになる。捜査官は特定するために被害児童を裸にしなきゃ犯罪立証できないでしょう。そんなことはやるべきではないし、やれないことですよ。
 一般的に、写真がだれの写真かというのは顔で特定できるじゃないですか。普通の写真はみんな衣服をつけていますよ。これはだれの写真かといったら、顔を見て、これは何のたれべえ、これは木島日出夫だと、これは大森礼子だと、大体写真は顔で特定するわけでしょう。(発言する者あり)だからそれでいいんじゃないかという私の質問なのですが、なかなかお認めいただけないので。
 それで、ちょっとポルノとは関係ない判例を一つだけ私披露して、それでいいんじゃないか、顔だけが証明できればいいんじゃないかということで指摘したいのです。最高裁判所の昭和三十六年三月三十日の公文書偽造の判決であります。要するに、実在しない公務所の名義が使用された公文書ですが、これが実在しなくても公文書偽造罪だという、これも解釈としては非常に画期的な解釈なのです。これも、実在する児童のポルノか否かが争点になっているところですから、解釈の基本が非常に似ているというので私御披露しますと、その最高裁判決の要旨を読みます。
 実在しない公務所名義の証明書を作成した場合でも、その形式、外観において、一般人をしてそのような公務所が実在し、その職務権限内において作成した公文書であると誤認させるに足りるものと認められるときは、本罪に当たると。
 だから、実際には実在しないお役所でも、形式、外観で実在するお役所と一般人が誤認するような文書がつくられた場合には公文書偽造罪として、刑法犯有罪であるという最高裁の判例があるんですよ。公文書偽造と児童ポルノとは全然罪種が違いますけれども、これは法益です、被害者が実在するか実在しないかという根本的観点からいったら同じなんですね。実在する役所じゃなくても有罪になるという。
 そうしますと、私は、少なくとも顔が実在していれば、下半身は実在しなくて、しかも、その部分でわいせつな分野だというのはおっしゃるとおりです。確かにおっしゃるとおりなんですが、しかし、一体として写真というのは見られるわけですから、一般人がその写真を見たら、ああ、これはあの少女の卑わいな写真、映像だというふうに誤認するような写真であればこの新しい法律の児童ポルノの概念に当たると判断してよろしいんではないかなと私は思うんで、ぜひお認めいただけませんか。

○大森参議院議員 結論を言いますと、認めることはできないと考えます。
 それから、先ほどの首から上と下が違う場合ですが、首から下のところが実在する児童の姿態であることが立証できれば、これは児童ポルノに当たり得る場合があるわけです。ではそれが実在するかどうか裸にしてみないとわからないと先生今おっしゃったのでしょうか、それは一つの立証の目的でございまして、場合によったら、合成の顔の部分を除きまして、この下の部分が十八歳未満の実在する児童の姿態であると判断できる場合は十分あると考えております。例えば八歳ぐらいの女の子の姿態で、下が性交等に係る場面としていけば、それだけで実在する十八歳の児童ということになるんじゃないでしょうか。

○木島委員 では、もうこれで質問はとめます。
 この法律、私どもは賛成なんです。これが成立しますと、基本的には、解釈は、第一義的には捜査官であり、最終的には裁判官なんですが、やはり常識的に……(発言する者あり)まあ、外観主義という言葉は使っていいのかどうかわかりませんが、余り厳密過ぎてしまわないで、顔が特定されて、一体としてその写真がその顔写真の女の子の写真であると認定されれば、名誉が傷つけられるのはやはりその顔写真の女の子なんですよ。下半身の女の子なんて、どこのだれそれかわからないわけですから、そんな者の名誉を守る必要はないんです、わからないんですから。顔写真の女の子の名誉は絶対に守り抜かなきゃいかぬわけですから、私はそれでいいんじゃないかと思うんですが、これは解釈論争ですから、もうやめましょうか。

