国会質疑 > 国籍法 > 09

国会での審議の中継


議事進行

○委員長(澤雄二君) 国籍法の一部を改正する法律案を議題といたします。
 本日は、本案の審査のため、お手元に配付の名簿のとおり、お二人の参考人から御意見を伺います。
 本日御出席いただいております参考人は、中央大学教授奥田安弘君及び弁護士・日本弁護士連合会家事法制委員会副委員長遠山信一郎君でございます。
 この際、参考人の方々に一言ごあいさつを申し上げます。
 本日は、御多用のところ本委員会に御出席をいただきまして、本当にありがとうございます。
 参考人の皆様方から忌憚のない御意見を賜りまして、今後の審査の参考にしたいと存じますので、どうぞよろしくお願いを申し上げます。
 ありがとうございます。
 議事の進め方について申し上げます。まず、奥田参考人、そして遠山参考人の順に、お一人十五分程度で御意見をお述べいただきまして、その後、各委員からの質疑にお答えいただきたいと存じます。
 なお、意見の陳述、質疑及び答弁のいずれも着席のままで結構でございますが、御発言の際は、その都度、委員長の許可を得ることとなっております。また、各委員の質疑時間が限られておりますので、御答弁は簡潔にお願いをしたいと思っております。
 それでは、奥田参考人からお願いいたします。奥田参考人。

奥田安弘中央大学教授(参議院法務委員会(2008/11/27))

○参考人(奥田安弘君) 中央大学の奥田です。本日は、このような場で話をする機会を与えていただき、ありがとうございます。
 さて、今回の国籍法改正について意見を述べよということですが、改正法案は本年六月四日の最高裁判決をきっかけとしておりますので、最初にこの判決の趣旨を説明し、さらに若干の補足をしておきたいと思います。

最高裁判決の趣旨説明

 御承知のように、我が国の国籍法は血統主義を採用しておりますが、血統主義とは親の国籍によって子供の国籍を決定することでありますが、そこで言う親とは法律上の親を意味します。すなわち、大ざっぱに申し上げますと、国籍法で言う父親や母親というのは民法上の父子関係や母子関係と連動しているとお考えいただいて結構かと存じます。
 ところが、この血統主義を定めた国籍法二条一号をよく読みますと、出生のときにそういう法律上の父親又は母親が日本人であることを求めています。この「出生の時に」という箇所が非常に重要でありまして、民法によりますと、母子関係は原則として分娩の事実により成立すると解されていますが、父子関係はそういうわけにまいりません。父母が結婚している場合は、母が産んだ子は夫の子と推定され、また婚外子であっても生まれる前の認知、すなわち胎児認知があれば出生のときに法律上の父子関係が成立します。これに対して生後認知の場合は、言わば出生のときには法律上の父が存在していなかったことになるので、国籍法二条一号による国籍取得は認められない、このように解釈されております。
 そこで、国籍法三条が問題となるわけです。生後認知の子供は国籍法二条一号による国籍取得は認められませんが、出生後の届出による国籍取得であれば認めてもよいのではないかという点が問題となります。ところが、現行の国籍法三条一項は、認知だけでなく父母の婚姻を求めています。すなわち、出生のときは婚外子であったわけですが、出生後に父の認知があり、かつさらに父母の婚姻もあれば子供は嫡出子になる、これを準正と呼んでおりますが、こういう準正子にだけ届出による国籍取得を認めております。
 この届出による国籍取得は出生による国籍取得の血統主義を補完するものであると言われておりますが、その国籍法二条一号の方は父母の婚姻を要件としておりません。日本人母の子供は婚外子であっても日本国籍を取得しますし、また日本人父の婚外子も胎児認知があればやはり日本国籍を取得します。日本人父の婚外子であって生後認知しかなかった子供、すなわち準正子にならなかった子供に対し、届出による国籍取得さえ認めないのは行き過ぎではないか、このように最高裁判所は考えたのでしょう。さらに、社会の変化や外国の立法動向、我が国が批准した国際人権条約もあるということで、今回の違憲判決が出たものだと理解しております。

