国会質疑 > 在留特別許可 > 2009-02

国会での審議の中継


参議院・法務委員会(2009/04/09)/前川清成議員(民主党所属)

○前川清成君 民主党の前川清成でございます。同僚議員の皆さん方の御配慮で、四週連続質問に立たせていただけますことを本当に感謝いたしております。ありがとうございます。

在留特別許可の判断要素について

 さて、今日は裁判員裁判の集中審議ということで、私も本当に山のようにお尋ねしたいことがあるんですが、その前にどうしても一点だけ、前々から通告させていただいて、それでいてお尋ねできていないカルデロン・ノリコさんのことについてお伺いをしたいと思っています。
 日本で生まれ育った、昨日始業式で中学校二年生になった、その一人の女の子がただ一人で日本に残って、お父さん、お母さんはフィリピンに帰るという結論になったわけですけれども、その結論に至るまで大臣も様々にお考えになられたと思いますし、世論の中にもいろんなお考え方があったと思います。
 そこで、その判断に至ったプロセスをお尋ねするまず第一として、この出入国管理法の第五十条一項四号の法務大臣が特に在留を許可すべき事情があると認めるとき、この特別に在留を許可すべき事情というのはどのように御理解されているのか、まず大臣にお伺いしたいと思います。

○国務大臣(森英介君) そこに至るまでの経緯についてはよろしゅうございますか。

○前川清成君 特別に在留を許可すべき事情について。

○国務大臣(森英介君) 事情ですね。

○前川清成君 はい。

○国務大臣(森英介君) それは、退去強制事由に該当する外国人は入管法に従い本国に退去していただくことが原則であります。
 これに該当する者であっても、個々の事案ごとに様々な事情を有しており、それらの事情を考慮して、法務大臣は特例として恩恵的に引き続き在留を認める場合があります。この場合の許可を在留特別許可といい、その許否判断に当たっては、個々の事案ごとに、在留を希望する理由、家族状況、生活状況、素行、内外の諸情勢、人道的な配慮の必要性、さらには我が国における不法滞在者に与える影響等、諸般の事情を総合的に勘案して、在留を認めるべき事情が存するか否かの判断をすることとしており、一義的に在留を許可すべき事情が定まっているものではありません。ただし、法務省においては、在留特別許可に係るガイドラインを作成しておりまして、その許否判断に当たって考慮する事項を公表しております。
 当該ガイドラインにおいては、積極要素として、日本人又は特別永住者の子である場合、日本人又は特別永住者との間に出生した実子を扶養している場合、日本人又は特別永住者との婚姻が法的に成立している場合、人道的配慮を必要とする特別な事情がある場合などを掲げております。他方、消極要素としては、刑罰法令違反又はこれに準ずる素行不良が認められる場合、出入国管理行政の根幹にかかわる違反又は反社会性の高い違反をしている場合、過去に退去強制手続を受けたことがある場合を掲げております。

法務大臣の裁量の枠について

○前川清成君 大臣、そのガイドラインもちょうだいしておりますので十分承知した上でお尋ねしているんですが、今大臣がおっしゃったように、事案ごとに諸般の事情を勘案すると、こうおっしゃっていただいても、もちろん大臣が恣意的に御判断されているとは思いませんが、思いませんが、ある一定の広い裁量権があるとしても、その裁量の枠があるはずだと思うんです。ですから、どういうような考え方でこの特別に在留を許可すべき事情というのをお考えになっているのかをお伺いしたかったわけですが。
 それでは、このノリコさん、この方については特別に在留を許可すべき事情があるというふうに御判断されたわけですが、この中学校二年生についてはどのようなことで特別に在留を許可する事情があると、こういうふうな御結論になったのか、諸般の事情等々を教えていただきたいと思います。

