国会質疑 > 国籍法 > 07

国会での審議の中継


木庭健太郎議員/公明党所属(参議院法務委員会(2008/11/25))

不法滞在の両親を持つフィリピン人の在留特別許可について

○木庭健太郎君 国籍法の質疑に入る前に、入管の方にちょっとお伺いしておきたいことがございます。
 それは、先般報道にも取り上げられたわけでございますが、不法滞在の両親を持つ公立中学校に通いますフィリピン人の少女の件でございます。今月二十日、法務大臣あての在留特別許可を願う嘆願書を持参されたというふうに認識をしております。この件は現在どういう状況になっているのか、まず入管当局から御説明をいただきたいと思います。

○政府参考人(西川克行君) お答えいたします。
 委員御指摘のフィリピン人家族につきましては、約二年半前に不法滞在が発覚し、退去強制手続が取られまして、退去強制令書が発付されたものであります。その後、同一家は当該退去強制令書の発付処分の取消しを求めて訴訟を行っていましたが、一、二審とも訴えは退けられ、本年九月、最高裁において上告が棄却された結果、裁判は確定をしております。
 現在、当該一家から本邦への在留を求めて再審査の申出があり、嘆願書の提出がなされているという状況でございます。慎重に検討して、適切に対応してまいりたいというふうに考えております。

○木庭健太郎君 去年の二月だったと思います。イラン人の方でございましたが、同じような全く状況の中で、特に、御両親いられて、子供さんで短大生でございましたけれども、全く同種の状況の中で、そのときは在留特別許可がその短大生のみに出すという形で最終的には判断を法務大臣がなさったという経過がございました。在留特別許可を判断する場合には、その希望する理由等、本人の状況、特に人道的な配慮をも含め総合的に勘案されるというふうに伺っておりますが、イラン人のこの短大生への判断と同様の要素により判断されるというようなことで認識しておいてよろしいんでしょうか。これも事務レベルでちょっとまずお伺いしておきたいと思います。

○政府参考人(西川克行君) お答え申し上げます。
 一般論で申し上げますと、委員御指摘のとおり、在留特別許可の判断に当たりましては様々な要素を総合的に検討いたします。特に、不法滞在になっている子供が学業を継続したいとして在留特別許可を求める際につきましては、当該子供の年齢が幾つであるか、本邦での監督者が得られるかどうか、生活ができるかどうかなど、様々な観点から在留特別許可の許否判断を行うことになるというふうに考えられます。

○木庭健太郎君 そこで、大臣に尋ねておきたいと思います。
 もちろん、その不法滞在という問題に対して我が国がこれまでいろいろな意味で取り組んできた問題があることも事実であり、そのことの影響をどう考えるか、それも重々分かった上でも、やはり人権に対する判断というのが今回は求められておるんだろうと思います。
 もちろん、あのイラン人の短大生の場合と比べて、今回の場合の女の子はまだ中学生でございます。年齢の問題について今後検討していかなければならない課題はあるとしてみても、申し出ている本人は日本で生まれ育ったわけで、全く日本語以外はしゃべれないわけであって、友人関係、いろんな関係も含めても、日本以外では、彼女が今生活、また学習をしていく、学んでいくという環境の中ではそれ以外が考えられない状況の中で、本人が嘆願書も出し、同級生たちも、周り、一緒に遊んできた仲間たちもまさに交友を深めながらやっている。そういう意味で、多くの署名も付き添えた上での嘆願書だったと私は認識しております。
 本人は日本の教育を受けたい、熱望しているわけでございまして、それは親にいろんな問題があったとしても、私は子供にはある意味では罪はないと思うんです。もちろん、その子をだれが本当に見ていくのかというような問題も含めて検討すべき課題はいろいろあると思いますが、あえて子供の人権に配慮した対応をしていただきたいと私は思いますが、大臣の見解を伺っておきたいと思います。

○国務大臣(森英介君) 委員の今の御所見については、重々にそのお気持ちは理解するものであります。しかし、在留特別許可の判断に当たりましては、当然にその人道的な配慮も含めまして、様々な個々の事情を総合的に勘案し、さらには、他の同種の事案に与える影響をも考慮して適切に対処してまいりたいと存じます。

最高裁判決の趣旨を踏まえた法改正になっているか?

