春奈の蒼穹【投稿日 2007/02/20】

カテゴリー-その他


これは絵板起源の「セカンドジェネレーション」-双子症候群-の独自設定
です。一応、「初期設定」とされるキャラクターの設定を拝借していますが、
独自に改編した部分もあります。
ここだけで完結されたバラレル設定ですので他のSS師さんたちや絵師さんた
ちの設定との差異はご了承ください。

□舞台設定 
げんしけん最終回から二十年後の世界の東京郊外の新興都市

□登場人物設定 
旧世代の登場人物は斑目晴信、アンジェラ・バートン、スザンナ・ホプキンス
のみの登場。その他メンバーは名指しも登場もしない方針。

□物語設定
物語はオムニバス形式で独立しており各自主人公が異なりますが、
前作の設定を一部引き継ぐ場合があります。一応、時間系列順に列挙して
おきます。
:げんしけんSSスレまとめサイト 「その他」カテゴリー収録
①「ぬぬ子の秘密」 主人公 服部双子(ぬぬ子) A.C.2026年
②「斑目晴信の憂鬱」 主人公 斑目晴信 A.C 2026年
③「アンの青春」 主人公 アンジェラ・バートン A.C 2010年
④「千佳子の覚醒」主人公 田中千佳子 A.C.2026年
⑤「春奈の蒼穹」 主人公 高坂春奈 A.C.2026年
⑥最終話 タイトル未定

□登場人物(○旧世代 ◎新世代 ☆オリジナル △シリーズ登場人物)
○斑目晴信 
新世代たちの中学校に用務員として赴任。過去にアンジェラと短期間交際し
ており、認知していない息子が一人いる。最近、その存在を知った。
○アンジェラ・バートン (アン、アンジェラ)
米国にて社会心理学研究をしている。斑目との間に一子あり。
○スザンナ・ホプキンス (スージー、スー)
新世代の中学校に英語教師として赴任。容姿は昔と変わらない。
◎千里(ちさ) 十四歳以下同
笹荻の娘。妹の万理と二卵性双生児。性格は積極的で物事に頓着しない。
漫画、アニメ好き。
美少女愛好趣味もある。どちらかというと消費系オタ。叔母や親友の春奈と
ファッションやゲームの話題で気が合う。
オンラインゲーム「GX-ガノタックス」ハンドル名「サウザンド」搭乗機「ブラック・ラグーン」
◎万理(まり) 前作でうっかり万里の変換せずにいましたので他の方々の
設定との区別の為に万理で通します。
同じく笹荻の娘。性格は消極的で思慮深い。納得のいかない細事に拘る面も
ある。腐女子趣味で創作もする。漫画、アニメ好き。創作系オタ。親友の
千佳子と気が合う。
オンラインゲーム「GX-ガノタックス」ハンドル名「ミリオン」搭乗機「スノーホワイト」
◎千佳子 
田大の娘。温厚で大人しい性格。父親に似て凝り性で几帳面な面も。漫画、
アニメ好き。消費系オタ。腐女子趣味。コスプレは嫌い。
思春期の難しい年頃で母親のコスプレ趣味には嫌悪感。その後何かの
きっかけで目覚める可能性あり。
◎春奈
高咲の娘。ボクササイズをしている。オタク趣味は無いが、父親の影響で
オンラインゲームの格闘ゲームが好き。
ファッションにも興味があり、アバターの服などのデザインを趣味にして
いる。
父親の天才性?は引き継いでいないが、母親のリーダーシップの素質の萌芽
がありそう。
オンラインゲーム「GX-ガノタックス」ハンドル名「アップルシード」搭乗機「キングクリムゾン」
◎服部双子(ぬぬ子)
突然、転校してきた厚底メガネのおさげの少女。メガネを取ると絶世の
美少女という古典的設定。その他にも秘密が多そう。
☆アレクサンダー・バートン(アレック) 十五歳
このパラレル設定での完全なオリキャラ。斑目とアンジェラの息子。
無責任な父親を拒否。
その反動でオタク趣味も寄せ付けない。しかし思いっきり素養がある。
母親似のスポーツマンで格闘技を習得。
オンライン格闘ゲームには興味がある。
△ミハイル・ゴットルフ 十四歳 
「春奈の蒼穹」のみ登場 日本の大阪出身の母親と某国人とのハーフ 双子の妹がいる。
ガノタ オンラインゲーム「GX-ガノタックス」ハンドル名「大佐」搭乗機「レッドフォックス」
△アナスタシア(アニー)・ゴットルフ 十四歳
「春奈の蒼穹」のみ登場 日本の大阪出身の母親と某国人とのハーフ 双子の兄がいる。
あやしい大阪弁を話す。「GX-ガノタックス」ハンドル名「中尉」搭乗機「グリーンラクーン」


