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お花見 数日後

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お花見 数日後

「はあ・・・」
昼休み、麻帆良学園内のとある一角、桜の樹の下にあるベンチで大きな溜め息が一つこぼれた。
桜の満開の華やかさとは対象的な憂いを含んだ表情で、少年はパックのジュースを一口、飲み込む。
昼休みというだけあって、周りには大勢の生徒がいてかなり騒がしい。
そんな喧騒もまったく耳にも入らずその少年、綾瀬夕は物思いにふける。

『桜の樹の下のベンチ』、思い出されるのは数日前の夜。
買い出しの帰り道、ほんの気まぐれから立ち寄った公園で訪れた小さな幸運。
想いを寄せる女性との、決して良いムードというわけでは無かったが、幸せな一時。
あれ以来、夕のカモに対する想いはますます強くなっていた。
何をしていても彼女のことが頭から離れない。考え事をする為にのどか達の誘いを断ってこうして一人で昼食をとっている。
こうして桜を見ていると、あの夜の彼女を思い出す。
(しかし、ぼくはどうすれば良いのでしょう・・・)
運の悪いことに、カモは夕が好意を寄せる人物がネギだと勘違いしている。
『おねーさんも応援したげるから』
カモが厚意で言ってくれた言葉が、反って重く夕にのしかかる。
想いを告げるには、些か難しい状況であった。
(まずは誤解を解くことが先決でしょうか・・)
キーンコーンカーンコーン
夕の思考を遮る様に、昼休み終了10分前を告げる予鈴が鳴った。
夕はゆっくりと腰を上げ、重い足取りで校舎へと向かう。午後の授業はまともに受けられそうにない・・・・まともに受けないのはいつもの事だが。


「それじゃあボクは図書委員の仕事あるから。夕達は先に帰ってて」
「わかりました」
「ドジ踏むなよーのどか」
放課後。帰りのホームルームが終わった後、図書館島へと向かったのどかを見送った夕は、ハルキと廊下を歩いて行く。
「さてと、今日は部活もないし。帰るか夕」
「あ、ぼくはその、ちょっと用事があるので。ハルキは先に帰っていて下さい」
「ん、そうか?・・・・なあ、夕。最近元気ないぞ?昼も一人でどっか行っちまうし、なんかあったのか?」
「いえ、なんでもないです」
「ふーん・・・ま、いいや。なんか悩みがあったら言えよ。力になるからさ」
「はい、ありがとうです」
「いいって。・・・それはそうと夕」
「なんですか?」
「なんか重苦しいラブ臭が匂ってくる気がするんだが」
「失礼します」
親友の相変わらずの勘の良さに舌を巻きながら、夕は早足で廊下を歩いていった。