○木庭健太郎君 是非、様々な面を本当にあらゆる角度から判断をなさっていただきたい、そのことを強く要望をしておきたいと、こう思います。
 さて、国籍法の問題でございます。この問題、先ほどから御指摘があっているように、まさにこの問題は今年六月四日の最高裁判所の大法廷の判決を受けての今回の国籍法改正でございまして、ある意味では、違憲判決が出たことに対して私ども公明党は、速やかにそれに対する対応をすべきだという考えで、判決に対する対応の申入れも大臣に対して当時行った次第でございまして、まず冒頭お聞きしておきたいのは、判決の趣旨を踏まえた法改正を速やかに行うことを要望したわけでございますが、今回の法案はその要望に沿うものになっているんだろうと、そう思っておりますが、その点について大臣からまず伺っておきたいと思います。

○国務大臣(森英介君) この六月四日に最高裁の判決が出まして、いち早くその趣旨に沿った改正を要望する活動を展開されました御党に満腔の敬意を表したいと思います。
 最高裁判決の御判断は申すまでもなく厳粛に受け止め、最大限尊重しなければならないと考えております。そこで、国籍法を所管する法務省では、最高裁判決の趣旨を踏まえて、国籍法第三条第一項が憲法に適合するよう速やかに改正をするべく立案作業を進めてきたところでございまして、この度国会にお諮りして、慎重な御審議をいただいた上で、速やかに御可決をいただきたいと願っているところでございます。

偽装認知を防止するのに法務事務官で大丈夫か?

○木庭健太郎君 そこで、先ほど松村委員の方から偽装認知の問題の御指摘があったものですから、今日は各党限られた時間での質問ということになっておりますので、この偽装認知というところの問題について本日は何問かちょっとお伺いしておきたいと思うんですけれども。
 確かに偽装問題というのは、これ十月二十七日でしたか、朝日新聞を見ましたら、この場合はいわゆる偽装結婚の問題が、外国人女性が日本人男性と偽装結婚をして子供に日本国籍を得させたという問題、そういった指摘がなされておったのはそのとおりでございまして、先ほど局長からある程度細かく御説明もいただきましたが、法務局、とにかく国籍取得届を受け付けるに当たって、まずどう臨んでいく、もちろん、先ほど申されたように、届出が出たら届出人から状況を聴くとか、様々な点、御指摘もいただきましたが、具体的に例えばどんなことをお尋ねしたいかというと、関係人から事情聴取するというようなことを先ほどおっしゃっておりました、どんな状況だったかということも含めて聴くと。偽装認知の疑いがないか、組織的な偽装認知ではないかとか、そんなこともその場合に多分疑義がないか判断をなさるんだろうと思いますが、じゃ、そういうことを実際に調査担当する者というのは、知識も含めて、いろんな意味で一体どなたがこの問題を担当してやろうとなさっているのか。ある意味でいくと、官職でいうとどんな方が担当してこれをやるのか、若しくは、これぐらいの資格がない、の者じゃなければこれできないよとお考えになっていらっしゃるのか。その点を含めて、どう偽装認知を防止するために最大限の体制を組みやろうとしているのかを、御説明を改めていただきたいと思います。

○政府参考人(倉吉敬君) この国籍取得届というのは、法務局、地方法務局の本局及び支局に提出することができます。したがいまして、これを担当する者は本局及び支局の法務事務官でございます。
 御質問の趣旨は法務事務官で大丈夫かと、こういう御趣旨ではないかと思いますが、大丈夫でございます。是非この点は強調しておきたいと思うんですが、法務事務官は常日ごろから戸籍、国籍業務やこれに関する研修をしておりまして、こうしたことを通じて、民法の法律知識はもちろん、外国法令の知識も習得しております。各種証明書等の真偽の判断についての経験も積んでいるところでございます。これまでも帰化等の申請、これも同じ担当者が扱うわけでございますけれども、そうした帰化等の申請者からも事情を聴きながら、いろんな仕事をして、具体的に出ている書面と話していることが矛盾していないかとか、あるいは関係機関からいろいろ収集した資料と矛盾はないかというようなことを調べるということをごく当たり前の通常業務として行っております。
 そのような調査業務を通じて、疑義のある事項を発見する能力というのも相応に備わっていると、このように考えております。