簡易帰化との関連性

 それでは、このような子供には簡易帰化の道があるではないかという疑問に対してどのように答えるか。最高裁はこの点について余り詳しい説明をしておりませんが、少し私の方から補足しておきたいと思います。
 簡易帰化と言いますが、国籍法は法務大臣が帰化を許可する最低条件を定めているだけです。これは二つの意味を持っています。第一に、これらの最低条件を満たしても帰化が許可されるという保証はないということです。法務大臣は、更に様々な事情を総合的に考慮して、自由裁量により帰化を許可するかどうかを判断いたします。第二に、これらの最低条件を満たす限り、一般の外国人と日本人父の認知を受けた子供は全く同じスタートラインに立つということです。すなわち、一般の外国人は二十歳以上であり、かつ五年以上日本に住所がなければならないわけですが、これに対して、日本人父の認知を受けた子供は未成年であっても構わないし、現に日本に住所があればその期間は問わないとされています。
 しかし、これらの最低条件を満たしている場合、日本人父の認知を受けた子供が一般の外国人よりも緩やかに審査をされるというようなことは、少なくとも法令上の根拠を見出すことはできません。しかも、日本に住所を有することが最低条件となっていますが、本件の第一次訴訟の子供ですが、母親とともに日本からの退去強制を求められていたわけですから、この最低条件さえも満たすのが不可能な状況であったことに注意していただきたいと存じます。すなわち、第一次訴訟の子供は住所条件という最低条件さえも満たさないわけですから、帰化の可能性はその当時はなかったということです。

ドイツにおける偽装認知について

 次に、仮装認知の問題であります。
 皆さん御関心のあるところだと思いますが、仮装認知が増えるのではないかという疑問につきましても、最高裁判決自体では余り詳しいことが述べられておりません。この点については、私はドイツの例を取り上げたいと思います。
 一部の報道では、今回の国籍法改正が成立すると仮装認知が増えるおそれがあるとして、ドイツにおける今年三月の法改正を取り上げております。しかし、このドイツの法改正は国籍法の改正ではありません。国籍法の方は、相変わらずドイツ人父親による認知だけでドイツ国籍の取得を認めております。今年三月に行われたのは民法の改正でありまして、ドイツの官庁が認知無効確認の訴訟を提起できるようになった、そういう内容でございます。
 すなわち、ドイツの民法では、改正前は、認知をした父親本人又は認知を受けた子供、さらに母親しか認知無効確認訴訟を提起することができなかったのです。これは法律上、明文の規定による制限です。そこで、新たに官庁もこういう訴訟を起こせるようにしたわけです。
 このドイツの例は、三つの点で注意する必要があります。
 第一に、ドイツは、仮装認知が増えたからといって、認知のみによる国籍取得をやめませんでした。つまり、国籍法の方は改正しなかったということです。これは、真実の認知を保護する必要があると考えたからでしょう。
 第二に、ドイツでは認知無効確認の提訴権者が制限されておりますが、日本法にはこのような制限がありません。それどころか、公正証書原本不実記載などの罪により刑事裁判で有罪判決が確定した場合は、裁判所から本籍地の方に通知がなされまして、本籍地の市町村では職権によって認知の記載を抹消することになっております。
 今回の国籍法改正が成立した場合は、さらに日本国籍を取得したとして戸籍が作成された子供についてもその戸籍は抹消されることになります。したがって、ドイツの三月の法改正はある意味では日本法では必要のないことであり、またある意味では仮装認知の防止と国籍取得を安易に結び付けるべきではないということを示しております。
 第三に、ドイツではドイツ人父親の認知があれば自動的にドイツ国籍の取得を認めており、我が国のように更に加えて国籍取得届を出させるというようなことはしておりません。これは極めて大きな違いであります。
 国籍取得届の詳細は、我が国の場合、国籍法施行規則一条や昭和五十九年の通達などに定められておりまして、これらも改正が予定されているようですが、この国籍取得届の取扱いは市町村への認知届とは大きく異なります。すなわち、届出人は必ず自分で法務局に出頭し、届出の際に届書や必要書類の点検を受けるだけでなく、いろんな質問をされた後に受付をしてもらいます。さらに、受付後も法務局の職員は届出人や関係者の自宅に赴いて事情聴取をするなどの権限が与えられています。このように慎重な手続を経て初めて国籍取得証明書が交付され、子供の戸籍をつくることができるのです。したがって、認知のみで国籍を与えるドイツと比較いたしますと、かなりハードルが高いと言えます。