○松尾政府委員 済みません、御指名がないのに登場いたしまして。
 法案が成立後この運用をする立場から、今警察庁の刑事局長ともいろいろお話をしたんですが、実務家としてお聞きしていると、発議者の答弁とそれから今の御質問とで実質的にそんなに違いがあるのかなという感じがいたします。発議者の方は、顔はある有名な少女にいたしましょうか、その写真である、下がその少女のものとは違う写真がつけられている、あるいはこれに、写真に非常に酷似した、写真と見まがうような模写でもいいかと思いますが、そういったものであれば、体の方もやはりその児童の姿態というふうに大部分が見られるならば、発議者の方もこれは当たると言っているわけでございます。
 ですから、顔がありまして、下が全く児童の姿態と見られないような、そういうものがくっついているような場合にはそれは難しいかと思いますが、全体として発議者のおっしゃっているのは、下半身についても児童の姿態というふうに見られるのであれば、それは当たり得るというふうに先ほどお答えになったように思いますので、木島先生のお尋ねと、結論の部分においては、余り差がないものというふうに私は理解しています。

○木島委員 そういう立場で運用されることには全く私は御異議ありませんし、そういう立場で運用していただきたいと思います。
 次の質問に移ります。日本人の国外犯を罰するというのは非常に大事な勘どころだということで、一点だけ確認のための質問であります。
 法案第七条第二項、第三項、児童ポルノ頒布等の罪でありますが、第二項は、前項に掲げる行為の目的で、児童ポルノの製造、所持、運搬、本邦輸入、本邦輸出罪であります。第三項は、第一項に掲げる行為の目的で、児童ポルノを外国に輸入し、また外国から輸出した日本国民も同罪だという規定であります。前項あるいは第一項という規定は基本条文でありますが、児童ポルノを頒布、販売、業として貸与または公然陳列罪でございます。
 そこで、確認ですが、七条二項、三項で言う「前項に掲げる行為の目的」あるいは「第一項に掲げる行為の目的」というものの解釈ですが、第一項だけ読んでいると、これは国内犯で、国内での行為なんですが、国外犯の適用もこの法の中に書いてありますので、外国での児童ポルノの頒布、販売、業としての貸与、公然陳列の目的も入る、七条二項、三項の目的の中には外国でのこれらの行為も入ると解釈してよろしいでしょうか。確認です。

○大森参議院議員 第七条第二項、第三項は、国内で頒布等の行為をする目的のみならず、国外で頒布等の行為をする目的の場合も含むと解しております。第七条一項は、頒布等の行為について、それが国内で行われた場合に限定するものではありません。それから、第七条第二項の「前項に掲げる行為の目的」、または第七条第三項の「第一項に掲げる行為の目的」には、国外で頒布等の行為をする場合も含まれると解しております。

○木島委員 ありがとうございます。
 次に、二つ目の大きな質問になります。
 児童買春罪等、児童ポルノ頒布罪等これらの犯罪の成立要件の一つに、児童の年齢の認識の問題がございます。この犯罪の成立の基本要件として、行為者は、被害児童の年齢が十八歳未満であるという認識が必要だ、故意犯であるというこの法律の基本的な立場であります。そういう御答弁もありました。
 実は私は、一番この法律の実効性が失われてくるんじゃないかという一つの心配は、年齢の認識の問題なんですね。児童買春を犯した加害者、被告人、犯罪者は恐らく、自分はこの子が十七歳以下だとは思わなかった、十八歳以上であると思ったという弁解を必ずしてくるのは間違いありません。ましてや児童ポルノであります。製造した者はともかくとして、製造者以外、販売、頒布、輸入、輸出、そういうことに携わった人間は、写真しか見ていないわけです。その被写体の人物と面接していないわけですから、写された少女が十八歳以上であるか未満であるか、十七歳か十六歳か認識しようがない。
 ましてや、さっき確認しましたが、国外犯が処罰されます。外国の女性が果たして十七歳なのか十八歳なのか、直接接する機会のない人物にとって、たまたま性行為をしたことやら、そういうポルノの販売等に関与したというだけで、その年齢の故意、年齢の認識、十八歳未満であるという認識がなければ処罰できない、そういう法律の立て方というのは、私は、微妙な場合はほとんど立件できないと。
 十三歳とか十四歳の少女に対する加害ならそんな弁解は許されないのでしょうけれども、今、子供たちの成長は早いですから、十五、十六、十七ぐらいになりますと、被疑者は必ずそういう弁解を立ててくるということで、それはやはり脱法行為で、許さないという立場に立ちたいと私は思っているのですよ。
 そんな立場から質問いたします。
 第四条から第八条までの犯罪の成立要件として、児童の年齢が十八歳未満であるということの認識もやはり必要とせざるを得ないのでしょうか。

