国会質疑 > 児童ポルノ法 > 1999-02

国会での審議の中継


参議院・法務委員会(1999/04/27)/高野博師議員(公明党所属)

○高野博師君 公明党の高野でございます。何点か質問をさせていただきます。
 最初に、趣旨説明の中でもまた質疑の中でも言及されました児童の権利に関する条約との関連で意見を述べさせてもらいたいと思います。
 この条約は、児童の基本的人権の保護に関して普遍性のある国際的な基準を定めた重要な条約だと認識をしておりますが、この条約との関係でいいますと、我が国が抱えるさまざまな子供に関する問題というのは、放置しておけば条約違反になるおそれが十分あるというものが多いと思います。
 例えば、学校教育上のいじめの問題あるいは不登校あるいは学級崩壊等の問題がそうでありますし、それから児童福祉をめぐる問題にも多々あります。さらには少年司法の問題も同様であります。児童買春や児童ポルノは、児童の性的搾取あるいは児童の虐待という観点から、これまで規制する法律がなかったという点で条約違反の状況にあったおそれがあるということが指摘できるのではないかと思います。したがって、今回の法律は画期的な意義があると思います。
 ところで、我が国の児童に関するさまざまな問題に共通する本質的な点は、条約で言うところの子供の主体的な権利、子供を権利の主体者としてとらえていないというところにあるのではないか。子供は、大人や親やあるいは社会が支配して管理して訓練し、あるいは所有する対象ではない。すべての子供は固有の権利を持っている。良心、思想の自由あるいは意見を表明する権利を持っている。そういう主体的な権利を持った存在であるというとらえ方が求められているのではないかと思います。同時に、子供は肉体的、精神的に傷つきやすい、そういう存在であることも認めなくてはならないと思います。その上で、この条約というのは子供の最善の利益を考慮すべきだということを規定しております。
 児童の性的搾取の問題というのは、我が国の一般的な人権意識の低さあるいは子供を大人や社会に従属する存在ととらえてきた伝統的な社会意識が背景にあるのではないか、そう思います。子供を従属視し、あるいはこれを容認する社会意識があるのではないか、これは日本特有の状況ではないとは思います。児童買春は、この人権意識の低さに加えて、アジアべっ視とかあるいは女性べっ視とか、そういう背景があり、さらにはアジア諸国の貧困というような社会的な問題もあると思います。
 児童買春、児童ポルノは言うまでもなく子供の人権侵害に当たるわけですが、日本は児童ポルノ発信基地として悪名高い。児童ポルノを厳しく規制するのは世界の趨勢になっているわけですが、我が国もやっと法律制定に至ったことは意義深いと思います。
 そこで、具体的に質問いたしますが、児童ポルノ規制と表現の自由との関係はどうなっているのか。先ほど言及がありましたが、これは児童の権利に関する条約三十四条でも規定されているとおりであります。子供の人権擁護は表現の自由にまさるという考え方もある、こういうことも言われておりますが、この表現の自由との関係について伺います。

○委員以外の議員(林芳正君) 高野先生の御質問にお答えをいたします。
 児童ポルノ規制と表現の自由とのバランスという御質問でございましたが、一般に表現の自由といえども公共の福祉により制限され得るということは累次の最高裁判決によって確認をされておるところでございます。
 児童ポルノに対する規制は、児童ポルノの頒布等の行為が児童ポルノに描写された児童の心身に有害な影響を与え続けるのみならず、このような行為が社会に広がっていくことによりまして児童を性欲の対象としてとらえる風潮を助長することになる、また身体的及び精神的に未熟である児童一般の心身の成長に重大な影響を与えるものであるという認識がありますところから、また、今先生の御指摘がありましたように、児童ポルノに係る行為については国際的にも対応を大変強く求められておるということでありますから、必要な限りにおいて表現の自由を制限するというものであります。
 このような表現の自由に対する制限が公共の福祉による制限であることは言うまでもなく、憲法に背馳するものではないというふうに考えておるところでございます。

○高野博師君 それでは、インターネットとの関係ですが、インターネットにわいせつな映像がはんらんしているということが大きな社会問題になっているわけですが、インターネットを利用して不特定または多数の者に対して児童ポルノを閲覧させた者にはどのような犯罪が成立するんでしょうか。