第一章 春奈の独白 

私の名は春奈。
冬休みを迎えようとする直前、みんなは長い休みの日をどのように過ごそうかという話題で持ちきりに
なりますよね。私たちの通う中学校もまた例外ではありません。
でも私たちには今年の冬休みには特別な事が待ち受けてました。私たちというのは私と千里の事。

そしてそれを思うと私の心は浮き立つ。と、同時に悩ましい事柄も私の心をとらえている事も
否定できないのです。
一つは楽しみにしているイベントが保護責任者を二名必要とするというのに、私の両親が多忙で同行
できないという事、そしてその為にそのイベントへの私の参加に難色を示しているという事でした。
そして千里の家でも同様に難しいらしい・・・。

そしてもう一つは・・・。と、その前にそのイベントについて説明しなきゃいけませんね。
私、今、国際公式競技として認められて久しい競技の校外活動サークルに参加しています。
スポーツか何かですって? ちょっと違うなー。私が参加しているサークルの競技種目は
オンラインのバトル・シュミレーションゲーム。チームを組んでバーチャルでのサバイバル
を競い合う競技。

私たちは厳しい予選を勝ち抜き、とうとう国際予選に出場する事が決まりました。国際予選は
遠征先で行う。これまでのバーチャルとは違い、AIが搭載された最新機種を操作して、
戦い抜く栄誉を与えられたのです!! 
千里はチームの要で主力。彼女の力で勝ち残ってきたと言っても過言ではありません。
そして遠征期間はその「機械」の操作訓練も含めたものとなります。

私は天にも昇る気持ちになりました。でもここで問題が発生。一つは先に述べた事。
そしてもう一つは・・・。チームの主力というわけではありませんが、これまで私たちと一緒に闘ってきた
レギュラーが急に家の用事で参加できない事が分かりました。

この問題に私は頭を抱えました。何故ならこの競技は、公式に公共機関に正式なID登録を取得
しなければ参加できないからです。
オンラインゲームという性質上、本人証明が重要となるので、網膜スキャンのID登録が必須と
なります。

そこで私はぬぬ子ちゃんに代理の頭数でいいからと拝み倒して登録申請してもらいました。
よく分かりませんが、この網膜スキャンシステムは何でも個人個人違う網膜の文様を、数字化、暗号化して
瞬時にコンピューターが解析してしまうという最新機能を備えた機械でするといいます。

ところが・・・。

ぬぬ子ちゃんと一緒にきていた私は、審査の間、数学オタらしい審査員の訳の分からない
「語り」を聞く羽目になってました。

「いいかね、数字には『黄金比率』というものがあってだねえ・・・一見無秩序に見える自然界にも
この『黄金比率』が存在していて・・・完璧な美を・・・網膜スキャンはその芸術的数学美を・・・」

この審査員の「語り」をハイハイと空返事で聞いていると、なにやら異変が起きたらしく、奥で
騒ぎが起きました。どうやら何億桁という天文学的数字を解析できる網膜スキャンの機器が、
ぬぬ子ちゃんの網膜を解析できなくて動作不全を起こしたらしい。

要するに、ぬぬ子ちゃんの『魔?聖?眼』は数千万円する機器を破壊したのです・・・。頭痛てえ・・・。

「力になれなくて、ごめんなさいです~。」
と、ぬぬ子ちゃんは申し訳なさそうに謝った。ぬぬ子ちゃんのせいではないので仕方が無い (涙)
とにかく数少ない登録申請所の機器が使用不能になったので新規の登録が近辺ではできなくなって
しまいました。

こうなったら、最初のサークルの立ち上げの時に「無理やり」数そろえの為に部員にした千佳子と万理しか
いません。二人はすでに空登録だけしていますから。

ゲームに興味が無い二人を説得するのは難しい。そこで私は計略、陰謀を用いて二人を参加させようと
しました。
しかし千佳子はおっとりしているようで案外抜け目無い・・・。即座に「罠」の匂いを嗅ぎつけ、「罠」を軽く
かわしてしまいました。あっあの腹黒女・・・。

しかしめげている場合ではありません。双子の一人、万理は逆にしっかりして警戒心が強そうに見えま
すが、とても抜けてます。まんまと騙されて「罠」に引っかかってくれました。
ああ、なんて人のいい愛らしい双子たち!!