○吉川(春)参議院議員 お答えいたします。
 これは故意犯ですので、やはり年齢が十八歳未満であるということの認識も必要といたします。
 同時に、ただ、五条から八条については、児童を使用する者については、児童の年齢に関する調査確認の義務があると考えられますので、これらの者が五条から八条までに規定する行為をした場合については、十八歳未満の者であるとの認識がなくても、認識がないことについて過失があれば処罰する、こういう法律の組み立てになっておりまして、したがって、原則として年齢について知らなくてはならない、これがこの法律の原則です。

○木島委員 そう読まざるを得ないのですね、これは。これは検察・法務といえども、この条文を読んだらそう読まざるを得ない、故意犯ですからね。しかし、そうなると、ほとんど脱法で捕まえることができなくなるのじゃないかという私の心配なんですね。まあ、そう聞いておきます。
 ではその次に、それではこの法律の組み立て方で、第四条の児童買春罪、これだけは、児童を使用する者は年齢を知らないことを理由として罪を免れることができないという、要するに、年齢の不知は許さずという立場から除外したのですね。何で第四条だけを除外してしまったのでしょうか。

○吉川(春)参議院議員 第四条を除外したというより、第四条が原則なんですね。
 それで、第五条から八条については、児童を使用する者ということになっておりまして、児童を使用するという者は、雇用関係にあるだけではなくて、もう少し広く解釈いたしますけれども、こういう性的な犠牲にならないように、児童に対して注意義務を持たなくてはならない、こういうような人について特に厳しく処罰することにしたということでありまして、原則は第四条です。
 そして、今は非常に子供たちの成長も早いから、十五、六歳なのか十九歳なのかという認識がなかなかつきにくいというのはお説のとおりでございますけれども、同時に、こういう場合には、例えば未必の故意が認められる場合もあるでありましょうし、しかし、年齢のことについて認識が不可能という場合にはやはり処罰をしない。これが立法政策といいますか、私たちはそういうことを選択をいたしました。
 今後、この法律が初めて日本で施行されることになるわけでございまして、これによって大半の処罰が免れるような実態になるというようなことがあれば、またその次の段階として考えなくてはならないと思いますけれども、私たちは、あくまで年齢の認識が必要だということを基本に置いて故意犯として組み立ててきた、こういうことです。

○木島委員 確かに、この法体系は第四条が基本、児童買春については基本条文なんですね。第四条は児童買春罪です。
 第五条は周旋です。それから、二項は業とした者です。第六条も周旋です。そして、二項は勧誘を業とした者ですから、確かに、使用するということを想定される場合が非常に高いことは事実です。ですから、そういう場合は、知らないことは許さないというのは非常にいいと思うのですね。七条以降もそうですが。だからといって、四条の児童買春罪の基本法について、私は、知らないことを許すというのは理屈が通らないと思うのですね。
 というのは、最近、高校生のアルバイトもふえているのですよ。高校生、どんどんアルバイトに入るわけです。そうすると、使用関係に入っていく高校生は非常に多いのですよ。そういう、たまたまある会社なり業にアルバイトとして入った高校生、高校生は大体十八歳未満ですからね。そうすると、使用関係が生まれるその使用者なり支店長が、地位を利用しなくたっていいですね、お金を渡して性行為に入ったら四条が適用なんですが、その支店長なり使用人が、その子の年齢、おれは知らぬ、十八歳以上だと思ったという弁解を許さなくたっていいんじゃないかな。想定できる。
 四条の場合でも、使用関係に入った女の子が被害者になることは大いに今の日本の社会状況の中で想定されるから、四条は外さなくてもいいんではないかなと思うので、要するに重くするという意味ですよ。年齢の不知は許さないという基本のところでいいんじゃないかなと思うのですが、これ、私、頑張り過ぎますと修正問題になってしまうので、この辺でやめますが、何か御答弁あったら……。

