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原告適格のない訴訟

実体法上の枠組み

でも実体法(憲法)的に考えても、あれはNHK側の表現の自由の行使として問題ないとされるでしょうね。

石原都知事の発言や毎日新聞の記事は、不適切だったと私も思いますが、訴訟にできるだけの枠組みが、今のところはありませんからね。
話題性、というだけでしょう。


民事訴訟法上の枠組み

(余談ですが、私が教わった民事訴訟法の教授の中には、「奄美の黒ウサギを原告にできないか?」と言うことを真面目に聞いてきて、学生を混乱に陥れた先生がいます。
あの先生の学説は、たぶんあと20年位したら日の目を見るのかもしれません…
しかし司法試験向きではなかった…)
民事訴訟の損害賠償の中には人権侵害による損害も含まれ、現行の人権侵害リストの中にはヘイトスピーチはないので、枠組みがなく民事訴訟でも敗訴確定という感じでしょうか?

枠組みがない、といったのは、こういったヘイトスピーチに関して、「誰かが原告となって裁判で争うべき」という理念ができていないからです。

ヘイトスピーチに関しては、日本では人権侵害と認識されていないので、取り締まる必要性が認識されていません。
実体法上、人権侵害にならないものを、訴訟で争うとしても、対応できる訴訟法の枠組みがありません。

民事訴訟法学界でも、まだこういった場合に、原告適格を認める必要性があるとは認識されていないでしょうね。

今のところ、必要性が認識されているのは、
製造物等の欠陥で経済的な損失が生じている場合に、その損失が金額としては安いものであっても、大勢が購入しているために、全体としては多額の損失が生じている場合に、集団訴訟として製造者側を訴えられるような訴訟類型が必要だ、ということくらいだと思います。

もしかしたら、今回のNHKへの提訴は、民事訴訟法的にも興味深い(裁)判例になるかもしれません。
やはり、学説提起→世間への認知→裁判での枠組み承認、といった形が一般的なのでしょうか?

そうです。
弁護士が裁判起こして、世間への認知を広めようとすることはあるでしょうけれど。
(あの民事訴訟法の先生、弁護士としてかなり優秀だったそうで、他の弁護士たちが90%以上負けると思った名誉毀損の民事裁判で、勝訴しました。)


刑事と民事での人権救済の違い

刑事訴訟との違いは、人権侵害の被害を受けたけれども、刑事は相手が処罰されるだけ、民事だと直接金銭を受け取れるという形の救済措置といった感じになるのです。

敗訴における「請求棄却」と「請求却下」の違い

敗訴は敗訴でも、「請求棄却」と「請求却下」の場合は、意味が違って、
「請求却下」であれば、裁判所に門前払いにされた、という意味です。
(「請求棄却」は、本案審理に入ったけれど、請求権なしと判断した、という意味です。)

靖国参拝訴訟でも、敗訴に敗訴を重ねているわけですが、
憲法判断(本案審理)に踏み込む前の段階の、
「あなたたち原告適格ないでしょ」という請求却下判決がほとんどだと思います。
裁判所としては、門前払いにしているんですよね。(傍論で何らか言及していたとしても。)

ヘイトスピーチという枠組み

ヘイトスピーチに関しては、「ジュリスト増刊 憲法の争点」によると、
  • 特定個人に向けられた集団に所属する事による誹謗的表現→差別であり、個人の人格権侵害をもたらす事は明らか、規制の正当性に疑問の余地はない。但し、名誉毀損財と侮辱罪の範囲を拡大で対応可能。
  • 個人を特定しない集団そのものへの誹謗的表現→人によって侵害の有無がわかれ、主観的な名誉感情の保護のために刑罰をもって表現を規制する事は表現活動への過度にして広範な規制になる
という感じのようです。

なので、石原都知事の発言の訴訟の場合、裁判の途中で枠組みが認められるみたいな事はないのかと疑問に思いました。
やはり、学説提起→世間への認知→裁判での枠組み承認、といった形が一般的なのでしょうか?



その他の検討材料

1人1万円とかの損害賠償請求とかって訴えの利益があるのか謎で、(裁判をなめてると判断されて)裁判官の逆鱗に触れたりはしないのでしょうか?
あえて言うとすれば、今回のNHKへの提訴は、
報道の自由の内容の一つである、メディア側の「編集権」についての判例を作りたいのかな、という気がしなくもありませんが…

う~~ん…

1人1万円の損害賠償請求、というのはまぁ好きに(金額設定)して、という感じですが、
取材を受けた台湾人が訴えるならともかく、日本人が訴えても、原告適格があるのか?という感じがします。

なので、訴えの利益はないわけではありませんが、原告適格の部分で訴え却下になるのでは?という気がします。
まぁ原告適格あり、ということで本案審理に入っても、たぶんあっさり敗訴すると思います。

まっきーさんが日記を書いていらっしゃいますが、傍論ですよね、彼らが狙っている事実認定というのは。

  • 石原「ババア発言」訴訟→名誉毀損の人権侵害(ヘイトスピーチ)。「女性」という集団に属する事を理由とした枠組みはないので、敗訴。
  • 毎日新聞変態記事訴訟→人格権という人権侵害に伴う損害賠償請求(広義のヘイトスピーチ)。「日本人」という集団に属する事を理由とした枠組みはないので敗訴……というか、証拠集めも真面目にやってないので、なんで訴えたのかすら不明。
ttp://blog.livedoor.jp/romjin/archives/676369.html
  • NHKの台湾支配報道→どこの利益を侵害したのかが不明。
といった感じですが、間違っている箇所などありますでしょうか?





類似の訴訟

靖国参拝違憲訴訟


石原「ババア発言」訴訟


毎日新聞変態記事訴訟


参考サイト


NHKスペシャル「アジアの一等国」訴訟


参考サイト

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最終更新:2009年07月05日 18:06
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