届出による国籍取得による外国籍の喪失

 さらに、届出による国籍取得は、それ以前に取得した外国国籍を喪失する可能性が高いことも指摘しておきたいと思います。例えば韓国がそうですし、恐らくフィリピンの場合もそうであろうと思われます。これらの国から見た場合、届出による日本国籍の取得は自己の意思による外国国籍の取得となるからです。
 我が国の国籍法も、自己の志望による外国国籍の取得を日本国籍の喪失原因としておりまして、これと同様の規定が諸外国にもあるということです。したがって、外国人母親から生まれたことによりその国籍を取得した子供は、届出により日本国籍を新たに取得した場合、母親と同じ国籍を失うことを覚悟しなければなりません。これは国籍取得届を慎重ならしめる要因の一つとなり得ます。
 ただし、ここで問題となるのは、このような届出による国籍取得が外国政府に通知されるかどうかということです。この点の実務がどのようになっているのかは私も詳しく存じませんが、仮に全く通知がなされていないのであれば、新たに通知を検討すべきではないかと思います。
 少なくとも、届出によって日本国籍を取得した場合、韓国国籍は確実になくなるはずですし、恐らくフィリピン国籍もなくなるはずです。しかし、本人や関係者はこのような国籍喪失を自覚していないおそれがあるので、国籍取得届の際に十分に説明するとともに、本人が自発的にパスポートなどを返還しない場合に備えて我が国から相手国政府に通知をするということが望ましいように思います。

国籍法改正案への見解

 それでは、国籍法改正法案自体を見ていきたいと思いますが、父母の婚姻要件を除いて、単に認知があれば届出による国籍取得ができることになっています。このように改正法案が父母の婚姻要件を除いただけにしたのは、もちろん最高裁判決を慎重に検討した結果であろうと思います。父母の婚姻要件に代えて他の追加的な要件を設ける可能性は確かに最高裁判決でも否定されておりません。しかし、判決は「合理的な選択肢の存在の可能性」と述べておりまして、追加的な要件が合理性を有すること、すなわち合憲の範囲内であることを求めております。そして、判決自体は何が合理的な選択肢であるかを示しておりません。
 恐らく、父母の婚姻要件を除いたその他の現行法上の要件、すなわち二十歳未満であること、父親が子供の出生のときだけでなく届出のときも日本国民であること、さらに法務大臣への届出、これらの要件で足りると考えたように思います。そして法案の起草者も、合憲の範囲内で考え得る追加的な要件、すなわち新たな差別を生み出さないような要件は見当たらないと考えたからこそ父母の婚姻要件のみを除いた法案を提出したのだと思います。
 次に、罰則については私の専門外のことでありますので、コメントを差し控えさせていただきます。
 さらに、経過規定につきましても、これこそ立法者の裁量の範囲内に属することですから余り多くのコメントはいたしませんが、かつて尊属殺違憲判決の際にも、恩赦により減刑や刑の執行免除がなされたことが思い起こされます。そのような意味では、今回の国籍法改正や経過規定によっても救済されない人々、すなわち、経過規定はかなり広いですが、それでもなお、国籍取得届が出せたはずであったのに父母の婚姻要件があるためそれができなかった人々、こういう方々についても、帰化の審査の際には特段の配慮をするというような措置が考えられます。
 誤解のないよう申し上げますと、私は帰化の制度を変えろと言っているのではありません。現行の制度の枠内で、すなわち自由裁量の範囲内でそのような配慮をするという方針を示すことにより、関係者の方々の気持ちを和らげることができるのではないかということが言いたいのです。恩赦の場合も上申書を出した人がすべて減刑や刑の免除を受けたわけではありませんので、今回の場合も必ず帰化を許可するということにはならないと思います。
 以上で私の話を終わらせていただきます。
 御清聴ありがとうございました。

