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<p>―十―</p> <p>まさか本当に 我が子と我が子同然の神官の戦いを見る日が来るなんて・・・思ってもいなかった。</p> <p> 「帝っここは危険です!!お下がりくださ・・・」<br>  「放せっ放さぬかっっ!!」</p> <p> 私はひたすら得物を捨て、殴りあう・・・というより殺し合うといったあの二人の状況を 誰よりもしっかり見ていなければならなかった。親として帝として・・・そして、あの日の十夜との約束を守る為に。</p> <p> 「帝っ!!!!」<br> 「黙れっ我が子らの命の危険だというのに 何故親がそれを黙っていられるか!!?」</p> <p> 親として言うなれば、摩綺羅なぞ構っていられない。何故、ずっと一緒に過ごしてきた仲の良いこの二人が 殺し合わねばならぬのか。私は大臣の悲鳴を聞かぬフリをし、少しの絶望を胸に 祈るようにしてその姿を見つめる・・・―――――</p> <br> <br> <p> 「はあああああああああっっ!!」<br>  「おおおおおおおおおおっっ!!」</p> <p> それは軽く重く、それでいて穏やかで激しい一撃だった。俺の顔を掠めた腕を、俺はそのまま引っ掴んで投げ飛ばす。けれど心を移さない海の色は 何ひとつ表情を変える事は無く。戒斗は両手をつき 身体を反転させて鋭い蹴りを繰り出してくる。・・・本当に 自身の意識までも奪われてしまったのか。</p> <p> 「どうした葵依 もう疲れてきたのかよっ!? 前よりも腕っ落ちたんじゃねぇか!!?」<br>  「・・阿呆な事を吐かすなバ戒斗。お前があんまりにも弱ぇから手加減してやってんだよ」</p> <p> 挑発。これも恐らく、戒斗自身の言葉ではないのだろう。ちらりと一瞬だけ視線を外せば 返ってくるあの気に食わない笑み。<br>  「・・・うぜぇ・・」<br> 殺りたい。今すぐ殺りたい。あの無駄に色気溢るる微笑を今すぐこの世から消し去りたい。絶えず攻撃を繰り出してくる戒斗に視線を戻し、俺は細く溜息を吐いた。―――――戒斗もまだまだ甘いな。周りの気配を探って、俺は唇の端を持ち上げる。<br>  「おい単細胞、」<br> 少しずつ・・・少しずつ、暖かな光が 希望の光が舞い降りてくる。俺は一気に幼馴染との距離を縮めて、その鳩尾に軽やかに拳を滑り込ませる。</p> <p> 「っがは・・!!」<br>  「・・・“時間切れ”だ」</p> <p> 倒れこむ幼馴染の身体を支え、俺は呼吸を整えて摩綺羅と呼ばれし青年を見据えた。ただ静かに 何も言葉を発する事は無く俺を楽しげに見つめるその様子に、俺はふと・・眉を顰めた。<br>  「・・・何が、可笑しい?」<br>  「いや・・君もまだまだ若いね・・」<br> こんなに分かりやすくやってあげたのに 全く気付かないなんて。そう微笑って降ろしていた左手を掲げる青年。よく見れば 禍々しい光を纏い、危険な気配を漂わせている・・・その陶磁器のような白い指先。</p> <p> 「・・・貴様・・一体何を」<br>  「全てが上手くいく筈がないって事、思い知らせてあげるよ」</p> <p>妖しい光を宿した瞳を悪戯っぽくこちらに向け それは何処からか舞い落ちてきた花弁を掴み、掠めるように口付けをおくる。途端に灰と化した薄紅をふわりとこちらに向かってくる希望の光へと遊んでいるかのように吹き飛ばし――――</p> <p><br>  「っまさか・・」<br>  「砕けて散れ。儚きその縁、今ここで散らすがいい」</p> <p><br> 薄紅が振りかかった途端にいくつもの塊となって国中に飛び散る・・・暖かな光たち。それを見て嘲るようにして笑う、鮮やか過ぎる真紅。<br>  「おやおや・・砕けちゃったねぇ?これ、どうするつもりなの神鬼刻主殿?」<br>  「っっ貴様・・・!!」