偽装認知の罰則に関して

○木庭健太郎君 もう一つは、この問題で、私もある人から言われて、ああ、そういうふうな認識なのかと思ったのは、実は偽装認知ということがこれは起こる可能性が高いと思っていらっしゃる方たちは、それをしたとしても、偽装認知をしたとしても罰則がないと言った方もいらっしゃいます。罰則はあるんですよ、本当は、先ほども御説明されていましたが。そのことを、でも、正直に御存じない。知っている方がいらっしゃったとしても、どうなるかというと、とてもそんな軽い罰則で防げるだろうかという話が、いや、その前に、是非、そういう方々、この問題を心配される方たちに、法務省として、もし万が一偽装のようなことをした場合どういう罪に問われるのかということをある意味では公に向かってもきちんと言わないところが、逆に言うと、まあおっしゃっているのかもしれませんが、認識をされていないところがこの国籍法の問題について様々な御批判が改正について出てくる要素だと思うんです。
 例えば、これ、先ほどおっしゃった新たな罰則のほかに、この国籍を、つまり認知を求めて、その後にこれ出す場合、少なくとも手続としては、出す前に前段階として認知届、後の段階では戸籍に子供の国籍を反映させるための届出が必要になるわけですよね。それがもしうそであれば何に問われるかといったら、公正証書原本不実記載になるわけでしょう。それは罪なわけであって、そうすると、新たにできた罪とこの不実記載の罪、併合できるわけでしょう。そうすると、どれくらいの一体罪になるのかというようなこともある意味でははっきりさせておかなければ、私はこの問題、理解がされていないんではないかなと思うんですが、この点について説明をいただきたいと思います。

○政府参考人(倉吉敬君) ただいま委員御指摘のとおりでして、三か所のゲートがございます。
 最初に、父親が子供を認知することになりますが、その認知の届出を市町村に出します。そうすると、父親の戸籍の身分事項欄にその父親がだれだれを認知したという事項が記載されます。これが戸籍に載りますと、これが虚偽だということになれば公正証書原本等不実記載に問われます。懲役刑では五年以下の懲役ということになります。
 それから、その次に、父親の身分事項欄に記載された戸籍を持って法務局に参ります。そして、国籍の取得届、これが今回新設されるやつということになりますが、出すわけですが、そうすると、それに対しては、先ほど申し上げましたとおり、一年以下の懲役という新しい新設の規定がございます。
 最後に三番目でございますが、その法務局でもらった国籍取得届を持って市区町村の役場に参ります。今度は、その子供が日本人になりますので、子供を日本人として戸籍に載せるための手続をするわけでございます。届けをいたします。そして、その子供が日本人であるということでその子供の戸籍ができ上がりますと、これも公正証書原本不実記載ということになります。
 この三つを、普通は偽装認知ということであればこの三つが全部やるということになりますので、五年、一年、五年でございます。刑法の法定刑、これが併合罪になりますと、一番最長期の刑の一・五倍までが上限でございますので、五年の一・五倍ということで、七年六月以下の懲役ということになります。

新しい制度や罰則の広報の必要性

○木庭健太郎君 是非、先ほどの手続をどうしていくかというような問題、さらに、もしそういう偽装認知によって不正な国籍取得をした場合、重い罪が科せられるということを、これどういう方法で周知徹底するかというのはいろんな在り方があると思うんですが、その辺含めて、政府広報含めて、またホームページとかいろんな方法があると思いますが、きちんと周知徹底をしていただきたいと思いますが、その点について伺っておきたいと思います。

○政府参考人(倉吉敬君) 委員御指摘のとおりでして、今回の新しい制度について広報する必要があると思っております。
 もちろん積極的に、国籍取得届が要件が変わりましたということが一番広報しなければならない柱だとは思いますが、それと併せて、このような罰則があると、しかも新しく設けられた罰則だけではなくて、その前後のものもあるんだということも含めてきちんと広報したい。リーフレット、パンフレット等を作りまして、市区町村の役場、公的機関、裁判所等もあり得ると思いますが、いろんなところにお配りをする。それから、法務省のホームページはもちろんですが、政府広報でもそれをお願いしたいと思っております。さらには、在外公館等にも、これは外務省にお願いするということになろうかと思いますが、こういう宣伝広報活動について一層周知徹底するように、そのときに、ただいま委員御指摘のとおり、罰則の点も含めてきちんとした完璧な広報ができるように努めてまいりたいと思っております。

