「…本当に、ごめん…」と、目の前にいる彼はそう言った。
とても申し訳ない様な顔をして。
「謝るとか、そういう問題じゃないよな…でも…、」
私は彼が何故、今私にそう謝っているのかを知っている。
確かに謝るとか、そういう問題ではないのだけれども。

何年前だっただろうか。
幼い頃の私は、親と逸れて何処かも分からない草むらでただ立ち尽くしていた。
段々と暗くなる辺りに怯えて、動けずにいた時に、彼が現れた。
「こんな所に…珍しいな。お前、こんな所にいたら危ないぞ、ほら…」
そう言って、彼は私を助けてくれた。
彼の親は私を見て、「あら、可愛いポケモンじゃない。」と言った。
彼の友達に会った事もあった。何処かで聞いた、「個体値」「努力値」…
よく分からないけれど、彼の友達はそれをとても気にしているらしく、
私を横目でチラりと見て、彼に何度も説明していた。「強さが違う…」とか。
しかし、彼はいつも「コイツはコイツだから」と言って私を撫でていた。
そのことがとても嬉しかった事も鮮明に覚えている。
彼を乗せて広い野原を駆け回ったこともあった。

優しかった彼の親が、私を良く思わなくなったのは、私が進化した頃からだった。
「進化するのは良いけどね、大きすぎるのよ…家に入れたくないのよ。」とか、
「食事代とかも考えてよね」とか、私への不満を述べる親に、私はあまり親しみを感じれなかった。
実際私は木になっている木の実を食べたりしていたのだけれども。
そして、時代の移り変わりによって、中心の都市へと彼の家族は引っ越すことになった様だ。
「あのポケモンも連れて行くの?此処みたいな田舎じゃないんだから勘弁してよね」と、
彼の親は私を嫌そうな目で冷たく見つめていた。

そして、彼は私との別れを決意した様だった。
彼の親の強い押しに、彼は最後まで反対した。
何年も一緒だったし、逃がすという行為に気が進まないようだった。
けれど、親の権力には敵わなかったようで、最後まで悔しそうに泣いていた。
別れの最後に、彼は「悪いのは逃がす決断をした俺だ。
だから、俺の親を恨んだりしないでやってくれ…恨むなら、俺を恨んでくれ…」
そして、「…本当に、ごめん…」と、彼はそう言った。
…私には、私をとても大切に育ててくれた彼を
恨もうとか、憎む、などということが出来なかった。
彼が私を大切にしてくれたことを知っていたし、
私が彼の長年のパートナーであったため、彼が私と同じようにとても辛い気持ちを分かっていた。
彼をチラりと見ると、声を押し殺して泣いていた。
…もしかしたら、その時私も泣いていたかもしれない。
そして、私は静かにその場を走り去った。
遠くで彼が『ギャロップ』と私の名前を呼んだ。私は振り向かずに、夜の森へ姿を消した。


あの別れから何年経ったのだろうか。
彼の家族は遠い街へと引越し、嘗ての彼の家はもう無くなっていた。
鮮やかに覚えていた彼との思いでも少しずつ、少しずつ薄れていく。忘れたくは無いのに。
そんな時に、私は大抵広い野原にいた。彼を乗せて走り回った野原に。

此処にいると、彼との昔の思い出を、鮮明に思い出せる様な気がして。


作 2代目スレ>>119-120

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最終更新:2007年11月11日 13:03