○大森参議院議員 被害者の年齢等が規定されている条文というのはほかにもございます。そのときにその年齢だと思わなかったという否認の弁解というのはよく出てくることでありまして、これをとめることはできません。その場合に、どういう立証ができるかということであると思います。
 それで、やはり原則は故意犯でありまして、児童を使用する者については、別の過失推定のような規定を置いたわけです。これは児童福祉法の規定と同じような内容と理解しておりますけれども、使用する者と言い得るためには、児童の年齢確認義務を課すことが相当と認められる関係のある者、その確認義務を尽くさなかったために児童の年齢を知らなくとも処罰されるのもやむを得ないと見られる者という、この基準から判断されるとしておりますけれども、例えば児童福祉法でも、こういう場合には児童保護のために、特に原則故意犯の一部例外的なものを認めたわけでありまして、これを広く広げるべきではないと思います。
 今回の、どこにこの使用する者の部分を当てはめるかにつきまして、買春者というのは、通常一回性の行為というものが予定されますので、ここからは除外いたしました。確かに、年齢が十八歳未満、十七歳ぐらいになると、故意の内容というものが、十七歳だから、例えば二十歳と思ったと見る場合もあると思います。要するに、その弁解が信用できるかどうかということで、あくまで立証の問題だと思います。

○木島委員 もう論争をこれで私は打ち切りますが、一つだけ披露したいのがあるのです。神奈川県青少年保護育成条例であります。
 この条例は、第十九条で、みだらな性行為、わいせつな性行為の禁止規定があります。「何人も、青少年に対し、みだらな性行為又はわいせつな行為をしてはならない。」「「みだらな性行為」とは、健全な常識を有する一般社会人からみて、結婚を前提としない単に欲望を満たすためにのみ行う性交をいい、」本件で言う性交のようなものです。「同項に規定する「わいせつな行為」とは、いたずらに性欲を刺激し、又は興奮させ、かつ、健全な常識を有する一般社会人に対し、性的しゆう恥けん悪の情をおこさせる行為」。わいせつな行為でしょうね。
 これが処罰されるのですが、神奈川県条例の大変ユニークな、画期的な条文は、第三十七条七項で、この十九条一項もしくは二項、今言った青少年に対するみだらな性行為罪、わいせつ行為罪を、その「行為をした者は、当該青少年の年齢を知らないことを理由として、前各項の規定による処罰を免れることができない。 ただし、当該青少年の年齢を知らないことに過失がないときは、この限りでない。」といって、使用関係がなくても、神奈川県条例の場合は年齢の不知は許さない、そういう弁解を許さないという条文を置いているので、これは神奈川県、なかなか大したものだなというふうに思っておりますので、ひとつ三年後の見直しのときにはこんな条文もこの法に盛り込めればいいなと私は思います。
 では、一点だけ聞きましょうか。この条例と本法との整合性の問題について御答弁願いたい。

○吉川(春)参議院議員 神奈川県条例の三十七条七項は、確かに本法の四条についても年齢の不知は許さない、こういう立場をとったと思います。今度この法案ができましても、確かにこの部分はまだ処罰として条例としては残るわけです。それは県の条例ですので、県の御判断によって、この法律との整合性のために条例の改正という手続をおとりになるのかあるいはそのまま残されるのかは県の判断だと思いますけれども、私は、立法政策として一つの方法であるということは認めたいと思います。
 同時に、先ほど来、木島議員の御意見ですけれども、児童の虐待、そういうことを許さないという強い意思を示すためということであれば、例えばポルノグラフィーの所持そのものを処罰した方がいいんじゃないかとか、そういうのもあったのですけれども、それも自社さ案からは削ったという議論がありましたけれども、ともかくこの法案をスタートしてみて、そして不都合があれば見直すということで、第一歩という形でそういう立場をとったということを御理解いただきたいと思います。

○木島委員 では、もう一点だけちょっと聞かせてください。
 本法の附則二条、先ほど同僚委員も指摘しておりましたが、「地方公共団体の条例の規定で、この法律で規制する行為を処罰する旨を定めているものの当該行為に係る部分については、この法律の施行と同時に、その効力を失うものとする。」と。そこで一点聞きます。この法律が成立して発効すると、せっかくのすばらしい神奈川県条例の三十七条七項、年齢の不知は許さないというこの規定の効力はどうなってしまうのでしょうか。これはつぶされてしまうのでしょうか、生き残るのでしょうか。それだけはちょっと発議者、答弁してください。

