国会質疑 > 児童ポルノ法 > 1999-08

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衆議院・法務委員会(1999/05/14)/福岡宗也議員(民主党所属)

○福岡委員 ありがとうございました。
 私もそうありたいということで、そういうような理解だということならば、私も安心をいたしたわけであります。
 そこで、今のことに関連をいたしまして質問をしたいのでありますけれども、それは、児童買春の被害者となった児童、それから児童ポルノのモデルになった児童などについて、少年法のいわゆる虞犯少年、これは少年法第三条の一項三号というのがありますけれども、いわゆる少年審判に付することのできる少年としてこういう虞犯少年というのがあります。それからまた、不良少年という概念もあります。こういうものに該当するとして捜査の対象にされて被疑者的な扱いを受ける、ひいては少年審判に付される、こういうようなことはあり得るのかどうなのか。
 一見しますと、児童買春の相手方となる行為は、いわば売春防止法に言うところの売春行為にも該当する可能性があるわけでありますし、それからまた、十四歳以上の児童については刑事責任能力もあるということですから、取り締まりをしようと思えば当然にできるような感じもするわけであります。そうなれば、これは、本件でもって買春した人は処罰はされますけれども、同時に、児童の方についても、そういう法的な不利益というものは当然降りかかってくる対象になりますし、捜査のやり方いかんによっては、相手方の大部分がこれにひっかかってくるような取り締まり方法というものもあるのではないか。この点が、私、本法案について一番懸念をしていたところでございますので、この点につきましては、発議者とそれから法務省、それぞれ簡単に御答弁をお願いしたいと思います。

○大森参議院議員 今先生おっしゃられたように、少年法の審判に付すべき少年の中に、犯罪少年、触法少年、そして虞犯少年というものが類型化されております。
 それで、犯罪少年が、罪を犯した少年、これは刑法の規定によりまして十四歳以上になります。それから、触法少年、十四歳に満たないで刑罰法令に触れる行為をした少年であります。いずれにしても、刑罰法令の構成要件に該当するような行為をした者が対象となります。
 それで、このような買春の相手方となった児童の場合ですけれども、こういう行為が、先ほど福岡先生、売春行為に該当し得るというようにおっしゃったわけですが……(福岡委員「いや、私が問題にしているのは虞犯少年だけです」と呼ぶ)虞犯少年だけですか。わかりました。
 虞犯少年の要件につきましては、少年法の各号に当たるその要件を満たすかどうか、これは個々に買春の相手方となった児童、それから、例えば児童ポルノの対象になった児童につきましても、日ごろの素行がどうであるかとか、そのさまざまな行為態様というものをこの虞犯少年に当たるかどうかという基準に従って判断するわけでありまして、虞犯少年等、少年法の適用によってするということについてはこれまでと変わらないだろうと思います。

○福岡委員 ちょっと答弁の最終的な結論の部分がよく了解できなかったんですが、要するに、児童買春行為の相手方となったという場合に、この虞犯少年の要件であるところのイからニまでの事項というのがあります。例えば、保護者の正当な監督に服しない性癖があるとか、正当な理由なく家庭に寄りつかないとか、犯罪性のある人もしくは不道徳な人と交際し、またはいかがわしい場所に出入りする、自己または他人の徳性を害する行為をする性癖がある。
 そうすると、これは、ニの徳性を害するということにも該当しますし、犯罪性のある人と交際をするというような問題、それから、両親の言いつけを聞かないというような問題もやはり虞犯少年の要件ということですから、いわば当然に、児童買春の相手方となって対償をもらったような場合には該当しそうな行為が列記されているので、こういった場合に、児童買春をした大人を処罰するのはいいんですけれども、同時に、捜査官の捜査の対象という形に取り上げられるということについては、私は取り上げてもらっては困ると思っているんですね。
 そうしないと、両方とも被疑者扱いということの取り調べになってきて、児童の人権が守られないという取り扱い。単純被害者の場合ですらもいろいろな形の二重被害が起こっておるわけであります。先ほど言いましたように、証人に出る、取り調べの段階で厳しくまた道徳的な問題でも追及されるとか、先ほども御質問がありましたように、援助交際はけしからぬ、道徳観念がいかぬのだという観点は確かにあります。いわゆる純風な性道徳に反する行為をおまえしておるんじゃないかという取り調べを受けるということになると、児童を守るどころか、児童弾劾法となりかねないというところを恐れているわけですから。
 その辺について明確に、ならないんならならない、なってもそういう取り扱いをしない、それはどういうことで取り扱いをせずに済むのかという点を明確にしてもらわないと、ちょっと安心できないということであります。
    〔委員長退席、橘委員長代理着席〕