<br> 隙だらけだったし、案外簡単だったなぁとせせら笑って天を仰ぐ青年に向かって、俺は戒斗を抱えながら左手に封珠を構える。「でも・・」とちらりと俺の後ろに視線をやるそいつを、俺は油断無く見つめた。</p> <p> 「・・・少し 失敗したかなぁ?」<br>  「・・・っ!!」</p> <p> 何がだとばかりに一瞬自らの背後を見やり―――――・・俺は思わず抱えていた筈の戒斗を落としそうになる。</p> <br> <p> 「・・・っう・・」</p> <br> <p>耳朶を触れる 微かな呻き声。散らばった 宵闇を映したかのような柔らかな黒髪、うっすらと開かれた瞼の間に覗く 天よりも深い青。「ここは・・?」とゆっくりと頭を抑えながら身を起こすその人は 何故だかとても不思議な格好をしていて。<br>  「 き、こ く ? 」<br>  「当たり前だよ、君が呼び出したんだから」<br> 呆れたように盛大に溜息を吐き 俺と戒斗、立ち上がったその人を見て「・・ほんと、嫌になるくらいそっくりだね・・」と意味の分からない言葉を発し 再びすっと殺意に満ち満ちた雰囲気を纏う摩綺羅。</p> <p> 「っ逃げろ!!」<br>  「え?」</p> <p>次の瞬間――――大きな力の圧力が 俺らを襲う。<br>  「きゃっ!」<br>  「 “封”っ!!」<br> 凄まじい力の摩擦。尋常でない殺気。咄嗟に封珠を放って俺は必死にそれらを押し返す。・・・・これだけの力、一体何処から出てくるのだろう?涼しい顔をして俺を見つめてくるその余裕の態度に、俺は軽く舌打ちをする。・・・さすがに一人で二人を守りながら戦うのは辛い。太陽はもう傾きつつあった。</p> <br> <p>  「っうわああああああああああああああああああああっっ!!!!」</p> <br> <p>悲鳴が上がる。力の衝突の余波を食らった兵士たちが 次々と血を流しながら倒れていく。・・・血の海が、広がる。<br>  「・・・・・ゃ・・だ・・・、」<br> 座り込んだ希望の一つが 頭を抱えるようにして座り込む。咄嗟に突き飛ばした戒斗を抱きしめ、尋常でない様子で 何かに怯えるような震えを抑えようとするかのように呟いた。<br>  「お、い・・?」<br>  「嫌・・・・いや、要・・かなめ・・・・助けて・・」<br> 徐々に静まっていく力と力の衝突。入れ代わりに増幅していく もう一つの力。</p> <p> 「おいっお前・・」<br> 「いや、だよ・・・嫌・・だ・・・来ないで・・・・嫌・・っ夏穂姉さん・・っっ!!」</p> <p> 太陽が、沈む。風が吹き、その漆黒の髪が美しき白銀に犯されていく。煌くその蒼の双眸は哀しみと狂気を湛え、鋭利な光を灯し。</p> <p> 「―――――・・ふふっ目醒めたみたいだね」<br>  「・・・目醒め、た・・?」</p> <p>響き渡る艶やかな声音。幼馴染を抱くその人の前には 扱う事が出来るか知れない大き過ぎるほどの長刀。それを迷うことなく手にとり、彼は真紅へと狙いをぴたりと定めた。</p> <br> <p> 「―――――去れ」</p> <br> <p>先程とはうって変わって 全く震えもしない硬い声音。迷いの無い殺意に、俺は呆然とその様を見つめた。<br> ・・・くつくつと聞こえる 笑い声。</p> <p>  「っふ・・あははっそっか!俺を殺すんだ!?いいねっ君、最高!!!!」</p> <p> 鳴り響く哄笑。止まらない力の増幅。俺と戒斗を庇い、白銀の空は 微かに瞳を細めて摩綺羅を見つめる。<br>  「いいよ、今日は君に免じて退散する。・・・でもほんと君・・」<br>  「黙れ。」<br>  「つれないねぇ? まったまにはそんなのも・・悪くない」<br> 今回は仕方ないとばかりに苦笑を漏らし、それでは皆さんご機嫌麗しゅうと、一筋の風が錆びた鉄の匂いを運んでくる。