遠山信一郎弁護士(参議院法務委員会(2008/11/27))

○参考人(遠山信一郎君) お手元の陳述骨子を御覧ください。
 私の肩書は日本弁護士連合会が付いておりますが、これから述べるお話は私の個人の見解でございます。
 まず初めに、考え方のスタート地点は子供の基本的人権の保障にあるというところから話を進めたいと思います。

国籍法改正の憲法や条約上の意味合い

 そして、本改正の憲法上の意味合いについては、基本的人権の保障の視点からすると、最高の判例もおっしゃっているように法の下の平等、そして、国籍を取得する権利というものも、国籍自体が人の生存にかかわるものだと考えますと、憲法上も保障されているのではないかというふうに考えております。視点を変えて、民主的統治機構の視点ということになりますと、これは主権者たる国民の拡大という問題になります。ここら辺が本改正の憲法上の意味合いの骨子ではないかというふうに考えております。
 次に、条約上の意味合いということで、資料一と資料二を付けさせていただきました。ヒントがとても満載された条約で、私の愛読書でもあるのですが、今回は自由権規約とその延長線にある児童の権利に関する条約を付けさせていただきました。
 これは、資料一の方でいきますと、自由権規約の二十四条というところに、出生による差別を受けない、そして、すべての児童は、国籍を取得する権利があるというふうにうたい込んであります。
 そして、その後、我が国が批准した児童の権利に関する条約では、二条、七条、九条、十条、十八条と関連条文がございます。七条を見ていただくと、児童は、出生の後直ちに登録される、そして国籍を取得する権利を有するというような記述がございます。九条とか十条とか十八条というのは、さらに子供を父母から分離してはいけないとか家族の再統合とか、そういった事柄が書いてあるのですが、これは出生、国籍、家族というものが実は一体として有機的にとらえるものなのだということをこの条約はうたい込んであるわけですね。ですから、とても何か示唆に富む条約だなと思っておりますし、我が国は批准しておりますので、この条約との要するに調和ということも立法においては考えなくてはいけないのではないかということで、ここで御紹介させていただきました。

国籍法改正の家族法制上の意味合い

 次に、家族法制上の意味合いというところでは、非常に言葉としてはよく使われている家族の多様化、グローバリゼーションということがよく言われます。それに対する法制的対応として考えるときに、どうも法律婚、つまり婚姻秩序の尊重に揺らぎが出ているんではないかというふうに考えております。それはどこに出てくるかというと、婚内子と婚外子とのいわゆる平等化という流れの考え方にこれは表れているんではないかと思っておりますし、今回の改正もここで一つの合流点を示すんではないかというふうに考えております。
 さらに、国籍取得の要件として任意認知ということを考えたときに、ここの場面では私法としての民法とそれから公法としての国籍法が言わば交錯します。この関係どう考えるかというのも結構面白い問題なのですが、ここでは、国籍法は言わば血族主義を取っている、そして私法である特に家族法では血族集団の秩序ということを考えているという点ではセットで考えざるを得ないのかなというふうに今のところ考えております。

偽装認知リスクの国家管理

 次に、偽装認知リスクの国家管理の手法という、ちょっと何か官僚のような題名を付けてしまいましたが、これは私が思い付く範囲でどんな管理の仕方があるのかなというリストを作っただけでございますので、どこがいい、どこが悪いということは今はちょっと差し控えさせていただきます。
 事前管理ということでは、DNA鑑定というものの義務付けというのが議論の俎上に上がっているということは耳にしております。これについては、だれの費用負担で、どの業者が行って、さらにその正確性をどう担保するかというなかなか実務的に厄介な問題もあります。というふうに実務家的なセンスでは考えております。
 そして、その届出の手続のところで、一定の調査、スクリーニングができないかという議論につきましては、これは十分に実務的にもいろいろな行政手続ではなされているとは思うのですが、ちょっと気になるところでいうと、過度の窓口規制にならないようには配慮しなくちゃいけないかなというのがここの私の考えでございます。

