性転換ネギま!まとめwiki

刹那♂×ちびせつな

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集

刹那♂×ちびせつな

その1



 どうも最近、調子がわるい・・・。



 毎日欠かせていない、明日菜さんとの朝の稽古でも。

 身体の反応がいつもより、明らかに遅れている。



 人間は毎日の生活リズムというものがあって、自分、と明日菜さんにとってこの時間帯は「運動をする時間」として体が覚えているはずだ。

 それなのに、なぜかここ3日ほど。



「スキあり!!」
「…!」



 ・・・あやうくだ。危うく、明日菜さんにかかり稽古で負けを許してしまいそうになる時がある。
 咸卦法のような大技を使っているわけではない。たしかに、明日菜さんも基本的な運動能力が鍛えられてきているのは判るけれど、それよりもやはり自分の問題だと思う。

「はい、今日の稽古はこれまでですね」
「ああーもうちょっとで一本入れれると思ったのになぁー」

 顔でこそ笑うことができたものの、まだまだですよ、と言えなかった。
 けっこう、深刻だ。





 教室に着いてからは、ネギ先生が入ってくるまでの間しばらく一人で考えていた。
 寝不足だろうか?・・・いや、思ってみたがそういうわけでもない。寝る時は寝ている。
 栄養についても幾分か気遣いはしているし、たまにどこぞのござるが部屋に来ては置き土産に何か食べ物を「おすそわけ」してくれたりするので、特に腹にも困っていない。
 となると何だろう。なにかこう…気力を奪われているような、どこかで浪費してしまって身に残っていない感覚をおぼえる。

「あ~ぁ、何か面白い噂話とかないもんかねぇ。それか噂のネタになりそうな事件とか」
「また何を考えてるですかハルナ」
「元気だねー。修羅場明けなのに…」
「解放感ってやつよ。ちょっと朝倉にでも聞いてこようかしら」

 相変わらずなクラスメイトの声が聞こえる。早乙女さんは…たしかにいつも元気だ。そういう印象があるし、今日も特に変わりはないようにみえる。
 どうも身体のだるさが抜けきらない状態で、それでも気を緩めることのないよう気を付けつつ、木乃香お嬢様の方へ目を向ける。そういえばお嬢様も、心なしか少し…どうだろう。いつもおっとりしているお嬢様のことだから、変わりないのだろうか。うん、気のせいならそれで、いいんだ。
 さて周りの人たちが元気かどうか、自分の仲間がいたりしないだろうかなどといった事に気を巡らせているうちに時間が来たようで、長髪を垂らしたネギ先生がいつものようにスマイルで教室に入って来た。

「皆さんおはようございます。えー、今の時期は季節の移り目っていうんですか?なんだか体調をこわす人がちょっぴり出てくるみたいで…私はまだ大丈夫ですけど、皆さんも、体調管理を怠らないように気をつけてくださいね」

 朝の挨拶でそんな話が出る。一所懸命に背伸びをして教壇から笑顔で呼びかけている。
 そういえば今日は ―よくあることだが― エヴァンジェリンさんが来ていない。登校地獄の呪いなどというものにかかっているという話を裏で聞いたので、この学園のどこかには居るのだろうけれど…。



 学校のスケジュールが終わってからのことだ。大したことではない、ただの気のせいだ、といった風に無視できなくなってきたのは。



「ネギから聞いたんだけど、エヴァちゃん、今日は本当に体調悪くて学校休んでたみたい。いまから刹那さんも一緒にお見舞いに行く?」

 明日菜さんからそんな言葉が出てきて、ものすごく違和感を受けた。
 呪いといえど体調が悪いときは休めるのかとか、そういう意味ではない。
 エヴァンジェリンさんが体を壊すというのは…

「すみません。僕はちょっと仕事が入っているので…代わりにこいつを連れて行ってください」

 そう言って懐から札を取り出し、名前を書き、「オン」と唱えて自分の分身を呼び出す。式紙だ。
 どうやら式紙には呼び出した時の自分の姿が縮小される特性があるらしく、自分がそうならちびの方までヅラを被っているものだから少し笑える。
 肩まで伸びた髪をひらひらさせながら「どうも~」と頭を下げて浮遊する自分の代わり身を明日菜さんに預け、自分はというと龍宮と共に学園長から頼まれた仕事に出かけて、放課後という時間を過ごした。

