※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

―三―

『気付いてください  どうかこの胸の苦しみを。』



―――――答えろよ、何故俺を助けた?

・・・助けた? 私が・・君を?

―――――ああ、なんで助けた。

・・・ふふっああ、そっか・・あれは『助けた』内に入るのか・・

―――――何が可笑しい?

だって、私は君を助けたつもりはこれっぽっちもなかったのだから『何故助けた』かなんて、聞かれましてもねぇ?

―――――・・・は?

それでも何故と問うのなら、敢えて私も応えよう。それはね・・単なる私の『気紛れ』ですよ――――――


 「っ!?」
 「葵依?」
急に立ち止まった俺に、訝しげに呼びかけて先へ行くぞとこちらを振り返る幼馴染。
突然の雨。不吉な予感。そして――――あいつの気配が消えた。
 「っやられた・・」
 「葵依?」
 「あいつの・・彗の気配が消えた」
 「なんだって!?」
もう桜仙の丘にはいない。そう低く呟いて、俺はしくったとばかりに盛大な溜息を吐いた。
――――気配が消えた。これ即ち、摩綺羅と遭遇した確率が高いと言える。
「っくそ・・・本当に厄介な事になった・・」
「どうすんだよ葵依!!あいつ掴まったんだったら助けないと」
「お前も落ち着け、焦っても仕方ねぇだろ」
そうだ、焦っても何も始まらない。考えろ・・考えるんだ。

 「・・・・・あいつ、『要』を探して飛び出したんだったよな・・?」
 「は? あ、ああ・・そうだけどってお前・・」
 「・・・無茶は承知だが、『要』を先に探し出すぞ」

時間が惜しい。あいつが攫われた。これこそ一刻の猶予もない、緊急事態だと言える。
 「おまっあの術苦手だっただ」
「確かに人探しはあまり得意ではないがな・・・そうも言ってられないだろう・・?」
一応苦手でも人並みには出来る筈だ。そう戒斗の言葉を遮って、俺は静かに封珠を片手に、地面へと陣を描き始める。
 「・・・俺がこの術を発動させたとき、成功する確率と失敗するは四分と六分だ」
 「知ってる。でも俺が思うにお前が成功する確率は二分と八分だ」
 「・・・・お前も言うようになったな」
 「あははっこれも誰かさんのおかげだけど?」
 「・・・ったく・・」
 「まぁ 何もやらないよりましって事か・・」
ほんの少しだけ心配そうに顔を歪めた幼馴染に、俺はそ知らぬふりを決め込んで術を発動させる為に神経を集中させ始めた。・・・雨がほんの少しだけ弱まる。

 「“――――遥かな風よ、今我の探せし其の者を引き連れ
      暖かなる光よ、今我の求めし其の者を此処へ導け・・・”」

来い。こちらへ来い『要』。お前を探している奴の為に早く・・・早く。
ばちり、と指先から微かに火花が散る。ったく・・これだから苦手な術を使うのは嫌いなんだ。
 「・・・っ早く・・!!」
「葵依!!」
気持ちがどうしても焦ってしまう。戒斗が、俺の事を呼ぶ。駄目だ、弱気になんかなれない。俺は絶対に『要』を見つけださないといけない。でないと・・彗が・・・

 「うわっ!!」
 「葵依!!?」

やばいと思った瞬間、俺はその術から思い切り弾き飛ばされる。後ろにいた戒斗に支えられるも思いっきり体勢をを崩したので、何故か抱きかかえられるような格好になって・・だ。
 「ってぇ・・大丈夫か?」
 「ああ・・・すまない」
 「俺は平気だって!!まぁ・・・って言ってもお前が軽すぎんのもあるけどな」
にやりと笑って俺を見る戒斗。たまには役に立つだろ?そう問うてくるその姿に不覚と思って俺は苦笑気味に立ち上がった。・・・が、