○木庭健太郎君 大臣にも、これある意味では毎日のように我々も、この国籍法を改正して大丈夫でしょうかというような声も届いていることも事実であって、私は、きちんとこういう違憲判決を受けた形で即刻対応することが必要であり、それによってどれだけこれまでのことが改善されるかということをお話しするとともに、それをやることによって不正が急に増えてくるとか、そんなこととはちょっと違うんです。もしそんなことをすれば厳しい目に遭いますよというようなことを逆にお話しする機会もあるんですが、大臣としても、これ法改正したときに、そういう偽装がもし起きたならばそれに対して徹底した取組をしなければならないし、起きないように最大限の努力もしていただきたいし、その点についての大臣の決意を伺って、私の質問を終わっておきたいと思います。

○国務大臣(森英介君) 委員御指摘の点については、多くの皆さんのこの改正に当たっての一番の心配な点だろうと思います。衆議院でもその点を眼目にした附帯決議が付されたところでございますけれども、いずれにしても、そういった偽装認知が行われないように、ただいま局長から答弁申し上げましたとおり、もしそういうことをすれば相当に重い処罰があるということを広報いたしますとともに、また、その届出受けるに当たっては十分な調査をすることを奨励、督励してまいりたいと存じます。

○木庭健太郎君 終わります。

仁比聡平議員/日本共産党所属(参議院法務委員会(2008/11/25))

仁比聡平 - Wikipedia
○仁比聡平君 日本共産党の仁比聡平でございます。

最高裁判決を大臣はどう受け止めているか?

 この六月四日の最高裁判決なんですが、これ大臣も御覧になったかと思うんですけれども、この判決が言い渡されたときの当事者の子供たち、本当にうれしそうな笑顔の映像、ニュース、御覧になったんではないかと思います。
 この子たちもそうですが、日本国民である父から生まれた子でありながら日本国籍を取得できない子供たちがこれまで外国人だといっていじめられたり、戸籍や住民票もない、児童手当や扶養手当あるいは健康保険もない、入学できなかった子供たちもいる。パスポートの取得も認められなかったり、あるいは外国籍の子が在留ビザを数年ごとに更新をしていかなきゃいけない。本当に流れている血も、そして暮らしているのも、本人は日本人だという、そういう思いであるにもかかわらず、その尊厳が認められないという実態が長く続いてきたわけでございます。
 そういった意味で、私、最高裁の判決を受けて、結婚や家族の変化を踏まえて世界の流れに沿った本当に画期的なものだと思いましたし、何より、子供たちの最善の利益を優先するという立場で大変重い判決だと思いました。
 先ほど他の先生からもお尋ねがありましたけれども、こうした子供たちの救済をこうした形で図った最高裁判決を大臣がどのように受け止めていらっしゃるか、まずお尋ねしたいと思います。

○国務大臣(森英介君) それまで法務省としてはこの条項は合憲であると主張してきたところでございまして、この違憲判決が出たときも時の鳩山法務大臣が衝撃的な判決であったという発言を委員会でされました。そのぐらい画期的な判決だったと思いますけれども、遅くとも平成十五年当時には合理的な理由のない差別として違憲であると判断されましたのを受けまして、この国の三権の一つである最高裁判所の判決によってこのような判断が示されたのを受けまして、法務省としては、その趣旨を踏まえて、国籍法第三条第一項が憲法に適合するよう速やかな法改正を目指してまいりました。
 今般、様々な手続を経た上で国会に御提出いたしまして、慎重な御審議の上に速やかに御可決をいただきたいと念じているところでございます。

○仁比聡平君 そうした法案を提出をしておられる大臣として、お一人の政治家として、この最高裁の事案の当事者となった子供たち、あるいは同じような、今後この法改正によって国籍を取得し得る子供たちに対してどんな思いでいらっしゃいますか。