○委員以外の議員(大森礼子君) 現在、インターネットを利用しまして不特定または多数の者に対してわいせつ画像を閲覧させる行為というのがございますけれども、これは刑法第百七十五条との関連でいいますと、わいせつ画像のデータが記憶、蔵置されたハードディスク等の記憶装置は、わいせつ図画あるいはわいせつ物として刑法百七十五条のわいせつ物公然陳列罪により処罰されております。
 児童ポルノとの関係につきましてもこれと同様に考えておりまして、インターネットを利用して不特定または多数の者に対し児童ポルノを観覧、閲覧させた者については、児童ポルノ画像のデータが記憶、蔵置されたハードディスク等の記憶装置、これを児童ポルノとして児童ポルノの公然陳列罪が成立することになるというふうに考えております。

○高野博師君 それでは、第三条の「この法律の適用に当たっては、国民の権利を不当に侵害しないように留意しなければならない。」という条文の趣旨は何でしょうか。

○委員以外の議員(林芳正君) お答え申し上げます。
 第三条は、この法案に規定いたします児童買春や児童ポルノに係る行為が処罰されるべきことは当然でございますが、そしてまたこの法律の適用が適正に行われるべきだということも当然のことでありますけれども、本法案による規制等がいわゆる国民の私生活やプライバシー、また先ほど先生が御質疑されました表現の自由とも密接な関係を有するということで各方面からいろんな議論があったことも踏まえまして、念のためにこの第三条の規定を置いたということでございます。

○高野博師君 それでは、この児童ポルノ頒布等の罪、第七条と、刑法のわいせつ物頒布等の罪、刑法百七十五条との違いは何でしょうか。

○委員以外の議員(大森礼子君) まず、刑法百七十五条のわいせつ物頒布等の罪につきましては、これはわいせつ物の頒布等が国内における性的秩序、道徳、風俗を害するものであることから、これを処罰するものであります。性風俗に対する罪としてとらえられております。
 これに対して、この七条、児童ポルノ頒布等の罪は、児童ポルノ頒布等をする行為が児童ポルノに描写された児童の心身に有害な影響を与え続けるのみならず、このような行為が社会に広がるときには、児童を性欲の対象としてとらえる風潮を助長することになるとともに、身体的及び精神的に未熟である児童一般の心身の成長に重大な影響を与えるものであり、また児童ポルノに係る行為につきましては国際的な対応が強く求められているところから、このような行為を処罰しようとするものであります。
 このような違いから、先ほど刑法のわいせつ概念との比較を申しましたけれども、児童ポルノにつきましては刑法のわいせつ概念に該当しないものも含み得ることになります。
 それから、児童ポルノ頒布等の罪は、刑法のわいせつ物頒布等の罪と異なりまして、業としての貸与、これを明文で規定してございます。それから、児童ポルノ頒布等の罪の方では、頒布等の目的、これは四つの目的がありますけれども、これらの製造、運搬、輸出入についても処罰対象行為としております。それから、児童ポルノ頒布等の罪につきましては、日本国民については国内外を問わず罰則の適用がございます。
 そのほか、両構成要件を比較すればおわかりになると思いますが、児童ポルノ頒布等の罪では刑法に規定するような文書等は含まれていないとか、このような違いがございます。

○高野博師君 それでは次に、入荷した写真集等が児童ポルノであることがわからないまま店頭に陳列して販売した者は処罰されるんでしょうか。

○委員以外の議員(大森礼子君) これは、構成要件に該当して違法それから故意がある、こういう犯罪成立の要件がございます。
 七条で処罰される児童ポルノ頒布等の罪が成立するためには、行為者に頒布等をするものが児童ポルノであることについての認識、認容、これは故意と言いますけれども、これが必要であります。お尋ねの場合、このような認識、認容がないまま店頭に陳列して販売した者についてはその故意がないということになりますので、処罰されないことになります。

○高野博師君 それでは、児童ポルノの製造を罰するのはなぜでしょうか。刑法百七十五条では、頒布、販売、陳列を罰しているが、製造は処罰の対象になっていない。なぜ児童ポルノに限って製造行為を処罰の対象としたのでしょうか。

○委員以外の議員(大森礼子君) 児童ポルノ頒布等の罪と刑法のわいせつ物頒布等の罪の違いについては先ほど申しましたけれども、この違いから、この法案では製造自体も処罰の対象としております。
 頒布等の目的で性交等に係る児童の姿態が描写された児童ポルノを製造する行為は、それ自体が当該児童に対する性的搾取、性的虐待であると評価することができます。また、頒布等の目的での児童ポルノの製造行為は、児童ポルノに描写された児童の心身に有害な影響を与え続けることになります。また、このような行為が社会に広がるときには、児童を性欲の対象としてとらえる風潮を助長することになるとともに、身体的及び精神的に未熟である児童一般の心身の成長に重大な影響を与えるものであります。
 それから、児童ポルノに係る行為につきましては国際的な対応が強く求められておりますので、こういうことから、頒布、販売等に加えまして、これらの目的での児童ポルノの製造行為自体も禁止し、処罰の対象とすることにいたしました。

