Royal Guard
第5話 美しい星
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匿名ユーザー
悪い夢を見ていた。そこは地球の果て。
と、まぁこんな感じでこのなにもな~い島につれてこられたわけである。
「んで、どうする?」
隣にはちゃっかりりーやがいた。
いくらエルでもやっぱり一人は心細いもん。
さっき知り合ったばかりとはいえ、他の人よりかはだんぜん親しいし。
そしてたぶん、りーやは『いい人』で終わるタイプとみた!
見た目怪しさ大爆発だけど。
白尽くめでサングラスって人としてどうなのよ。
「どーするもなにもいかなきゃいけなさそうだし」
はぁ。仕方ない。不本意ではありますが、まっくら森に突入しますか。
「んじゃ、ビギナーゾーンに向かって、れっつらごー!」
「おーー」
説明しよう!
ビギナーゾーンとは、カバリア島で一番最初に行くMAPである!
どうやらたまたま流れ着いたこの島がそうらしく、森の真ん中辺りにトレーニングガーデンと呼ばれる町があるらしい。
とりあえずそこに行って、チュートリアルを受けて、本島に行けということみたいだ。
いきなり出てきた社員の中の人がそのようなことを言っていたけど、ほとんどの話を聞き流してたからよくわからない。
つまり。説明できるほど理解していなんだよ!!
この島に着いたのだって、すんごくうそ臭い。
たまたまとか言ってるけど、ぜったいシナリオ通りでしょ。
できすぎだって。死海文書とかそういうのありそう。
それで『さうんどおんりぃ』なおっさんたちがあーだこーだ言ってるに違いない。
そうに違いない。そう決めた。今決めた。
あのまま豪華客船に乗っていたならテレビがあったからアスラン君が見られたのに…ゆるせない。
…っく……ひっ……。
ん?
なんか聞こえたような……?
「ねぇねぇりーや」
「なにかな」
「なんか聞こえない?」
いったん、立ち止まって耳を澄ませる。
…ひっく……ひっく。
「聞こえた!」
りーやにも聞こえたらしい。
「泣いてる……?」
「多分……」
でも。どこから聞こえてくるのかいまいちわかんない。
「こっちだ!」
そう言うとりーやは走り出していた。
もちろん。1.7倍の速度だ。
「ちょっ、りーや速いってば!」
「誰が候だ」
言ってない。言ってない。
りーやについて行った先には、樹齢200年はいってそうなカシの木がそびえたっていた。
『ひっく…うっく……』
そして。泣き声はその木から聞こえてきた。
あ、やっぱりしゃべるのね…このカシの木。
『うわぁぁぁん』
でも。カシの木っておじさんだったよね?
泣き声がすっごいかわいらしいんですけど。
ほちゃっぽい感じ?
「……エル」
「ん?」
隣まで行くと、りーやはエルの顔をみつめてきた。
えっ……。まさか……こんなところで!?
「オレじゃどうにもなりそうにないからエルがいってくれ」
「ほへ?」
りーやはカシの木おじさんを指差した。
あそこに行けと?
つまり。パーペキに勘違いをしていたわけだ。この私は。
普通あの状態ってキスシーンじゃん!
見つめあう男と女!
そんな、わたしたちまだ●学生だし…いやいやそんなのは関係なry……って展開になるはずじゃん!
まぁいいけど。
とりあえずカシの木おじさんに近づいてみる。
遠くからだとよくわからなかったけど、どうやら木のあっち側に誰かいるみたいだった。
なるほど。泣いてるのはカシの木おじさんじゃなくて、あの子みたいだ。
木のところまで行くと。エルはとりあえず木に手を添えてみた。
まぁ木のそばで女の子がないていたら言う言葉はひとつだよね。
「おチビちゃん。泣いた顔より笑った顔のほうがかわいいよ」
そう。もちろん、丘の上の王子さま!!
女の子が声に気づいてびくって震えて、ギギギとさび付いたネジのようにゆっくりとこっちをむいた。
…か、かわいい。
薄い水色の長い髪がさらさらと風に流されゆらゆらと揺れている。
ちなみに色コードでいうと#66CCFF。
そして、黒いワンピースがよく似合ってる。
お持ち帰りしてもいいですか?
好みです。好みのタイプです!!!11
「…ど、どうしたの? こんなところで?」
ミニマム理性を保って視線を外し、なんとかそう言うことができた。
あ、あぶなかった…あと一秒多く見つめていたら……。
「うわぁぁぁぁん!」
って!
抱きつかれてる?!