○吉川(春)参議院議員 ですから、この法律と重なる部分は効力を失うけれども、それからはみ出す部分については当然残るのであって、それをどうするかについては各地方公共団体の御判断である、この立場でございます。

○木島委員 そういう法解釈を発議者がとられたということは非常に重大ですから、是として、質問を移ります。
 これも、三年後の見直しに有益かどうか知りませんが、法定刑の軽重、重さについて一点だけ聞きます。
 児童買春罪基本法は三年以下の懲役であります。刑法の強制わいせつ罪は六月以上七年以下の懲役であります。強姦罪は二年以上の有期懲役であります。有期というと、十五年以下ということです。児童福祉法三十四条、六十条の児童に淫行させる罪、確かにこれは本人が性交をやったわけじゃなくて第三者をして淫行させた罪でありますが……(発言する者あり)本人がしたのも入るという判例もあるのですか。十年以下の懲役なんですよ。これと比較すると、本法の法定刑は軽きに失しやしないかというのが私の気持ちなんですが、御意見だけ簡潔に聞かせてください。

○堂本参議院議員 先生も御存じのとおり、ここの部分も勉強会で大変議論のあったところでございます。
 確かに、児童買春罪の法定刑については、御指摘の強姦、強制わいせつ罪の法定刑、それから児童福祉法違反の法定刑だけではなくて、私たちは、青少年保護育成条例の法定刑、そういったものを全部考慮してこの三年という刑を選び、そして決めました。選択して決めたということでございます。
 刑法の強制わいせつ罪及び強姦罪は、基本的に暴行とか脅迫を要件としているということ、それから、児童福祉法の児童に淫行させる罪は、淫行させるに至る原因に、脅迫、強要などの、対償が供与されて悪質なものがあると考えることから、この罪はより重く処罰すべきであるということで、法定刑の上で上限が重いというふうに解釈しております。
 確かに、私どもの議論の中で、自社さ案のときには十年というような書かれ方もございましたし、するのですけれども、やはりこれが初めて施行される法律である以上、この段階ではこういうスタートを切って、また実態を見てということかと私は思っております。
    〔橘委員長代理退席、委員長着席〕

○木島委員 次に移ります。
 いわゆる被害児童、被害女子に対するセカンドレイプは絶対に許してはならぬと私は思います。この法案にはそういう配慮もあります。捜査、公判、あらゆる段階における配慮であります。
 既にこれまでの審議を通じまして、捜査に当たっては子供の信頼するカウンセラー等を同席させること、事情聴取は女性捜査官が行うこと、そういう方向で警察が捜査を進められるよう希望したいという発議者からの答弁もございました。大変重要なことだと思いますので、その発議者の意思を捜査当局はきちっと法律成立後は胸に置いて捜査を進められんことを期待します。
 私、時間も関係ありますから、一点だけ、公判段階における被害女子の人権尊重の問題に絞って、最近、イタリアで同種の法律ができて、その部分で大変すばらしい法律がイタリアで制定されたので、御披露して、きょう残念ながら最高裁をお呼びしておきませんでしたが、発議者の御意見等を賜って、この問題を閉じたいと思うのです。
 イタリアでは昨年八月三日に、新しい形の奴隷的関係としての売春行為及びわいせつ行為、並びに未成年者に対する性的行為を目的とした旅行を取り締まる法律を制定いたしました。大変御苦労いただきまして、衆議院の法務調査室の皆さんにイタリアの原文を全部日本文に翻訳していただきまして、私もいただきました。
 その中に第十三条というのがありまして、「訴訟に関する規定」、その第六項にこういうものがあります。刑事訴訟法の改正があわせ行われました。読みますが、「訴訟が行われる場合には、犯罪の犠牲者となった未成年者に対する尋問は、未成年者自身またはその弁護人の要求があれば、マイクロフォン装置を備えたマジックミラーを使用して行われる。」意味はわかろうかと思うのです。
 基本は、少女が証人として喚問されて、そういうわいせつな性行為があったかどうか、対償の供与があったかどうか、お金を渡したか否か、それが否認事件の場合は徹底的に尋問を受けるわけであります。当然、被告人の人権という立場からいくと、それを避けるわけにいかない。それで、現行法でも裁判所はいろいろ工夫して、いたいけな被害女子が、児童が被告人の面前で震え上がることがないように配慮はあるのですが、このイタリアの配慮というのはすばらしいですね。「マイクロフォン装置を備えたマジックミラーを使用して行われる。」要するに、別室に入れるということです。加害者である男性の面前にはさらさないという非常にすばらしい配慮だと思うので、日本の裁判もこうありたいものだと私は思うのですが、発議者の御感想、御意見を承っておきたいと思うのです。