○高野博師君 第九条は、「児童を使用する者は、児童の年齢を知らないことを理由として、第五条から前条までの規定による処罰を免れることができない。ただし、過失がないときは、この限りでない。」。この条文を置いた趣旨は何でしょうか。

○委員以外の議員(林芳正君) お答え申し上げます。
 九条は、先生の御指摘のとおり知情のことを書いておりますが、この法案の第五条から第八条までに規定する各種の犯罪はいずれも故意犯でございます。ですから、児童であるという認識、すなわち定義のように十八歳未満の者であるという認識がなければ処罰ができない、これが故意犯の原則でございます。
 しかしながら、児童を使用する者については児童の年齢に関する調査や確認義務があるというふうに考えられまして、このような者について児童の年齢を知らないことのみを理由に処罰を免れさせる旨は妥当ではないという判断をいたしまして、これらの者については、当該児童が十八歳未満の者であることの認識がない場合においてもその認識がないことについて過失があれば処罰をするということを規定したものでございます。

○高野博師君 それでは最後に、第九条の「児童を使用する者」とはどういうことか。児童福祉法第六十条にも同様の規定がありますが、そこで言う「児童を使用する者」と同じ内容と考えていいのでしょうか。

○委員以外の議員(林芳正君) まさに先生御指摘のとおり同様の定義だということでございますが、今先生がおっしゃられたように、「児童を使用する者」については、児童福祉法第六十条の第三項に同様の規定がありまして、これに倣ったのがこの法案のこの言葉でございます。
 児童福祉法の同規定におきます「児童を使用する者」の意義については、判例上、児童と雇用契約関係にある者に限らず、児童との身分的もしくは組織的関連において児童の行為を利用し得る地位にある者、またあるいは特にその年齢の確認を義務づけることが社会通念上相当と認められる程度の密接な結びつきを当該児童との間に有する者などという判例になっております。こういうことでございまして、本案における「児童を使用する者」の意義は、先生御指摘のとおりこれと同じものでございます。

○橋本敦君 私は、本法案に賛成の立場でありますが、この法案がこうして審議されるようになりまして、このことが日の目を見るということで、提案者の皆さんの御尽力に敬意を表したいと思います。
 提案者の皆さんに質問する趣旨は、この法案の立法趣旨あるいはその持っている意味を一層明確にしていただきたいという立場からのものでございますので、よろしくお願いをしたいと思います。
 まず、第十二条関係ですが、法案の十二条によりますと、捜査及び公判に関して児童の人権等に配慮するようにという規定が置かれております。これは大変大事な規定だと思うんですが、この立法趣旨、そしてまたここで言う「児童の人権及び特性に配慮する」というのは具体的にどのような配慮が必要とお考えなのか、この点について御説明をお願いいたします。

○委員以外の議員(吉川春子君) 橋本議員にお答えいたします。
 十二条の趣旨ですけれども、第一項でこの法律に規定する「罪に係る事件の捜査及び公判に職務上関係のある者は、」、特には警察官その他の警察職員、検察官、検察職員、裁判所、弁護士等だと思うんですが、「その職務を行うに当たり、児童の人権及び特性に配慮するとともに、その名誉及び尊厳を害しないよう注意しなければならない。」こととしております。第二項では、国及び地方公共団体に、これらの者に対し、児童の人権、特性に関する理解を深めるための訓練及び啓発を行うように努める義務を課した規定です。
 事件の捜査及び公判に職務上関係のある者が捜査や公判において関係者の名誉や尊厳を害しないように注意を払うべきことはもとより当然のことでございますが、児童については、いまだ成長過程にあって精神的に未熟である上に、その人権をみずから守る能力にもおのずと限界があります。特にこれらの点に十分な配慮をするべきとともに、これらの職務上関係のある者に対して訓練及び啓発を行うように努めるべきことをこの十二条は明らかにしております。
 そして、「児童の人権及び特性に配慮する」とはどういうことかというお尋ねでしたけれども、捜査に関しては、本法案に規定する犯罪の捜査に際して証拠を収集し、犯人を処罰するためには被害者である児童からの事情聴取を実施する場合が多いであろうと思われます。そういう場合に、個々の事件や当該児童の特性に応じて事情聴取の方法、時間、場所について考慮することなどが考えられます。今、具体的にというお話でしたけれども、時間で言えば児童生徒の場合は放課後がいい場合もあるでしょうし、場所については学校がいいのか自宅がいいのか、いろいろそういう具体的な考慮が必要であろうというふうに思います。
 さらに、公判における配慮につきましても、基本的には同様でございまして、個々の事件や当該児童の特性に応じて、例えば期日外の証人尋問、そのほか刑事訴訟法上はいろいろな規定があります。裁判所外における証人尋問とか、被告人の退廷とか傍聴人の退廷とかこういうような規定も活用いたしまして、それからまた同時に不適切な尋問に対する異議申し立てなど、こういう適切な運用を行うことが考えられるというふうに思います。