○大森参議院議員 虞犯少年の要件については、今先生の方から述べていただきました。
 要するに、これは認定の問題でございまして、児童買春の相手方となった児童、それから、児童ポルノの対象の児童、この行為等、振る舞い等、これが虞犯少年に当たるかどうかという判断でありますので、ある場合には当たる場合もあるでしょうし、ある場合には当たらない場合もある。したがって、言えますことは、児童買春の相手方となった児童が直ちに審判の対象とはならない、こういう言い方ができると思います。
 それから、今、被疑者扱いと言いましたが、これは虞犯少年についてもということでしょうか。そこのところにつきましては、そういう懸念がありますので、捜査、公判上の注意ということで特に規定を設けております。

○福岡委員 今の御答弁をお聞きしても、やはり虞犯少年という対象になって、場合によっては捜査ということがあり得るという可能性を残しておるというふうに私は理解をいたしたわけでありますけれども、やはりその点については、運用上において十分な配慮をなされて、いきなり買春行為をした人と同レベル的な扱いは絶対に避けるというようなことをここで確認をしておいていただきたいと思っております。
 それから次に、本法案につきましては、児童買春、児童ポルノの対象とされておる児童の年齢を十八歳未満の児童と定めております。
 我が国の刑事責任能力年齢というものは、刑法において十四歳と規定をされておりますし、それから、民法におきまして結婚可能年齢は満十六歳とされておる。したがって、我が国の法規としては、遅くとも十六歳においては責任能力もあるし、性的行為についての決定能力というものもあると考えているわけであります。また、外国の立法例も、いわゆる児童を買春行為から守るということについては、ドイツは十四歳、フランス十五歳、ベルギー十六歳というふうにされております。
 これらの問題を勘案しますと、本案の十八歳というのは高きに失しているんではないかという感じがするわけであります。そして、それは同時に、半面的に、十分に成熟をし判断能力のある児童についての性的意思決定権というものも制約をする結果にもなっているわけであります。そういう点からしますと、やはり、一部の人が言っているような義務教育年齢までに下げる必要があるという主張ももっとものような気がいたします。
 そういうような観点で、この対象の児童年齢を満十八歳と定めたその理由について発議者と法務当局、これで他の法令との整合性がいいかどうかは法務省の方で御答弁をお願いいたします。

○円参議院議員 先生が今おっしゃったようなさまざまな国内の法律や、また諸外国の法律について、この年齢については随分議論が交わされました。その結果でございます。
 ですから、今先生がおっしゃったようなことは繰り返しませんけれども、御懸念のように、子供の定義というものは必ずしも一義的に定まっているわけではございませんので、先生も御存じだと思いますが、一定の年齢に満たない者に対し特別の保護を与えることを定めた児童の権利に関する条約というのがございまして、その条約の中で、その対象となる児童を十八歳に満たない者とすることを原則としております。そして、この条約は世界的に普及しておりまして、この十八歳という年齢は、子供と大人を分ける緩やかなメルクマールになりつつあると私は思っております。
 また、我が国におきましては、児童が健やかに成長するように各般の制度を整備するとともに、児童に淫行させる行為等児童買春に関連する行為をも処罰の対象とする法律に児童福祉法がございますが、同法の対象となる児童も十八歳に満たない者となっております。
 これらの条約や法律の目的と今回つくります法律の目的から考えまして、対象とする者の範囲も同一ですべきであるという結論に私ども達しまして、十八歳未満の者をこの法律に言う児童としたものでございます。
 ちょっと今、林議員からも指摘がありましたが、先ほど先生がおっしゃった、婚姻年齢が女性の場合我が国は十六歳でございますけれども、この十六歳ということに関しましても、児童福祉法では同法の対象となる児童は十八歳に満たない者でございますが、かつ、それは女性の婚姻による例外を認めておりませんことは先生も御承知のとおりと思いますので、そういう結論に達しました。
    〔橘委員長代理退席、委員長着席〕