○国務大臣(森英介君) お子さんに先立ちまして、まず全体的な判断について申し上げたいと思います。
 カルデロン一家の父母は、両名共が他人名義の旅券を行使して不法に入国し、不法就労を続けた上、一家の不法滞在は、母の出入国管理及び難民認定法違反による逮捕により発覚したものであります。母は、刑事裁判により懲役二年六か月、執行猶予四年との有罪判決も受けているものであり、父母の在留形態は我が国の出入国管理の根幹を揺るがす極めて悪質なものであって、これを看過することはできないと考えております。
 これに加えて、同一家に対する退去強制令書発付処分の取消し訴訟において当局の判断が適法であることが認められ、これが確定していることなどで、同一家の父母については、というか同一家については、様々な事情を考慮した結果、在留を特別に許可すべき事情はないと判断いたしました。
 しかしながら、法務省といたしましては、司法判断においても処分の適法性が認められたことから、同一家に対して速やかに本国に帰国するべく求めていたところですが、両親の側から、長女については親族の適切な監督、保護、養育の下でこのまま学業を継続させたいとの申出があり、またあらゆる事情をしんしゃくする中で、監護者の適切な監護意思等が確認できたことから、長女の我が国での学業継続に係る強い希望を最大限に考慮し、長女については、裁決時とは事情が異なり在留を特別に認めてもよいとの結論に達したもので、さきの裁決を取り消して、在留を特別に許可するに至ったものでございます。

○前川清成君 今大臣が結論に至るプロセスを御説明いただきましたけれども、そのお話を聞く限りでは、この法律の五十条一項四号の条文というのは、余り判断基準になっていないなというふうに思うんです。
 それで、当然、この判断に至る場合には、日本国の法務大臣でいらっしゃいますので、日本の国益をまず第一に考えて御判断されたと思うんですけれども、どうも私が分からないのは、分からないのは、中学校二年生の女の子をお父さん、お母さんと切り離さなければならない、要するにお父さん、お母さんをフィリピンに送り返す、それによって日本が得られる国益というのは何があるのかなと。あるいは、お父さん、お母さんを今までどおり、今までどおり日本で生活させることによって損なわれる国益というのは何かあるのかな。わざわざ親子を引き離してまで、今回のお父さん、お母さんをフィリピンに帰すと、どれだけの意味があるのだろうなと私は正直思っているんです。
 世論の中にも多少は情緒的な意見があるかと思いますが、私のある親しい方で、別に人権問題や外国人の問題について全然関心お持ちでないだろうなというような方からも、大変気の毒ですねと、あんな方だったら、まあ何かのあれかもしれませんが、私の養子にしてあげて日本で住んでもらってもいいですよねというようなお話を承ったことがあるんです。
 そこで、大臣、もう一度お聞きしたいんですが、中学校二年生の女の子を日本でたった一人暮らさせなければならない、それによって大臣が守ろうとした国益というのは一体何なんでしょうか。その点、ちょっとお伺いしたいと思います。

○国務大臣(森英介君) ちょっとその前に、ちょっと事実誤認がありますので改めて説明を申し上げますと、決して私どもが親子を切り離したわけではありません。あくまでも私どもの判断は親子三人で本国に帰ってもらうということでありまして、しかもこの一家の場合は、日本で稼いで本国に送金して、つまり本国との関係は決して薄いわけじゃなくて、しっかりとした向こうにまだ根の残った一家であります。むしろ家族の方からの希望で、しかも叔父さん、叔母さんが近くにいるので、その叔父さん、叔母さんを頼って日本で学業を継続したいという希望がありましたから、むしろ温情的措置として特別に在留を許可したものであって、決して私どもが私どもの都合で親子別々に暮らすようにしたものではないということを、どうか御認識いただきたいと思います。