空港で、にこやかに「がんばってー」とハンカチを振って見送りした千佳子を後にして、そして飛行機に
乗る時にも「?????」マークを頭にたくさんつけて搭乗した万理と千里と他の部員たちと一緒に
私たちは空港を飛び立ちました。

保護者の件? それは斑目さんとスージー先生を保護者に仕立てあげて何とかなりました。

そして私たちは、遠征地の北海道のさらに北、最果ての国境の島、武無知島に降り立ちました。
暖冬ぎみの天候は北辺に来た事を感じさせてくれませんでした。でも北の蒼穹は澄みきって輝いてました。

「よっしゃー!! まあ贅沢は言えんか!!」と私は腰に両手を当てて、遠征施設の建物の前に仁王立ち
して、武者震いする気持ちを抑えながら言いました。

「おいおい、それは無いだろう・・・。」と斑目さんは苦笑しながら言います。
「ナ・・・ナンナンデスカ? 
  ココドコデスカ?
   ナンデアタシ
    ツレテコラレタンデスカ?」
とスージー先生は両手を握りしめ腰を振りながら、夕比奈みるくの真似をしています。

万理はこめかみに「怒」のマークつけながらいきりたってます。
「ここはどこ?! 家に帰せー!! 私の冬休み返せー!! 納得イカネー!!」


第二章 GX-ガノタックス

斑目はその立派な施設を見上げながら思わず感嘆の声を上げた。
「すごい!! 何この無駄な立派さは!!」

「ふふん、当然よね。全国から選抜されたチームが出場する国際公認公式オンラインゲーム・・・、
『GX-ガノタックス』の本選会場ですからね!!」
と春奈は自分に関係ないのに誇らしげに言った。

「あのねえ・・・、今日ここに全国から私たちのチームのメンバーが集まるんよ。」
と千里は不機嫌な万理をよそにはしゃいでいる。

「え? チームの人たちと今日初めて会うの? ああ、そうかあ、オンラインゲームだものねえ。
俺たちの時代とは違うか。それにしてもゲームの割には仰々しいくらい立派な・・・。」

すると施設から職員と思われる女性が出てきて言った。
「ああ、チーム『GENSIKEN』の方々ですね、ようこそ。私はあなた方の担当です。あら、こちらの
金髪の可愛らしいお嬢さんも出場者ですね。」
職員は子供たちと一緒になってキョロキョロしているスージーの方を向いて言った。

「いえ、違うんです。この人は保護責任者の一人です。」と斑目は言った。
「え? この人が?!」

その当の本人は子供たちとワーとはしゃぎながら施設内に駆けていった。
「スージー先生!! 子供たちと一緒にはしゃいでどうすんです!!」
そう斑目は叫んだが、スージーはお構い無しで立ち去っていく。
(ナンデ俺が本人に代わって説明せにゃならんのだ・・・。)
斑目はシブシブそう思ったが正直こういう説明するのにも慣れた。スージーも説明する事に飽き飽きして
いるし、本人より他人に説明してもらった方が手っ取り早いのも事実だった。
そしてスージーは都合が悪いときには子供の振りをして面倒な事は斑目に押し付ける。
そんな役割が当たり前のようになってきている。

斑目は本来ならスージーと一緒に聞かなければならない保護責任者の役割について、職員からレクチャー
を受けた。仕組みはいまいちピンとこなかったが問題が無ければ特に面倒な事は無かった。
要するに名目上、未成年者が多いために外部の建前と形式上必要との事だった。

ロビーで職員から説明を受けていると、そこに春奈たちが戻ってきた。

「だから、わたしはゲームには参加しないからね!!」と万理は叫んでいる。
「ごめんねー。だから形だけ参加している振りすればいいって!!」と春奈は手を合わせて謝っている。