そのまま夕は校舎裏にある人気の無い森へと向かった。その中の割りと広く開けたスペースで座り込む。
夕がよく魔法の練習をしている場所である。
「ふう・・・」
気分を落ち着かせて、カモとのことを考える。
しかしどれだけ考えても、良い解決策は思い浮かばない。
(誰か経験者に相談とか・・・うちのクラスで彼女がいる人といえば・・・・・)
柿崎美砂雄。
(やめておきましょう)
懸命な判断である。
(そもそもまだのどかやハルキにすら打ち明けていないのに誰かに相談なんてできるはずありませんし。はあ)
考える程に、夕の頭はこんがらがっていった。何をすべきかがまったくわからない。
「ああもうっ!あまりゴチャゴチャ考えるのはヤメですっ!!」
夕はすっくと立ち上がり、鞄から以前ネギに貰った初心者用の魔法の杖を取り出す。
こういう時は何も考えず、無心で何かに打ち込むのに限る。
普段よりも一層気合を入れて、夕は魔法の練習を開始した。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・つ、疲れたです・・・・・・」
あまりにも気合を入れすぎた夕は体力を使い果たしてしまった。魔法の訓練は体力だけでなく精神力も削るのでなおさらだろう。
もはや立っているのもしんどい。
「よいしょっと」
力無くその場に座り込み、そのまま大の字で仰向けになる。
限界まで体力を使い果たしたことで、頭の中が空っぽになった様だった。
「ふう。少しは、すっきりしましたかね・・・・」
頬を撫でる風や、草の匂いが心地よかった。
目の前に広がる、大空。日が傾き始めて青からオレンジ色へと変っていくグラデーションが美しい。
こんな雄大な大自然の前では、自分が悩んでいる事なんてちっぽけな事なんだと、思い知らされる。
(でも、そういうちっぽけな事で悩むのが人間、なんでしょうね・・・・・なんて)
ふと、杖を見る。見た目は子供用のおもちゃの様な、先端に三日月の付いた杖。今の自分の実力には丁度良いだろう。
『魔法』
普通に考えたらあまりにも非現実的で、おとぎ話じみた概念。
どちらかといえば現実主義の自分がこんな物と関わり合うことになるとは思ってもみなかった。
少しでも彼女のいる世界に近づきたくて学び始めたが、まだまだ進歩は見られない。
自分にネギの様な才能があるとも思えない。これからも訓練を続けても、まともに使い物になるかすら妖しいだろう。
そもそも、夕には目標というものが無かった。あくまでも魔法は彼女のいる世界に近づく為の「手段」でしかなかったのだ。
明確な目標がなければ、身に付くものも付かないものだ。
(魔法を使えるようになって、ぼくはどうしたいんでしょうか・・・)
駄目だ。また気分が滅入ってきた。
何でも小難しく考えるのは自分の悪い癖だ。
今は何も考えずに、気持ちを落ち着かせよう。
身体全体で自然を感じるため、夕は目を閉じて呼吸を整えた。
そよ風が木々を揺らす音や、小鳥の囀りが耳をくすぐる。耳をもっと澄ませば、ガサガサと茂みを掻き分ける音も・・・
「ん?ガサガサ?」
音のする方に目をやる。徐々に近づいて来ているようだ。
(野ウサギか何かでしょうか?)
学園の中といえど自然は多く残っているので、小動物の類も多く生息している。おそらくはその一種だろうと、夕はぼんやりと見ていた。
音が近くなり、ピョコンと短めの耳を覗かる。そのまま茂みから、『彼女』は出てきた。
「・・・・・・・・・あ」
「ありゃ?なんだ夕くんじゃん]
出てきたのは春だというのに白い冬毛のオコジョ。
もちろんいくら自然が豊かな麻帆良学園とはいえ、オコジョまではいるはずがない。
夕が想いを寄せる、オコジョ妖精のカモミールだ。
ボン、と音をさせて一瞬でオコジョの姿から人間の姿へとなり変わる。
「やっほー」
「か、かかかかかカモさんっ!」
さっきまでの疲労はどこへ行ったのやら。慌てて立ち上がる夕。
「何テンパってんの夕くん」
「カモさん、な、なんでここに?」
「いや、実は昨日エヴァ君の家でゼロちゃんとドンチャン騒ぎしてたらエヴァ君が五月蝿いって怒っちゃってさ。今日の学園の見回り押し付けられちゃったのよ」
「それでこんな所まで?」
「小さいけど魔法の気配がしたから様子見に来たんだけど・・・夕くんだったのね。魔法の練習?」
「ええ、まあ」
「へー、頑張ってるじゃん夕くん」
「はい・・・ありがとう、ございます」
きっと今の「頑張ってる」は『ネギの為に』、という意味合いだ。
それがなんとなく分かり、夕は複雑な気持ちになる。
「ん、どうかした?夕くん。なんか元気ないわね」
「え、いえ。そんなことないですよ」
まさか原因は貴女だ、と言えるはずもない。夕は目を逸らして誤魔化した。
「今の今まで魔法の練習をしていましたので。少し疲れているだけです」
「そっか。ほんじゃ立ってないで座ろ。一緒にいい?」
「はい。もちろん」
カモはあぐらをかき、夕はその隣りに体育座りで座る。
ふう。と一息、息をつく。
「あー、にしてもエヴァ君も酷いわよねー。こんなか弱い女の子をコキ使ってくれちゃってさ」
「それは自業自得でしょう」
「だって一緒にお酒飲める相手なんてゼロちゃんくらいなんだもん。一人で飲んでるってのも寂しいもんなのよ?」
「それは、まあそうですね」
「でしょ?」
「・・・あの、ぼくで良ければ付き合いますよ?お酒は飲めませんが」
「えっ、ホント?夕くんやっさしー」
「毎日は勘弁ですけどね」
「あはは、やっぱし?でも、夕くんとなら美味しいお酒飲めそうだなー。ほら、この前の公園の時みたいにさ」
「え。あ、はい。その、ぼくもこの前は楽しかったですよ」
まさかカモの方からあの夜の話を振られるとは思っていなかった夕はやけに嬉しくなった。
「ホントに?結構無理矢理付きき合わせちゃった感じだったけど」
「ええ。まあ、酔いつぶれてオコジョに戻ったまま眠ってしまった貴女をネギ先生の所に送っていくというオモケ付きでしたけどね」
照れくさくなってついイジワルを言う夕。
「あはは、それは言わないお約束でしょ」
「貴女の飲み散らかした缶ビールの残骸も全部ぼくが処分したんですからね」
「ゴメンってー」

