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ミク姉の結婚披露宴
 
         文:gatsutaka
        注意:実在の団体等とは関係ありません
 
 抜けるほどの晴天だった。
 駅を降りたレンと私は、まだ時間に余裕があるので会場まで散歩がてら歩くことにした。
 レンはタキシード、私は、勿論主役を引き立てる配慮をした上でのそれなりのドレスを着ていた。
 しばらく歩いていたら、道の向こう側に人だかりがしていた。近づいていくと、数十人、いやもしかすると数百人の人がびっしりと道の向こう側を埋めていた。驚いたことに、そのほぼ全員がタキシードか紋付袴姿で、手に手にプラカードや横断幕を持っていた。そして何か叫んでいた。
「レン、あれなあに?」
「ああ、あれ? プラカードに書いてあるだろう。あれはね、『ミクは俺の嫁同盟』の人達だよ」
「何それ」
「いや、だから、そのまんま」
「そのまんまじゃ分かんないよ」
 レンは面倒臭いなあという感じで説明してくれた。その同盟って言うのは、ミク姉をこよなく愛する人達の団体だそうだ。普段はごく個人的に色んなことをやっているだけで、集団で何か活動する訳ではないけれど、「ミクは俺の嫁」という共通のフレーズでゆる~く結束してるのだそうだ。今日はその団体のハレの日というかケの日というか、同盟結成以来初めての団体行動をしているのだそうだ。レンがネットで調べた情報によると、ちゃんと警察の道路使用許可も取っていて、集団であの場所から移動することはないらしい。
「自然発生じゃないから、危ないことはないと思うよ」
「それで、あんなして集まって何をしようとしているの?」
「それがどうもよく分からないんだ。多分、今日のミク姉を祝福しようってんだろうけど、同盟のサイトには集合時間と場所と服装既定が書いてあるだけで、目的は書いてなかったんだ」
「目的なしで集まってるの? まさか式を阻止しようってんじゃ」
「いや、それはないな。仮にそう思ってても、実行する度胸のあるやつはいないと思うよ」
「ふ~ん。レンもその格好だから、あっちに行っても違和感ないかもね」
「冗談じゃない。よく見てみろよ。女の人も混じってるだろう」
 レンに言われてよくよく見たら、集団の中に何人かの女性がいた。それがまた、全員ウエディングドレスのような服を着ている、
「あ、ほんとだ。でも、『俺の嫁』同盟なんでしょ。何で女の人がいるの?」
「そりゃ分かんないよ。趣味だろ」
「趣味ねえ」
「で、そのうちの何割かは『レンは俺の嫁同盟』にも入ってんの。そんな中に俺が入っていってみろよ。どうなることやら」
「ぶ。そんな同盟もあるの? 嫁? う~ん。趣味の世界は奥が深いねえ」
「何他人事みたいに言ってんだよ。当然『リンは俺の嫁同盟』もあるんだぞ」
「え」
 
 その頃私達は「ミクは俺の嫁同盟」の人達のすぐ近くに差しかかっていた。それまで「ミ~クちゃ~ん!」と野太い声で叫んでいた人達が私とレンに気付いて一斉にこっちを見た。
「リンちゃんとレン君だ」「かあわいい~」「リンは俺の嫁!」「何言ってんだ、俺の嫁だ」「レンは俺の嫁」
 ひそひそ声だか、みんなで喋っているのでちょっと異様な雰囲気になった。それに、近くなって顔がよく見えるようになったから、全員が棒の涙を流しているのが分かった。
「リン。走るぞ」
 そう言うと、レンが私の手を引いて走り出した。
「ちょっ、ちょっと待ってよ。私ヒールなんだから。あっ!」
 転びかけた私をレンが抱き止めてくれた。道の向こうでやんやの歓声が上がる。口笛や指笛が鳴り響く。
「ありがとう」
「気いつけろよ。あんなのの前で転んでみろよ。みっともねえぞ」
「悪い人達じゃなさそうじゃない」
「いや、確かにそうなんだけど」
 私達が通り過ぎたあと、また「ミ~クちゃ~ん!」のシュプレヒコールが始まった。
 会場のホテルに着いてラウンジで一休みする。式の開始にはまだ時間があった。
 