 この麻帆良という地には魔法使いが集まっていることもあり、ときどき何か事情があって何者かに召喚された魔物が現れたりする。麻帆良中に結界が張ってあるため力の弱いものならある程度防げるのだが、中にはこのように

「ブエックシッッ!!ゲルグググ・・・」

 ・・・。このように、強面ながらなぜか風邪気味のような魔物が侵入してきたりもするのだ。
 やっぱりおかしいよな。こっちは生徒に魔物の存在がばれないよう必死だというのに。

「いまいち緊張感のないやつだ。どうする龍宮」
「弾の無駄使いはしたくない。とっとと斬魔剣なりでお里に返してやれ」

 そういった素っ気ない作戦会議を経て戦闘が開始される。
 それで本来なら、弱った相手に手こずることもなくその斬魔剣ひとつで退治できるところなのだが。
 数秒間、敵としのぎを削ったのちに1発の銃声が響いた。

「遅いぞ刹那」

 …魔物は去った。ただ溜め息をつくしかなかった。






 帰宅をした時にはもう日は暮れていて、あたりは暗くなっていた。
 明日菜さんたちも戻っているだろうか。鞄と包みにくるんだ刀を部屋に置き、男女兼用な服に手早く着替えて(今までスカートだったわけで)あちらの部屋へ向かった。女子寮の中を歩き回るので、カツラはまだ外せない。

「あっ刹那さん。もうお仕事おわったの?」
「ええ。大した依頼ではなかったので…それで、エヴァンジェリンさんはどうでした?」
「うん…とね…とりあえず中に入って話しましょ」

 明日菜さんに案内されて部屋に入ってみれば、どうしたことだろうか。ネギ先生も2段ベッドの下段で寝静まり、お嬢様が看病をしているではないか。

「大丈夫ですか、ネギ先生?」
「いえ、あの、私本当に大丈夫ですから…わざわざこんな…」
「あん。あかんよー、ちゃんと養生せな」

 体調管理に気をつけてと言った御本人がまっ先にやられたか。かくいう自分も調子が悪いことに違いはないが、なんだろう。単なる風邪などではないような…。
 別に寝なくても大丈夫だ、とネギ先生は話しているけれど、実際のところ疲れたような顔つきをしている。お嬢様がそこをおさえては、ネギ先生の額の髪をなでたりしてやりながら大人しく寝るように促す。

「…分かりました。それじゃ、少しだけ寝ます。すみません…」
「ぁっあの~…私ぬいぐるみじゃないんですけど…」

 ん?

 ネギ先生の懐からモソモソと出てきたのは、ちびだった。
 なかば必死にネギ先生の腕からのがれようとしているが、どうも根性がないらしく胴体をつかまれたまま空しくもがいている。

「すみません先生、ちょっとちびにも話を聞きたいので、お借りしていいですか?」
「あぅ。」

 借りるというよりは返却願うと言うべきだが。ちびをつまみ上げ、明日菜さんの待つテーブルに持っていく。ネギ先生は残念そうにしょぼんとしていたが、ここはお嬢様にフォローしていただくしかないだろう…お嬢様。申し訳ないです。

「それで、エヴァちゃんのことなんだけど」
「はい。」

 部屋の真ん中に置かれている白い低テーブル。前には明日菜さんが座り、自分の左側でお嬢様がネギ先生の看病。テーブルの上には明日菜さんが用意してくれた紅茶と、頭のわるいちびがそのティーカップにおそるおそる触れようとして、やっぱり熱かったらしく跳ね退いたり、明日菜さん側ではカモさんが腕を組んでなにやら考え事をしている様子が伺える。