そのまま10分程、二人は話した。
何気ない会話で笑い合う二人。二人でいるだけで、夕には自然と笑みがこぼれる。
そうしているだけでも、夕にとっては幸せだった。

しかし、そこから一歩先へ踏み出したい気持ちもゼロではない。
今日こそ伝えたい。この想いを。

「さて、あんまぐずぐずしてるとエヴァ君にどやされるし。アタシは行くわ。練習頑張ってね夕くん」
「え、あ・・・」
またもやタイミングを逃してしま・・・いや、そういうわけにはいかない。
「あのっ、カモさん!」
「ん、どしたの?夕くん」
「え、えと、あの」
呼び止めたはいいが、何も言葉が浮かんでこない。
いつもは嫌でも余計な事がズラズラ浮かんでくるというのに、何をしている自分。
そんな自己嫌悪に陥りながらも、夕はなんとか口を開いた。
「あの、以前カモさんは、オコジョ妖精には人の好意を測る能力がある、とおっしゃいましたよね・・?」
言葉が切れ切れになりながらも、夕は必死に言葉を紡ぐ。
「うん。そうよ?なに、夕くん今のランキングが気になるわけ?」
「え、ええ・・・」
「なんだ、もしかして元気なかったのってその所為?」
カモはイタズラっ子みたいな笑顔を浮かべる。半分正解、半分間違いといった所か。
「いよっしゃ!お姉さん一肌脱いじゃうわよー!最近ランキングも測ってなかったし丁度いいわね」
「はい・・・」
今までに無い緊張が夕を包む。体中から妙な油汗が吹き出ているような感覚だ。
「ほんじゃまドキドキ好感度ランキングスタートー!!」


 ・・・・・・・・・瞬間、カモの顔が真っ赤に染まった。


「・・・・・あれ?」
「・・・・・・・・」
カモは夕の方を伺うが、夕は無言で俯いたままだ。
「え、えと・・・あ、あははは。お、おっかしーなー」
「どう、したんですか?カモさん」
解っていながら、夕は問いかける。
「いや、あの、夕くんの好意は相変わらず、っていうかむしろ上がってるくらいなんだけど・・・」
「・・・だけど?」
「その、相手が・・・・・・・・・・私、みたいで」
夕は下を向いたまま、何も言わない。
数秒の、だが二人にとっては恐ろしく長い、沈黙。風の音すら耳に入ってこない。
「あ、あはははははは!そ、そんなわけないわよね!!なんか今日調子悪いみたい。ゴメンね夕くん変な事言って・・」
「いえ。違いませんよ」
「え?」
夕はゆっくりと顔を上げる。
「ぼくが好きなのは貴女です。カモさん」
「や、やだ夕くん。そんな冗談・・」
「冗談なんかじゃありません」
夕はどこまでもまっすぐな、そして力強い瞳でカモを見つめる。
「好きです。カモさん」
まっすぐにカモの瞳を見つめて、夕は遂に告白を果たした。
あまりの出来事に、カモは狼狽してしまう。
「そ、そんなこと、言われても・・」
夕はゆっくりとカモの元へ歩み寄る。
そしてそっと手を繋ぎ、もう一度はっきりと想いを伝える。
「分かっています。でも、ぼくはずっと貴女のことが好きだったんです」
「夕くん・・・」
「すみません、こんな事を急に言われても困りますよね。でも、ぼくは貴女にこの想いを知って欲しくて・・」
「・・・ううん。そんなこと、ないよ」
「え?」
「そりゃ、いきなりだったから驚いちゃったけど。わ、私だって夕くんのこと・・・その、前から気にしてたっていうか・・」
カモは顔を頬を赤らめながら言う。繋いだ手から、お互いの心臓の音が伝わって行くような気がした。
「そ、それはつまり、その・・」
「あはは、お互いに鈍感だった・・・ってことみたいね」
今度は夕の顔が真っ赤に染まる。
今まで苦悩していたのが馬鹿らしく思われる。
これはなんだ。つまり、最初から両想いだった。ということか。
「私嬉しいよ?夕くん」
「カモさん・・・」
「今度は私の番だね。好きよ夕くん。大好き」
「は、はい。ぼくも、嬉しいです。カモさん」


 ・・・カモさん。今までぼくは魔法を使えるようになって自分が何をしたいのか、正直分かりませんでした。
でも、今決心しました。
修学旅行で起きた事件、学園祭前に現れた悪魔、今まで危険なことが沢山あった。
ぼくはその時に何もできませんでした。それが悔しくてたまらなかった。
きっとこれからも、危険はことは起こるはず。
だからぼくは。
その時に貴女を守ることができるように、ぼくは強くなりたい。
いえ、なってみせます。
何時になるかは分かりませんが、絶対に。
貴女の為ならきっとできるはずだから。


ふと、あの公園の桜を思い出す
きっとあの時咲いていなかった蕾も満開になっているだろう
桜の花はすぐに散ってしまうけど、この恋は決して散らさないように
いつまでも、咲き誇らせよう


「ねえ、夕くん。ちょっと眼を閉じてて?」
「え?あの、カモさん?」
「いいからほら。そう、そのまま。絶対眼を開けたらダメだからね・・・・・ちゅっ」


.END

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