なだめ役は千里にまかせて春奈はフーと息をついてロビーの斑目の座っている椅子の隣に座った。
双子たちは他の施設を見学しに離れていった。

「斑目さん、説明終わった? ごめんねー、面倒事に巻き込んで。」
「春奈ちゃんこそ色々大変そうじゃない?何か飲む?」と自動販売機で飲み物を買おうとした。
「あ、ありがとう。他のメンバーとも顔合わせしたし、後はチーム編成と実際の『機体』を選定して演習する
予定をリーダーたちと打ち合わせるだけね、今日の予定は!!」

「さすがあの『お母さん』の娘だけの事はあるよ、リーダーシップあるよね。」
「アハッ 母さんも言ってたけど別に特別じゃないよ。斑目さんの時は素直な人たちばかりだったからって
笑ってたよ。それよりも気を使う事が多いよ。皆、今日初めて会った人たちばかりなんだもの。」

「そっそうかい。それにしてもすごいゲームだね。時代が違うなあ。こんなの誰が考えるんだろうね。」

「父さん。」

「へ?」

「だから父さん。といってもその事知っているのは少ないんだけどね。」

斑目は初めてこのゲームの背景と目的を聞いた。
要するにこういう事だそうだ。元々ゲームは軍事用に開発されたシステムの転用で開発された。
しかし軍事兵器の近代化によって白兵戦の機会は減った。しかしテロ対策や市街戦での死傷者が
無くならない訳では無い。そうしたエキスパートを長い時間とコストをかけて育てても一瞬にしてその
苦労は潰える。死傷者が増えると反戦の機運が高まる。
そこで遠隔操作の白兵戦兵器の開発が各国で研究された。
結局、市街戦等の建物や施設への潜入に最も適した形は人型という合理的な結論に帰結した。
そして開発された兵器のAIの開発やモニター等の情報収集に、逆にゲームからのシュミレーションの収集
するシステムが採用され、軍需産業がそれをバックアップしているという。

「はー、彼がねえ・・・、てっきりエロゲーや格闘ゲームの仕事していると思ってた・・・。」
斑目は驚いた表情でポカンとしていた。
「それだけじゃなく、各地の施設も領土問題が曖昧な軍事中立地帯に設立されて、各国の技術力の
デモンストレーションの場になってるってわけ・・・。ここの勝敗が直接影響するわけじゃないけど、領土交渉
の影響力も無視もできないって事!!とりあえずここは『連邦』の管轄地帯で、むこうが『ゼノン社』の管轄。」

「『連邦』!?」
「『重機連合邦栄産業』の略。国産の『機体』の開発を目指してるの。」と春奈。
「さっきから聞く『機体』って?」と斑目は聞いた。
「そのうち分かるよ。こういう父親を持つと大変よ、娘は!!」
「やっぱり、春名ちゃんのゲーム好きもお父さんの影響かい?」と斑目は少し曇りがちな春奈の顔を
覗き込みながら聞いた。

「・・・んー、まあねー。子供の頃に父さんとゲームで遊んで・・・三秒で撃沈されて・・・私が泣き出して・・・
そういや母さんが激怒して父さんが動揺して謝ってるの見たのあれだけか・・・。」
(あいかわらず容赦ないというか・・・鬼だな (汗))
追憶に心を奪われている春奈の表情を覗き込みながら斑目は思った。

そして春奈がそのうちわかると言われた『機体』について、斑目はすぐ知る事になる・・・。
演習中にそれは起こった。『相手チーム』、すなわち仮想敵のR国代表の『MANKEN』の斥候部隊が
予想だにしない地点を襲撃したのだ。つまり新型の国産機の試作機が収容されている倉庫を!!

斑目は施設の見学室でそれを見た。それは斑目の良く知る姿だった。あれは・・・。

「ザ・・・○ク?!」
「違います。『サク』です、『サク』!! 駄目ですよ、間違えちゃ、権利関係とか煩いんですから!!」
と職員は斑目を注意した。


第三章 奇襲攻撃

そのよく見知ったのに酷似している『機体』はモニタールームのスクリーンにはっきり映っていた。
CGでも何でもないリアルな存在として・・・。しかし大きさは人間と同じ等身大で、遠隔操作に
よって動いてはいたが。

モニタールームの職員たちがざわめきだした。
そして演習に出ている春奈たちに連絡を取った。春奈たちは実際にはモニタールームの隣のコントロール
ルームに各自隔離されている。「操縦」期間はロックされて外には出られない。彼らは、輸入品の『機体』、
A国製の「バトルスーツ」、『イーグルM0079型』を操縦して演習中だった。