○橋本敦君 今御説明があったような配慮が必要なのは、本件で被害に遭った児童を保護するということが法の基本的な理念であるわけですが、取り調べの過程あるいは公判の過程で、そういった児童が精神的、身体的に立ち直っていくことを妨げてはならないし、あるいはむしろ児童が非行少年あるいは加害者扱いされてはならない、そういったことに対する大事な問題としての御提起があったんだと思うんです。基本的な考え方としては、今私が指摘したようなことがこの規定の背景にある理念だと思いますが、間違いございませんか。

○委員以外の議員(吉川春子君) そのとおりであると思います。

○橋本敦君 それで、十三条も同じように児童保護という観点から大事な規定だと思うんですが、特に十三条を設けられた趣旨はどういうところにあるんでしょうか。

○委員以外の議員(清水澄子君) ただいま御質問のありました、第十三条に規定しております児童買春等の犯罪の対象となった児童につきましては、やはりその扱いを慎重にしなければならない。その氏名や年齢、学校名とか住居とか容貌などが公表され、そして当該児童がだれであるかということが広く知られることになりますと、心身に有害な影響を受けた児童にさらに二重三重の被害を与えることになります。そして、そのことはやはり引き続き精神的な悪影響を及ぼすことになるわけでございます。
 そこで、第十三条は、このような児童について、当該事件にかかわる者であることを推知することができるような事項等の出版物への掲載等を禁止することによって児童の権利を擁護していきたい、そういう趣旨でございます。
 これらは、国際的議論におきましても、被害児童のプライバシーの権利を保護することが必要であり、児童が受けた傷をさらに深めてはならないということが強調されておりまして、この規定もそのような認識に立つものでございます。

○橋本敦君 わかりました。
 続いて、十四条、十五条の関係で質問させていただきます。
 第十四条によりましても、国及び地方公共団体が、本件に関する問題について未然に防止し、あるいは児童の権利に関する国民の理解を深めるための教育、啓発に努めるということが定められております。当然それは賛成でありますけれども、わざわざこういった教育、啓発を国及び地方公共団体がやるべきだということを十四条で決められた御趣旨というのはどこにあるのでしょうか。

○委員以外の議員(清水澄子君) 児童買春や児童ポルノ等をなくすためには、単に犯罪を処罰するだけではなく、このような性的搾取及び性的虐待が児童の権利を侵害するものであり決して許されてはならないということを認識しなければならないわけですが、そういう認識をする、人々の意識を変えていく必要があると思います。国民が児童の権利に対する理解を深め、このような犯罪を未然に防止していくということが本来あるべき姿でありまして、教育の果たす役割は非常に重要だと考えております。
 そこで、第十四条では、児童買春、児童ポルノの頒布等の行為が児童の心身の成長に重大な影響を与えることにかんがみ、これらの行為を未然に防止できるよう、児童の権利に関する国民の理解を深めるための教育、啓発を行う努力義務及びこれらの行為の防止に役立つ各種の調査研究の推進を行う努力義務が国及び地方公共団体にあることを定めておるわけでございます。
 まず第一項で、国及び地方公共団体は児童の権利に関する国民の理解を深めるための教育、啓発に努めるよう定めておりますし、また児童買春、児童ポルノ等の頒布等の行為を防止するためには、これらの行為の実態を踏まえて、単なる広報ではなく効果ある具体的な取り組みが求められるわけです。そのためには、行政的な措置の導入の要否について調査研究することや教育方法の工夫なども必要でありまして、そこで第二項では、児童買春、児童ポルノの頒布等の行為の防止に資する調査研究の推進に努めるよう定めることとしております。