○福岡委員 どうもありがとうございました。
 この問題は確かに難しい問題でありますけれども、児童福祉法の関係のは姦淫をさせる行為というのが処罰の対象になっているという制約がありますので、同一ではないとは思いますけれども、問題は、諸外国について、保護すべき年齢は高く、しかしながら処罰するときは意思決定年齢にという考え方もあるものですから、運用の上でまた今後御検討をいただきたいというふうに思っております。
 それから次に、本法案の第二条の三におきましては、児童ポルノを定義いたしております。
 これは、ちょっと長いもので省略をしますけれども、要するにどういうことかといえば、これを見ますと三つの分類になっているわけです。まず第一は、性交とか、また類似行為というものについての姿態、それから次は、性器に接触をするというものの姿態、それからさらに、第三番目は、裸体または一部露出みたいなものの姿態、この三つの姿態ということがこれに当たるんだ、こういう考え方であります。後半の二つの問題については、それにさらに歯どめをかけまして、性欲を興奮させまたは刺激することをいう、こういう要件にしておるわけであります。
 そして、これと対比する意味で、刑法の百七十五条におきましては、わいせつな文書、図画その他のものを頒布等の行為をした者、これは二年以下の懲役という形になっております。
 わいせつなものというものについては、やはりいたずらに性的興奮を刺激する、善良な性的道徳観念に反するようなものとか、羞恥嫌悪の情を抱くようなものというようなことが今までの判例の積み重ねではっきりしておるわけでありますけれども、これはどう見ても、先ほど言った性的興奮をさせるような姿態だということや、それから当然性交行為自体を見ている。それで、単なる裸や一部露出であってもそういう刺激をさせないものはいいのだということだとすると、結局わいせつの概念と同じではないかという感じがするわけですよ、はっきり言いまして。したがって、わいせつ物とほとんどの場合は重複するようなものが児童ポルノであるのだ。
 そこで、ほとんど違わないか、違うとすれば、両方に該当する行為はどんなものであって、例えばわいせつ罪には該当はしないけれども児童ポルノには該当するというようなものは典型的なものとして何があるか、こういうようなところをはっきりさせておきたいというふうに思うわけであります。そこで、その辺についての、両構成要件の相違点について御説明をちょっといただきたいわけであります。

○大森参議院議員 まず、刑法第百七十五条の「わいせつ物頒布等」の中に出てきますわいせつの意義につきましては、今委員もおっしゃいましたが、最高裁の判例がありまして、正確に申し上げますと、「徒らに性欲を興奮又は刺激せしめ、且つ普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するもの」というふうに判断されております。ですから、刑法のわいせつ物頒布等につきましては、「わいせつな文書、図画その他の物」ですが、すべてに「わいせつ」がかかるという意味で、この概念において判断されることになります。
 児童ポルノの方は、まず一号ポルノと言われるものにつきましては、性交または性交類似行為に係る児童の姿態に関するものでありまして、このときには、こういうものであれば、それだけで違法性が強いものとして処罰の対象としております。そして、二号、三号につきまして、一定の児童の姿態を記載してございますけれども、これにつきましては、「性欲を興奮させ又は刺激するもの」、こういう文言を入れてございます。
 そこで、最高裁判例のわいせつ概念とどこが違うかといいますと、まず、「徒らに」ということはこちらは要求しておりません。つまり、過度にという意味ですけれども、過度であることを要しないということです。それから、「普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するもの」であるか否かについて、論ずるまでもなく規制すべきものとした趣旨でございます。
 このために、児童ポルノの方につきましては、刑法のわいせつに該当しないものも含み得ることになります。

○福岡委員 そうしますと、わいせつという抽象的概念といいますか、先ほど言いましたように、善良な性的道徳観念に反するとか「徒らに」というような要件というのはなくて、形式的にこれに該当すればいいというような感じの御答弁だったというふうに思うのです。
 そこで、ついでにもう一点だけお聞きしておきます。
 わいせつ行為の場合に、芸術作品かわいせつかというような問題が非常に問題になりまして、いろいろな判例がありますけれども、最高裁は、最終的な判例としては、芸術作品であってもわいせつ行為であるということを免れることはできないというような結論であるというふうに思っておりますけれども、その点については、本件の場合は多少そういった問題が論議されましたでしょうかどうか、ちょっとお答えをいただきたいというふうに思います。