その香りに眉を顰めた瞬間、鮮烈な色彩を放っていた青年は 元から何も無かったかのように唐突に姿を消した。<br>  「・・・消えたか・・」<br>  「・・・。」<br> 辺りに立ち込める不快な匂い。それと同時に 何かが崩れ落ちる音が聞こえる。はっと気が付くと 長刀を床に刺し、幼馴染を腕に抱えて膝をつく・・・希望の光。<br>  「・・平気か?」<br>  「・・・・っ・・」<br> 呼吸が、荒い。滴る汗を拭いもせず、胸を押さえて戒斗を抱きしめるその人は 必死に顔を上げて俺を見つめる。<br>  「・・・・め・・」<br>  「は?」<br>  「・・っ要は・・・」<br> 何処。最後にそうとだけ囁いて、彼はそのまま糸が切れたかのように崩れ落ちた。<br>  「おいっしっかりしろ!!」<br>  「っ薬師を・・薬師を呼べ!!」<br>  「早く鬼刻を・・皇子と鬼刻を運べっ神社へだ!急げ!!!!」<br> 鬼刻の一人が倒れた事により、摩綺羅によってもたらされた静寂は 一気にざわめきへと姿を変える。慌しく周囲が動き出す中、俺は一人 呆然とその様子を見つめる。運ばれていく白銀を見、自分が成し遂げた事の重大さの実感が伴わず 思わず溜息を吐いた。</p> <p><br>  「・・・こら葵依、溜息は吐くものではないぞ・・?」</p> <p><br> ふいに落ちてきた影に 俺は静かに後ろを振り返る。そして真っ先に目に映る・・柔らかな笑顔。<br>  「――――帝・・?」<br> 何故ここに。真っ先に言わなければいけない言葉を 俺は何故か・・・一言も言えなかった。それでも何か呟こうとし口を開いたが、その瞬間――――身体が傾ぐ。</p> <p> 「葵依っっ!!!!」</p> <p> 帝の声が、聞こえる。力の入らない足に特に何をするわけでもなく、俺はそのまま重力に逆らう事なく倒れた。・・・が、いつまでたっても地面に衝突したときの衝動が来ない。</p> <p> 「・・葵依、大丈夫か?」</p> <p> 耳に馴染む、聞き覚えのある声。そして自分の身体を支える温かな手がある事に気づき、ゆるりと閉じた瞼を持ち上げた。<br> 「・・・・帝・・?」<br>  「儀式の負担が 想像以上に大きかったのだろう。・・・よく、頑張ったな」<br> 今は休むといい。そう言って優しく俺の背中を撫でていくその人は 柔らかく俺を包み込んで支えてくれる。・・・放れなければ。頭では分かってる。・・・けれど、<br>  「も、申し訳ありません・・」<br>  「気にするな、そなたの身体のほうが大事だ」<br> 情けない事に 今の俺は、鬼刻の儀式に摩綺羅や戒斗との応戦が続き 一人で立ち上がれるほどの力さえ有してはいなかった。仕方なく、俺は支えてくれるその人にそのまま身体を預ける。<br>  「・・・帝は、義父上と・・似ておりますね、」<br>  「十夜と?」<br>  「はい、とても・・」<br> 温かいです。そう微笑って俺は そのまま意識を手放した。がくりと頭を垂れたその身体を支え、男は一人 唇の端に苦笑を浮かべる。</p> <p> 「十夜と似ている、か・・」</p> <p>そう言うそなたが一番似ているというのに。<br> そう呟いたその人の表情が 今までに三人しか見た事のない 我が子を慈しむ柔らかな微笑をその顔に湛えていた事に、誰一人として 気付く者はいなかった・・・―――――――</p> <br> <p>あとがきという名の言い訳。</p> <p> ・・・はい、やっと十が終わって同時に鬼刻召喚の儀式も終了いたしましたvvでもだらだら長いうえ見事に鬼刻さん全員ばらばらになってしまいましたねぇ・・・一人だけ残ったのはいいけど 力暴走させちゃって倒れちゃうし(苦笑)波乱万丈な感じが否めませんが 鬼刻召喚編終了という事で、第一章終了です。次からは第二章に移っていきます。さて、葵依たちは無事 鬼刻全員探し出す事が出来るのでしょうか・・?</p> <p><br></p>