 「―――――まだまだ君も若いですね」


突然頭上から芯の通った高めの声音が降り注いでくる。見上げればそこに、俺たちを見つめる深い深い紺碧があった。
 「・・・誰だ?」
 「そんなに警戒しないでください?君が『要』を呼んだから私が呼ばれたんですよ?」
 「へっ!?じゃあさっきの術成功したのか!!?」
 「いや・・この人は」
 「早とちりしないで下さい。私は『要』じゃないですよ、戒斗皇子?」
 「なんで俺の名前・・」
こんな変なところに呼び出すなんて。
絶句した戒斗をしり目にそう呟いたその人は、俺を穏やかに見つめた。
 「・・・まだまだ、君は未熟ですね。だから苦手な術を使ってしまったせいで本人を呼び出せなかった上、他の者を呼び寄せてしまっても何の違和感すら感じ取れなかった」
 「・・・ああ」
雨はいつの間にか止んでいた。でも「手がかりがないに等しいこの状況で私を呼び出せた事は誉めてあげますよ」とただ声音にも己の感情を見せずに言葉を紡ぐその人から俺は瞳を逸らす事が出来なかった。それはきっと、戒斗とて同じだったろう。目の前の人は何故だかとても・・・

 「葵依、君はまだ全てを知らない。鬼刻が何処から来て、何処へ帰っていくのか。そして・・・」

寂しいと感じさせるほどに 美しくて。
ここで一旦言葉がきられた。彼女は一つ息をつくと穏やかに俺たちに微笑いかけた。
 「・・・初代鬼刻・師走の者の廃墟へと行きなさい、神鬼刻主よ。そこで要は君たちを待っています」
 「・・・何故、俺たちにそれを教える?」
 「“何故”?愚問ですね、君はそれが知りたかったのでしょう?別に教えてほしくないのならそれでも構わな
かったんですけど」
敢えて言うなら気紛れですよ。そう何かを嘲るように笑って言うその人は、でも・・とちらりとどこかを見やって付け加えた。

 「君たちがそこに辿り着けるかは別ですけどね?」
 「どういう意味だよ!!」
 「そのままの意味ですよ。死んじゃっても文句は受け付けませんから」
 「ってめ・・!!」
 「・・・・一つ、聞いてもいいか・・?」

何処までも挑発的に言葉を綴る紺碧に、俺は戒斗を制して一つだけと言って口を開いた。


 「お前は・・・誰だ?」


―――――静寂。
束の間の沈黙がこの辺りだけを支配する。風に揺れた木々もこのときばかりは悟ったようにさわりとも音を立てずに。

 「・・・ふふっさすが・・かな」

その静寂を破ったのは目の前の人の楽しそうな声音だった。にぃっと妖艶に唇の端を歪め、さも可笑しそうにくすくすと笑う。豊富な胸に白い手を添え、一礼するような優雅な仕草で彼女は言った。

 「そうですね、じゃあせめて名乗っておきますよ。私の名は律。律ですよ、覚えておいてください」
 「・・律・・・」
 「助けるかどうかは別として何かあったら呼べばいい。でも・・」

あまりにも弱すぎると殺しちゃいますからね。そう言って俺を見やり律と名乗ったその人は姿を消した。

 「・・・なんだよあいつ・・。・・・・・葵依?」

戒斗が訝しげに俺を呼ぶ。・・・一瞬の事だった。有り得なかった。一瞬だけその瞳に過ぎった凄まじい殺気は俺だけに注がれていた。戒斗にはそんな殺気を漏らす事なく・・・俺だけに。
俺は初めて向けられたあそこまで凄まじい殺意に身体の自由を奪われて。
 「・・・・くくっ・・」
 「葵依?」
 「本当に・・・俺もまだまだ未熟者だな」
 「は?」
 「何でもない・・・戻るぞ」
もう夜が更けた。そう言って俺は桜仙の丘へ背を向け、静かに歩き出した。口元に浮かべた笑みはそのままにして。


 「本当に・・・問題は山済みだな・・」


『鬼刻』『摩綺羅』『彗』に『要』に『律』。まだまだこれは何ひとつとして解決しそうにない。
とりあえず今は目の前にある問題を少しずつ拾って解決していかなければならないだろう。
まだまだ道のりは長そうだと、俺はひっそりと溜息を吐いた・・・


あとがきという名の言い訳。
はい、とりあえずやっとこさ第二章の三話目です。少しは『彗』や『要』に近づけるかなぁと思われた矢先、またしても敵か味方か分からんお姉さんの登場です(笑)さて、このお姉さんは一体何者なんでしょうね?その正体も後々明かされるはずですのでそれまで楽しみにしていてくださいねvv(ぇ、出てくるの?/強打)
次回は要探しの旅を開始する・・筈です!!(ヲイ)それではまた・・