わかば小町

 血だまりがあった。
 よく見ると、血だけではない。中には細々とした肉片も見える。
 さらに目を凝らすならば、あなたはその中に、人間の腸と思しきもの。また、脳髄と思しきもの。胸骨と思しきものなど、およそ人体の一切を構成するパーツが、全て細切れではあるものの、そこに一通り存在していることに気付くだろう。
 マッシュされ、液化されたため、最早、その名残はほとんどないが、確かに、この血だまりは元は一人の人間であったのだ。
 手に、何かを持った二人の生徒会役員が、そこに近付く。

「先輩! マンガ肉と酒、持ってきました!」

 そういうと、役員は目の前の血だまりにマンガ肉をポイッと投げ捨てた。
 すると、どうであろう。
 血だまりに投げられたマンガ肉は、まるで硫酸の海に溶かされるかのように、ずぶずぶと泡を立てて沈んでいく。
 と、それと同時に一本の腕が、にょきっと血だまりの中から生えてきたではないか。
 血みどろの、真っ赤な腕である。
 腕は次第に伸びていき、更には頭と思しきものが現れ、肩、胸、腰まで形成され、ついには、血だまりは一人の人間の姿として再構成される。
 目も、口も、髪もない、全身血まみれ、足先から頭のてっぺんまで真っ赤に染まった、流動体の人間状生物が、目の前の役員を見て、「ダ、ダゲエエエ」と唸りを上げた。

「諒解です! 先輩、酒です!」

 生徒会役員は、手に持っていたワインを血まみれの怪物の頭から並々と注いでいく。
 すると、ワインに洗われるかのように、怪物の体ははっきりとした線を取り戻していき、目、鼻、口なども現われ、体には肌色が戻り、一つにまとまっていた手指は五指に分かれ、尻はふくらみを得て、ようやく一人の人間として完成されたのである。

 ――そこに現われたのは、全裸のロケット土田であった。

「土田先輩、復活おめでとうございます! 押忍!」

「ふぅ……。ちょっと死にすぎていたかな? 鳴神君、次の戦場はどこだい? それと、僕の次の武器は?」

「押忍! ハルマゲドンは最終局面であります! 土田先輩、向こうでフジカタ会長がお待ちであります! それと、先輩のエモノはこの包丁であります! あと、良かったら、自分の学ラン、お召しになって下さい! 押忍!」

「ありがとう、鳴神君。じゃあ、学ランは上だけ借りていくよ。下は、はかなくていい」

「押忍! 上だけお貸しいたします! 先輩の御武運、お祈り申し上げます!」

 そういって、土田はフジカタたちの待つ、新たな戦場へと向かっていった。

「なぁ、鳴神……」

「なんじゃーっ!」

「なあ、土田先輩って、アレ、魔人なんじゃないか? どう見ても人間じゃねえぞ、アレ」

「な、なんじゃと貴様ーっ!!!!」

 鳴神の鉄拳が相模を吹き飛ばした。

「バカタレが――っ!!!! 土田先輩は、我ら生徒会のために粉骨砕身、己が命も顧みず魔人と戦う高潔な武人なるぞーっ! 貴様の言は先輩への侮辱、今すぐ取り消せーっ!」

「で、でも、あれは……」

「たわけがーっ!!! アレは先輩がわんぴいすとかいうマンガを読んどるだけじゃーっ!」

「はぁ……」

 不死身の一般人、ロケット土田。
 遅れてきた彼が振り下ろす相手は****。
 包丁は、敵の命を確実に絶つことだろう。
 しかし、彼は、今回もきっと平然と生き続けるのだろう。


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