「ひどい様子だったわ。あのエヴァちゃんが、ベッドから出られないような状態で。茶々丸さんも付きっきりで、戸惑ってるようだった」

 予想だにしない話だ。あの人は吸血鬼ゆえに月の満ち加減で魔力が左右され、身体の抵抗力もそれに伴うものと思っていたが…

「エヴァっちのやつ、今日は新月かー!って叫んでた。でも違う、原因はそこじゃないみたいでね」

 そうなのだ。今夜はむしろ満月。エヴァンジェリンさんにしてみればむしろ具合のいい日なはずなのに。

 背後の窓へ振り返り、黒い空をみる。
 綺麗に満ちた月が、煌々としてこちらを見返している。

 この違和感はなんだ。

「エヴァちゃん、これは世界樹のせいだって言ってたの」
「えっ?」
「あの学園の奥にあるおおきな樹のことです~」

 そんなことはわーっとる。世界樹には魔力が宿っているというけれど…まさか、

「世界樹が、学園中の人の魔力を吸い上げている、とか?」
「そんな感じだね」

 …さて今週のびっくりどっきりタイムといこうか。
 カモさんの口から出た説明は、分かるには分かるが、あまりにも信じがたいものだった。

「エヴァっちの話のつづきだけど、これは世界樹の意思が問題みたいなの。大自然の意思とか、そんな話は本でしか聞いたことなかったけどね。んで、この件については世界樹がなにか企んで、手あたり次第魔法生徒や仮契約者の持っている魔力を奪っているとか。で、もともと魔力が強いやつほど多めに吸われているらしくて、エヴァっちに関しては満月の今日、増大してる分だけひどく吸われてるみたい」
「こわいです~あうあう」

 世界樹の意思とは何たるや。もともとあの世界樹は22年に一度魔力が満ちるとか、それくらいしか取り柄がなかったわけではないのか。
 しかもそれで、よしんば世界樹の意思という話が本当だったとして。なにか目的でもあるのか?ただ単に枯れかけてきたから栄養補給してるだけではないだろうな。

「こんな事は初めてだって言ってたわ。エヴァちゃんの言うことが本当なら、ネギが疲れているのも分かるし、それに木乃香だって無理しちゃいけないのよ。あたしはちょっと身体がだるい程度で済んでるけど」
「うちは大したことないえー。もともとそんなに魔力なんてあらへんし」

 お嬢様のことは至極心配してしまうのだが…この件、早いとこ解決しなくては。
 お嬢様と、それに明日菜さん。この二人については、潜在能力こそ高いけれど現時点ではあまり高くないから無事、とみてよいのだろうか。
 つまり魔法使いにしろ仮契約者にしろ、個々の持つ力の強さに比例して吸い上げられていると。

「ど、どうしましょう~世界樹を伐るのもわるいですし、でもなんとかしないと…うぅ」
「どーしようもこーしようもないだろう。世界樹をとめる以外に」
「でででもそれで何かまずいことになったら関東魔法協会的にあうあう」
「ええいお前も男ならオロオロするなっ」

 アホちび。…とにかく学園長にすべて話して、世界樹の暴走を何とかしてとめてもらうしかないか。

「私、男ぢゃないですっ」
「あーはいはい式紙でしたねはいはいって」

 あぁぁぁん!?男じゃないって何よ!?髪はお互いヅラだろう!付くべきものも付いてるはずだ!

「つ、付いてないですっ!この変態」
「なにおうっ!?」

 自分の式紙に変態いわれましたぜ奥さん。ってか付いてないって…?
 ちびの乙女恥らうようなしぐさを見ていたカモさんが、ふと人型になってちびの方に手を伸ばした。



 ふにっ



「あ、ないわ。」



「何するんですかー!」

 容赦ないお人ですね…。やられた側のちびはそのまま股間を押さえつつ2頭身の上のほう、つまり重心である頭部からたおれ込み、テーブルの上であうあう言いながら左右に揺れている。

「刹那の兄さん、本当に付いてる?」
「付いてますよ…」

 そんなこと疑問にもたんでくれ。しかし、ということはだ。
 どうやらこの桜咲刹那…式紙のナニを再現してやる力もなくしてしまったんか。
 笑えねえええ。ろくなもんじゃねぇ。夢なら夢と言ってよボーイジョージ。

「よかったじゃなーい元気なおにゃのこが生まれましたよ~」
「…」
「認知してあげなさいよ、刹那さん」

 あのね。



 話は大方まとまったので、部屋に戻ることに。立ちあがって横を見れば、お嬢様もネギ先生を看たまま、うたた寝してしまっている。
 風邪をひいてはいけないので、上着を脱いで背にかぶせておく。
 自分に出来ることは、この程度か。