○前川清成君 ただ、大臣、そうはおっしゃっても、日本で生まれ育って、フィリピンの言葉も話せない中学校二年生の女の子が一緒に帰るというのは事実上できないわけであって、例えば、今回の三月二十七日の東京地裁の判決がありまして、大臣も御存じかと思いますけれども、日本で前科前歴もなく平穏な社会生活を送って、日本社会にも生活の根を下ろして暮らしている、そういう外国人に対する対応をどうするのかというのは、この機会に、私もこういう問題について今まで深く考えたことはありませんでしたけれども、今回政府から法案も提出されることですし、この事件も踏まえて、もちろん日本の国益というのもあるでしょうし、あるいは外国人に対する、外国人の人権というのもあるでしょうし、あるいは国際社会、その多様性をどう受け入れるのか、様々な問題があると思いますので、是非この機会に大臣御自身もお考えをいただきたいと思いますし、もう一つ、この出入国管理法の条文自体が判断基準になっていないのであれば、すべて法務大臣に広範な裁量権が与えられていて、あとは官僚たちが作ったガイドラインでその都度その都度判断するということであれば、どうしても恣意的にやっているのかなというふうに疑われても仕方ありませんので、是非制度自体をこの機会に少しは見直したらどうかなと私は思っています。

衆議院・法務委員会(2009/04/17)/赤池誠章議員(自民党所属)

○赤池委員 次に、入国管理行政についてお伺いをしたいというふうに思います。

入管行政の目的について

 入国管理行政の目的というのは、これは「ルールを守って国際化」、入国管理局のスタッフの方々は名刺にも入れて、そういったスローガンを合い言葉にして、出入国管理行政を通じて日本と世界を結んで、人々の国際的な交流の円滑化を図るとともに、我が国にとっては好ましくない外国人を強制的に国外に退去させることにより、健全な日本社会の発展に寄与するというふうにうたっているわけでありますが、局長、これでよろしいですか。

○西川政府参考人 委員御指摘のとおり、入管行政といたしましては、出入国の公正な管理を図るために、法令の規定に従って、ルールを守る外国人の円滑な受け入れを図る一方、不法滞在者等につきましては、基本的には関係機関と連携した強力な摘発の推進等、厳格な対応を通じてその減少に努める、これを使命にしているというふうに思っております。

○赤池委員 いわゆる信賞必罰ではありませんが、ルールを守っていただける方にはしっかり国際交流を図っていただく。しかし、ルールを守らない方にとっては、これは強制的にでも国外退去を含めて厳罰に処する、これが当然だと思っておりますし、国民も、それであればこそ入管行政、ひいては法務行政への信頼が確保されるということであります。
 最近、体感治安という言葉があるとおりに、数字だけではなくて、国民の中では治安への不安感というのが出ているということでありまして、それが一体どこから来るものなのかなということを感じたときに、やはり具体的な事例、特に大きくマスコミに報道されることによって不安感が増幅されている部分があるのではないかなということを感じております。

カルデロン一家事件の事実関係について

 具体的な事例を挙げますと、去る四月十三日に、御承知のとおり、埼玉県のフィリピン人のカルデロン・アランそしてサラ父母が強制退去処分にされました。長女の方が在留特別許可となって日本に残った。その強制退去となった父母は、当然、強制退去になったわけでありますから、法令に従えば通常五年間入国できないにもかかわらず、長女と面会の目的で日本を訪れる場合には、短期間であれば上陸特別許可を付与してもいいという話になっているということであります。
 私は、法務当局の今回の対応というのは、ルールを守らない外国人に対してなぜ特別扱いするのか、法の番人として国家を守る上で、このことが国民の不安を増大させて、大変な問題になっているのではないかということを感じております。
 そこで、一つずつ事実を確認したいと思うんですが、カルデロン・アラン、サラ父母はフィリピン生まれで、フィリピン時代から恋人関係であった、マニラ市内の大学を中退して、日本で就労して多くの収入を得るために、ブローカーから他人名義でフィリピン旅券を入手して、平成四年に母親となるサラさん、翌年、平成五年に父となるアランさんが相次いで不法入国をした、さらに、それぞれ他人名義で外国人登録までしている、そして、さらに平成七年には長女であるノリコさんが日本で生まれて、入管法の在留資格取得を申請することなく、長女も不法残留となった。
 これは三重の罪ということになるわけでありますが、これは間違いないでしょうか、局長。

○西川政府参考人 委員御指摘の今の事実関係については、カルデロン一家についての退去強制取り消し訴訟の第一審の判決の中でも指摘されておりますので、間違いがない事実だと考えております。