女の子は一層大きな声で泣きはじめてしまった。
とりあえず、泣き止むまで待とう。
う~ん、役得。役得。
どさくさにまぎれて女の子を抱きしめてたのはここだけの話。
「…兄とはぐれてしまったのです」
女の子はおちつくと、そう話を切り出した。
内容はプライバシー保護のため省略します。
べ、別に説明がめんどくさいわけじゃないんだからね!!
「それじゃあさ、私達と一緒に行かない?」
「ほへ?」
女の子はきょとんと右斜め75度の角度でみつめてきた。
すでに悩殺スキルを取得している?!
お、おちつけ…落ち着け、ガズエル。
…おk。日本語でおk。
魔法の言葉を使うと、すっと頭がクールダウンしてきた。
「私もね、姉とはぐれちゃったの。
だから、お兄ちゃんを探すのと同時に、うちの姉も探せば一石二鳥だと思わない?」
女の子はうつむいてなにやら考えこみ、うなっている。
ちょっと待ってると、エルのほうに向きなおった。
「…それでは、よろしくお願いします」
ぺこりと頭をさげる女の子。
これってつまり……OKってことだよね!
うしっ。フラグ一個ゲット!!
「よろしくね! えっと~~~……」
そういえばまだ名前をなのっていなかった。
「あ、申し遅れました。わたし、泪月(おぼろづき)と申します」
ご丁寧にもう一度ぺこりとお辞儀をしてくれた。
「私はガズエル! あっちのあやしいのがりーやだよ!」
「あやしいって言うな」
りーやってば。ツッコミが板についてきた感じだね。
あの場所から適当に30分くらい歩くと、でっかい門にたどり着いた。
門って言っても、西洋風のじゃなくて日本風の平安京とかにありそうなやつ。
むしろ、城門に近い。大きさにして、ダンバインくらい。
ご丁寧に壁でぐるりとかこっていて中がまったく見えなくなっている。
「ビギナーゾーンの入り口に大きい門があるといっていましたが、これのことでしょうか?」
おぼちゃんが隣でぼそっと言った。
「なんか書いてあるな」
りーやが言うように、門の脇に看板が刺さっていた。
『この門をくぐる者、一切の理性を捨てよ』
お前は何を言っているんだ。
といってあげたくなった。
あえてスルーしてたけど……。
「もしかして、これをつけろってこと?」
考えたくないけど…そういうことだよね。多分……。
全員の視線が一点に集中する。
門の左側の扉に耳、右側の扉にしっぽが入った籠がぶらさがっていた。
普通、あからさまにこんなところにおかないもんね。
…何を考えてるんでしょうか。この運営陣は。
「このままでは開かないのでしょうか」
おぼちゃんがため息をつきながらいった。
「…それで変なトラップ発動したらヤだよね」
「だなえ」
籠のなかには、一種類だけじゃなくて何種類か―――うさぎ、牛、羊、ドラゴン、狐、狸、猫、獅子と八種類あった。
「以外にかわいいですね」
といって、おぼちゃんはおもむろに羊の耳…っていうか角をつかんだ。
私も羊を手にとって、つけてみた。
「エルさん。にあってますよ」
にっこりと微笑むおぼちゃん。
羊の角ときれいな青い髪がすごくマッチしてる。
うっ…は、反則だ……。
「おぼちゃんもかわいいよ」
おぼちゃんに負けじと極上の微笑をかえしてあげると、あうあうと顔を真っ赤にしてしまった。
なんてやりとりをしていると、りーやが意を決したらしく、ごそごそとウゴメイテイタ。
……アレハナンダ。
アノ、ヘンナブッタイハナンダ。
「ど、どうかな……?」
ゆっくりとこちらを向き…なぜそこで顔を赤らめるううううぅぅぅぅぅうううう!!
「GYAAAAAAAA!!」
あまりの似合わなさに叫んでしまった。
白い靴!
白いズボン!
白い服!
サングラス!
白い帽子!!
極めつけは…牛の角!!!!
「あ、あはははは」
おぼちゃんまで乾いた笑いをしている始末。
「だ、だめか……」
私たちのリアクションがショックだったらしく、りーやはうなだれてしまった。
「だ、ダメっていうか牛って……ねぇ?」
隣のおぼちゃんに同意を求めると、うんうんとうなずいてくれた。
「イメージとしては、二刀流で二倍の高さで三倍の回転で特攻されると折れたり…」
「青銅相手に手は使わないとかいいながら、小宇宙が一時的にあがっただけでうろたえてる隙に手刀で叩き折られたりするイメージしかないよね」
と、アニメでよくみられる仕分け台詞をしてあげると、その場にorzしてしまった。
あは、いじめすぎた…?