○橋本敦君 もう一つ大事なのは、こうした事犯に絡まって被害者になった児童たちをどう立ち直らせてやるかということについて私どもは重大な関心と、またそれに対する適正な援助が必要だと思うんです。そういう意味で、心身に有害な影響を受けた児童の保護というのも本法案の一つの大事な柱だと思います。
 それが十五条が設けられた趣旨だと思うんですが、ここでは具体的にどういった方法で児童の保護を進めようとしているのか。この法文では相談、指導、一時保護、施設への入所、そういったことが一応例示をされておりますが、基本的な考え方についてお伺いしたいと思います。

○委員以外の議員(吉川春子君) 十五条は、まず第一項で、児童買春の相手方となったこと、児童ポルノに描写されたことなどによって心身に有害な影響を受けた児童に対する保護のための措置を関係行政機関が適切に講ずることを決め、第二項では、当該児童の保護者に対し関係行政機関が指導等の措置を講ずるものとすることを決めている規定です。
 児童は児童買春の相手方となったことや児童ポルノに描写されたこと等により心身に有害な影響を受けますが、この場合に児童福祉法に基づく各種の保護のための措置を講ずることが必要となる場合も多いわけです。児童相談所の一時預かりとか、児童自立支援施設とか児童養護施設とか、こういう児童福祉法に基づく措置を講ずる必要のときに、関係行政機関は相互に連携を保ちつつ適切な保護のための措置を講ずる、このことを一項では規定しております。
 また、児童の保護者が適切にその責務を果たしていないことがこういう児童が児童買春の相手方となったり児童ポルノに描写される原因となっていることも多いわけです。そこで、保護のための措置を講ずべき保護者に対しても、必要に応じて関係行政機関が指導などの措置を講ずるものとすることを定めています。

○橋本敦君 以上で終わります。
 ありがとうございました。

参議院・法務委員会(1999/04/27)/福島瑞穂議員(社民党所属)

○福島瑞穂君 社民党の福島瑞穂です。
 きょう、児童買春、児童ポルノが議論できることを大変うれしく思いますし、また発議者の方たちの苦労には心から敬意を表したいと思います。
 まずお聞きしたいことは、子供の権利の観点から、被害を受けた子供が身体的、精神的な傷から回復し人としての尊厳を取り戻すことができるためのケアとリハビリテーションが重要と考えております。十五条は心身に有害な影響を受けた児童の保護、十六条が心身に有害な影響を受けた児童の保護のための体制の整備を規定していますけれども、日本ではケア、リハビリのための体制が余りにも貧弱だと思います。この十六条の心身に有害な影響を受けた児童の保護のための体制の整備について、何を行おうとしているのか、御説明をお願いいたします。

○委員以外の議員(吉川春子君) 十六条の趣旨ですけれども、今、福島先生御指摘のように、十五条が個々のケースに対してどういうふうに対応するかという規定で、十六条は体制をとにかくつくっておく、ハードといいますか、そういうものをつくっておくという規定になっているわけですけれども、国または地方公共団体が心身に有害な影響を受けた児童に対して専門的な知識に基づく保護を適切に行うことができるように必要な体制の整備に努めるべきことを決めています
 体制の具体的な例として挙げているものは、まず心身に有害な影響を受けた児童の保護に関する調査研究の推進、次は心身に有害な影響を受けた児童の保護を行う者の資質の向上、心身に有害な影響を受けた児童が緊急に保護を必要とする場合における連携協力体制の強化及び心身に有害な影響を受けた児童の保護を行う民間団体との連携協力体制の整備、こういうことが書かれているわけです。
 それで、御指摘のようにシェルターとかそういうものはほとんど日本には不足しておりますので、今後こういうものを設置していく上でも展望を示す、そういう規定として十六条が定められたというふうに考えております。

○福島瑞穂君 女性が性暴力を訴えたときにセカンドレイプが起きるということはよく言われております。ですから、ケア、リハビリも重要ですが、それ以前に、被害を受けた子供が取り調べなどを通じていわゆるセカンドレイプを受けることがないようにしなければ非常に被害が生ずると思います。検察官、警察官など法執行官に対する研修が不足していますし、不可欠だと考えますが、いかがでしょうか。

○委員以外の議員(吉川春子君) この法案を制定するに当たって一番心配されたことの一つはそのセカンドレイプの問題であったかと思います。そういう点で、今先生がおっしゃるように、検察官、警察官のそういう研修というのは非常に重要な意味を持っているものであり将来の課題であるというふうに、私も同感でございます。