事後管理の問題

 さて、事後管理の問題でいきますと、一応三つほどA、B、Cと分けて考えてみました。一つは、人事訴訟、認知無効訴訟ですね。今、奥田先生の方からドイツの話を聞いて目からうろこだったのですが、ここで問題となるのは、ちょっとマニアックな問題なのですが、日本で認知無効訴訟を公益の代表者たる検察官ができるのかしらというのが実は議論としてはあります。これは民法の七百八十六条の解釈の問題なのですが、ドイツでは、もう先走ってとは言いませんが、ドイツではそういった公の方で認知無効の訴訟が提起できるということになっているのを聞いて、非常に勉強になりました。
 この認知無効訴訟ということになりますと、その訴訟の空間の中でDNA鑑定というものが登場してくると思います。さらに、刑事処罰ということで刑事訴追をするということになりますと、捜査方法若しくは刑事訴訟内での証拠としてのDNA鑑定というのがクローズアップされるというふうに考えております。
 ちょっと私の考えでは、先ほど言いました事前管理でのDNA鑑定とそれから民事訴訟、刑事訴訟で登場してくるDNA鑑定はかなり質が違うものだと考えております。なぜならば、民事訴訟、刑事訴訟の空間でのそのDNA鑑定は法的なバックアップがしっかりでき上がっていますので、その正確性が担保されておるというところで質的に違うのではないかという実務家的な感覚を持っております。
 三番目、Cと書きましたが、行政の方で例えば国籍取得後の監護養育というか家族の実態というのを確認するのはどうかということを、勧めているんではなくて、ちょっと考えてみました。一種のトレーサビリティーなのかなという気もするのですが、ここら辺も行政の方が仮に偽装の事実若しくは事実に裏付けられるような関係を認知した場合、この場合は多分、捜査の端緒と考えるのであれば刑事訴追の方に移るでしょうし、公務員がそういう事実を知ったときには刑事訴訟法上告発義務がありますので、ここら辺でCからAやBに移行するのかなというふうな感覚を持っております。
 さて、じゃ、そういった事前管理、事後管理ということを考えたときに、この管理手法の設計、選択、運用の配慮点って何なんだろうかと思ったときに、思い付くままA、B、Cというふうに付けておきました。

個人情報としてのDNA情報

 Aは関係当事者の人権。取りあえず私は、比較的専門的に勉強している個人情報について言うと、DNA情報というのは究極の個人情報かな、センシティブ情報の最たるものかなと思っておりますので、その入手、保管、利用については最大限に慎重にあらねばならぬという力が働くと思っております。
 そして、Bについては、リスクの実現ですね。どの程度偽装の認知のリスクがあるのかということについては、ただ懸念されるというだけでは少しちょっと力が弱いので、若干、官庁の方が持っている現実的なデータをしっかり検証する必要があるのかなとも思っております。
 さらに、リスク管理費用とその効果ですね、それから費用負担ということもしっかり考えなくてはいけないというふうに思っております。
 もう私の話はこれでおしまいなのですが、この問題の根底にあるものは一体何なのかというふうに一文入れさせていただきました。これはこの場に立って考えようということでこの一文を入れたのですが、様々なお考えがあると思っているんですね。
 例えば、国籍が商品化されちゃうのは困るなとか、それから男女間の倫理が少し問題じゃないかとか、それから国の安全保障の問題もあるんじゃないかとか、それから国の財政の問題もあるんではないかとか、本当に様々な思いがこの問題には交錯すると思うのですが、やはりこの問題の根底にある本質的な問題というのは、軸足を人権保障に置かざるを得ないだろうと。そうすると、この人権保障に対応する合理的な制限は当然考えざるを得ませんので、そこら辺を立法府の良識で構築していただければよろしいのではないかというのが私の、極めて雑駁でございますが、陳述の中身でございます。
 以上です。

松岡徹議員/民主党所属(参議院法務委員会(2008/11/27))