○赤池委員 さらに問題なのは、そのアラン、サラ両家の家族でありまして、カルデロン・アランさんの家族は、兄を除いて、両親二人、姉一人が不法残留歴がある、姉は在留特別許可をもらって日本に今現在いらっしゃる、そして、サラさんの、母親の家族は、弟一人を除いて、両親二人、弟、妹の四人に不法残留歴がある、弟、妹の二人は定住者の在留資格取得をして現在日本にいる。
 カルデロン父母の両親、家族はほとんどが不法入国、または不法残留したことがあって、現在、日本においても、その二人が入ってきたときに同居もしている、親族関係にある者が感化し合って、集団で入管法違反を繰り返していて、日本の法律を遵守しようとする意識が極めて希薄であるということが判決でも指摘をされているということであります。
 これは、入管当局としても事実として認識なさっていますか。

○西川政府参考人 本件に直接関係のない人の不法滞在歴等の詳細について申し上げるのはいかがかと思いますが、今委員御指摘のような事実が退去強制処分取り消し訴訟の判決で指摘されているということは事実でございますので、事実であろうと思います。

○赤池委員 そして、平成十三年、父アランが長女ノリコさんを認知して、平成十八年二月、父母が婚姻をした、その年の七月に母親のサラが入国管理法違反により警察に逮捕された、これは報道があるとおり、職務質問を路上でされて警察に逮捕されたわけですね。次の月、八月には父及び長女が東京入国管理局に出頭して、不法滞在であったことを申告した、九月には母親のサラさんがさいたま地裁において、入管法違反によって懲役二年六カ月、執行猶予四年の判決が言い渡されて、東京入管に収容された、さらに十月、父及び長女が仮放免となって、十一月に正式に一家三名に退去強制令書が発付をされたということですね。
 これは間違いないですか。

○西川政府参考人 委員御指摘の事実関係であるというふうに思います。

○赤池委員 そして、十二月になって、一家三名が東京地裁に退去発付処分取り消し訴訟を提訴して、続いて、入管に再審査願いを申し立てる、十九年五月に母親が仮放免となる、平成二十年一月に東京地裁において国側が勝訴したわけですね、一家三名の退去強制令書は適法である、妥当であるということですね。さらに五月に東京高裁においても国側が勝訴判決、六月に一家三名が最高裁に上告及び上告受理申し立てを行ったところ、九月には一家三名、最高裁において上告が棄却されて、上告不受理の決定がなされて、同日、刑が確定した、行政罰だけじゃなくて、裁判でも、最高裁でも、三審やって適法であるということが認定されたわけですね。
 東京地裁の判決を読んでみても、子どもの権利条約を初め国際条約の違反に当たらない、日本で生まれ育って現地語ができない長女がフィリピンでは困難に直面するが、それは帰国子女一般にも当てはまることで、両親はフィリピンで生まれ育ち、フィリピンには、両親の家族、父には母と兄二人、母には弟と妹二人がおり、支援が期待できる、長女は子供で、柔軟性、可塑性があり、フィリピンに順応して困難を克服できると指摘していて、年少の長女が自立できるまでの間、両親の扶養を受けて、両親とともに生活する、離れ離れにならないということが福祉にかなうとまで、東京地裁判決が明確に指摘をしているということであります。私は、この場で改正国籍法の最高裁違憲判決は大変おかしいと指摘をしたんですが、この東京地裁の判決を読んで事実確認をしたところ、全く当然の判決だというふうに感じております。
 しかし、これからが問題なんです。
 今、一つ一つ事実確認をしてきました。ブローカーから他人名義の旅券を入手して相次いで不法入国した入管法違反、外国人登録をした外国人登録法違反、さらに長女も在留資格を申請しない入管法違反で、三重の違反を犯して、その両親、家族それぞれが入国、不法残留歴があって、裁判でも、感化し合って、協力し合って日本に入ってきていると。ぐるみですね。