○福島瑞穂君 他の委員もおっしゃいましたけれども、子どもの権利に関する条約を受けて、その精神を反映してこの法律があると思います。子どもの権利に関する条約の三十四条は、あらゆる形態の性的搾取及び性的虐待から子供を守るということを求めております。
 この法案には具体的にどのように反映されているのでしょうか。

○委員以外の議員(林芳正君) お答え申し上げます。
 趣旨説明でも述べさせていただいたところでございますが、今先生御指摘のように、児童の権利に関する条約の第三十四条には、児童はあらゆる形態の性的搾取及び性的虐待から保護されるということが明記をされておりまして、この法案は、児童の権利に関する条約の精神を踏まえまして、より一層児童の保護を図るために提案をしておるところでございます。
 具体的には、この法案は、児童に対する性的搾取及び性的虐待が児童の権利を著しく侵害することの重大性をまず明記いたしておりまして、また、児童の権利の擁護に資することを目的ということにしております。
 そして、児童買春、児童ポルノに係る行為等を犯罪と構成いたしまして、事件に係る児童の人権及び特性への捜査及び公判に職務上関係のある者の配慮、児童の保護のための措置を適切に講ずること、また児童買春、児童ポルノの頒布等の行為を未然に防止するための児童の権利に関する国民の理解を深めるための教育及び啓発の努力義務等について、条約の趣旨を体しまして規定をしておるところでございます。

○福島瑞穂君 この法案の十七条は、「国は、第四条から第八条までの罪に係る行為の防止及び事件の適正かつ迅速な捜査のため、国際的な緊密な連携の確保、国際的な調査研究の推進その他の国際協力の推進に努めるものとする。」と、国際協力について規定を設けております。
 それで、アジアにおける子供買春の問題にこの法案がいかにこたえるものなのかということは非常に重要だと思います。もちろん国内も問題なのですが、今回、児童買春、児童ポルノ法が待望された大きな理由の一つは、日本が児童買春、児童ポルノの発信源あるいは加害国になっているということが非常に大きかった。国際会議でも非難された点であります。
 国外犯ですと、法案の十条は強姦罪を「国民の国外犯」として処罰しておりますけれども、例えばフィリピンで強姦に遭った子供のケースを日本の国内で処罰しようと思った場合には、弁護士たちは物すごい苦労があったわけです。そういう意味では、今回、十七条で国際的な緊密な連携の確保などが規定されたことは極めて重要だと考えます。今でもタイやいろんな国で日本の男性が買春をしているということは大変指摘をされております。
 十七条によりどのような取り組みを行うのか、それについてお聞かせください。

○委員以外の議員(林芳正君) お答え申し上げます。
 先生御指摘のとおり、十七条には「第四条から第八条までの罪に係る行為の防止及び事件の適正かつ迅速な捜査のため、国際的な緊密な連携の確保、国際的な調査研究の推進その他の国際協力の推進に努めるもの」、こういう規定をしておりますが、ここに定めます国際協力とは具体的には次のようなものを考えておるところでございます。
 まず第一に、国民の国外犯等に関する捜査の共助、逃亡犯罪人の引き渡しの実施及びこれらに関する情報交換を行ってまいるということが挙げられるかと思います。
 それから第二に、児童買春や児童ポルノの犯罪防止のための啓蒙等各種の手法や、また国際的な人身売買、児童ポルノの流通の調査研究等、我が国と外国、またマルチな国際機関と共同して行っていくということ等が考えられるものと思っておるところでございます。

○福島瑞穂君 ありがとうございます。
 国内の問題だけではなく、取り扱いにくい国外犯についてぜひこの法律ができた以降熱心に取り組みがなされることを切望しております。
 ところで、現在国内でも都道府県の青少年保護育成条例で子供買春が取り締まられております。この法案が成立した場合には、青少年保護育成条例との関係は果たしてどうなるのでしょうか。
 特に、青少年保護育成条例のもとでは子供が逆に少年法の非行の対象、要するにいわゆる虞犯少年として盛り場をうろついている子供の側が逆に少年法の対象となるという構造がありまして、この児童買春、児童ポルノ法案が成立した以降も当該子供が被害者ではなくむしろ不良少女という形で扱われるというおそれもあると思います。
 現場での運用がどう変わるのかも含めて、お答えください。