○大森参議院議員 まず、たしか前回の衆議院法務委員会の質疑でもそのような質問をいただいたかと思います。いずれにしましても、ここで言う児童ポルノにつきましては、この第二条第三項各号に該当すれば児童ポルノに当たるというふうに考えております。
 それから、芸術作品の場合はとよくおっしゃるのですが、例えば、芸術作品というのは客観的な基準があるわけではございませんで、確定したものはございません。よく、これは芸術作品だと本人が思っているだけのような場合もございます。したがって、言えますことは、芸術作品であるかどうかはこれとは関係なく、児童ポルノの判断につきましては、あくまで今申し上げました一号、二号、三号ポルノ、この構成要件に該当するかどうか、これで判断することになります。

○福岡委員 ということは、端的に言うと、芸術性の有無というような問題は判断基準にはならない、そういうことで理解してよろしいですね。

○大森参議院議員 芸術性の有無云々ということは、表現の自由との関係で、刑法のわいせつ物かどうかでは問題になるところでございます。芸術性の有無が問題にならないとおっしゃる場合に、先生がどういうことを頭の中に描いておられるかちょっとわからないので申し上げますが、例えば、本来、芸術というものは時代を超えて多くの人がその価値を認めるものというふうに言うことができるかと思うのですが、そういう真の価値が付与された場合には、この「性欲を興奮させ又は刺激するもの」という、これは一般通常人を基準にいたしますから、この認定のところで多少の違いが出てくるのかという気がいたします。

○福岡委員 私が質問しました趣旨は、先ほどの御答弁の中に、「徒らに」ということがないということだから、目的的に、芸術作品をつくるということで、客観的に多くの人が芸術作品として認めるような絵画とか写真とか、そういうものについては、やはり芸術性があるからこれらに該当しないというのではなくて、そういうものであっても、ここの要件でありますところの「性欲を興奮させ又は刺激するもの」を視覚によって認定することができるというものに該当するとすれば、芸術性があろうがなかろうが、「徒らに」という目的的な概念は判断基準にならぬということですから、判例もちょっとそれに近いですけれども、だから当然、これはもう処罰の対象のポルノというふうになるのではないかなと僕は理解したのですよ。「徒らに」というのが判断基準にないとおっしゃるから。

○大森参議院議員 わかりました。先生のおっしゃるとおりであるとこちらも理解しております。
 要するに、この構成要件に該当するか否か、この判断によって、児童ポルノであるかどうかが決まります。

○福岡委員 はっきりしました。
 客観的なそういう基準に合致するかどうかで、主観的な要素というのは加味の対象にはちょっと難しい、こういうような御主張だというふうに思いますので、理解をしておきます。
 それから次に、刑法百七十五条わいせつ物の頒布等の罪の具体的な行為というのは、頒布と販売と公然陳列、この三つなんですね、行為が。ところが、今回の児童ポルノの罪は、そのほかに賃貸、製造、所持、運搬、輸入、輸出と、極めて多岐にわたっているのでありますけれども、こういった行為まで処罰するというのは、それぞれの持っておる法規のいわゆる保護法益という観点からこういう相違が出るのかどうか、また、その他の理由があるのか、ちょっとお聞かせを願いたいわけであります。

○大森参議院議員 処罰範囲の違いというものは、今先生触れられたとおりに、それぞれの法律の目的によって影響してくると思います。
 刑法のわいせつ物頒布等の罪につきましては、これは性風俗に対する罪ということです。ところが、こちらの児童ポルノ頒布等の罪は、多分時間をお気になさっているでしょうから繰り返しませんが、先ほど円委員等がその目的として述べたところでございます。このような法の目的から、今おっしゃったところでどこまで処罰の対象とすべきかということで、刑法とこの法案との差ができたものでございます。

○福岡委員 どうもありがとうございました。
 そこで、次に、本法案においては、自由刑だけで申し上げますと懲役三年以下。それから刑法では、百七十五条でやはり懲役二年以下ということで、法定刑に一年の差があるわけですけれども、これはどうしてこういう差が出てくるのか、その合理的な理由があるのかどうかということです。

○大森参議院議員 刑法のわいせつ物頒布等の罪が二年以下の懲役なのに、児童ポルノの頒布罪というのが要するに刑罰が非常に重くなっていること、これはそれだけ違法性が重大だと考えるからでありまして、性風俗に対する罪と、それから、もう繰り返しませんけれども、円発議者として説明しました本法案の目的から考えまして、このような児童ポルノに該当するものはより違法性が高い、強いものである、こういう判断が働いております。
 それから、例えばわいせつ物は、刑法の方ですと文書も入りますが、図画も入ります。その場合には漫画とか絵とかそういうものも入りますが、法律の目的の違いから、写真、ビデオテープその他の物ですけれども、これは実在する児童の姿態を描写したもの、こういう制約がありますので、児童ポルノに当たる場合にはより違法性が強いことは容易に御理解いただけると思います。