○吉川(春)参議院議員 九八年の三月に制定されたこのイタリアの法律の翻訳について、当委員会に提出されたものを私も拝見いたしまして、この規定に限らず、随所にいろいろな工夫があって、今後の私たちの参考になるという印象を持ちました。
 そして、先ほど来、公判廷でどうするのか、セカンドレイプというようなことを防ぐためにどうするのかという御議論もありまして、法務当局からも御発言がありましたけれども、まさにこういう方向をイタリアが示されたということは本当にすばらしいことですし、私たちの研究の材料としても多くの示唆を与えてくれるものと思いますので、やはりそういうことも含めて、今後、日本の捜査段階において、あるいは公判廷においてセカンドレイプにならないような工夫がいろいろな方法で行われるように期待をしております。

○木島委員 以上で、私は、発議者に対する質疑は一応終結したいと思います。本当に長い間この法案作成のために苦労された皆さんに、心から感謝を申し上げたい。
 残った時間で、私は、政府当局に質問したいと思うのです。
 国外での日本人による児童買春、児童ポルノの現状と摘発の問題であります。国内で摘発よりも国外でのこの摘発が成功するかどうかが決定的に重要だという認識を私は持っているからであります。本法律の目的である児童に対する性的搾取、性的虐待を根絶するために本法律の実効性が高まるかどうかは、一に日本人の国外での児童買春、児童ポルノの製造、販売等を摘発できるかどうかにかかっているからだと私は思うからであります。
 それで、第一点。現在、外国、特に東南アジア等における日本人による、児童買春やら児童ポルノやら、性犯罪の実態について、外務省ですか、数字、どの程度、どのように把握しておられるか、簡潔に御答弁願いたい。

○内藤説明員 外務省では、毎年、現地の司法当局の協力を得まして、海外における犯罪により拘禁されている未決及び既決の邦人数について調査を行っております。この調査によりますと、九九年一月一日現在の統計では、アジア地域において、性犯罪による被拘禁者は、フィリピンで二名、タイと香港がそれぞれ一名でございます。

○木島委員 ではついでに、性犯罪以外の、全体の犯罪で拘禁された数は本年一月一日現在でアジア地域で何人か、それだけ答えていただきましょうか。

○内藤説明員 本年一月一日現在、アジア地域ですと六十二名になります。

○木島委員 はい、ありがとうございました。
 今答弁にあったように、日本がポルノや買春ツアーの最大の発信地だ、その被害地がアジア諸国だと言われているんですが、ことし一月一日現在、アジア地域において、外務当局がつかんでいる性犯罪による拘禁者、被拘禁者はわずかに四名、四名しか身柄拘束の強制捜査を受けていないという実態であります。
 現行刑法三条一項五号、十一号で、現行でも強制わいせつ罪、強姦罪、未成年者等略取誘拐罪は、日本人の国外犯は科罰であります、罰せられます。ですから、日本人が外国、東南アジアへ行って強制わいせつしたり強姦したら、それは有罪なんですね。当然、逮捕され、捜査され、起訴されなきゃいかぬわけですが、その現状はどうなっているでしょうか。これは警察、法務でしょうか。