「くそぅううううう! 他のだ! 他のをつけてやるっ!!」
そう言って、りーやは角を外そうと手をのばす。
ぐいぐい。
かくんかくん。
ぐいぐい。
かくんかくん。
りーやがひっぱる方向に、りーやの頭が揺れている。
……角ごと。
これ、なんて精神的ブラクラ?
「なにしてんの?」
「…………とれない」
絶望に満たされた声がした。
「は?」
ちょっとためしにりーやの角をひっぱってみた。
「いたっ!」
ずるっ。
布布布布布………………。
「いたたたたた!」
5メートルくらいひきずっても取れないので、ぱっと手をはなした。
ばたん。
あらら。りーやったら地面とちゅうしちゃった。
「これはダメかもわからんね」
「だったら、すぐ手を離してくれ……」
つっぷしたままりーやがつぶやいた。
「エルさん、私もこれ、とれないですよ」
おぼちゃんも自分の角を取ろうとしていた。
「うそん」
ためしに軽くひっぱってみる。
ぐい。
かくん。
慣性の法則でひっぱった方向に首が倒れた。
「あ、ほんとだ」
これって呪われたアイテムでしたか。
「まぁ、教会行けば大丈夫ない?」
「そうですね」
「時計塔までこの格好か……」
「それ、協会」
協会と教会は違うのだがそれはまた別の話。
「とりあえず、入りましょう」
ステキにおぼちゃんが流してくれた。
「そうだね」
エルが開けようとしたら、よこから太い腕がのびてきた。
りーやだ。
なるほど。レディファーストっていうことか。
りーやにしては気が利くね。
と感心してると、
「あれ? 開かないぞ」
門と格闘し始めた。
押したり引いたり、横にスライドさせようとしたりしてもビクともしない。
「なんで?」
私にきかれても……。
こういう場合って、どっかにスイッチとかあったり、ボスが出てきて鍵をくれたり……。
ん? 鍵?
「鍵って開いてる?」
さっそく門と格闘しているりーやにきいてみた。
すると、りーやは一時休戦して門の観察を始めた。
「ふむ…………鍵穴っぽいのはないよ」
むぅ、外れか。
「あ」
おぼちゃんが声をあげた。
「なんか気づいたの?」
「気づいたというか…しっぽ、忘れていませんか?」
『しっぽ?』
私とりーやは同時に右の扉を見た。
なるほど。そういえば耳(角)しかつけてなかった気が……。
「この上、オレにしっぽをつけろというのか……」
りーやの声のトーンがさらに下がった。
さっき笑いすぎたのが軽くトラウマになったっぽい。
「あはは。もうここまできたら同じだって」
牛のしっぽをつかんで、りーやにつけてあげた。
「ほい。これで開かなかったら笑ってあげゆ」
「らわあああああああん!!」
叫んでりーやは門に特攻して、そのまますり抜けてしまった。
……は?
「いま……すりぬけた?」
「…みたい、ですね……」
おぼちゃんと顔を見合わせていると、門のあっち側から声がした。
「エルー。なんかここ、一方通行みたいでそっちに戻れないんだけど」
説明台詞をありがとう。
「らじゃ」
っていうか、どういうトリックだと耳としっぽをつけると通り抜けられるんだろう。
しかも一方通行って……。
「エルさん、あまり深く考えるのはやめましょう……」
おぼちゃんも疲れた感じでそう言った。
「だね…とっとと中行こうか」
「ですね」
とりあえず、奇をてらったことはしないで、普通に羊のしっぽをつけて、私とおぼちゃんは中に入っていった。
門の中は、よくわからない空間が広がっていた。
森のど真ん中にあるくせに、なぜか船があったり、ピラミッドみたいな建物があったり、氷でできた家まであったり…ううぅ、頭がおかしくなりそうです。
もうこれはこういうもんなんだとあきらめたほうがいいかもしんない……。
「すごいですね……」
おぼちゃんもここの様子に圧倒されているみたいだ。
「だなえ」
りーやも観光客よろしくキョロキョロとあたりを見回している。
あんまりそわそわしないでー。あなたはいつでもキョロキョロー。
とか聞こえてくるくるくらいキョロキョロしている。
そうしていると、オレンジ色の服をきた金髪のおねーちゃんが近寄ってきた。
「こんにちは~。カバリア島へようこそ。私はミラボー・ウォティ。TBNアナウンサーです」
「はぁ」
なんか見た目どおりすんごくテンション高い。
「ここはカバリア島で冒険するにあたり、すごく役立つさまざまな情報をお知らせする場所ですよ!