○福岡委員 そうしますと、結局、保護法益の面が、一般的な性風俗というような抽象的なものよりも、具体的な、モデルになった児童というものの人権保障、人権侵害的な要素というものを強く取り上げて違法性が高いという判断をした、こういう趣旨でいいわけですね。
 それから次に、児童買春の規定と相対応するものといたしまして、刑法においては強姦罪と強制わいせつ罪という規定がございます。そして、それぞれの規定につきまして比較検討をちょっとしなければならないかというふうに思うわけでございます。
 本法案におけるところの買春行為は二条の二で規定をされておりまして、要約いたしますと、対償を供与するということがまずこの要件になっておって、性交と性交類似行為、性器等の接触または接触させる行為ということになっていると思います、一言で言いますと。そして、その行為をした者は三年以下の懲役ということに処罰される、こうなっているわけでございます。
 一方で、刑法の方は、百七十七条において、十三歳以上の女子に対しては暴行、脅迫を要件として強姦罪が成立するけれども、十三歳未満の女子に対しては、暴行、脅迫をしなくても、姦淫行為をしたということだけで懲役刑に処せられるということであります。そして、その刑も重くて、二年以上の有期懲役ということで、かなり最高刑は高いということであります。
 それからまた、百七十六条の強制わいせつの罪としましては、十三歳以上の婦女子に、暴行、脅迫してわいせつな行為をした場合。十三歳以下の場合には暴行、脅迫がなくてもわいせつ行為が成立する、こういう二本立てになっているわけでございます。
 そこで、言うところのわいせつ行為というのをよく考えてみますと、結局、ポルノの先ほどの要件でありますところの行為、それとやはり概念的にほとんど同じような感じ。具体的に考えてまいりますと、対償を供与しというのはございませんけれども、性交は強姦の方でありますし、それからあとは性交類似行為、性器接触とか、それから性器をさわらせるというような行為も、結局強制わいせつ罪の従来の判例上で認められているような行為だと思うのですね、ほとんどすべてが。
 これはどういうような相違点があるのか、重なり合うところと、それからはみ出すといいますか。それから、どちらの方がむしろ広いというふうに考えるのか。私ども検討をしましたけれども、なかなかわかりにくいので、簡単に説明をいただきたいというふうに思います。

○円参議院議員 先生のおっしゃった本法案の児童買春罪の構成要件と、それから刑法第百七十六条、第百七十七条との違い、先生今一応刑罰の違い等はお話しなさいましたけれども、とりあえずこの児童買春罪の構成要件は、児童等に、「対償を供与し、又はその供与の約束をして、当該児童に対し、性交等をすること」でございます。
 これに対し、強制わいせつ罪の構成要件は、十三歳以上の男女に対し、暴行または脅迫を用いてわいせつな行為をすること、及び十三歳未満の男女に対し、わいせつな行為をすることでありまして、おっしゃるとおり。また、強姦罪の構成要件は、暴行または脅迫を用いて十三歳以上の女子を姦淫すること、及び十三歳未満の女子を姦淫することでありまして、これらの罪の構成要件は、十三歳以上の者に対する場合については、暴行または脅迫が要件とされております。また、十三歳未満の者に対する場合については、対償の要件がないこと等の点において、児童買春罪とは異なるものでございます。
 この児童買春罪と強姦罪、強制わいせつ罪の性質の相違についてでございますけれども、児童買春罪は、児童買春がその相手方となった児童の心身に有害な影響を与えるのみならず、このような行為が社会に広がるときには、児童を性欲の対象としてとらえる風潮を助長することになるとともに、身体的及び精神的に未熟である児童一般の心身の成長に重大な影響を与えるものでありますことから、かかる行為を処罰しようとするものであるのに対し、刑法の強姦罪、強制わいせつ罪は、個人の性的自由を保護法益とするものでございます。

