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プリンセスとナイト

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匿名ユーザー

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程よく月が輝き、夜の世界を照らす。
 街頭がそれを補助し、夜道でも歩くに不自由しないくらいの明るさだ。

 よい子は眠るこの時間帯。
 普段は騒がしい麻帆良の街も、この時間は一時休息。
 治安がいい日本といえども、深夜に外出する人間はそうはいない。


「こんな時間に外出なんて、なんかドキドキするわぁー」


 ……はずなのだが、外出している少女がいた。
 その隣には、10歳ほどの少年もいる。

 その少女の名前は近衛木乃香、そして少年の名前は桜咲刹那。
 まるで姉と弟のように、とても仲良さげに歩いている二人だ。


「お嬢様、早く帰らないと。夜更かしはいけません!」


 しかし、この二人は姉と弟の関係ではない。
 木乃香は護衛される理由のある、訳有りのお嬢様。
 刹那はそのお嬢様を護衛する剣士。

 そう、プリンセスとナイトの関係なのだ。


「もーちょい、な?」


「う……」


 えへへっ、と無邪気に笑う木乃香の笑顔。
 その笑顔には、鍛えた剣の業も全く意味を成さない。

 ただただ、動揺するのみ。
 ナイトはプリンセスに敵わない。


「お願ぁい、せっちゃん」


 トドメは甘ったるい声のおねだり。
 もし刹那が精通していたら、この場で押し倒してしまうであろうこの甘さ。

 しかし、10歳の少年には押し倒すなどという選択肢は存在しない。
 心臓の鼓動を早め、顔を真っ赤に染め、木乃香から目を逸らすことで誤魔化そうと必死になる。


「しっ、しっ、仕方ないですね。もうちょっとだけですよ!」


 『お嬢様のワガママ』という名目で、10歳児なりに体裁を保つ。
 ぎこちなく歩く姿は全く以って滑稽だ。

 数歩か歩いた後、派手に転ぶ。


「ああっ! 大丈夫せっちゃん?」


 刹那が転ぶのは日常茶飯事だが、今回の原因は木乃香にある。
 なので、必要以上に心配してしまう。

 転んだ当人は、下唇を噛み締め、泣くのをこらえている。
 かえってそれが泣きっ面に見えてしまうのは刹那に内緒だ。


「泣いてません! 泣いてません!」


 そんなこと聞いてないよ、なんて言ったら本格的に泣き出してしまうだろう。
 動揺で混乱している刹那は、状況判断すらできないほどにパニクってしまっている。

 どうしたらいいのか分からない、なんとも可愛い泣きっ面の刹那に、木乃香は助け舟を出す。


「せっちゃん、手ぇ出して」


「ふぇ?」


 鼻をすすりながら、言われた通りに手を出す刹那。
 木乃香は、その手をギュっと握る。


「おじょっ! お嬢様っ!?」


「うちな、ちょっと夜道が怖いねん。せやから、せっちゃんの手握ってたいんよ。……ダメカナ?」


 ダメダヨ、なんて言う理由はない。
 激しく首を上下に振り、了承の合図を送る。

 言葉を発したら泣いてるのが分かってしまうから、言葉にしない。
 転んで泣いた、なんて思われたくないのだ。(もうとっくにバレてるが)


「それじゃ、行こか」


 木乃香は刹那の手を引いて、先導する。
 いつの日か、刹那に先導される日も来るだろう。

 夜の散歩は、もうちょっとだけ続くのです。



fin.

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