○林(則)政府委員 御質問の強制わいせつ、強姦、未成年者略取誘拐に関する日本人の国外犯の検挙状況につきましては、最近五年間で見てみますと、検挙件数にして、強制わいせつ二件、それから強姦三件を検挙いたしております。その詳細につきましては、被害者の名誉にかかわることであるので、申し上げることはできないわけでありますが、いずれも被害者は日本人でありまして、国外で被害に遭って、帰国後、告訴がなされておるというものでございます。
 これらの事件は、被害者の事情聴取を関係国に依頼するなどの必要はなかったわけでありますが、犯行現場等の実況見分等につきましてはICPO等を通じて外国機関の協力を賜って、検挙をいたしております。

○木島委員 お聞きのとおりであります。買春ツアー等が大問題なんですが、日本人が東南アジアで犯した現地の少女に対する強姦、わいせつが一件も立件されていない。日本人が被害者であるそういう強制わいせつ、強姦の立件も過去五年で五件だけ。これは、現行強制わいせつや強姦が親告罪であるという、非常に決定的に捜査が手が出せない制約があるのも原因であり、また、外国での捜査能力の問題もあろうかと思うのです。しかし、こういう実態である。
 私は、この法律が成立しますと、今度は親告罪じゃないわけですから、日本人が外国で行った児童買春、児童ポルノ、全部日本の捜査当局は捜査権限があり、起訴する権限があるわけですから、それが適正に行われるかどうかが非常に重要になってくる、それが司法と捜査の共助の問題だと思うのです。
 そこで、お聞きします。外国政府当局との捜査及び司法におけるこの種性犯罪の捜査の、あるいは司法の共助の現状はどうなっているか教えてください。

○林(則)政府委員 最近における犯罪の国際化の状況は、申すまでもなく、大変顕著でありまして、これらの国際犯罪に的確に対応していくというためには、委員御指摘のとおり、外国捜査機関との協力というのが一層重要になってきております。
 警察におきましては、先ほども申しましたICPO等を通じまして外国捜査機関への協力要請を積極的に行っているところでありまして、例えば、最近におきましても、インドネシアにおける日本人による保険金目的殺人事件の捜査に際しましてICPOインドネシアに対しまして協力要請を行い、去る四月三十日に被疑者四名を検挙した、そういった事案も見られるところであります。
 他方、外国捜査機関から我が国に対する捜査の協力要請につきましても誠実に対応しておるところでございまして、平成十年中における諸外国からの要請に基づく捜査共助を実施した件数は、外交ルートによるものが十件、ICPOルートによるものが九百四十四件となっております。このICPOルートの捜査共助件数だけを見ましても、平成元年の三百五十件に比較して二・七倍となっておるということで、おっしゃいますように、やはり国際共助というのはますます重要になってまいるというふうに思います。

○木島委員 わかりました。
 わかったら教えてほしいんですが、今御答弁の最後の、平成十年、ICPOルートでの捜査共助が、日本の警察が受けたのは九百四十四件、外交ルート十件、そのうち性犯罪は何件ぐらいかの統計数字、とれますか。とれたら教えてください。