○福岡委員 そうしますと、やはり保護法益の相違点ですね。そういうような点、片方は個人の性的自由というものを保障するというのが刑罰の保護法益と私も理解しておりますけれども、そういうことよりももっと広いところがあるということだということです。それからもう一つ、今のお話を聞いておって思ったのは、やはり十三歳以上の人たちが、暴行、脅迫がない場合は野放しになってしまう、これをやはりきちっとしないといけないのだという御趣旨もあると。そこのところが違うところの主なものですね。
 そうしますと、あとの、中身である性交というものについては、これは姦淫という言葉を刑法では使っておりますけれども、これは同意語でいいわけですよね。そうすると、従来の強姦罪だけでいけば、十三歳以上の婦女子に姦淫をした場合には暴行、脅迫がなければ逃げられてしまうということ、特に十八歳未満の人が逃げられるわけですね、十八歳以上の人はフリーになっちゃいますから、本法案でも。だから、十三歳以上十八歳未満の人を、いわゆる対償という構成要件を付加することによって処罰するのが目的だ、こうお伺いしていいですね。

○円参議院議員 これまでは暴行や脅迫がなければ十三歳以上十八歳未満の児童にわいせつや姦淫をした場合に取り締まるのは難しかったということがございますが、今回はそれを対償の供与というようなことで取り締まることができるとしたものでございます。

○福岡委員 よくわかりました。
 そこで次に、児童買春については行為が列挙してありますけれども、いわゆる性交から性器接触まで、これはすべての行為というものを一括して同じ刑、三年以下としているわけです。ところが、強姦罪と強制わいせつ罪は、強姦罪の方は二年以上ということですから、上は十五年まで行く可能性があるわけでありますし、それからさらには、強制わいせつの方は六月から七年以下ということで、もう法定刑としては格段の差がある。これはどういうことかといいますと、姦淫行為そのものの自由権の侵害というようなものは極めて大きい。その他の類似行為であるとか、接触行為とかというわいせつ的な行為とは比較にならないという考え方が基本的に刑法にはあると思うのですね。
 その点について、やはり児童買春の場合でも、姦淫行為にまで及んだ場合と、性器にちょっと接触をしたという場合とでは違法性において大きな違いがあるとどうしても思わざるを得ないのですけれども、この点、二つの刑に分けて規定するということは考えなかったのかどうか。また、考えなかったとすれば、その理由だけちょっと聞かせていただきたいと思います。

○大森参議院議員 この二条二項の中には、児童買春の構成要件が規定されております。そして、これを受けての法定刑が三年以下の懲役または百万円以下の罰金でございます。要するに、いろいろな行為態様によりまして、性交した場合あるいは性交類似行為にとどまった場合、あるいは性器等にさわったような場合と、その行為態様によりましてその法定刑の範囲内で適当な刑の言い渡しがされるのであろうというふうに思っております。
 それから、強制わいせつの場合で、例えば十三歳未満の児童に対しましては暴行、脅迫等が要らないわけでありまして、十三歳未満の者に対する強制わいせつ等の行為につきましてはそちらの構成要件にも該当するし、こちらに該当する場合もあり得ると思います。その場合は観念的競合になりまして、重い強制わいせつの方で処罰されることになりまして、個々具体的な事例につきましては、そんなにおかしな結論にはならないというふうに考えております。

○福岡委員 両罪に該当して観念的競合になる場合の選択はそれでいいと思うのですけれども、一罪だけが成立をした場合の、例えば対償性の要件とかいろいろなことがありますので、そういう場合ですとそれではできないので、強姦罪が二年以上の有期懲役だということになれば、これに類するような姦淫行為だけはある程度引き上げるとか、何かそういうような配慮がないと刑法とのバランス上ちょっと据わりが悪いんじゃないだろうかなということを考えます。これ以上質問しませんので、運用上、また将来の検討事項として検討はしていただきたいなというふうに思っております。これだけ申し上げておきます。
 それから、第八条の買春目的の人身売買の規定がございますけれども、「当該児童を売買した者」、こういうことで対象者が規定されているわけでございます。ここで言う売買をしたというのが、どうも概念が私としてははっきりわからないわけであります。
 我々、売買といいますと、民法の規定の売買概念として、一方が財産権を相手方に移転をすることを約して、相手方がこれに対して対価を支払うということによって成立するんだ、こういうふうになっております。そうしたら、児童は財産権の対象ではありませんので、ずばりは来ないし、それからまた、さらにこの場合に、児童を引き渡しをして、それによって対償を受領したときに成立するのか、それともそういうようなことを抽象的に約束すればそれでもいいのかとか、その約束の内容はどうすべきかということについて、具体的に適用として非常に難しい問題が出てくる可能性があるなというふうにちょっと今私ども思っているわけであります。
 その点についての要件の内容、非常に認定が難しくて、これによって逃げられるようなことはないのかという、そこの懸念がちょっとありますので、御説明をお願いします。