<p>―十―</p> <p> まさか本当に我が子と我が子同然の神官の戦いを見る日が来るなんて・・・思ってもいなかった。</p> <p> 「帝っここは危険です!!お下がりくださ・・・」<br>  「放せっ放さぬかっっ!!」</p> <p> 私はひたすら得物を捨て、殴りあう・・・というより殺し合うといったあの二人の状況を誰よりもしっかり見ていなければならなかった。親として帝として・・・そして、あの日の十夜との約束を守る為に。</p> <p> 「帝っ!!!!」<br>  「黙れっ我が子らの命の危険だというのに何故親がそれを黙っていられるか!!?」</p> <p> 親として言うなれば、摩綺羅なぞ構っていられない。何故、ずっと一緒に過ごしてきた仲の良いこの二人が殺し合わねばならぬのか。私は大臣の悲鳴を聞かぬフリをし、少しの絶望を胸に祈るようにしてその姿を見つめる・・・―――――</p> <br> <br> <p> 「はあああああああああっっ!!」<br>  「おおおおおおおおおおっっ!!」</p> <p> それは軽く重く、それでいて穏やかで激しい一撃だった。俺の顔を掠めた腕を、俺はそのまま引っ掴んで投げ飛ばす。けれど心を移さない海の色は何ひとつ表情を変える事は無く。戒斗は両手をつき身体を反転させて鋭い蹴りを繰り出してくる。・・・本当に自身の意識までも奪われてしまったのか。</p> <p> 「どうした葵依 もう疲れてきたのかよっ!?前よりも腕っ落ちたんじゃねぇか!!?」<br>  「・・阿呆な事を吐かすなバ戒斗。お前があんまりにも弱ぇから手加減してやってんだよ」</p> <p> 挑発。これも恐らく、戒斗自身の言葉ではないのだろう。ちらりと一瞬だけ視線を外せば返ってくるあの気に食わない笑み。<br>  「・・・うぜぇ・・」<br> 殺りたい。今すぐ殺りたい。あの無駄に色気溢るる微笑を今すぐこの世から消し去りたい。絶えず攻撃を繰り出してくる戒斗に視線を戻し、俺は細く溜息を吐いた。―――――戒斗もまだまだ甘いな。周りの気配を探って、俺は唇の端を持ち上げる。<br>  「おい単細胞、」<br> 少しずつ・・・少しずつ、暖かな光が希望の光が舞い降りてくる。俺は一気に幼馴染との距離を縮めて、その鳩尾に軽やかに拳を滑り込ませる。</p> <p> 「っがは・・!!」<br>  「・・・“時間切れ”だ」</p> <p> 倒れこむ幼馴染の身体を支え、俺は呼吸を整えて摩綺羅と呼ばれし青年を見据えた。ただ静かに何も言葉を発する事は無く俺を楽しげに見つめるその様子に、俺はふと・・眉を顰めた。<br>  「・・・何が、可笑しい?」<br>  「いや・・君もまだまだ若いね・・」<br> こんなに分かりやすくやってあげたのに全く気付かないなんて。そう微笑って降ろしていた左手を掲げる青年。よく見れば禍々しい光を纏い、危険な気配を漂わせている・・・その陶磁器のような白い指先。</p> <p> 「・・・貴様・・一体何を」<br>  「全てが上手くいく筈がないって事、思い知らせてあげるよ」</p> <p> 妖しい光を宿した瞳を悪戯っぽくこちらに向けそれは何処からか舞い落ちてきた花弁を掴み、掠めるように口付けをおくる。途端に灰と化した薄紅をふわりとこちらに向かってくる希望の光へと遊んでいるかのように吹き飛ばし――――</p> <p><br>  「っまさか・・」<br>  「砕けて散れ。儚きその縁、今ここで散らすがいい」</p> <p><br> 薄紅が振りかかった途端にいくつもの塊となって国中に飛び散る・・・暖かな光たち。それを見て嘲るようにして笑う、鮮やか過ぎる真紅。<br>  「おやおや・・砕けちゃったねぇ?これ、どうするつもりなの神鬼刻主殿?」<br>  「っっ貴様・・・!!」<br> 隙だらけだったし、案外簡単だったなぁとせせら笑って天を仰ぐ青年に向かって、俺は戒斗を抱えながら左手に封珠を構える。