松岡徹 - Wikipedia
○松岡徹君 民主党の松岡でございます。
 今日は、両参考人、本当に忙しい中ありがとうございました。
 限られた時間でございますので、我々もここまで議論が世間を騒がすということについては想像していなかったんですが、奥田先生がおっしゃったように、私たちの当初の認識は、最高裁の六月の判決が違憲である、今の立法が、国籍法の三条一項が違憲であると。立法府である我々とすれば、我々が作った法律が憲法違反であると言われているわけでありますから、当然のように、そこをどう正していくかという立場で今まで来たわけでありますし、当然そうならざるを得ないというふうに思っています。
 ただ、それによって起きてくる、先ほど遠山参考人がおっしゃったように、リスクの問題とかいろんな派生する問題の心配がございます。そのことと今回の法改正の部分とは若干性格が違うかのように思っております。しかし、考えられるこの法改正によって起きてくるであろう問題をどう対処していくのかというのは、当然課題として積み上げていかなくてはならないと思いますが、そういう意味で、まず分けて、今回の最高裁の判決結果を受けて、最高裁がなぜ違憲と言っているのかというところなんですね、そこをやっぱり我々はまずしっかりと受け止めたいというふうに思っています。
 その上で、大きく、先ほど奥田参考人がおっしゃったように、まあ最高裁の判決の中にもありましたが、社会の変化であるとか、あるいは諸外国の、海外の動向の変化でありますとか、それから国際人権諸条約の対応、責任等々もあるというふうに言われています。

社会の変化についての最高裁の見解について

 この国籍法三条一項の結果によって差別が生じて違憲であると言っていますが、この社会の変化というものを、これは後のところでもちょっと議論に重なってくると思いますが、社会の変化というものを最高裁はどういうふうに言って、参考人お二人はどういうふうに受け止められて、それが改正されるべき重要な根拠となり得ているのかどうか、すなわち特徴的な社会の変化という内容をできればお二人からお聞かせいただきたいというふうに思うんですが。

○参考人(奥田安弘君) まず、違憲判決の意味ですが、我が国の違憲審査はもちろん具体的な事件の解決のためのものでありまして、つまり法律を適用した結果が違憲状態なんだと、こういうことであります。ですから、最初から立法が間違っていたとか、立法過誤ですね、そういうようなことを言っているわけではないというふうに私は理解しております。
 その上で、なぜ違憲かということなんですが、今回の原告の子供たちの状況を見たところ、日本人父親の認知を受けている、そして国籍取得届を出していると、そういう事実に対して日本の国籍法三条を当てはめたところ、これでは国籍取得届を出しても国籍が取得ができないというその結果を問題としているんだということだと思います。
 御質問の社会の変化の方ですが、判決の方を見ますと婚外子が増えたということを言っておられますが、私がそれを少し補足して申し上げたいと思います。
 日本人同士の婚外子の数は約二%程度と言われておりますが、私が調べたところ、外国人母から生まれた婚外子は一〇%に達しております。その辺が判決では詳しく述べられておりませんが、私は、その点で日本人の母親の婚外子と外国人母親の婚外子だと随分状況が違うんだろうと思っております。
 ただ、私はこの裁判で意見書を随分出したんですが、私自身の主張としましては、数は問題ではないんだろうと思っております。たとえ一人でもそういうふうな子供さんがいる、婚外子であって父母の婚姻がないために認知があるのに国籍取得ができないという子供さんが一人でもいれば、やはりそれは違憲という判断をするべきなんだろうというふうに思っております。
 以上です。

○参考人(遠山信一郎君) 社会の状況の変化ということについては、私の骨子に書いてあるような言わば婚姻秩序に対する考え方に対して裁判所も少し柔らかくなったのかなという認識を持っております。
 裁判所の素朴な憲法センスというふうに私理解というか考えておりまして、婚内子とそれから婚外子という大人の事情で国籍取得要件に差を設けられるというか、それがあるということ自体が非常に不合理である、憲法的には非常に不平等であるという感覚が最高裁の中で裁判官の方々にセンスとして言わば沈着したのでこういう判決が出たのではないかなというふうに思っております。
 以上です。