○大森参議院議員 買春目的の人身売買の規定でございますけれども、売買とは、対価を得て人身を授受することをいうとされております。これは、刑法第二百二十六条第二項それから第二百二十七条第一項に規定する売買と同義に理解しております。
 それでは売買というのはどういうものかということにつきましては、刑事局長の方から答弁させていただきます。

○松尾政府委員 今発議者の方から答弁がありましたが、刑法にやはり売買という規定が出ております。
 先生のお尋ねの中に、例えば売買の約束だとか、あるいは対価を払う約束をしたけれども現実にそれが実現していないとか人が動いていないとか、この規定の仕方からいたしますと、売買したということでございますので、予備罪とか未遂罪についてはこれは触れていないわけです。特別にそういう規定がありますれば、そこらあたりも処罰の対象に行為としては包含されるわけでございますが、この規定ぶりからいたしますと、売買した、いわば現実にそういうことが行われたということが前提になろうかと思います。

○福岡委員 そうしますと、民法の売買みたいに意思表示主義というわけにいかないと。したがって、現実の引き渡しとかそういう具体的行為がないとなかなか難しいということでございますので、取り締まりがちょっと難しいのじゃないかななんというふうに私思うわけであります。それも一遍また御検討はいただきたいというふうに思っております。
 それから、次に、第九条の児童の年齢の知情の点についての規定でありますけれども、これについて、使用した者という表現があるんですよね。この使用した者というのはどういうことをいうのかちょっと明確じゃないものですから、どういうような行為をしたときか、どういうような立場の人間を使用した者というのかということをちょっと御説明お願いします。

○林(芳)参議院議員 御答弁申し上げます。
 「児童を使用する者」というのは九条の規定にございますが、これは児童福祉法の六十条の三項に同様の規定がございまして、本法案はこれに倣って作成をいたしたところでございます。
 同規定におきます「児童を使用する者」というのは、判例がございまして、「児童と雇用契約関係にある者に限らず、児童との身分的若しくは組織的関連において児童の行為を利用し得る地位にある者」、こういうふうな判例になっております。あるいは、「特にその年齢の確認を義務づけることが社会通念上相当と認められる程度の密接な結びつきを当該児童との間に有する者」というふうなことが判例になっておりまして、本法案における「児童を使用する者」の意義もこのとおりでございます。

○福岡委員 そうしますと、今その判例に従うということですから、実際的には、法的な意味で従属制があるとか親権に服するとかということよりもっと広い概念だということですね。事実上支配をしているというような関係に立つ者がそういうことをしたということですね。わかりました。
 それで、次にそれに関連しまして、第九条の規定全体を見てみますと、私は、本来、第五条ないし八条の罪というものは故意犯だと思うんですよ。故意犯を前提として、その年齢を知らなかった、十八歳未満であるということを知らなかったということに過失がある場合は処罰をするという、いわゆる過失犯を設定した規定だというふうに全体として認識するわけですけれども、それで間違いないでしょうか。

○林(芳)参議院議員 お答え申し上げます。
 結論から申し上げますと、委員の御指摘のとおりでございますが、五条から八条までに規定する犯罪は故意犯でありますから、児童である、この場合は十八歳未満でございますが、その認識がなければ処罰ができないというのがこの原則でございますけれども、児童を使用する者については年齢に関する調査確認義務があるというふうに考えられますので、このような者については、児童の年齢を知らないということを理由にしてのみ処罰を免れさせるのは妥当でないという判断をいたしまして、これらの者については、認識がないことについて過失があれば処罰するということにいたしたところでございます。

○福岡委員 そうしますと、この規定の仕方を見ると、何か、裁かれる被告人側の者が過失がないことについて立証責任を負うというようにも読めるんですよ。要するに、原則として、知らないことは処罰される、ただし、知らないことについて過失がない場合には免れるというような感じになりますから。ところが、実際は刑事訴訟法の大原則は、すべて構成要件的なもの、過失もいわゆる構成要件ですから、それについては検察側の立証の義務があるということははっきりした事実ですね。したがって、その点をやはり変更しているというわけじゃないでしょうか。そこのところだけ明確にしていただきたいんです。