法務省の対応が変わった理由について

 そして、裁判でも、最高裁でも確定したにもかかわらず、法務当局は、三月十一日の国会答弁でも明らかなとおり、両親の在留は認めがたく、したがって、三人での在留は認められないとの結論に達した、これは当然ですね、しかし、長女については、永住者等の在留資格で在留している三人のおじさん、おばさんがすぐ近所におられることから、これは不法入国、残留歴のあるおじさん、おばさんのことですね、適切な監督保護、養育者のもとで学業を続けさせたいとの理由から在留を希望するのであれば、在留特別許可をしてもいいと考えて、その旨をわざわざ伝えたと。また、長女の在留が特別に許可された場合には、両親については、一定の期間が経過した後、長女と面会の目的で日本を訪れる場合には、短期間であれば上陸特別許可を付与してもいいと考えて、その旨もわざわざ伝えているということを国会で明言なさっているわけなんです。
 なぜ法務省の対応が変わってしまったんですか。裁判でも勝訴したのに、なぜ長女だけ特別在留許可を出さなきゃいけなかったんですか。なぜ、国外退去した父母には、短期間であればわざわざ上陸特別許可を付与して、特別扱いをするんですか。私は全く理解できません。
 国民にこの事実を踏まえてどう説明なさるのか、局長、御答弁をお願いいたします。

○西川政府参考人 お尋ねのカルデロン一家三名につきましては、今委員のおっしゃられた経過で退去強制令書が発付され、また、同一家が提起した行政訴訟における司法判断においても、処分の適法性は認められたことから、法務大臣の御指示を仰ぎつつ、速やかに本国に帰国すべく求めておりました。
 したがって、この事実関係を踏まえれば、両親の側につきまして在留特別許可に付す余地はないというふうに考えましたが、両親の側から、長女については、その時点で中学校一年生になっておって、親族の監護養育のもとでこのまま学業を継続させたいという申し出がございまして、あらゆる事情をしんしゃくする中、監護者の監護意思も確認できたことから、長女の我が国での学業継続に係る強い希望を最大限考慮して、長女については、裁決時と事情が異なるというふうに考えまして、在留を特別に認めてもよいという結論に達し、さきの裁決を取り消して在留を特別に許可するというふうに至ったというものでございます。
 次に、両親の再入国についてでございますが、我が国から退去強制された者は、一定期間、我が国に入国できないというふうにされておりますが、当該外国人から上陸拒否期間内に上陸の申請があった場合は、個々人の事情を勘案して、法務大臣が当該外国人について特別に上陸を許可すべき事情があると認めるときには、法務大臣の裁決の特例として、上陸を特別に許可することができるとされております。
 お尋ねの父母につきましては、最低五年間、上陸が拒否されるところ、長女はいまだ未成年であること等、人道的観点から配慮すべき点も認められたことから、法務大臣の御指示を得た上で、一定期間が経過した後、長女のもとを訪れるなどの理由であれば、短期間、上陸を特別に許可することも検討する旨伝えているというものでございます。
 以上でございます。

○赤池委員 他人名義で日本に入ってくるというのは、大変悪質な不法行為ですよね。その子供に何の罪もないのはもちろんでありますが、これが前例になると、どんな形でも不法入国して子供さえ産んだら子供は日本に残れる。日本に子供が残れば、どんな形で国外退去処分にしても短期間で日本に帰ってこられる。
 局長、これは前例にならないんですか。

○西川政府参考人 在留特別許可の許否の判断につきましては、個々の事案ごとに、積極要素、消極要素、諸般の事情を総合的に勘案した上で判断しているということでございます。
 本件も一つの処分事例ということではございますが、同様の事案と思われるものも、それぞれ事情が異なりますので、今後も、個々の事案ごとに種々の事情を総合的に考慮して判断していくことになろうというふうに思います。