 明日菜さんとカモさんに別れの挨拶をし、ちびを頭に乗せた状態で自室に帰る。
 そろそろ夕飯の頃合いだ。龍宮が用意してくれてるといいんだが。

「む。帰ったか。遅かったな」
「おかえりでござー」

「…二人で何をしている」

 テレビに向かって二人。手にはコントローラー。目前には見慣れない機器。

「超が試作機とかいって提供してくれたんだ。名前はウィーだかウェーイだか知らんが」

 麻帆良工学部のどっかの研究所が製作しているのだろうか。そして説明しながらも手を休めていない。ひたすら乱闘ごっこのアクションゲームで対戦をしている。
 …飯は?

「食事なら食堂で済ませてきた。冷蔵庫に何も残ってないしな」

 おいおい。
 せめて携帯に連絡してくれてもいいだろうに。…仕方ない、コンビニ行ってくるか…。

「私、杏仁豆腐がいいですー」
「耳元でしゃべるなっ」

 このちびの声に反応したようで、二人がこっちに振り返った。

「これは式紙でござるかな。一人称が私とは意外でござるな」
「じゃあついでにあんみつとプリンも頼む」

 龍宮の場を無視した意見はおいといて、こいつのことについては話した方がいいだろうか。
 説明しようと口を開いたが、ちびの方が先に身を乗り出した。


「はじめまして、ちびせつなと申します~。ちょっと頭が弱いですけど、よろしくおねがいします!」


「刹那殿のにしては、ずいぶん可愛らしいでござるなー」
「女の子ですから~」
「ほぉう」

 ゲームを一時停止させて、ふわふわ浮かんでいる式紙を興味津々にながめる。

「よかったじゃないか刹那。好きなときに幼女を呼び出せるようになったんだな」
「これは幼女とかそういう類ではないぞ」
「髪をくくると似合うのではござらんか。ほれ、こんな具合に」

 楓が立ち上がって紐を取り出し、ちびの髪を大雑把にまとめてみせた。
 左半分の髪だけをくくった髪型…サイドテールというのだろうか。確かに似合わないでもない。…自分の式紙だと思うと変な気分になるが。

「ありがとうございます~」
「あいあい」

 ちび本人は喜んでいるようだ。
 だがいっとくが。本体側の調子が悪いから、呼び出したときに女になってしまうだけなんだからな。
 世界樹の問題さえ解決すれば、式紙も男に戻るはず。女でいられるのはそれまでなんだぜ。

「うむ。変な気を起こすんじゃないぞ刹那」
「誰がっ!」
「腹が減っているからプリプリするのでござる。早くコンビニに行ってくるとよい」

 もてあそばれてますねー、というのはちびの言葉だ。そして対戦ゲームを再開する二人。
 いやまったく、勝手な人たちですわね。
 それで財布を確認して外に出ようと靴を履いていたとき、楓が奥からぼそっと一言。

「“性欲をもてあます。”」

 やかましいっ。






 そんな具合で昨晩は、一人でコンビニ弁当と杏仁豆腐とあんみつとプリンを買いに行ったり、帰ってきてもゲームで騒いでたりでにぎやかな夜だった。
 ちびはというと、杏仁豆腐ひとつで腹がふくれたらしく幸せそうな顔をしながらひざの上で寝てしまった。
 解除するタイミングがつかめないまま、召喚しっぱなしである。そして、今も。

 学園長に相談したところ、…やはり、学園長ご自身も身にこたえているとのことだが…なんとか世界樹の動きがやむように仕向けてくれるそうだ。精霊と話し合いをすればどうとか…詳しくない自分にはよく分からないが。
 ただ、割と大規模なはなしなので、完全に収まるまで1ヶ月はかかるという。エヴァンジェリンさんにしてみれば、次の満月がまた苦痛になるので気の毒としかいいようがない。

 ネギ先生に関してはまだ育ちざかりの子供なので、無理をせずに養生し、その間代わりの先生にクラスと英語の授業を担ってもらうようにと教員会議で決まったらしいのだが、他の魔法先生が身をおして勤務しているのに自分だけ休めないと、かえって反発したため保留となっている。
 委員長さんをはじめクラスの皆が心配しているが、やれお茶をくんであげたり肩をもんであげたりと世話をしまくることで、ネギ先生を応援する形ができた。

