両者は踊るように戦場を疾しり、歌いながら殺し合う。
殺意という楽器を手にして。
事切れたMTの死骸が無数に転がっている所為で、若干狭いとさえ感じる領域が、より一層狭く見える。
しかしそんなことにも構ってはいられない。敵ACの豪雨のような弾丸が、視界を遮る。
彼は施設を盾に、両手のライフルで応戦するものの、まるで違う質量に苦戦を強いられる。
思い切った攻撃もできないため、手数で押される。
しかしそんなことにも構ってはいられない。敵ACの豪雨のような弾丸が、視界を遮る。
彼は施設を盾に、両手のライフルで応戦するものの、まるで違う質量に苦戦を強いられる。
思い切った攻撃もできないため、手数で押される。
「ハッ、思ったよりやる…嬉しいねぇ!ハハハハハ!」
男は弾丸をばらまきながら、狂ったように笑う。彼には、それがひどく不快な音に聞こえた。
セラシアから通信が入る。
セラシアから通信が入る。
「あったわ。ディスト=ネクシム。彼はミラージュの専属レイヴンよ。
どうりでアークのリストからは見つからないわけね…目立った活動を開始したのはついこの間からね。
…でもやっかいだわ。彼は…」
どうりでアークのリストからは見つからないわけね…目立った活動を開始したのはついこの間からね。
…でもやっかいだわ。彼は…」
そのとき、男のACの背負った、二脚ACには不釣り合いなほど長い、折りたたまれたチェインガンが展開し、
火花を散らして結合する。
火花を散らして結合する。
「強化人間よ」
けたたましい轟音を発しながら、おびただしい数の狂犬の牙は「獲物」に向かって襲いかかる。
視界が、弾丸で埋まる。
視界が、弾丸で埋まる。
実際はそれほど時間は経っていないだろうが、
彼にはとてつもなく長い時間に感じられた。
気を抜けば、機体はたちまちボロ雑巾のようにされてしまうだろう。
しかし相手の勢いは衰えない。
彼にはとてつもなく長い時間に感じられた。
気を抜けば、機体はたちまちボロ雑巾のようにされてしまうだろう。
しかし相手の勢いは衰えない。
「嬉しいねぇ、ここまで耐えてくれるとは…これだけ楽しいのは久しぶりだ!」
「まずいな…損傷チェック」
彼はこの状況下で、片手でディスプレイのパネルを叩く。ピアノを弾くようにしなやかに、流れるように。
彼はこの状況下で、片手でディスプレイのパネルを叩く。ピアノを弾くようにしなやかに、流れるように。
『機体ダメージ増加・右腕部損傷Lv4・脚部損傷Lv2・ジェネレーター出力7%低下』
機械音声がディスプレイに表示された損害箇所を淡々と告げていく。この声を聞くと幾らか不安になる。
機械音声がディスプレイに表示された損害箇所を淡々と告げていく。この声を聞くと幾らか不安になる。
「…右腕部のEN供給を切断、各部駆動系に回せ。EN出力を2段階解放する。
さて…セラシア、ノイズが混じるとやりづらい。通信回線を切断してくれ」
さて…セラシア、ノイズが混じるとやりづらい。通信回線を切断してくれ」
「わかったわ」
彼のこの不可解な言葉も、彼女には理解できる。これから彼が何をするのかも。
「――――――――」
彼の周りから音が消える。水を打ったように――実際には消えていないのだが――静寂が訪れる。
彼は音を「消した」。戦闘においてあまり必要としない音を「消した」。
彼がいらないと判断した波長を持つ音は、彼の聴覚から消え去る。
聞こえるのは、互いの機体が奏でる音だけ。
彼がいらないと判断した波長を持つ音は、彼の聴覚から消え去る。
聞こえるのは、互いの機体が奏でる音だけ。
彼は男に語りかける。
「その機体、ずいぶんと可愛がっているようだな。いい起動音だ」
「こいつは俺の愛犬なんでな…整備にはうるさいぜ?」