○赤池委員 結局、積極事由、消極事由、犯罪を犯したら在留特別許可、上陸特別許可は当然おろさないと。であれば、その積極事由の中には、結婚して子供さえ産んだら日本にいられるんだと。
 実際、カルデロンの父母は、長女のノリコさんを帰化させて、それによって日本に永住したいという意向が現地のフィリピンの報道機関には流されているということにもなっているわけであります。
 以上、このカルデロン一家の入国管理行政について、これは、法務省としては個別の事情をかんがみた上での法務大臣の裁量権だという言い方なんですが、このことが国民に、法務行政、一番水際の入管行政、ルールを守らなくてもいいんじゃないか、そういう発想につながっているというふうにならないんでしょうか。
 在留特別許可というのは、法務省の資料によると、去年、二十年で八千五百二十二件あるんですね。これは私も聞いて驚いたんですが、特別じゃなくて普通じゃないですか。二十万人以上いた不法残留を、皆さん五年間一生懸命御苦労なさって、半減プロジェクトで十一万人にした。しかし、この半減プロジェクトで半減した中には、このような形で、日本人と結婚して、個別の事情をかんがみて在留特別許可を出した、そういった方も当然含まれているわけですね。
 それによって云々ということは言いたくはないわけでありますが、李下に冠を正さずではありませんけれども、こういった事例、それも大きくマスコミに報道されて、お子さんがかわいそうだというだけで、どう考えても人道的配慮というよりも感情論じゃないかという批判が大変多く私のところにも寄せられているわけでありまして、そういった不安、不信に、法務行政、入国管理行政として、どうきちっと国民の皆様に納得いただくのか。ルールを守らない外国人に対して、なぜこのような温情的措置をとるのか。ルールを守って入ってきた外国人の方々、また、ルールを守って一生懸命働いて、この大変厳しい不況の中でも頑張っていらっしゃる日本人の方々に対して、どう答えるのか。
 局長、入国管理行政の基本方針を改めて教えてください。

○西川政府参考人 繰り返しになりますが、冒頭に申し上げました入国管理における基本方針というものは変わりがございません。円滑な受け入れと不法滞在者に対する厳格な対応、こういうことに尽きるのであろうというふうに思っております。
 ただ、個々の事案につきましては、やはり在留特別許可の判断については、さまざまな積極要素、消極要素、それを総合考慮して、一番いい解決を探していかなければならない、こういう面はあろうというふうに思います。今回は、そういうさまざまなことを考慮して、長女については、監督者がいて日本に残すという選択肢を選んだということでございますので、このことを十分説明すれば、いろいろなお考えはあろうというふうに思いますが、一つの解決策ということで納得がいただけるのではないかと思いますし、これを拡大して不法滞在に対する助長になるのではないかというのは、それほどの心配はないのではないかというふうに考えております。

○赤池委員 局長、助長にならないだろうと。
 そのお子様が一生懸命日本で学業に励まれて頑張っていらっしゃる、それは我々も応援をしたいというふうに思うわけでありますが、しかし、その受け入れ先の御家族、御親族が不法滞在、残留と。当然確認はなさっているとは思いますけれども、それを踏まえて、十分な養育監護、本当に大丈夫なのかという疑念を持たれているわけであります。それも、数字的に言っても、八千件、九千件、一万件と、年によって当然変動があるわけでありますが、すべて法務大臣が見るわけではなくて、当然、現地、現場の局長が確認をしているわけでありますので、そういった積み上げがこの間の数字ということでありますから、これは相当しっかり、今まで以上に、当然なさっているとは思いますが、引き続き、入国管理行政、国民の不安また不信感が相当強いという思いの中でやっていただきたいというふうに思っております。

重国籍と国籍選択制度について

 ちょっと時間が、最後五分になってきたので、もう一点だけ。
 これは前回も聞いている話なんですが、昨年の改正国籍法をきっかけにいたしまして、一月一日から施行されました。それによって、既に申請が二百件以上なされている、順次確認をして受理をしているということを聞いております。
 その状況の中で、警察庁また法務局含めて連携を強固にしているということは聞いてはいるわけですが、当然、自然と重国籍者がこの改正国籍法によってもふえていくわけですね。お伺いしたところによると、昭和六十年の国籍法の改正以来、両系血統主義のもとで、五十八万人もの方が日本国内において重国籍者だろうと推定をなさっているわけですね。
 国籍唯一の原則の中で、日本国籍もしくは外国籍、どちらかを唯一取ってくださいというのが法の趣旨であり、そのために催告制度という制度を設けているわけでありますが、法改正以来二十四年間、一度も催告制度をとらない。自主的な判断に任せるといって何を通知なさっているかといえば、ポスター、リーフレット、パンフレットをつくっていますと。これで果たして、法務行政として、国籍唯一の原則といいながら、そのまま野放しにしていると言われてもおかしくないんじゃないでしょうか。
 改めて、民事局長からも重国籍者についての御見解をお伺いしたいと思います。