○林(則)政府委員 まことに恐縮でございますが、手元にその資料を有しておりません。あればしっかり調べてみたいと思います。

○木島委員 はい。
 国際捜査共助というのは、非常に決定的にこの法の実効性を高めるためには重要な課題だと思います。
 そこで、私、国際捜査共助の基本的な仕組みがどうなっているのか、改めて勉強してみました。日本ではどうするか。外国から今言われたような捜査のお願いがあったときに日本の警察、検察がどう協力するかについての法律が、いわゆる国内法であります国際捜査共助法、昭和五十五年五月二十九日成立でありますが、日本がよその国から捜査してくれと頼まれたときの共助の原則があるのですね。この法律の第二条「共助の制限」「次の各号のいずれかに該当する場合には、共助をすることはできない。」
 大原則が四つある。第一、「共助犯罪が政治犯罪であるとき、」外国での政治犯罪人を捜査するわけにいきません。
 第二は、双罰性の原則と警察の皆さんおっしゃられているようでありますが、「共助犯罪に係る行為が日本国内において行われたとした場合において、」仮定ですよ、そういう場合において「その行為が日本国の法令によれば罪に当たるものでないとき。」はだめだ。要するに、外国政府から日本の警察に捜査協力してくれとお願いされても、その行為が仮に日本国内で行われたときに日本の刑事罰法規には該当しないときには捜査協力できませんよ。双罰性の原則。
 それから第三項、これは双務性の原則と言っているようですが、「日本国が行う同種の要請に応ずる旨の要請国の保証がないとき。」日本の国が捜査をやってくれと頼んだときに、相手の国が応じてくれないような国からの捜査依頼には応じません、双務性が必要だ。そしてもう一項、第四項、これははしょりますが、そういう四つの原則がある。日本ではそうだ。
 必ずしもこういう原則を東南アジア各国が立てているとは限りません。しかし、もしこういう同じような原則を東南アジアの各国が立てているとすれば、やはりこういう双務性の原則、双罰性の原則がないと、幾ら日本の警察が東南アジアの国の警察に捜査をお願いしてもやってくれないということになるわけですね。
 そこで、もう時間が迫っていますからやめますが、大変大事ことは、東南アジアそれぞれの国の刑事法制がどうなっているのか、児童ポルノ、児童買春が犯罪となっているのかどうなのかということと、その国の捜査共助法がどういう事態になっているのかということがやはりきちんと確立していないと、日本と共通条項がないと、口では捜査共助と言っても、ICPO、インターポールの皆さん、非常に努力して奮闘されておりますが、現実にはこういう壁があってなかなか捜査共助が実らないということになる、そういう仕組みでないかと理解したのですが、もう時間ですから、私のそういう理解は間違っていないと、基本的にはそういう理解でいいと聞いていいですか。もう結論だけ。

○松尾政府委員 おっしゃるとおりでございます。
 一言だけつけ加えますと、今の、双罰性等の要件を緩和することが可能なのは二国間で捜査共助条約を結んでいくこと、その中で要件を緩和していくということでございますが、現在、日本はアメリカとの間で条約の交渉に着手しているということでございます。

○木島委員 法務大臣、そういう状況なんですね。
 私は、まだ勉強不足で、東南アジア各国が本当に児童ポルノや児童買春について罰則規定をつくっているかどうかつまびらかにしてはおりません。
 一つだけ御披露しますと、アエラの一九九九年一月二十五日号に、タイの大学教授のビティット・ムンターボーンさんが、「子ども買春」という論文を書いていまして、「これまで風当たりの強かったタイ、フィリピン、台湾などでは、法改正で取り締まりが可能になりましたが、こんどは近隣のミャンマー、中国南部、ラオス、カンボジアなどから女の子たちが調達されるようになってしまいました。国内の子どもの犠牲者が減っても、それを補うように、近隣国からの「人身取引」が増えているという皮肉な現象です。」こういう状況がある。
 だから、この法律が成立したら、ぜひ法務大臣なり日本の警察庁が音頭をとって、アジアの皆さんを集めて、あるいは一堂に会して、ひとつアジア全体から児童買春や児童ポルノを撲滅しようじゃないかという会合を開いていただきたい。そして、捜査共助法もこれらの国々にぜひともつくってもらいたい。あるいは、日本の国と、アメリカとの関係でしか今のところ計画がないようですが、二国間条約、多国間条約もつくろうじゃないか。そして本当に捜査共助の実が上がるような状況をつくろうじゃないか。ぜひその音頭を法務大臣にとっていただきたい。それが私は、この法律の第十七条の国際協力推進の責務だと思うのですが、ひとつこれは法務大臣の決意を伺って質問を終わりたいと思うのです。

○陣内国務大臣 国際的な捜査共助や逃亡犯罪人の引き渡しの実施及びこれらに関連する情報の交換について、緊密な国際的連携を確保しながら、この法律の趣旨を十分に生かすように努めなければならないと思います。ようやくこの分野について今の双務性とかあるいは双罰性が確立できたわけでございます。
 ただ、今御指摘のような、これを国際的にもっと広めていく、高めていくということが必要であるという御意見については、私も大変大事なことだと思って拝聴させていただきました。

○木島委員 発議者の努力を多とし、この努力を法務省初め日本の政府各省庁が真に受けとめて、実りある法律になるように心から期待をして、質問を終わらせていただきます。

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最終更新:2008年12月05日 06:16
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