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名前で呼ぶ日 【投稿日 2007/03/18】

カテゴリー-現視研の日常


『明日会える?』
昨日の夜受け取ったメールを大野は電車の中で見返していた。
田中は卒業制作に追われているにもかかわらず、大野のイベントにも付き合っていた。
さすがに期限前となり、ここ暫く、大野から距離を置き、メールのやり取りだけでお互いのモチベーションを保っていた。
そんな中、l久しぶりに田中に会える喜びで携帯を見る彼女の目はどこか嬉しそうであった。

田中のアパートの前に立ち、ベルを鳴らす、ガチャっと開いた扉から以前より髭が伸び、少し疲れた様子の田中の顔が覗いた。
大野は促されるまま部屋に入り、リビングのいつも座っている場所へ腰を下ろす。
部屋の中は几帳面な田中らしくなく、物で溢れかえっていた。
忙しくて、掃除できなかったのであろうと大野は考えた。
掃除を手伝って欲しくて自分を呼んだのなら、それはそれで構わない、その時は今日一日だけ卒業制作の事は忘れてもらって
甘えさせてもらおう・・・・そう考えると笑いが込み上げてきた。
(いけないわね・・・・今一番忙しいときに何を考えているのかしら・・・でも田中さん疲れているようだし私が支えてあげないと・・・・
 そうだわ・・・確か以前作ったコスが押入れの中に・・・今夜はそれで・・・)
「大野さん!」田中に声をかけられハッとする大野
「何ですか?」(いけない、何ワープしているのかしら・・・・)
自分を真剣なまなざしで見つめる田中に彼女はドキマギしていた。
田中は立ち上がりリビングの隣に続いている和室へのふすまに手をかけた。
「今日は見せたいものがあるんだ」そう言うと田中はふすまをガラリと開けた。


開かれたふすまからは狭い四畳半の部屋には似つかわしくなく、白に統一され、その白さはまるで輝いているようであった。
大野は息を飲んだ。
その白さは、部屋そのものでなく、部屋の真ん中にディスプレイされるように置かれた『モノ』からである。
「田中さん・・・」
「ああ・・・卒業制作・・・昨日完成させたんだ・・・・・」
心なしか田中の声は震えている。
「あ・・・・あの・・・後は・・・モデルに着てもらって写真を撮って・・・提出するんだ・・・」
「えっ?」
「だから・・・大野さん・・・大野さんに着て欲しいんだ・・・サイズも合わせてある・・・・」
「田中さんこのドレスって・・・」加奈子が質問をしようとした瞬間、田中の細い目が大きく開かれ意を決したように口が開かれた・・・。
「大野さん・・・いや・・・『加奈子』・・・このドレスを・・・モデル以外でも着て欲しいんだ!!」
「えっ?」突然『名前』で呼ばれてキョトンとしてしまう加奈子
「俺、卒業制作は加奈子の為に作ろうと考えていた・・・一生に一度だけ着るものを自分の手で作りたかったんだ!!」
田中の顔はどんどん紅潮していく、今にも泣きそうなぐらいだ・・・。
「だから『加奈子さん』俺と結婚下さい・・・そして式でこの『ウエディングドレス』を着てください!!」
田中は直立不動のまま頭を下げる、そのままの状態で沈黙が流れた。
田中が頭を上げたとき目の前には加奈子がいた。加奈子は身長の低い彼に目線を合わせるとゆっくり彼の首筋に腕を回し抱きついた。
「はいっ『総市郎さん』・・・・・」加奈子の肩は震えている・・・・。
その肩を包み込むように総市郎は彼女を抱きしめた・・・・。



おわり