はらはらとひらひらと窓の外には薄紅の花びらが雪のように降っている。
それを見て、あなたはどこか切なそうに笑って「また見れた」と呟く。
「マスター、この花、なんていう花ですか?」
私の質問に、あなたは一瞬ほうけたあと大きな声で笑い出した。
……だって、私があなたのところに来たときは秋だったもん……。
色々な歌や感情を教えてくれるけど、この花のことはまだ教えてもらってない。
ひとしきり笑い、満足したのかあなたは目じりに溜まった涙をぬぐいながら私を見る。
「さくら、って言うんだ」
「……さくら……」
教えてもらったばかりの名前を口にしながら、私は花びらたちに再度視線をやる。
「綺麗だろ?」
まぶしそうに桜を見つめながら呟いたあなたに、「とっても綺麗です」と笑顔を浮かべた。
はらはら、ひらひら……青い空から白い建物に降ってくる『さくら』は本当に綺麗だった。
*************
私は空を仰いで周りを見渡した。
雪のような、薄紅色の花びらがあとからあとから降ってくる。
「ミク、どうしたの?」
背後からマスターの声が聞こえる。くるりと振り返り、空を指差す。
「マスター、この降ってきてるの、なんですか?」
その質問に、マスターは少し哀しそうに笑って私の頭を撫でた。
「降ってるんじゃなくて、散ってるの」
「散る……?それじゃあ、花、なんですか?」
「ええ。……桜っていう、花なのよ」
花の名前を言うとき、マスターが少しだけためらったような気がする。
――どうしてだろう?
前にも、同じような会話をしたような……。
突然、視界が白くなり、頭の奥でなにかがざわめいた。
『姉貴……がいなくなっ……クを……』
『……にいってる……ミクはあなたの……』
『…………う時間が……いんだろ?』
『…………』
『記憶を消し……ミク……悲……忘れて……』
「……ク、ミク!」
大きな声で呼ばれて、はっとして顔を上げる。
眉を寄せ、今にも泣き出しそうな表情なマスターがいた。
――――同じような顔をどこかで見た。あれはいつだったんだろう……。
そうだ、マスターと私が初めて会った日。私が起動した日。
「初めまして」と私が言った途端、目を真っ赤にしたマスターに抱きしめられたんだった。
どうして、あんなに悲しそうだったんだろう。
「大丈夫?ミク」
「……はい、大丈夫です」
まだ頭はぐらぐらしていたけど、マスターを安心させたくてそう言った。
急に強い風が吹いて、視界が薄紅に覆われた。
『 』
誰かの声が聞こえた気がして、振り返る。
そこにはなにもなく、ただ桜の花びらだけがはらはらと降り注いでいた。
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