範馬マキの決意

「はい、これキミの武器ね。超強力だよ。使ったら自分も死ぬけど。」
放課後。夕暮れどきの街を歩きながら、範馬マキはオオツキに言われたことを思い出していた。
非情な特性をもった刀、霊切丸(たまきりまる)。
だが、今の自分にはこの上無く適した武器だった。
後悔、慙愧(ざんき)、自責の念。
分かってる。
敵を殺しても仲間は生き返らない。
私は、ただ死に場所を求めているだけなんだろう。

「まあぁぁぁきちゃあああぁぁぁぁぁぁぁん!!!」
暗い世界から、自分を呼び戻す声。
猪のように猛然と突っ込んできた小柄な少女を、マキはなんとか受け止めた。
稲田メアリーはマキに抱きついたまま頭を上げると
「お願いちょっと来て!」
と強引に手を引っ張っていく。
連れて来られたのはスーパーのカードダス自販機の前だった。
「カードはひとり5枚まで!それ以上は大人買いになるからダメなの。だから次の5枚はマキちゃんの分だから!」
そう言って自販機のレバーを回し始める。
だが望みの物は出なかったらしく、力なくその場にかがみ込んでしまう。
がっかり顔のメアリーになんと言葉を掛けてるべきか迷っていると、後ろから声がした。
「サイドレバータイプか」
そこには長身長髪の優男、鮎坂百夜が立っていた。
「アユちゃん!」
思わぬ援軍に目を輝かせるメアリー。
「お前らに未来人の力を見せてやるぜ」

20円を入れ、横についているレバーを回す。
ゆっくりと出てくるカード。
そこで百夜は、完全にレバーを回しきる前にムリヤリカードを引っこ抜いた。
そして残ったマージン分を回すと…なんと2枚目のカードが顔を覗かせたではないか!
「これが奥義2枚出しだッ!」
「すごい!すごいよアユちゃん!!」
周囲を気にせず大はしゃぎする二人。
気付けば店のエプロンをつけたおばちゃんが目の前で腕を組みながらこちらを睨んでいた。
「逃げろ!」一目散に駆け出す百夜。
「マキちゃん早く!」来た時と同じように、メアリーはマキの手を取って走り出す。
走り過ぎる商店街のウィンドウを横目で見たとき、マキは自分が笑っていることを知った。
メアリーに呼び止められる前の悲壮な姿は、今は無い。

死んだ仲間に償う為でも、自分が死ぬ為でも無く
ただ仲間の幸せを守るために。
マキは、竹刀袋にいれた霊切丸を、以前とは違った思いで握り締めた。


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