○国務大臣(森英介君) そういったいろいろな非常に不遇な状況に置かれた子供たちに対しましては、情においては忍び難いものがありますけれども、しかしながら、これまで、先ほど申し上げましたとおり、最高裁でも合憲というふうに判断されてきた対応でございますので、それはその時点ではやむを得なかったと思います。
 これからは、今回改正されました法案にのっとりまして、この点については子供たちの立場を尊重して対応していくことが日本国政府としても必要であろうというふうに思っております。

○仁比聡平君 大臣が情において忍びないとおっしゃった、それが私は政治家としての大臣のお気持ちだろうと思いますし、にもかかわらず、これまで法務省、国がこの規定が合憲であると主張をして最高裁まで争ったという、ここが最高裁によって言わば断罪されたというところに私は画期的なところがあるんだと思うんですよ。政府はこの判決を受けて今回の法改正を提案しておられるわけですから、私は過去のことをもう今更とやかく言うつもりはないのです。そういった意味で、この最高裁判決がどういう枠組みでどういう価値を重んじてこういう判決を下したのか、このことを今回の改正に当たってしっかり言わば確認をしておきたいというふうに今日は思っております。

最高裁の判断の枠組みについて

 少し最高裁判決の中身に立ち入っていくわけですが、まず、どういう判断の枠組みで現行法を憲法違反だと判断をしたのかということについて、先ほども千葉理事から少しお話ありましたが、この現行法が、同じく日本国民である父から認知された子でありながら父母が法律上の婚姻をしていない非嫡出子は、その余の要件を満たしても日本国籍を取得することができないという区別という、つまり、準正によって嫡出になった子とそれから嫡出でない子、この区別が憲法十四条に違反するのかしないのか、こういう問題の素材を置いているわけですよね。
 ですから、判決理由の中には、例えば「その子と我が国との結び付きの強弱を両親が法律上の婚姻をしているか否かをもって直ちに測ることはできない。」とか、「日本国民である父から出生後に認知されたにとどまる非嫡出子のみが、日本国籍の取得について著しい差別的取扱いを受けているものといわざるを得ない。」とか、つまり嫡出子か非嫡出子か、ここにおいての区別が差別である、憲法十四条に反するのであると、そういう判断をしたわけですね。
 これ、局長で結構ですが、確認をください。

○政府参考人(倉吉敬君) ただいま委員御指摘のとおりでございます。できれば、この大法廷判決の論理的な枠組みについて御質問だと思いますので少し申し上げたいと思いますが、よろしいでしょうか。
 この大法廷判決は、要するに、国籍の定め方については、これは憲法十条で法律で定めると書いてあるんだ、だから立法府に裁量権が与えられていると。しかしながら、その裁量権を考慮してもなお今委員の御指摘のあった嫡出子と嫡出でない子との間の区別をすることの立法目的に合理的な根拠が認められないとか、あるいは立法目的自体はいいんだけれども具体的な区別とその立法目的との間に合理的関連性が認められない場合、この場合には合理的な理由のない差別として憲法十四条一項に違反するという、こういう枠組みを打ち立てました。
 その上で、本件の区別というものは、設けているその基本的な立法目的でございますが、これは、血統主義を基調としつつ、我が国との密接な結び付きの指標となる一定の要件を満たす場合に限り生まれた後における日本国籍の取得を認めることとしたものだと、これ自体は合理的であると、こういたしました。
 二番目に、昭和五十九年にこの規定が設けられた当時、この当時においては、婚姻を要件として我が国との結び付きを示す指標と見るということはなおこの立法目的との間に合理的関連性があったと、ここまで言いました。ここまでは法務省も同じでございます。
 この次が違ったわけでございますが、しかしながら、その後の我が国における、先ほど委員が御指摘になった、家族生活の実態が変わってきただろうとか、それから意識も変わってきただろうとか、それから国際的な状況も変わってきただろうと、そういうことをいろいろ考えると、準正を日本国籍取得の要件としておくことについて、少なくとも今日においてはこの立法目的との間に合理的関連性を見出すことは難しいのだと、こう言いまして、その今日においてはというのは、遅くとも、本件の上告人らが届出を出した平成十五年当時は遅くとも違憲になっていたと、このような判断をしたわけでございます。

