【-St.Sera's Temple-】

Prologue

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>今夜は何時にも増して酷い吹雪であった。曇り、外が見えなくなった窓が音を立てて揺れ、外界の様子を物語る。
>わたしは何となく、その窓の様子を眺めていた。夜には、暖かい暖炉の前で読書をするのが日課であったが、今はそんな気分にはなれなかった。
>何か良くない事が起こる時は何時もこうだ。何かの予知能力とか、そんなものが自分にある確信はないが、この点に関して言えば外れたことが無かった。
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>
>
>・・・だが、それでも今回だけは違っていて欲しい。
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>
>
>・・・わたしは心からそう願っていた────
>
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>コンコンと扉を叩く音、その後、見慣れた一人の司祭が入ってくる。
>「姉様・・・」
>わたしの妹である。ルーンミッドガッツ王国でも、大聖堂の第一人者として活動している自慢の妹だ。王国に行っては王立図書館に篭って文献を読み漁っているだけのわたしには勿体無い程だ。
>「あら、こんな時間にどうしたの?絵本でも読んでもらいに来たのかしら?」
>「残念ながら、私も何時までも子供じゃありませんからね。」
>苦笑いされてしまった。心境を悟られないように何時もらしく冗談を言ってみたつもりだったのだが、お気に召さなかったようだ。
>微笑を浮かべた彼女が、急に険しい表情になって続ける。
>「それより姉様・・・良くない力の奔流を・・・感じました・・・」
>「・・・貴女も感じたのね。エーテルの乱れを。」
>嫌な予感が現実に向かっていく様で気分が落ち着かない。
>「体が震える程のこの感覚、700年前のあの時にも似た・・・」
>「・・・」
>
>
>
>数分の沈黙を破ったのは、扉を力強く叩く音だった。
>「入りなさい。」
>「はっ、失礼します。」
>入ってきたのは、私の従者である男であった。すらりとした細身の体に動きやすさを追求した身形、それは暗殺者とも言える姿である。
>かつて彼を屈服させて以来、本人の希望でこの神殿に身を置き、情報収集などの任に就かせている。
>普段は落ち着いている彼も、どことなく慌てている様であった。
>「貴方がそこまで慌てているとは意外ね、一体何があったと言うのです?」
>「報告致します。フェイヨン森深部に位置する例の村が襲われた模様です。」
>「ッ!?」
>妹は驚きで声も出ないようだった。わたしは驚きを隠すように言葉を続ける。
>「馬鹿な、あそこには何人たりとも近づけないように攪乱結界が張られていたのですよ。」
>「何者かが結界を破り、侵入して破壊の限りを行ったようです。村の廃墟から、あの村の物でないエーテルが検出されましたので、魔導師の類かと思われます。」
>「そんな、あの結界を破る程の魔導師がこの世に・・・っ!?」
>嫌な予感が頭を過ぎる。まさか・・・あの者は700年前に確かに滅したはず・・・
>「アーク様・・・ご気分が優れないようでしたら・・・」
>「気にしないで、続けて。それで?レベリオン一家は無事だったの?『証』は?」
>自分でも動揺しているのが分かる、だがそれでも聞かないわけにはいかなかった。
>「レベリオン夫妻は・・・遺体で発見しました。ですが、息子と『証』だけは血眼になって探しましたが・・・」
>「・・・見つからなかったのね。」
>「我が力及ばす・・・」
>「いえ、貴方は十分に働いてくれたわ。もういいわ、ありがとう。下がりなさい。」
>「はっ。アーク様も妹君も・・・お辛いでしょうが少しは自重なさってください。」
>そう言って、彼は部屋を出ていった。
>「・・・貴女も休みなさい。顔色が悪いわよ。」
>「ですが、姉様!」
>「わたしだって動揺していないわけではないわ。でも、今ここで考え込んでも仕方ないもの。・・・それにまだ彼奴の仕業だと決まったわけではないわ。」
>妹は不満そうな顔を私に向けたが、私の意図を悟ってか、すぐに折れてくれた。
>「・・・分かりました。姉様もあまり考え込まずに、早めにお休みになってくださいね。」
>彼女は軽く会釈をすると、そそくさと部屋を出て行った。
>
>
>
>一人になった私は、また窓のそばへ歩み寄る。暖炉の火もいつの間にか消えていたようで、窓の曇りは取れ、外の様子が見えていた。
>「あれから700年、あの者が生きているのなら・・・『証』を放っておくはずがない・・・」
>凍えるほどの寒さの中、頬を冷や汗が伝う。
>「ユウ・・・無事でいてください・・・!」
>
>
>
>吹雪は強さを増すばかりであった────
>


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