 ホテルは普通に営業しているようだが、一階、特にエントランスは少し緊張感に包まれていた。所謂、不測の事態に備えてっていうことだろう。
「なんか物々しいね」
「しょうがないね。ホテルって色んな人が出入りするからなあ。宿泊客と招待客だけに制限するなんて無理だろう。怪しいのは入り口で排除するしかないもんなあ」
「あ、じゃあ、あの同盟の人達は」
「団体で来たら入れてもらえないだろうね。個別に来ても会場入り口の招待客チェックではねられる」
「そうかあ。何かパフォーマンスしてくれたら面白いのに」
「お前なあ。さっきも言ったろう? 『リンは俺の嫁同盟』もあるって」
「あ、それそれ。それってどんなの?」
「リン同盟はミク同盟に比べてまだ数は少ないけどかなり人数増えてきてるみたいだな」
「『俺の嫁』ってどういう意味?」
「人それぞれだろうけど、『心の嫁』っていうくらいの意味じゃないかなあ。『俺には嫁が100人いる』って豪語してるのもいるから」
「100人! その中にレンも入っているのね」
「お前もな。さて、そろそろ行くか」
 
 新婦側親族控え室に行くと、着付けの終わったミク姉がいた。綺麗だった。ちょっと緊張しているのかな。横ではメイコ姉さんとカイト兄さんが打ち合わせをしていた。
「で、余興になったら交代で紹介するから」
「ん? どっちが先?」
「進行表読んでよ。最初は私。それから順番」
「ああ、分かった分かった。どうせその頃はメイコもう酔っ払ってんだろう?」
「失礼ね。今日は抑えとくわよ」
「控えるとは言わないのか」
 二人は披露宴の司会をすることになっている。メイコ姉さんのほうはちょっと心配だなあ。私とレンは歌うだけだから気楽なもんだ。
「ミク姉。おめでとう」
「リンちゃんレン君。ありがとう」
「外はすごいことになってたよ」
「バカ。余計な心配させるようなこと言うなよ」
「バカとは何よ」
「まあまあ。すごいってどんな?」
「うん。『ミクは俺の嫁同盟』の人達が道に沢山いた」
「ああ、あの人達。…嬉しいなあ」
「え、嬉しいの?」
「うん。みんな私のこと応援してくれてるからねえ」
 そのとき、ホテルのスタッフが式の開始を伝えにきた。仲人の奥さんが立ち上がり、ミク姉に手を貸す。最近は結婚式で仲人さんを立てないのが増えているらしいが、ミク姉が「オーソドックスな式にしたい」という希望だったので、栗布団社の社長さんご夫婦にお願いしたのだ。私達ボーカロイドは擬似家族だから、他の家族親戚は栗布団の社員さんにやってもらっている。父親は開発チームのリーダーさん。母親は社員じゃないけどミク姉のイメージを作ってくれたKさんだ。Kさんは私とレンのお母さんでもある。
 式は滞りなく終わった。式場を出ると、披露宴にはまだ間があるのに招待客が集まり始めていた。私とレンは顔見知りのPさんを見つけてしばらく話をしていた。あちこちで談笑の輪ができている。メイコ姉さんがやってきて、私を「ちょっと」とつついた。
「分かってんでしょうね。会食が始まったら、ワインのボトルを司会席に持って来んのよ」
「ええー。そんなことして大丈夫?」
「大丈夫よ。あなたたちはジュースよ、ジュース」
「はいはい」
「あのー」
「あ、分かってるって。カイト兄さんにはデザートを先取りして持って行くように頼んどくから」
「うん。3つね」
 デザートのアイスって、余分に作ってあるものなのだろうか。
 
「皆様、長らくお待たせ致しました。ただ今から、結婚披露宴を開催致します。どうぞお席のほうにお着き下さい」
 ホテルのスタッフが来場者に着席するよう促した。招待客は500人。なかなかの壮観だった。司会の二人がスタンバイし、メイコ姉さんが話し始める。
「皆様、本日はようこそおいで下さいました。まず皆様に先ほど当ホテル内に分祀されております音宮神社にて結婚の儀、滞りなくとり行なわれたことご報告申し上げます。それではただ今から、結婚披露宴を開催致します。本日の司会は、花嫁の姉と兄に当たります私メイコとカイトで務めさせて頂きます。何かと至らないとは存じますが、よろしくお願い致します。尚、本日の披露宴はインターネットで世界中に中継されておりますこと、ご承知置きください」
 拍手が起こった。「めーちゃーん」という声援も飛んでいる。
「それではいよいよ、新郎新婦の入場です。皆様、あちらの入り口のほうをご注目下さい」
 会場の下手、家族席の近くの中央の扉にスポットライトが当る。こうしてミク姉の結婚披露宴が始まった。
 