○仁比聡平君 いや、局長、詳しいじゃないですか、やっぱり、さすがに。これまで国会で衆議院の審議も通じてこうした議論を余りされてないと思いますので、私、是非続けてさせてもらいたいと思っているんですが。
 今局長が御紹介をいただいたような判断枠組みを最高裁が採用したということについて、もちろん憲法研究者あるいは国際人権法や民法の研究者を含めていろんな評論が当然この判決受けてされているわけですけれども、その中で、立法目的との間に合理的関連性が認められるか否かというこの判断枠組みは、憲法学上のいわゆる厳格審査基準を取ったに通ずるものがあるのではないかという憲法研究者もいらっしゃいます。
 今日はそのこと自体をどうこう言うつもりはないんですが、そうした厳しい判断をしていく要素となったのは、一つは国籍が持っている意義だと思うんですね。その国籍の意義について、重要性について判決は、「我が国の構成員としての資格であるとともに、我が国において基本的人権の保障、公的資格の付与、公的給付等を受ける上で意味を持つ重要な法的地位でもある。」というふうに述べていますけれども、これは法務省も同じ見解だと伺ってよろしいですか。

○政府参考人(倉吉敬君) 法律上はそのとおりでございまして、公的資格ということに関して言えば、国籍があるかないかで公務員になれるかなれないかとか、そういう違いがございます。
 それから、公的給付については、法律上はいろいろあれですけれども、少なくとも運用上は、現在住んでいる外国人についてはできるだけ、教育の面も含めて、それなりの配慮がされていると承知しております。

○仁比聡平君 確かに運用上はいろんな配慮がされているが、法的には違うわけですよね。
 その国籍が、判決は続けてこう言うわけですね、「子にとっては自らの意思や努力によっては変えることのできない父母の身分行為に係る事柄」によって左右されていいのかという問題だと思うんですよ。この点については法務省としてはどのようにこの判決を受け止められていらっしゃるんですか。

○政府参考人(倉吉敬君) この点については最高裁の判決の当否自体を私ども言う立場にはございませんが、結論においてはもうまさにそれを受け止めるしかないわけでありまして、非常に重く受け止めているところでございます。
 先ほども申しましたように、ただ、これは、この規定ができていた当時からおよそ婚姻を要件としているというのは、国家との重要な結び付きを示す指標として婚姻なんというのはおよそ役に立たないのだと、こう言っているわけではありません。その後のいろんな状況の推移等から、今日ではそのような結び付き、婚姻だけを結び付きと見るのは妥当ではないのだと、こういうふうに判断しているものだと受け止めております。
 ただ、いずれにいたしましても、そのような憲法違反であるという判断がされたわけですから、これは十分に重く受け止めて対処しなければいけないということで今回の法案を提出している次第でございます。

○仁比聡平君 判決は、「父母の婚姻により嫡出子たる身分を取得するか否かということは、子にとっては自らの意思や努力によっては変えることのできない父母の身分行為に係る事柄である。」と。そのとおりなんですよね。
 子供は子供として一人の人格です。その親の結婚するしないということによって子供の本当に大切な国籍というものが左右されてはならないというこの考え方は、私は本当に立法府として正面から受け止める必要がある、政府にもそのことを重く受け止めていただきたいと改めて申し上げておきたいと思うんですね。
 それで、先ほどから局長が繰り返しておっしゃっておられます、この前の改正時は立法目的との間に関連性はあった、けれどもその後変わったというその判決の中で、時間がございませんので一つだけ取り上げたいと思うんですけれども、それは国際法との関係、特に国際人権法との関係なんですね。

国際法や国際人権法との関係

 判決は、「諸外国においては、非嫡出子に対する法的な差別的取扱いを解消する方向にあることがうかがわれ、我が国が批准した市民的及び政治的権利に関する国際規約及び児童の権利に関する条約にも、児童が出生によっていかなる差別も受けないとする趣旨の規定が存する。」というふうに述べまして、簡潔な文章ではありますが、世界の動向だけでなく、この国際人権B規約、それから児童の権利に関する条約、これを最高裁が判決理由の中で特に示して理由としているというところは、私、大変重いものがあると思うんです。
 これ、局長、通告してないので申し訳ないけれども、このそれぞれの条約がどんな規定をしているかというのは御案内ですか。

