「二」(2006/09/24 (日) 15:35:51) の最新版変更点
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<p>―二―</p>
<p> 『なぁ、―――。お前はどう思う?』<br>
美しく微笑って、私を振り返る･･･人。<br>
『今ここで散りゆく桜は･･･何を想って今、ここに散りゆくのか･･･』<br>
そう言って楽しげに微笑んで、桜の花びらにじゃれていたのは･･･誰だったろう?いつの事かも判らない。忘れてはいけないと･･･心の何処かで声がする。思い出せという声がする。･･････嫌だ、まだ･･思い出したくない。今は、まだ。</p>
<p><br>
･･･あぁ、なんて――――――</p>
<p><br>
「･･･戒斗」<br>
美しい桜並木の下、俺は不意に立ち止まって幼馴染の背中に声をかける。色鮮やかな深紅と淡い薄紅が、はらりと零れた。<br>
「ん、どうした?」<br>
振り返る、柔らかな微笑。いつもなら安心できたであろう、この笑顔。何故だか今日は、この笑顔に胸騒ぎを覚えてならない。<br>
「･･････いや、」<br>
俺は何を言おうとしたのだろう?何と言ったら良いのかが分からずに俯く。<br>
「っつ･･･!!」</p>
<p><br>
ずきり</p>
<p><br>
突如、右目に鋭い痛みが走った。</p>
<p> 「痛むのか!!?」<br>
思わず顔を顰めた俺の前髪をかきあげ、戒斗は心配そうに顔を歪める。その海色の瞳に映るのは、露になった右目にはしる―――三つの紅い傷跡。<br>
「･･･放せ、戒斗」<br>
俺は静かにただ一言を紡ぐ。<br>
「でもあお･･･」<br>
「大丈夫だ」<br>
バシッと戒斗の手を払いのけ、俺は事もなさげに言い放つ。―――そうしなければならないと、知っているから。この傷跡は、単に刀でつけられたような代物ではない。</p>
<p> 「･･･大丈夫、だ」</p>
<p>
自分自身に言い聞かせるかのように、力強く言葉を紡ぐ。</p>
<p> 「･･･････そう か」</p>
<p>
大きな湖を映し出したかのような双眸が、不安げに揺れる。それを見るのを避けるようにして瞳を伏せると、目の前にふと影が落ちてきた。<br>
「ほらっ行くぞ!!」<br>
「っっ!!?」<br>
急に腕を引かれ前のめりになりながらも、なんとか小走りについていく。ぎゅっと握られた右手に、優しいぬくもり。<br>
「･･･おい?」<br>
約頭一つ分くらい背の高い幼馴染を見上げると、朱に染まった頬が目につく。<br>
「――――――突然、俺の前からいなくなったりするなよ」<br>
ふいにぽつりと、小さな声で呟かれた･･･ささやかな言葉。不安そうな響きを持った声音に、俺は思わず目を丸くする。<br>
「は?」<br>
「だーかーらー、何でも一人で解決しようとして俺の前から消えんなっつったの!!」<br>
心配するだろー?と苦笑しながら答える戒斗に、再び拭い去ることの出来ない胸騒ぎを覚える。･･･俺は、一体何を不安がっている･･･?<br>
「･･････そうか」<br>
「葵依?」<br>
いつもより沈黙が長かったのに対し、戒斗は再び怪訝そうに俺を見つめる。その様子があまりにもおかしくて、俺はつい吹きだしてしまう。<br>
「おい?」<br>
「･･･いや、お前に心配されるなんて俺も修行が足りないな」<br>
「んなっっ!!」<br>
さり気にそれっ俺に対して失礼だぞ!!なんて聞こえるがそれはこの際気にしない。ただただ不敵な笑顔を浮かべる。</p>
<p> （どうせ俺には関係ないし）</p>
<p>
まぁ落ち込む戒斗が面白いからそのままにしておくとして、俺は徐に戒斗の手をとり再び歩き出した。<br>
「･･･葵依??」<br>
「･･･････たまには、いいんじゃないか?昔もよくこうやって手ぇ繋いだだろ?」<br>
戒斗の間抜け面に苦笑しつつ、俺はそのまま前へと進む。まぁ、無理もない。今まで一度も、俺から戒斗と手を繋ぐということがなかったのだから。･･･小さい頃から―――ずっと。</p>
<p>
「とりあえず、先を急ぐぞ?帝がお待ちしているからな･･･」<br>
「分かってるって。んじゃ さっさと行きますか」</p>
<p>
墜ちた薄紅と深紅の欠片を踏みつけ、俺たちは王宮へと急ぐ。</p>
<p><br>
（――――･･この勅命、絶対何かある）</p>
<p><br>
俺は走りながらそっと、王宮を見つめる瞳を細めた････。</p>
<p> </p>
<br>
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