○委員以外の議員(林芳正君) お答え申し上げます。
 いわゆる青少年保護育成条例といったものが各県また地方公共団体レベルにおきまして規定されておりますのは、先生御質問のとおりであります。
 本法案の附則の二条にこのことに関する規定をしておりまして、二条一項に「地方公共団体の条例の規定で、この法律で規制する行為を処罰する旨を定めているものの当該行為に係る部分については、この法律の施行と同時に、その効力を失うものとする。」、また二項に「前項の規定により条例の規定がその効力を失う場合において、当該地方公共団体が条例で別段の定めをしないときは、その失効前にした違反行為の処罰については、その失効後も、なお従前の例による。」、こういうことになっております。
 そういう定めが規定されておりますので、児童買春、児童ポルノに係る行為と、この法律で規制する行為を処罰する旨を定めている条例の規定の当該行為に係る部分についてはその効力を失うことになるということで、運用もそういうふうになっていくというふうに了解をしているところでございます。

○福島瑞穂君 終わります。

参議院・法務委員会(1999/04/27)/中村敦夫議員(無所属)

○中村敦夫君 私は、この法案に積極的に賛成の立場にあります。ただ、私自身も映像世界の出身であるということで、やはり表現の自由という問題について敏感にならざるを得ないので、幾つか確認の質問をさせていただきます。
 まず、処罰の対象になる図柄、これをどう判断するのか。例えば風景写真あるいは映像など、川辺で児童たちが素っ裸で楽しそうに遊んでいるというような場面があるとします。こうした場合に、図柄だけでどう判断をするのかということはどうでしょうか。児童ポルノに当たるんでしょうか。

○委員以外の議員(大森礼子君) まず、一般論としてでありますが、あるものが児童ポルノに当たるか否か、これは個別具体的な事例ごとにこの法案の要件に該当するか否かを総合的に判断することになりますので、こういう一般的な事例について確定的に答えることは困難でありますし、するべきことでもないだろうと思っております。
 今、中村委員から御指摘がありました、川辺などで児童が裸で楽しそうに遊んでいる、この場面を聞いたときに、お互い頭の中で想像している場面というのが違うかもしれません。例えば、川辺で二歳か三歳ぐらいの男の子が裸で遊んでいるそばでお母さんが楽しそうに見守っているとか、こういういわゆる和やかな川遊びの場面もあると思いますし、あるいは川辺で、児童といいましても十八歳未満を児童といいますから、では十七歳の女性だったらどうかとか、こういう問題が起きます。
 それで、どのように判断するかということにつきましてはいわゆる構成要件の問題になるわけですけれども、児童の姿態がどのようなものであるかによって判断されることになります。今おっしゃったのは、少なくとも一号ポルノ以外の事例だと思いますので、その場合には、一般人から見まして「性欲を興奮させ又は刺激する」と言えるかどうかという、この基準によって判断するとしかちょっとお答えのしようがございません。

○中村敦夫君 難しい話なんですけれども、わいせつ観というのも判断する主体の感性にかかわることなんです。何でもないものに刺激される異常な人もいるというようなケースもあります。ですから、絵の構図だけで、ハードだけで対象を決めるというのはなかなか難しいのではないかというふうに思うんです。しかし、静止した写真であれば、その構図から見ると、つくった人あるいはそれを売る者の意図というのは判断できます。非常に構図が大事だと思うんです。
 それから、映像なんかの場合には、例えば裸で楽しそうに川辺で遊んでいる子供たちがいて、その次のカットに茂みから欲望ぎらぎらの顔が映るとかいうことになると、この編集という問題で実は大分違うんです。九九%編集の力で意図というものが表現されます。ですから、川辺で遊ぶ子供たちの後に清らかな水の流れというのをつないだ場合には全く意味が違ってしまうというふうに、大変複雑な問題なんです。
 それから、哲学的なあるいは芸術的なテーマを追求する場合というところで、しばしば人間性の深いものを探っていくという芸術家の行為の中には、そのときの社会の慣習とか常識ではない部分というのが非常に必要なんです。また、そういうことが次の新しい人間解放への動機になってきたというのが歴史的に十分あるわけでございます。
 そういう場合、あるいはこういう児童買春とか、そうしたものを批判するために描かなければならない、そういう必要なシーンというのもあります。例えば、こういうものを捜査する捜査陣がばっと入っていったらば女の子たちが裸で逃げ出した、しかしその意図はそうした業者とか行為に対する厳しい批判であるというような場合、そういうケースもあるんです、表現の中には。もう一つは、法律や良識から考えてこれは違うだろう、悪意がないものであるしという部分、そういうケースがあるんですけれども、ハードだけ、映像だけで判断されますと、当局がこれはポルノだと言ってしまうといろんな問題が起きてくる。
 その構成要件をだれが判断するのか。たまたまそれは違うんじゃないかというものが刑罰の対象になった場合、救済ということはどういう形でするのかということについてお答えいただきたいと思います。