 仲人挨拶のあと、花嫁側来賓祝辞は度湾互の社長さんだった。乾杯の音頭は、マスター会会長が行なった。
 祝電紹介では海外のボーカロイドさんからのお祝いメッセージが動画でスクリーンに表示された。
 今日の招待者は、上手のほうから、関係企業の偉いさん、殿堂入りを果たしたPさん達、以下有名絵師さんなど職人さん、マスター会会員、山端の社員さん、栗布団の社員さんなどが並んでいる。会食が始まって会場が賑やかになってきた。
 私は会場スタッフからワインのボトルを一本もらって司会席に持って行った。
「はい、ご注文はこちらでよろしかったでしょうか?」
「ありがとう十分よ。でも無くなったら合図するからよろしくね」
「あの、アイスは」
「まだ前菜だよ。いくらなんでも早いんじゃない」
「でも」
「わかった。頼んでみるから」
 私は自分の席に戻って、近くを通りかかったスタッフに頼んでみた。そのスタッフは私が欲しがっていると勘違いしたらしく、「え、お嬢様3つもお食べになるのですか?」なんて言われて恥ずかしかった。数には余裕があるそうで、厨房の冷蔵庫からこっそり持ってきてくれることになって一安心した。
 しばらく歓談が続いたあと、いよいよ余興が始まった。
「それではそろそろ余興のほうに入らせて頂きます。本日の余興は、歌が主体となりますが、ご出席のクリエーターの皆さんの代表曲から選ばせて頂いておりますので、披露宴の場にはそぐわない歌も入っておりますことご了解下さい。まず最初は、花嫁の妹と弟に当たりますリン、レンによるお祝いの歌からです」
 私達は「リンリン信号」を歌った。お祝いの歌とはちょっと違うけど、ミク姉に「あの歌可愛いから絶対やってね」と頼まれていたのだ。レンは自分のパートが少ないからちょっと不満だったけど、間奏のギターソロをやらせたから納得したみたい。次にがくぽさんが舞を披露した。
 その後は、ミク姉の持ち歌で殿堂入りしたPさん達が、それぞれの歌を作者本人が歌うという趣向で続いた。勿論キーは変えてある。会場の横手にステージがあって、その奥の大きなスクリーンには動画が映し出された。
 両さんの「融ける」のときは、私とレンが相合傘の寸劇をやった。爆走Pさんの「初音ミクの蒸発」は、あの高速部分で録音を使わずに本人肉声で再現するという息が止まりそうなものになった。choke-cさんの「ファミリー7ソン」ではカイト兄さんが舞台で自転車のアクロバットをやって最後はお約束通りコケた。あたたPさんの「troposphere」ではミク姉の人形がリモコンで会場内を飛び回った。素数Pさんの「なぜか検索できない」のときは、似湾互の西町取締役が飛び入り参加した。パートが分かれる歌や、楽器の演奏がある場合は他のPさん達が協力した。その後も、小林オニオンさんの「カナタ」や、kxさんの「Wrapping」などなど、名曲揃いで盛り上がった。
「皆さんありがとう御座いました。もう一つ予定しておりますTAKO_MOさんの『みくみくにしてちょうだい』は花嫁本人の希望もありますので、ここにいる全員で合唱したいと存じますがいかがでしょうか」
 歓声とともに拍手が沸いた。
「ありがとうございます。歌詞はスクリーンに映し出されますので、そちらをご参照下さい」
 
 そのとき、会場の入り口のほうで騒ぎが起きた。少し空いたドアの向こうから「何だ君達は」という声が聞こえる。ドアが大きく開いて、十数人の男女がなだれ込んできた。一人が拡声器を持っていた。
「皆さん。お目出度い席に乱入して申し訳ありません。私達は、『ミクは俺の嫁同盟』の代表のものです。本日のお祝いに、ミクさんにぜひ私達のネギ踊りを見て頂きたくまかり越しました。他の沢山のメンバーはこの会場の外におりまして、路上でネット中継を見ながら踊るつもりで」
 会場のスタッフが拡声器を取り上げようとしてもみ合いになった。代表がそれを取り戻して、「皆さん。いかがでしょうか」と言い、全員が深く頭を下げた。
 場内は静まり返った。みんなどうしたらいいのか分からなくて固まっている。そのうちに、「出て行きたまえ」「そうだ、非常識にも程かある」といった声が上がり始めて、騒然となってきた。ホテルの警備担当者がやってきて、メンバーを取り囲み、強制的に外に連れ出そうとした。彼らは抵抗しないでそれに従おうとしていた。そのとき、ミク姉が立ち上がった。手にはマイクを持っていた。
「皆さん、待って下さい」
 それは透き通った美しい声だった。場内が一瞬で静かになった。
「皆さん、よく来て下さいました。私はとても嬉しいです」
 同盟のメンバーがはっとしたように顔を上げた。
「皆さん、ぜひ踊って下さい。私が歌います。ご来場の皆さん、勝手言って申し訳ありません」
 同盟のメンバーがもう一度深々と頭を下げた。ミク姉がマイクを持ったまま、メンバーの方に近づいていった。拡声器を持っていた人に近寄ると、「外にいる人達の様子をここに映し出すことはできませんか?」と聞いた。
「はい、できます。活動記録用のカメラを用意していますから、それをネットにつなげばここで見ることができます」
「では、準備をお願いします。途中からになっても構いません」
 それを聞いて、メンバーの一人が携帯電話を取り出しながらスクリーン制御用のパソコンの所に走って行った。
 ミク姉はメンバーの前に立って、会場の方を向き、にっこりと笑った。
「では始めます。音楽をお願いします」
 ものすごい拍手が起きた。そこにいた全員がミク姉とメンバーを囲むように集まってきた。イントロが始まると同時にスクリーンが外の中継に切り替わった。
 