○政府参考人(倉吉敬君) 若干うろ覚えではありますが、出生によって子は差別されないと、それから、子供が無国籍であってはいけないという意味で必ず国籍を有しなければならないとか、本件に関連するものとしてはそういった条項があったと思います。

○仁比聡平君 ありがとうございます。
 自由権規約あるいは児童権利条約は、児童は出生による差別を受けない、児童は国籍を取得する権利を有すると定めておりますし、児童権利条約は更に、児童が無国籍となる場合を含めて国籍を取得する権利の実現を確保するというふうにございます。女子差別撤廃条約には、子の国籍に関して、女子に対して男子と平等の権利を与えるという規定もあるわけです。
 これまで、自由権規約委員会やあるいは児童権利委員会あるいは女子差別撤廃委員会、これらが、この国籍取得における嫡出子と非嫡出子の間の差別、この区別を差別としてとらえて様々な意見を繰り返し発表してきたわけです。日本国政府が提出した報告書を審査した上で、この婚外子差別についての懸念が度々表明をされてまいりました。
 そうした意味では、今度の最高裁判決は、この婚外子差別、非嫡出子差別についての国際社会の指摘、国際機関の指摘、これを正面から受け止めたものだというふうに評価をされているわけですけれども、この点については、法務省、どんなふうに受け止めていらっしゃいますか。

○政府参考人(倉吉敬君) 最高裁が、我が国が批准している条約それから規約等を一つの、この本件規定の立法当時は合憲であったけれどもその後変わったということの根拠として挙げているということは、十分に受け止めております。

○仁比聡平君 更にこの点についてよく深めていきたいと思うんですが、時間ありませんから、最後に、この最高裁判決の文脈で、先ほど来テーマに上がっています偽装認知ですね、これ判決では仮装認知という言葉を使っているんですが、最高裁がこの点についてどう考えたのかということについてだけ最後確認をしたいと思います。
 最高裁は、文章で言いますと、仮装認知のおそれについて、「そのようなおそれがあるとしても、父母の婚姻により子が嫡出子たる身分を取得することを日本国籍取得の要件とすることが、仮装行為による国籍取得の防止の要請との間において必ずしも合理的関連性を有するものとは」言い難いと言っているんですね。これ、どういう意味なんでしょうか。
 最後にこれだけ聞いて、終わりたいと思います。

○政府参考人(倉吉敬君) これは、最高裁の判決の書いている意味はどういうことかということだと思いますので、評価をしているつもりは全然ございませんで、要するに、仮装認知に対する対策をどう取るかということはまさに立法府の問題であって、それは本件の条項、つまり婚姻だけを条件、婚姻をしていなければ届出で国籍を取得することができないんだということを決めている、その規定の当否とはかかわりがないと、こういうことだと思います。
 だから、婚姻の要件は排除した上で、削除した上で、偽装認知の問題は別問題なんだからそれは考えなさいと、こういうことではないかと思っておりまして、今回罰則を新設したのもその趣旨でございます。

○仁比聡平君 つまり、婚姻要件のあるなしと仮装認知というのはこれは関係ないという話だと思いますので、(発言する者あり)えっ、違いますか、今の話そうなんじゃないですか。

○政府参考人(倉吉敬君) 委員長、よろしいですか。

○委員長(澤雄二君) 倉吉民事局長。

○政府参考人(倉吉敬君) 婚姻要件を外すことによって偽装認知の危険が高まるかどうか、そのことについては最高裁判決は言っておりません。高まるとしても、これに対してどうするかということ、そういったことはこの婚姻要件を外すかどうかとは関係がないんだと、こう言っているのだと思います。申し訳ありません。

○仁比聡平君 つまり、高まるとも高まらないとも言っていないんですよね、判決は、ということだと思いますので、もし、後でよく勉強して、またあれば次回にお尋ねしたいと思います。
 ありがとうございました。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2009年01月09日 06:40
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。