『アップルシード』をハンドル名にする春奈が叫んだ。機体は[キングクリムゾン]と名付けていた。

[キングクリムゾン]=【春奈】『何々?どういう事? 規定の演習期間が延びるかもって話じゃ?』

『それがついさっき「開戦」通告がきたんだよ。規定には違反していない。』と職員。

[キングクリムゾン]=【春奈】『きっ汚ねー。救援に間に合わないよ。新型機のモニターってまだ着かないの?』

『到着、遅れている。こうなったら登録している彼女に動かしてもらうしかないね。』と職員。

モニタールームにいる人々の視線が見学室でのんびり落書きをして遊んでいる万理に一斉に注がれた。
万理は状況が飲み込めずにきょとんとしている。やがて意味を理解して大騒ぎした。

「ムリ!! ムリ!! あたし操縦できるわけないじゃん!! 一っっっっっ回も触ったこと無いんだよ?!」

[キングクリムゾン]=【春奈】『万理しかいないのよー。操縦は大丈夫。AI化されているし、移動して逃げて
くれるだけでいいから。』
[ブラック・ラグーン]と呼ばれるバトルスーツを操作し、『サウザンド』をハンドル名とする千里も懇願した。
[ブラック・ラグーン]=【千里】『まり~。たのむ~。アイスおごるから~。負けちゃう~。』

「ムリ!! ムリ!!」とかぶりを振って嫌がったが職員一同、周囲の雰囲気からも断りきれずに嫌々
スーツを着用した。
「何これ? オムツまでするわけ? 嫌だ~。」
ブツクサ言いながらコントロールルームに万理は向かった。新型機のコントロールルームは万理の網膜ID
を認証した。

「問題は・・・一度登録するとパイロット変更できないんだよな・・・。」
「まっ、しょうがないんじゃね? ここで破壊されるよりは・・・。実戦装備は先の話だったし元々。」

職員たちの話し声をそばで聞きながら斑目は思った。
(これって・・・本当にゲームでつか(汗))

モニタールームのスクリーンには『それ』が動き出す姿が見えた。よろよろと不器用に立ち上がろうとして
転んでいる。斑目は目を疑った。あれはまるで・・・。

[スノーホワイト]と名付けられたその白い機体のバトルスーツはゆっくりと立ち上がった。『ミリオン』の
ハンドル名で登録している万理は叫んでいる。
[スノーホワイト] =【万理】『ぎゃー、それから?どうすんの?これ?』

しかし逃げだすのが遅かった。対戦相手の斥候バトルスーツのサク三体が万理の前に現れた。
[スノーホワイト] =【万理】『だから嫌だって言ったのに~。どうすんの?どうすんの?』

パニックになった万理に必死に通信で支持を春奈は出し続けた。
[キングクリムゾン]=【春奈】『前のボタンに機銃の発射ボタンがあるから!自動標準で押すだけだから!!』

[スノーホワイト] =【万理】『どれ?これ?ああ、わかんないよー』

しかしどうにか機銃は発射された。頭部から!! サクの一体が機銃に破壊された。
しかしすぐに機銃は壊れて弾丸が出なくなった。

「あー、やっぱり壊れた。だから無理だって言ったんだよ。頭部に装着しても砲身が短すぎるんだって!!」
「いや、あれは譲れないだろうー。間接部のデザインは妥協したんだから。デザインのとおり造るとプラモ
みたいにぶっ壊れるって技術屋どもが騒いだし。」
職員たちは他人事のように話している。

「あのー、すいませんー。あれはどう見ても機○戦・・・」
斑目は職員に話しかけた。
「あー、駄目駄目!! いいですか!! あれはN本「『重機連合邦栄産業』製、『連邦』製、国産初号機、
重装機兵、バトルスーツ「頑春」です!! いいですか!! 最近、権利関係が・・・」

「あ・・・ソウデスカ・・・。」と斑目は引っ込んだ。

サクの機銃の攻撃は[スノーホワイト]には通用しないようだった。
万理は春奈の指示で慌てて背中のライトサーベルを引き抜いて、サクに振り下ろした。サクはあっさりと
やられている。また無我夢中で振り回した手が、サクの機体を紙のように引きちぎっていた。