 そして、自分の席では。何も考えていないと言わんばかりのちびが、鞄の中でぬくぬくと昼寝をしている。

「(昨日もだいぶ寝ただろうに…。)」

 思うにこの式紙、これが世界樹の陰謀だったりしないだろうか。
 まさかとは思うが、学園中の人々を性転換させるのが「世界樹の目的」なんじゃあ…。
 このまま世界樹が暴発すれば、自分やクラスメイトの皆さんが性転換されたり、あるいは、性転換バージョンの別人物が現れたり…

 なんてことは、ないか。

 そんな世界樹さんの趣味のために魔力吸い上げられているとか。あっはっは。
 それよりもまずは、このちびと、どう向き合っていくかを考える方が先だ。









 <はじまり、はじまり。>




その2

「あ~る~じ~さ~ま~♪」

「・・・お前、なんだその呼び方は」

今日の授業を終え、少しでも復調させようと多めに素振りをこなし、部屋に帰ってくるなり飛び込んできた声。
その声の主をジト目で見つめてしまったことは、誰も非難はしないだろう、いやしないと信じる。
だって、帰ってきていきなり「あるじさま」だぞ?
引くだろう、普通。
いや一部のその手の趣味のある人間なら狂気するかもしれんが、あいにく俺にそんな趣味はない。
・・・なんだその目は、ないって、本当にないって!
が、そんな俺の痛い物を見るような視線にまったく全然皆目気づくことなく、俺を「あるじさま」と呼んだ小さな女の式神――――「ちびせつな」はにこにこと説明しだした。

「えへへ~、楓さんがこんな風に呼ぶと喜ぶって教えてくださったんです~」

「やめんか! つかどんなこと吹き込まれてるんだ?!」

ああ、一緒にいるといちいちやかましいからって楓に預けて先に帰したのが間違いだった。
俺をからかうのが趣味、いや生きがいのアイツのことだ、きっととんでもないことを吹き込んだに違いない。

「えぇっと、あるじ様は楓さんたちと相部屋だから性欲をもてあましてる、とか・・・」

「言わんでいい! いやそれ以前に真に受けるな!」

・・・予想通り、どうやら楓はちびにあることないこと有象無象虚虚実実様々なことを教えてくれたようだ。
ううう、一体何の因果でこんなことになってしまったんだか。
このちびせつなには、いざというとき単独行動が可能になるように独自の自我を持たせていた。
しかし、以前は本体である自分と同じ、れっきとした“男”だった。
ああ、それなのにそれなのに。
一体何がどう間違って、“女”になってしまったのか。

「あるじ様、おなかすきました~・・・」

「知るかぁっ!」

こっちの悩みもどこ吹く風のちびの発言に思わず怒鳴る。
自分の分身とはいえ、情けない、情けなさすぎる。
性別の変化は世界樹の暴走が原因のようだが、この馬鹿さは元からの天然だろう。
性別がれっきとした男だったときは、こんな風に頭を抱えることもなかったんだが・・・

「酷いですあるじ様! おなかがすいたら戦えないんですよ?!」

「戦わないだろうお前は! 晩飯まで我慢しろ!」

「そんな~・・・ おなかすいたすいたすきました~~~!!!」

「ええいやめんかぁぁぁぁぁ!!!」

空中でじたばたと駄々をこねるちびをまたしても怒鳴りつける。
ああ、頼むからただでさえ不調なときに余計な疲れをためさせないでくれ。

「どうした? 辛抱しきれずについに幼女趣味に目覚めたか」

「アホかお前は!」

おまけに、同室の龍宮や楓からはこうしてからかわれ続ける始末。
ああ、一体俺が何をしたって言うんだ?!

「こうして女子校に性別を偽って紛れ込んでいるからではござらぬか?」

「やかましい!」

TVの前で龍宮と格ゲーで対戦していた楓の、まるで心を読んだかのような台詞に三度怒鳴る。
ああもう勘弁してくれ、何度も言うが俺は不調なんだ。
・・・しかし、楓の言葉を勢い否定したものの、確かにそれが原因かもしれなげふげふ。
とにかく!
早くちびせつなの性別を元に戻さないと、ただでさえ世界樹の影響で不調だというのに余計にイラつく羽目になってしまう!