○倉吉政府参考人 国籍唯一の原則は、これはもう現行国籍法の理念でございます。重国籍についてはこれを解消することが望ましいということで、国籍選択制度等も設けてその解消を図っているところでありまして、法務省としても、その基本的な理念、法の趣旨をきちっと踏まえて、基本的には重国籍を解消することが望ましいと考えております。ここは少しも揺るぎはございません。
 重国籍でありながら所定の期限までに国籍の選択をしない者については、今御指摘のとおり、法務大臣が国籍の選択をすべきことを催告することができるとされております。ただいま御指摘のとおり、これまで催告をした実例はございません。
 これは、催告を行った場合に、催告を受けた日から一カ月以内に日本国籍を選択しなければ自動的に日本国籍を喪失することと国籍法の十五条三項は明記しているわけでありますけれども、これは重国籍者本人のみならず、その親族等関係者の生活等に極めて重大な影響を及ぼすものであることから、やはり慎重に対処する必要がある、このように考えているためでございます。
 前回も同じ答弁をしたかと思いますけれども、国籍選択義務の履行は、重国籍者の自発的な意思に基づいてされるのが最も望ましい。そこで、法務省としては、催告をするまでもなく重国籍が解消されるよう、国籍選択制度の周知に努めているところであります。
 ただし、将来的に重国籍の弊害が現実化し、我が国の国益が著しく損なわれる、そのような具体的なケースが生じた場合には催告の必要性を検討しなければならない、これも真摯に考えております。

○赤池委員 国籍選択というのは、個々にとっては当然大変重い選択であります。最近では、有名な事例でいえば、WBCで活躍した日本ハムのダルビッシュ有投手が、イラン人のお父さん、お母さんは日本人ということで、国籍選択をなさったということも報道されているところでありまして、大変重い選択というのは重々承知なわけであります。
 ただ、その一方で、法務行政として、国籍唯一の原則、これは、国家というのは自国民を保護するという義務があり、また、国民にとっても、アメリカの国籍法に書かれているとおり、国家に対する永世忠誠義務を負う、そういった関係にあるのではないかというふうに思うわけでありまして、これは平時、まさに平和だからこそ許される部分。しかし、最初に質問させていただきました北朝鮮のミサイル発射事件、これがまさに、拉致問題を初め、有事ということが相当日本国にとっては言われているわけであります。他国の中国やロシアも含めて、反日的な国々に囲まれた日本の中で、こういった懸念というのは全く絵そらごとではないというふうに感じている中で、具体的に、仮に北朝鮮と有事になったら、北朝鮮籍と日本籍、重国籍者の方々はどうなるのか、どう国家が取り扱うのかということは近々の問題だというふうに思っております。
 そうなったときにそうするではなくて、やはり日ごろから、今、一万人の方々が重国籍者で、約千人、二千人の方が自発的に選択している、八千人の方がどんどんどんどん積み上がって、その数が五十八万人だと。減りはなく、これはどんどんふえていくわけですね。そういった問題をそのまま放置していくということ自体が、法務行政の不作為、それが、先ほど冒頭からお話ししている現状追認型、法というのは建前で、現状を追認するのみだということで、国民の不信が生まれることにつながってくるような気がして仕方がございません。ぜひ、入管行政、そしてこの重国籍者の問題に関して、当然、自発的に、意思を尊重するといいながら、ただそれだけでいいのかということを踏まえて、法務当局としてきちっと検討をしていただきたいというふうに思います。
 最後、局長、一言ございましたらお願いいたします。