「さすが純国産、部品の一つ一つを特注、オーダーメイドで作った甲斐があったってもんだ。」
職員たちは感心したような様子でその戦闘シーンを見ていた。

斑目はといえば、リアルなそのシーンに呆然としていた。だからその様子をいつの間にか、老齢の紳士と
スージーが、傍で食い入るように見ていた事に斑目は気付かなかった。

「かっ会長!!」と職員は叫んだ。

その知的そうで気難しげな紳士はその試作機が圧倒的勝利を成した事を確認するや、とたんに表情を
崩して、となりにいたスージーの手を取って「やった!!やった!!」と飛び跳ねて喜んだ。
そしてスージーもそれに合わせてキャッキャッと飛び跳ねて喜んだ。

その様子を斑目と供に唖然として見ていた職員が「かっ会長?! その方、お孫さんかどなたかですか?」
と聞くと、『会長』はハッと我に返ってスージーの手を離して咳払いをした。
スージーも手を離すや知らん振りをしてスクリーンの様子に目をやっていた。
『会長』は顔を赤くしてチラチラとスージーの顔を見ながら言った。
「ごっごほん。いや知らない。とにかく・・・君たち・・・よくやった。」

『会長』に褒められて職員たちは大喜びで、スージーとの一件はすぐに彼らの念頭から去っていた。
しかし斑目はどこかでその様子を前にも見た気がしたが思い出せなかった。

斑目はスクリーンに目を移して思った。
子供たちが戦闘を終えて戻ってくる・・・。さあ、俺は何て声をかけてあげればいいだろう?
【私もよくよく運のない男だな】かな?それとも・・・。

 *******************************************

同じようにその光景を見ている男女が遠く離れた地にいた。少年の方はつぶやいてこう言った。
【認めたくないものだな。自分自身の若さ故の過ちというものを・・・】
隣にいる少女は言った。
「いつもの事やん、にいちゃん。ホンマ間抜けやわー。」


第四章 「赤い狐」の夜襲

遠く離れた地、すなわちゼノン社の施設のモニタールームで彼らは斥候部隊の敗北の光景を見ていた。
少年の方は痩せ過ぎとも思える体型の上、長身がなお一層その痩せ過ぎの体を弱々しく見せていた。
その細面の顔立ちは均整の取れた女性的とも見れる柔和な表情をしていた。
一方の少女の方は背が低くやや小太りではあったが、やはり目が大きく均整の取れた表情は美人の
部類に入るとも思われた。しかし意思が強さを秘めた目にむしろ男性的な印象さえ周囲に与えていた。

二人は兄妹のようであった。しかも双子の兄妹。
兄のほうは周囲から「大佐」と呼ばれている。それがハンドル名らしい。彼の本名はミハイル・ゴットルフ
という。そして妹の方は「中尉」と呼ばれていた。本名はアナスタシア(アニー)・ゴットルフ。
しかしこれも本当の名前というわけではない。兄妹には目的があった。

「緒戦から三機失うってまずいんとちゃう?」
「いつでも挽回できる。連邦の新型機の性能を確かめただけで十分だ。」
「どうするん?」
「夜襲をかける。『レッドフォックス』の力を見せてやろう。お前の『グリーンラクーン』も出撃してくれ。」
「うわ、規定違反じゃないけどエゲツないな~。」

二人の会話をそばで聞いていたゼノン社の職員たちはヒソヒソと話をしていた。
「あの二人・・・東洋人?」
「いや、何でもハーフだそうだ。父親はほれ、例の・・・。」
「ああ!!バトルスーツの開発主任の!!」
「そうそう。父親が何でもN本のなんかのイベントに参加した時に母親と知り合ったとか・・・。」
「兄貴の方は気弱そうだよな。」
「あれが仮面被ると二重人格のように性格豹変するんだよ。『レッドフォックス』だよ。」
「あれが『リム戦役』の英雄!!」

 **************************************

施設のロビーで斑目は春奈と話をしていた。
斑目は春奈に聞いた。「どう? まりちゃんの様子は?」

「いやー、もう話が違うってゴネまくり。ちさがなだめているけど協力は難しいね。」
「ははっ、元々ああいうの嫌いなんだろうね。」
「無理やり連れてきたから無理強いはできないけど・・・。新型機の登録は変更できないし・・・。」
「本当のモニター予定者って?」
「うん、ハンドル名を「ホワイトスネイク」っていうんだって。そろそろ着くって聞いてたんだけど・・・。」
「『白蛇』でつか・・・(嫌な予感・・・)」
「今、着いたらしいよ。あ!!来た来た!! あれ? アレック?」