「でも・・」とちらりと俺の後ろに視線をやるそいつを、俺は油断無く見つめた。</p> <p> 「・・・少し 失敗したかなぁ?」<br>  「・・・っ!!」</p> <p> 何がだとばかりに一瞬自らの背後を見やり―――――・・俺は思わず抱えていた筈の戒斗を落としそうになる。</p> <br> <p> 「・・・っう・・」</p> <br> <p>耳朶を触れる 微かな呻き声。散らばった宵闇を映したかのような柔らかな黒髪、うっすらと開かれた瞼の間に覗く天よりも深い青。「ここは・・?」とゆっくりと頭を抑えながら身を起こすその人は何故だかとても不思議な格好をしていて。<br>  「 き、こ く ? 」<br>  「当たり前だよ、君が呼び出したんだから」<br> 呆れたように盛大に溜息を吐き俺と戒斗、立ち上がったその人を見て「・・ほんと、嫌になるくらいそっくりだね・・」と意味の分からない言葉を発し再びすっと殺意に満ち満ちた雰囲気を纏う摩綺羅。</p> <p> 「っ逃げろ!!」<br>  「え?」</p> <p>次の瞬間――――大きな力の圧力が 俺らを襲う。<br>  「きゃっ!」<br>  「 “封”っ!!」<br> 凄まじい力の摩擦。尋常でない殺気。咄嗟に封珠を放って俺は必死にそれらを押し返す。・・・・これだけの力、一体何処から出てくるのだろう?涼しい顔をして俺を見つめてくるその余裕の態度に、俺は軽く舌打ちをする。・・・さすがに一人で二人を守りながら戦うのは辛い。太陽はもう傾きつつあった。</p> <br> <p>  「っうわああああああああああああああああああああっっ!!!!」</p> <br> <p> 悲鳴が上がる。力の衝突の余波を食らった兵士たちが次々と血を流しながら倒れていく。・・・血の海が、広がる。<br>  「・・・・・ゃ・・だ・・・、」<br> 座り込んだ希望の一つが頭を抱えるようにして座り込む。咄嗟に突き飛ばした戒斗を抱きしめ、尋常でない様子で何かに怯えるような震えを抑えようとするかのように呟いた。<br>  「お、い・・?」<br>  「嫌・・・・いや、要・・かなめ・・・・助けて・・」<br> 徐々に静まっていく力と力の衝突。入れ代わりに増幅していくもう一つの力。</p> <p> 「おいっお前・・」<br> 「いや、だよ・・・嫌・・だ・・・来ないで・・・・嫌・・っ夏穂姉さん・・っっ!!」</p> <p> 太陽が、沈む。風が吹き、その漆黒の髪が美しき白銀に犯されていく。煌くその蒼の双眸は哀しみと狂気を湛え、鋭利な光を灯し。</p> <p> 「―――――・・ふふっ目醒めたみたいだね」<br>  「・・・目醒め、た・・?」</p> <p> 響き渡る艶やかな声音。幼馴染を抱くその人の前には扱う事が出来るか知れない大き過ぎるほどの長刀。それを迷うことなく手にとり、彼は真紅へと狙いをぴたりと定めた。</p> <br> <p> 「―――――去れ」</p> <br> <p> 先程とはうって変わって全く震えもしない硬い声音。迷いの無い殺意に、俺は呆然とその様を見つめた。<br> ・・・くつくつと聞こえる 笑い声。</p> <p>  「っふ・・あははっそっか!俺を殺すんだ!?いいねっ君、最高!!!!」</p> <p> 鳴り響く哄笑。止まらない力の増幅。俺と戒斗を庇い、白銀の空は微かに瞳を細めて摩綺羅を見つめる。<br>  「いいよ、今日は君に免じて退散する。・・・でもほんと君・・」<br>  「黙れ。」<br>  「つれないねぇ?まったまにはそんなのも・・悪くない」<br> 今回は仕方ないとばかりに苦笑を漏らし、それでは皆さんご機嫌麗しゅうと、一筋の風が錆びた鉄の匂いを運んでくる。その香りに眉を顰めた瞬間、鮮烈な色彩を放っていた青年は元から何も無かったかのように唐突に姿を消した。<br>  「・・・消えたか・・」<br>  「・・・。」