ドイツの立法の背景と「DNA鑑定義務化」の立法事実

○松岡徹君 時間がわずかですので。
 奥田参考人にお聞きしたいんですが、先ほど奥田参考人がおっしゃいました例えばドイツの例でございますね。今年の三月の改正で国籍法ではなく民法の部分を改正した、すなわち認知の無効確認訴訟ができるところを変えた、すなわち官庁自身もできるというふうに変えたと。その背景ですね。認知すれば国籍を取得できていたのが、今回の法改正の背景となったのは一体何なのかというのをお教え願いたいということが一つと。
 もう一つは、今、遠山参考人もありましたDNA鑑定というのがあります。その認知をする場合、その日本人の父親が本物の父親なのかということを確かめる作業とすれば、日本には様々なゲートがあるわけですが、新たにDNAというのが出ています。そのDNAは、先ほど遠山参考人がおっしゃったように、もう要するに究極の個人情報になります。しかし、そうではなくて、取られる側が、そういう場合にDNA鑑定をするということ自身が例えば人権侵害には当たらないのかどうか、違憲には当たらないのかどうかということも含めてちょっと危惧するところがございます。その点については、遠山参考人、奥田参考人からも簡単にお聞かせいただきたいと思います。

○参考人(奥田安弘君) ドイツの立法の背景について今直ちに述べよと言われましても、ちょっと私の方も調べる時間をいただければと思うわけでありまして、正確なことをお答えするためにはやはり調査が必要でございますんで、一般的なドイツの、今のドイツの立法と日本の立法ですね、これは国籍法や民法、非常に似ていますが、違うということだけ説明したいと思います。
 まず、国籍法の方は日本と同じ血統主義です。ただ、認知による国籍取得について、あちらは国籍取得届を要件にしていない、認知届だけです。その認知届が現実的にどういうふうに審査されて受理されているのかということも、これまた調査を要することですので正確なことは今お答えできませんが、やはり日本で行われるであろう国籍取得届の審査と比べるとかなり緩やかなんじゃないかということは推測できます。ですから、ドイツで仮装認知が仮に増えたからこういう改正をしたんだとしても、日本も同じようになるかどうかというと、それは分からないわけであります。
 次に民法の方ですが、認知無効確認の提訴権者を制限する規定というものがドイツにはありますが、日本にはそういうものがない。先ほど遠山先生がそれは日本法で可能かどうかというのは一つの問題だとおっしゃいましたが、日本の場合は、ただそういう訴訟をしなくても刑事裁判の方で有罪が確定すればそれは戸籍の訂正を自動的にいたしますんで、結局、国が訴訟を起こすというようなことまでしなくても済むじゃないかということであります。その違いをやはり認識しておく必要があるんだろうと思います。
 次にDNA鑑定の方ですが、私、今日ここに来る前に衆議院の方の議事録を拝見いたしまして、そこでイギリスの例を取り上げられた方がいらっしゃったようなんですが、イギリスでは実は認知制度というのはございません。英米法一般の話なんですが、英米法系の国では認知というようなことで包括的な親子関係を成立させるというものがそもそもないんです。国籍取得や扶養請求や相続や、そういうそれぞれのことが問題になったときにその前提として親子関係を確定すると。ですから、その時々の証明の問題になるわけですね。
 ところが、日本の場合は認知制度というものがありますんで、そして認知があれば法律上の親子関係は成立すると。つまり、生物学的な親子関係ではなくて法律的な親子関係、これを国籍法は基本にしているわけですから、余り生物学的な親子関係にこだわるというのはどうかなと。
 DNA鑑定自体の技術的な問題は遠山先生お答えになったとおりですので、私の方からは特に補足することはございません。
 以上でございます。

○参考人(遠山信一郎君) DNA鑑定の義務付けが人権侵害かと問われれば、まごうことなく人権侵害だと思います。問題は、その人権侵害を正当化する合理的な理由が例えば憲法的な価値とかということで見出すことができるかというふうに思っております。
 繰り返しになりますが、本当にこれ究極的な個人情報なものですから、よほどの正当な理由がない限りはやはりこの人権は、個人情報の人権は守らなくてはいけないというのが私の考えでございます。
 以上です。

○松岡徹君 どうもありがとうございました。

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最終更新:2009年01月19日 14:18
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