「あるじ様、それって八つ当たりです~!」

「うるさい! 人の心を読むな!」

「だってだって、わたしはあるじ様の“分身”ですから、しかたないですよ~」

とかなんとか言いながら、ちびはやたらと部屋の中を飛び回る。
いや分身だからって心まで読めるとかなかっただろうお前。
それともアレか、俺はいつでも心がフェイスオープンな状態なのか。
しかしちびはそんな俺の思案などどこ吹く風で部屋の中を楽しげに飛び回っている。
ああ、いつの間にか自分の意見の主張のために飛んでたのが飛ぶことそのものが目的になってるし。
ううむ、多少馬鹿なのはわかっていたがここまでとは・・・
一体どこで教育を間違った、過去の俺。

「あ、そうだ刹那」

「ん? どうした龍宮」

どうするべきかと頭を抱えている俺を、ぽん、と何かを思い出したかのようなしぐさをわざわざしながら龍宮が俺を呼ぶ。
どうせまた「あんみつ買ってきてくれ」だの「夕食の食材頼む」なんていう頼みごとだろう、なんて思っていたのだが。

「学園長から仕事の依頼だ、何でも魔物がこの学園に入り込んだらしい」

「早く言えぇぇぇぇぇぇえ!!!」

忘れてていい内容じゃないだろう?! それは!!!
心の中で毒づきつつ夕凪を手に取り、部屋の外へと駆け出す。

「あ、あるじ様! わたしも行きます!」

「馬鹿かお前は! 来ても役立たずだ、ここにいろ! 楓、そいつに飯食わせといてくれ!」

「あいあい♪」

俺が早口で頼むが早いか、楓は俺を追おうとするちびを捕まえて抱き、「大丈夫でござるよ」などと言い聞かせながら部屋の奥へと向かった。
ちびには悪いが、はじめからあいつに戦闘能力はない。
あいつはあくまでも俺の“分身”であって、俺の状況把握をより円滑にする役割しかもっていない。
あいつに自我があるのは分身との連絡を不要にすることで俺にかかる負担を軽減するためだ、まぁ何もないときの話し相手くらいにはなるかもしれないが。
いずれにしても、今この状況であいつにできることは何もない。
部屋で適当に楓秘蔵のプリンでも食べて寝こけていれば大丈夫だろう。
後ろから龍宮が追いついてくる気配を感じつつ、俺は夜の学園の闇を駆けた。




「・・・やれやれ、行ったでござるな」

「あうう~・・・・・・」

「まぁまぁ、心配は無用でござる。 真名殿もついておるし、なんだかんだ言っても刹那の腕前は本物。 多少不調とはいえ、そう簡単に遅れは取らぬでござろう」

「うぅ・・・はい~・・・」

そうはいいながらも、見るからに落胆している、といった様子のちびの頭をなでてやる。
やれやれ、あ奴も随分好かれているでござるなぁ。
とにかく今は、このちびにプリンでも食べさせて落ち着かせるでござる。
それから、帰ってくるあ奴のために夕餉でも整えておくとするとしようかな、ニンニン♪



静寂があたりを包む、夜の森。
学園近くに広がるこの森に、妙な気配が漂っている。

「――――――――このあたり、だな」

「ああ、そうみたいだな」

龍宮のその言葉が合図となったかのように、暗闇から異形の影が沸き出してくる。
その数は、見える範囲で四、五十といったところか。

「ちっ・・・、案外多いな」

「おや、怖いのか? 珍しいな刹那」

「まさか」

からかうような龍宮の言葉を笑って返し、夕凪を構える。
が、その瞬間。

「・・・・・・ぐっ?!」

「刹那?!」

重い、夕凪がとてつもなく重く感じる。
普段何気なく振るっている愛刀が、まるで初めて刀を握ったときのような重さだった。

「ギシャアァァァアァア!」

「うあっ!」

――――ガキィンッ!