<br> 辺りに立ち込める不快な匂い。それと同時に何かが崩れ落ちる音が聞こえる。はっと気が付くと長刀を床に刺し、幼馴染を腕に抱えて膝をつく・・・希望の光。<br>  「・・平気か?」<br>  「・・・・っ・・」<br> 呼吸が、荒い。滴る汗を拭いもせず、胸を押さえて戒斗を抱きしめるその人は必死に顔を上げて俺を見つめる。<br>  「・・・・め・・」<br>  「は?」<br>  「・・っ要は・・・」<br> 何処。最後にそうとだけ囁いて、彼はそのまま糸が切れたかのように崩れ落ちた。<br>  「おいっしっかりしろ!!」<br>  「っ薬師を・・薬師を呼べ!!」<br>  「早く鬼刻を・・皇子と鬼刻を運べっ神社へだ!急げ!!!!」<br> 鬼刻の一人が倒れた事により、摩綺羅によってもたらされた静寂は一気にざわめきへと姿を変える。慌しく周囲が動き出す中、俺は一人呆然とその様子を見つめる。運ばれていく白銀を見、自分が成し遂げた事の重大さの実感が伴わず思わず溜息を吐いた。</p> <p><br>  「・・・こら葵依、溜息は吐くものではないぞ・・?」</p> <p><br> ふいに落ちてきた影に俺は静かに後ろを振り返る。そして真っ先に目に映る・・柔らかな笑顔。<br>  「――――帝・・?」<br> 何故ここに。真っ先に言わなければいけない言葉を俺は何故か・・・一言も言えなかった。それでも何か呟こうとし口を開いたが、その瞬間――――身体が傾ぐ。</p> <p> 「葵依っっ!!!!」</p> <p> 帝の声が、聞こえる。力の入らない足に特に何をするわけでもなく、俺はそのまま重力に逆らう事なく倒れた。・・・が、いつまでたっても地面に衝突したときの衝動が来ない。</p> <p> 「・・葵依、大丈夫か?」</p> <p> 耳に馴染む、聞き覚えのある声。そして自分の身体を支える温かな手がある事に気づき、ゆるりと閉じた瞼を持ち上げた。<br> 「・・・・帝・・?」<br>  「儀式の負担が想像以上に大きかったのだろう。・・・よく、頑張ったな」<br> 今は休むといい。そう言って優しく俺の背中を撫でていくその人は柔らかく俺を包み込んで支えてくれる。・・・放れなければ。頭では分かってる。・・・けれど、<br>  「も、申し訳ありません・・」<br>  「気にするな、そなたの身体のほうが大事だ」<br> 情けない事に今の俺は、鬼刻の儀式に摩綺羅や戒斗との応戦が続き一人で立ち上がれるほどの力さえ有してはいなかった。仕方なく、俺は支えてくれるその人にそのまま身体を預ける。<br>  「・・・帝は、義父上と・・似ておりますね、」<br>  「十夜と?」<br>  「はい、とても・・」<br> 温かいです。そう微笑って俺はそのまま意識を手放した。がくりと頭を垂れたその身体を支え、男は一人唇の端に苦笑を浮かべる。</p> <p> 「十夜と似ている、か・・」</p> <p>そう言うそなたが一番似ているというのに。<br> そう呟いたその人の表情が 今までに三人しか見た事のない我が子を慈しむ柔らかな微笑をその顔に湛えていた事に、誰一人として気付く者はいなかった・・・―――――――</p> <br> <p>あとがきという名の言い訳。</p> <p> ・・・はい、やっと十が終わって同時に鬼刻召喚の儀式も終了いたしましたvvでもだらだら長いうえ見事に鬼刻さん全員ばらばらになってしまいましたねぇ・・・一人だけ残ったのはいいけど力暴走させちゃって倒れちゃうし(苦笑)波乱万丈な感じが否めませんが鬼刻召喚編終了という事で、第一章終了です。次からは第二章に移っていきます。さて、葵依たちは無事鬼刻全員探し出す事が出来るのでしょうか・・?</p> <p><br></p>

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