○林(芳)参議院議員 お答え申し上げます。
 これも委員のおっしゃるとおりでございまして、このような規定には児童福祉法六十条三項というのもございますが、本条はこれに倣ったものでございます。これは解釈上、学説等いろいろあるようでございますが、我々といたしましては、憲法の三十一条に規定されております検察官の立証ということの原則にのっとりまして、検察官が過失を立証すべきであるというふうに考えております。

○福岡委員 もう大体時間になりましたので、あとちょっと省略いたしますけれども、一点だけ確認をいたしたいわけであります。
 先ほど、冒頭に私の方では、買春行為の相手方になる児童がまた虞犯少年だというような取り扱いでもって審判を受ける、厳しい捜査にさらされるということは非常に問題であるということを申し上げました。私は、それとプラス、やはり我々弁護士として、被害者の場合の損害賠償その他の、その後のケアとかなんかの相談を受けたことがたくさんあるわけでありますけれども、そういう場合に、やはりそういう性的な行為というものに対する被害者といたしましては、それを公表されるということ、さらには、それが問題とされ、その場に証人に出ていく、参考人として出るということ自体が本当に、家族を含めて苦痛であるということになるわけであります。そういう意味で強姦罪の方は親告罪としたわけであります。要するに、角を矯めて牛を殺すことになりかねない、守るつもりであったのが逆に被害拡大になるということが親告罪の歯どめであるわけです。
 今回は親告罪ではないという形になっております。その理由はいろいろあったでしょう。それは何かというと、犯罪の親告すること自体が自由な意思において行われたかどうかということは、問題になりやすいんですね。ところが、そういう被害というものは、成人の場合以上に二重被害というものを起こしやすいということも実態であるわけですね。
 だから、そういう点についての配慮が十分なされた上で、これでいいのか、家族も子供も、取り調べを受けるのは絶対に嫌だと言って拒絶をして泣き叫んでおるときにも、あえて官憲の方で押し込んでいって捜査するというようなことがいいのかどうなのか、これが本法案についての私どもの一番心配するところではあったわけでありますけれども、この点についての御見解をちょっとお伺いいたしたいわけであります。

○円参議院議員 先生がおっしゃるとおり、親告罪にすべきか非親告罪にすべきかという議論は随分私どももいたしましたし、また、捜査の過程においてセカンドレイプ等の人権侵害がないようにしなければいけないということも随分考慮した上でこの法案をつくったつもりでございます。
 御存じのように、強姦罪や強制わいせつ罪は、犯罪の性質上、これを訴追し、処罰することによって、被害者の精神的苦痛等の不利益がより増すことが考えられますことから、被害者の保護の観点から親告罪としているものと解されております。
 しかし、今回の児童買春罪につきましては、加害者やその背後の組織の報復を恐れて告訴できなかったり、保護者への金銭の支払いで示談をし、告訴を取り下げさせたりするようなことが通常の性犯罪以上に多いことも考えられますので、これを親告罪といたしますと、児童買春の相手方となった児童の保護や、児童を性欲の対象としてとらえる風潮の抑制、児童一般の心身の成長への重大な影響の防止を十分に図ることが困難になりますので、このような観点から非親告罪としたものでございます。
 また、児童ポルノ頒布等の罪につきましても同様であると考えております。
 捜査、公判の過程におきましては、児童買春の相手方となったり児童ポルノに描写された児童の心身に有害な影響を与えないように、本法律案は、第十二条第一項で、この法律に規定する罪に係る事件の捜査及び公判に職務上関係のある者は、その職務を行うに当たり、児童の人権及び特性に配慮するとともに、その名誉及び尊厳を害しないよう注意しなければならないことを定めました。もう先生のおっしゃるとおり、そのあたりは十分配慮していきたいと考えております。

○福岡委員 どうもありがとうございました。
 時間が参りましたので、質問としては終わらせていただきますけれども、今最後の点でありますけれども、了解はいたしましたが、ただ、現実の捜査の開始については、法的にできるという場合でありましても、実際に、その買春行為の悪質性、それから、被害者である児童の置かれている環境、家庭環境その他を含めて、その人の意思も十分確認をして、実際に着手するかどうかというのは、相当な程度、その意思決定権というものを児童に置くというような姿勢というもの、これは関係当局の方の実際の取り締まりのときの姿勢でありますけれども、十分それへ配慮をして運営をいただきたいということを強く要望いたしまして、私の質問を終わらせていただきます。

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最終更新:2008年12月05日 05:49
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