○倉吉政府参考人 ただいまの国籍選択制度、その催告制度をどうするのかということも含めて、重国籍の問題に関しては非常に難しい問題が多いわけでございます。
 今委員の御指摘になったことは、それぞれ重い問題であるということは私も十分に承知しております。これも委員も御承知のとおりでありますが、この点も含めて、重国籍の問題については、自民党法務部会の国籍問題に関するプロジェクトチームでも御議論をいただいている。しかし、そこでもさまざまな御議論があって、いろいろと深い検討をいただいていると承知しております。
 私どもとしては、これまでも国籍法につきましては、その時々の国際情勢に合わせて、それから、日本の国内の国民感情等も考慮しながら、適切に改正をしてきたつもりでございます。今後とも、そういった所要の法改正を行うということも含めて、引き続き対処しなければいけないと思っておりますけれども、そのためにも、この種のことをめぐる議論が一層これからも深まっていくということをぜひ期待したいと思っております。

○赤池委員 時間が参りましたので終わりたいと思いますが、当然、自民党内でもしっかり議論はしていくわけでありますが、現状の法というものが既にあるわけでありますから、であるから、議論が今与党の中で進んでいるからそれを見守るというだけでは、まさにそれこそが法務行政の不作為と言われても仕方がないではないかと思っておりますので、私どもは私どもでしっかり議論をしたいと思いますし、法務当局もしっかり検討していただきたいと思います。
 以上です。ありがとうございました。

参議院・法務委員会(2009/05/12)/石関貴史議員(民主党所属)

カルデロン一家の判断の理由について

○石関委員 次は、入管行政について幾つか御質問いたします。御説明いただいてと思いましたけれども、私の方で簡単にお話をして御答弁をいただきたいと思います。
 カルデロン・ノリコさん一家のことをお尋ねしようと思いましたけれども、何度もこれはここでも取り上げられております。ただ、これは先日、赤池議員だったと思いますけれども、赤池議員のところには、こういう不法滞在していた人を何か守るような、そういったものはいかがなものかといういろいろな電話等が殺到しているやにここで御発言をされておりました。
 これもこれで、確かにもともと不法なんだからどうなんだろうというふうにも思いますし、一方でしかし、日本にこれだけ長い間住んで、また、この娘さんについては学校でしっかりと勉強されてお友達もいっぱいいるということですから、これはなかなか、人情で考えると、まあ、いさせてやればいいじゃないかということですし、法律でいうと、そもそも違法にいるわけですから、これは大臣、今回のことについても大変悩まれたと思いますけれども、どのようなお考え、御判断をされたのか。大臣、大変だったと思いますけれども、いかがでしょうか。

○森国務大臣 これもいろいろな場面で再々御説明申し上げておりますけれども、そもそもが偽造のパスポートで入国してきた相当悪質な事案でございます。かつ、日本でできた女の子はずっと十四年日本だけで育って、しかし結局のところ、また、摘発されてそれが発覚したわけでありますから、二重の意味で問題性があると考えるわけでございます。
 したがって、本来であれば家族そろって退去してもらうのが原則だというふうに思いますが、そうはいっても、まず女の子について、これだけ日本に定住しているし、加えて、この家族の場合というか、女の子の側からいうと、血を分けたおじさん、おばさんがすぐ近くに三人もいました。ということですから、最終的には、家族側の希望を聞きまして、では女の子だけ残るということを家族から申し出がありましたので、そのようにしたわけであります。
 またさらに、そんなことをいっても今からフィリピンに追い返されても両親が生きていけないじゃないかみたいなことを言う方もあるんですけれども、実は、もうずっと夫婦はフィリピンに送金をしていて、フィリピンにも十分まだ根拠があるわけですね。
 ですから、そういった総合的にさまざまな事情を勘案して判断したものでございまして、そうはいっても、両方からの御批判があるものですから大変苦渋の決断ということでございましたけれども、私なりの最良の判断をしたつもりでございます。

○石関委員 立派な大臣の御判断だなと思って、お気持ちをお聞きしたかったものですからお尋ねをしたところです。

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最終更新:2009年10月25日 00:36
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