予想だにしない人物の登場に一番驚いたのは春奈よりも斑目であったろう。そしてアレックの方も。

「ハルナ?それにマッ・・マダラメさん・・・。」 夜半にやっと到着したアレックは意外な再会に少し動揺
していた。
「やっやあ、アレック・・・君。おっお母さんは? 君一人かい?」とどもりながら斑目は聞いた。
「僕一人です。もちろん責任監督者は別にいますが・・・。」と顔を背けながらアレックは答える。

二人の関係を知らない春奈は不思議そうな顔をして二人の顔を見ながら言った。
「??? ええと、じゃああたし歩哨の当番だから行くね!!もっとも夜襲したチームなんていないから
無意味な当番なんだけどね。」 そう言って春奈は駆け足で立ち去っていった。
残された二人は気まずい雰囲気を感じて、お互い差しさわりの無い会話で間をつないだ。

「君がA国の助っ人とは驚きだ。」
「ええ、前からGX-ガノタックスには興味ありましたから。一応A国とN本は『同盟国』ですからね。
マダラメさんこそどうして?」
斑目はここにくるようになった経緯を簡単に説明した。
「へえ、どこで人が関係しているか分かりませんね。じゃあ、「ブラック・ラグーン」ってチサトのことだった
んですね。」

「ちさちゃん、有名なの?」
「すごいですよ。シューティングでいけば世界クラスです。」
「ふーん、春奈ちゃんは?」
「個人競技では世界ランクではありませんが、接近戦の格闘技ではけっこういい線いってます。でも
この競技は近代兵器使用の白兵戦を模倣した競技ですから総合成績では普通ですね。」
「はー、世界の壁は厚いんだね。君は助っ人にくるくらいだからすごいんだろうね。」
アレックは褒められて少し照れくさそうな表情を見せながら言った。
「いえ、それほどでは無いです。格闘技なら悪くは無いですが・・・。ただ『士官』の指導検定を受けてます
から、そちらの指導を依頼されています。この競技は団体戦ですから。」
「ほっ本格的なんだねえ(汗) ナンデ遅くなったの?」
「本当は新型機のモニターも依頼されていたんですが、純国産を理想とするN本としては本当は他国の
モニターは受け入れたくなかったのかもしれません。色々手続きに時間がかかりました。それに僕の
専用機、「ブルーディスティニー」を移送するするのにも時間かかりましたから。」

「何やら『大人の事情』が渦巻いてますなー(汗) 」斑目は苦笑しながら答えた。
「慣れました。」
そういうアレックの姿に、妙に年の割りに大人びた、そして醒めた諦観を見て、自分を見ているようで
斑目は胸が痛んだ。
(俺のせいでないとは言い切れまい・・・)

その時、警報が鳴り響いた。
「何だ?! ナンデスカ?!」と斑目は驚いてキョロキョロした。
「襲撃の警報です!! まさか!! 夜襲なんて!!」
アレックはコントロールルームに駆け出した。

コントロールルームに駆けつけた斑目はそこで驚くべき光景を目にした。
対戦相手のサクが『国境線』に侵入している。そして一般機の他に隊長機と見られる赤と緑の機体が
次々と味方の歩哨をなぎ倒している姿が見えた。

春奈と千里らしい機体は防戦一方で苦戦している。二人の乗る機体は何か昔のアニメのDVDで
観たようなデザインに似ていた。

「あれ・・・ボトム・・・。いやバイファ・・」と斑目
「駄目です!! あれはA国製『イーグルM0079型』シリーズです!!」と職員。
「はい、ワカリマシタ・・・。」 どうも触れてはいけないらしい。

「全軍ヲ指揮スル者ガ弾ノ後ロデ叫ンデイテハ、勝ツ戦イモ勝テンヨ」
ギョッとして声の方を向くと、いつの間にかスージーが隣にいる。
(一体どこにいるんだろう? 猫みたいに行動が読めないな・・・)
斑目がスージーに一瞬だけ目をそらしている間に戦況が一変した。
アレックが[ブルーディスティニー]で救援に駆けつけたのだ。

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最終更新:2007年11月01日 21:15