○委員以外の議員(大森礼子君) 今、中村委員がおっしゃったことは、確かに芸術的表現の自由との関係の問題だと思います。
 それから、構図等も大事である、こういうお話がございましたけれども、これは二号、三号につきましては、「性欲を興奮させ又は刺激するもの」とありますので、確かに構図とか場面とか周囲の状況とか姿態とか、こういうことを総合的に判断して、この要件に該当するかどうかということを判断することになると思います。
 それから、実は我々超党派で検討してまいりましたけれども、この法案の作成に当たりましては、成立後に執行に当たる関係省庁からも意見を聴取してございます。
 自社さ案のときには、この要件といいますか、これはたしか「性的好奇心をそそる」というふうになっておりまして、実はそういう表現の自由との関係からも好奇心という言葉も中身のとらえ方がいろいろであろう、そそるということも非常に意味があいまいであろうということで、表現の自由とも絡みますので、より明確な規定の仕方はないものかということで我々は検討して、「性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる」、こういう要件にしたということがございます。
 それからまた一方で、先ほど林議員から説明がありましたように、三条というものも設けました。その上で、例えば構成要件に当たるかどうかわからないものを摘発した場合にどうなるかということだと思います。
 これにつきましては、やはり犯罪ありと思料して捜査する場合には、その構成要件該当性については私どもは警察とか検察庁が十分吟味して慎重に取り扱うものと思っておりまして、本来ポルノに当たらないものを警察及び検察が当たると判断するということは考えていないところでございますが、そこのところで争いがあった場合、最終的にだれがその犯罪構成要件に当たるかどうかを決めるのかというと、最終的判断は裁判所という言い方になると思います。

○中村敦夫君 附則の第六条に、法律の施行後三年をめどに検討するというふうに規定されておりますけれども、その趣旨についてお伺いしたいんです。特に、国際的動向を考慮するというふうにありますけれども、どのような課題があると考えておられるのか、お願いします。

○委員以外の議員(林芳正君) お答えを申し上げます。
 附則の第六条には、児童に対する性的搾取及び性的虐待が児童の権利を著しく侵害することの重大性にかんがみ、児童買春及び児童ポルノの規制を含む児童を性的搾取及び性的虐待から守るための制度について、法律施行後三年をめどとして、この法律の施行状況、児童の権利の擁護に関する国際的動向、今先生から御指摘があったとおりでございますが、等を総合考慮して検討が加えられ、その結果に基づいて必要な措置が講ぜられるものとすることを趣旨としております。
 今お尋ねがあった国際的に議論をされている事項としては、我々としては、先ほどもいろいろのところで議論になっておりましたけれども、次のようなものがあるというふうに認識をしております。
 まず一つは、児童ポルノのいわゆる単純所持というものを処罰すべきかどうかという問題があろうか、こういうふうに思っております。もう一つは、御議論があったところでございますが、インターネット等の電気通信回線を利用した児童ポルノの規制のあり方について議論がされております。これは今は、先ほど大森議員の方から御答弁があったように、ハードディスクそのものがわいせつ物であるという概念でやっておりますけれども、ハードディスクの中に入っておる情報、わいせつな画像とか、そういうものが実際はわいせつなものであるのであって、そこは非常に難しい議論であろうと思いますけれども、そういうものを本当はどうやって処罰の対象にしていくのか、いかないのか、このようなことが今国際的に議論されておる事項として我々が考えておるところでございます。

○中村敦夫君 質問を終わります。
    ─────────────

○委員長(荒木清寛君) この際、委員の異動について御報告いたします。
 本日、有馬朗人君が委員を辞任され、その補欠として佐藤昭郎君が選任されました。
    ─────────────

○委員長(荒木清寛君) 他に御発言もないようですから、質疑は終局したものと認めます。
 これより討論に入ります。──別に御意見もないようですから、これより直ちに採決に入ります。
 児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律案に賛成の方の挙手を願います。
   〔賛成者挙手〕

○委員長(荒木清寛君) 全会一致と認めます。よって、本案は全会一致をもって原案どおり可決すべきものと決定いたしました。
 なお、審査報告書の作成につきましては、これを委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ございませんか。
   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

○委員長(荒木清寛君) 御異議ないと認め、さよう決定いたします。
 本日はこれにて散会いたします。
   午後二時二十六分散会

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最終更新:2008年12月05日 05:15
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