カバリア島で生きるための血となり肉となる有意義な情報!!
もちろん、聞きますよね?」
むしろ、聞け。位の勢いで言ってくる。
なんかこういうおねーちゃんはちょっと苦手かも……。
「知ってるよ」
「ちょwwwエルwwwww」
なんか話が長そうなんでそう言って話を切ろうとすると、りーやがつっこみをいれ、ミラボーさんの瞳がうるうるし始めた。
「うう…私達と一緒にいるのがそんなに嫌ですか?
プレゼントもいっぱい差し上げますよ?」
あやしい。あやしすぎる。
普通、初対面の人にプレゼントとかしないって。
なにか裏でもあるんじゃ……?
っていうか、達ってなに?!
一人に見えて、実はいっぱいいる?
まさか、囲まれてる?!
ここは、さっさと立ち去ったほうがよさそう……。
「面倒だからいいです」
そういって、きびすをかえし、立ち去ろうとすると、さっきまでの媚びた態度から豹変して、毅然と言い放った。
「それではパラダイスに移動しますね」
その瞬間、体が光に包まれる。
「え?! な、なにこれ?!」
足元に魔方陣みたいなのが見えたが、すぐに見えなくなってしまった。
まぶしっ!
眼球の直前でLEDライトをつけられたような刺激が飛び込んできた。
それも束の間。すぐに辺りの光が収まっていくのがわかったけど、さっきの光を直視したせいで目がまだやられていた。
うぅ…目がチカチカするぅ……。
「まったく、なんだっていうのよ……」
なんとか痛みが消えたので、ゆっくりと目を開けてみる。
飛び込んできたのは…海だった。
え? もしかして『ふりだしにもどる』っていうやつ??
と思ったけど、違うみたいだった。
さっきは見渡したら海と森しかなかったのだが、今度は海の逆側には町が広がっていたからだ。
町って言っても、海の家がちらほらある感じだけど。
「すごいね…りーや」
………。
……。
…。
返事がない、ただのしかばねのようだ。
―――ちょっと、待て。
もしかして……?
見回したときに、もしかしてって思っていたけど……。
再度見回してみても、りーやどころかおぼちゃんまでいなかった。
「あは」
してやられた。
…………ま、いっか。
生きていればいつか会える…いつかきっと。
と、名前もない通りすがりのおじいさんの放った名言で心をおちかせた。
にして、とんでも設定多すぎ。
ワープなんて、魔法の一個手前じゃん。
まぁ、もう気にしないけど。
ファンタジーの世界にまきこまれたと思って気楽に行こう。そうしよう。
ファンタジーといえば、最初に街についたらやることはひとつだよね。
そう。武器の調達!!
多分、あの正面の『SHOP』って書いてあるところだと思う。
とりあえず近くまで寄ってみた。
うわー。すごーーーい。
なにがすごいって、遠くからだとわからなかったけど、ここ。壁とか屋根が貝とか珊瑚といった海産物でできていたのだ。
かといって、グロイ感じじゃなく、キレイに仕上がっていた。
中に入ってみると、海の家っぽい感じで、サーフィンのボードが壁にたてかけてあったり、RPGの酒場みたいに樽が積んであったりと以外に広かった。
お店の屋が道具やらしく、いろいろ置いてあった。
うわー。ポーションがあるううぅう。
どう見ても青色一号です。
赤いのまであるよ…すごい体に悪そう…………。
後ろの棚に盾とか剣があった。
値段を見ると、どれも1000円…じゃないか。ここの通貨ってなんなんだろう?
Gって書いてあるや。
とりあえず、その1000G以上していた。
っていうか、そんな通貨は持ってない気がする……。
だめもとで聞いてみよう。
「すいません」
「いらしゃいませー。どうしました?」
栗色の髪のお姉さんに話しかけると、にっこりと営業スマイルで答えてくれた。
「あの、日本円って使えますか?」
「……?」
お姉さんははてな顔できょとんとしてしまった。
使えないってことか……。
「あ、なんでもないです。すいません」
どうやら、愛用のくまさんポーチの中にいる新渡戸稲造は役に立たないらしい。
これからどうしよう……。
やっぱり、ちゃんと話を聞いておいたほうがよかったのかな?
で、でもっ普通ゲームをやるときって取説なんて読まないでやるよね?
うん。そうだよ。あそこで話を聞くなんて選択肢はありえないって。
そ、それにエルはようやくのぼりはじめたばかりなんだだから!
このはてしなく遠い男坂を……。
未完