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「ふう、終わったね。いい披露宴だったね」
「そうだな。あんなハプニングが起きるなんて想像もしてなかったよ」
「ミク姉すごかったねえ。あんなに嬉しそうに歌ってるの初めて見た」
「本当に嬉しかったんだろうなあ。あのメンバーは前の晩からホテルに泊まってたんだって。だから入れたんだ」
「でも最後は会場がネギ臭くなってちょっと辛かったね」
「あの人達は立派だったよ。帰りにあの人達がいた道を見たけど、ゴミひとつ、ネギの皮一枚も落ちてなかった」
「そうかあ。みんな喜んでたねえ。見ているこっちまでジーンとしてきたもの」
「お前んときもそうなるといいな」
「お前んとき? 俺達のときの間違いじゃないの? 私達は擬似姉弟だし問題ないじゃん」
「あ、そういうこと言うか」
「へへーん。リンリン信号聞こえてないの?」
「いいや…。ずーっと聞こえてる」
「え」
 
 了
 
(あとがき)
 
 投稿三作目です。

 やっちまいました。どっかから怒られるんじゃないかとビクビクしています。
 ネタとして多くの作品をお借りしていますが、ストーリー自体に参考にしたものがないという意味で、初めてのオリジナル作品です。但し、最後にちょっとだけシグナルPさんの「リンリンシグナル」を織り込んでいます。
 そもそも本作品は座敷ウサギさんが作られた動画「リンリンシグナル手書きPV」を9/8の夜、うP直後に見て、それから書き始めて2日で完成させたものです。語り手がリンになっているのはそのためです。書き始めの時点では、何の構想もありませんでした。あの動画からこれに至るとは、我ながらどういう思考をしてるんだろうと思います。
 
 中に出てくる会社名、人名、曲名は、一応気を遣って別の名前にしています。でも誰が見たって元が何かはすぐ分かりますよね。恥ずかしながら、メジャーな曲でも聞いたことがなくて知らないのが沢山あります。だから、あれが入ってないのはおかしいとか色々あるでしょうが、ご勘弁下さい。
 もし変えた後の名前に実在の人や曲の名前があったとしても、それは作者の無知によるもので、特別の意図はありません。
 
 本作品のタイトルは、最初は「俺の嫁同盟」としていました。嫌な予感がして投稿直前に検索したら、実際にそういう団体があるみたいですね。あわてて「同盟」を「連盟」とか「協会」とか「集団」とか「連合」とかに変えることも考えましたが、やっぱり「同盟」がしっくりくるのでそのままにしています。タイトルは変えました。面白みのないタイトルになってしまったのが残念です。
 勿論、本作品は「実在の個人・団体」とは全く関係ありません。
 
 私個人的には「俺の嫁」という言い回しはあまり好きではありません。とはいえ、最近ではそれを見るのも慣れてきました。でも、この世界に疎い人が目にするとちょっと引きそうな言葉であることは確かだと思います。
 本作品では、かなり好意的に扱ったつもりです。もう少し洗練された表現が生まれてこないですかね。
 
 また「ネギ踊り」は、ついつい見てしまうことがありますが、あまり「美しい」とは思えません。でも集団でのパフォーマンスとなると、どうしてもこれを選ばざるを得ません。他に適当なものがなかったかなあ。
 
 尚、お気づきのように、新郎に関しては本作品中で一切言及していません。
 書かなかったのではなく、書けませんでした。(偉そうに言うことかい)
 
          作者:gatsutaka
             前二作は作者名タグで検索して下さい
 
          履歴:2008/09/10 投稿
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