「しかしたまには愛犬の声にも耳を傾けた方がいいぞ。」
「…ぁ?」
男は彼が何をいっているのか理解できなかった。当然の反応か。
男は彼が何をいっているのか理解できなかった。当然の反応か。
「(この銃身の振動音…そろそろか)」
次の瞬間、敵ACの右手のマシンガンが弾切れを起こす。そして、左手も。
ハンガーユニットから小型マシンガンを換装するが、その間に彼は男の右側面に回り込むように旋回する。
ハンガーユニットから小型マシンガンを換装するが、その間に彼は男の右側面に回り込むように旋回する。
「(軸足の間接の駆動音が鈍い。この独特の摩擦音…これは単純に金属疲労だな)」
並のレイヴン…いや、人間には聞こえないであろう機体の声を彼は聞き逃さない。
これが彼の最大の武器でもあり、最大の防具でもある。
並のレイヴン…いや、人間には聞こえないであろう機体の声を彼は聞き逃さない。
これが彼の最大の武器でもあり、最大の防具でもある。
相手の旋回速度を上回り、次第に死角へと移りつつ、左手のアサルトライフルを投げ捨てる。
ハンガーユニットがスライド・展開し、左腕にレーザーブレードを接続させる。
ENを放出し、刃状に形成したそれは、刀身の周りに季節はずれの陽炎を生じさせる。
ハンガーユニットがスライド・展開し、左腕にレーザーブレードを接続させる。
ENを放出し、刃状に形成したそれは、刀身の周りに季節はずれの陽炎を生じさせる。
――巨大な金属の塊が、轟音とともに落下し、大地を震撼させる。
それは、ACの上半身。
それは、ACの上半身。
「ハッ…まさか…あんたもか……調べたはずなんだが…」
力無く横たわる鉄の箱の中で、男は言う。
しかし、その声には「負の感情」は感じられない。
力無く横たわる鉄の箱の中で、男は言う。
しかし、その声には「負の感情」は感じられない。
「気づかれるとやりづらいんでな。
それに俺は、小心者だ」
それに俺は、小心者だ」
ひとしきり笑ったあと、男は口を開く。
「ハッ…さて、俺はここまでだ。じゃあなレイヴン。」
「ハッ…さて、俺はここまでだ。じゃあなレイヴン。」
憎悪や後悔などの念を全く感じさせずに、男は満足そうに笑っていた。
その機体が巨大な炎の柱になるまで――
その機体が巨大な炎の柱になるまで――
彼はそれを、セラシアと共に帰還している間も見続けた。
ガレージに響く、静かな旋律。仕事を終えた彼らは、この貴重な安らぎの一時に羽を休める。
月の光だけが、この空間を照らしている。
月の光だけが、この空間を照らしている。
「やっぱり変わったわね…あなた。初めて聞いた時にはこんなにやわらかい音は出てなかったもの」
鍵盤を滑るように叩きながら、彼は答える。
「そうか…確かにあの頃は無理矢理音を出していたな。
でも、もうわかった気がする。私が出したかった本当の音。かつて私が聞き惚れていた、あの音の出し方」
でも、もうわかった気がする。私が出したかった本当の音。かつて私が聞き惚れていた、あの音の出し方」
後日、ミラージュは今回の一件以外にも、
作戦領域をやとったレイヴンごと巡航ミサイルで吹き飛ばす(レイヴンはかろうじて生存)などの行いが発覚、
まもなく「粛正」された。
作戦領域をやとったレイヴンごと巡航ミサイルで吹き飛ばす(レイヴンはかろうじて生存)などの行いが発覚、
まもなく「粛正」された。
しかし世界はそんな些細な出来事など飲み込み、さらに加速する。
破滅に向かって。
歯車はきしみ、悲鳴を上げてなお回り続ける。
破滅に向かって。
歯車はきしみ、悲鳴を上げてなお回り続ける。
「…さて、もう寝ましょうか。今度は私があなたを「演奏」してあげる」
「またか?そろそろ休んだほうが………」
「 問 題 な い わ 」
―END―