飛び掛ってきた魔物の爪を受け止める、ただそれだけの動作でも、凄まじい疲労が体を襲う。
まずい、これはとんでもなくまずい。
このままでは、龍宮の足を引っ張るどころか、共倒れさえしかねない。

どうする、どうすればいい――――――――?!

戦慄する俺をよそに、俺と龍宮を囲んだ魔物は、一斉に襲い掛かってきた。




「――――――――あ・・・・・・っ?!」

楓さんからもらったプリンを食べていたわたしの頭の中に、突然変なイメージが浮かんできました。
それは、あるじ様が魔物に苦戦して、ボロボロになっていく姿――――――――
心配だから、こんなことが浮かんでくるのかな。

「む? どうしたでござるか、ちび殿」

「い、いえ~、なんでもないです」

「ふむ・・・ならばいいのでござるが」

楓さんにご心配はかけられません、変なこといっちゃ駄目です。
なのでわたしは、残ったプリンを食べちゃうことにしました。
そうすればおなかがいっぱいになって、そのころにはきっとあるじ様も帰ってくると思ったんです。
でも――――――――

「――――――――――――っ!!」

「ちび殿?!」

頭が、痛い・・・胸が、苦しい・・・・!
体の奥が熱くなる――――早く、早く行かないと・・・・・・!

「ちび殿、しっかりするでござる、ちび殿!」

「か、かえでさん・・・わたし、わたし、いかないと・・・」

「え・・・・・?」

「あるじ様、今、きっと困ってます。 だから、わたしが行ってあげないと――――――――」

「あ、待つでござる!」

楓さんが止めるのも振り切って、あるじ様の気をたどって一目散にあるじ様のところへ飛んでゆく。
あるじ様、待っててください、あるじ様――――――――!




「くっ・・・・・・! 斬魔剣!」

ビュオッ!

「ギィガァアアァァァァァア!!!」

ドガァッ!

「ぐっ・・・・・!」

「刹那!」

ガガッ、ガガガン!

「ゴォアオォォォォ・・・・・・」

「刹那、無事か?!」

「・・・っ、ああ、なんとかな」

とは言ってみたものの、状況はかなりマズい。
最初四~五十体と見ていた魔物はどんどん数を増し、倒したものもあわせればすでに百は越えただろう。
だが、夕凪の重さは相変わらず、普段であればまとめて倒せるような魔物共相手に、一対一ですら後れを取るほどだ。
龍宮が何とかフォローしてはくれるものの、龍宮自身もかなり疲れがきている。
このままでは、最悪の展開が待っているだけ。
何か、何か打つ手は――――!

「・・・・・・あるじ様!」

「なっ、お前、どうして!?」

歯噛みしている自分の背後から聞こえてきた、聞こえないはずの声。
まさか、と思って振り向いたそこには、「部屋で待ってろ」と言ったはずのちびが浮いていた。

「え、えへへ、あるじ様が心配で来ちゃいました~」

「馬鹿、なんで来たんだ! お前じゃ何も――――――――っ?!」

「・・・刹那!」

「あるじ様?!」

背筋をなでる冷たい気配。
ちびと龍宮の叫び声。
視界の端をわずかに掠めたその影は、鋭利な爪を振りかざし、自分に肉薄する――――――――

「――――駄目ですっ!」

「ちび?!」

次の瞬間、こともあろうに俺と魔物の間にちびが割って入る。
なんてことを、そんなことをしたって自分が消えるだけだというのに。


だが、魔物の爪がちびを引き裂こうとした、その刹那。
ちびの体が光に包まれ、一条の稲妻が魔物を切り裂いた。


「なっ・・・・・」

「あ、あれ? わたし、大きくなってるです~!」

あっけに取られる俺をよそに、ふっつーにはしゃぐちび。
いやもうちびじゃないのか、でもどう呼べばいいんだああもうメンドクセェ。
とりあえず、今は回りの魔物を片付けるのが先決だ。

「おいちび! 戦えないお前じゃ無理だ、下がってろ!」

「イヤです、わたしもあるじ様と一緒に戦います!」

「アホか! お前が戦えるわけ・・・・・危ない!」

むきーっという効果音を発しながら食い下がるちびの背後から、五~六体の魔物が襲い掛かる。
ちびが消えてしまう、なぜかそのことがとんでもなく恐ろしく思えた。
慌てて重い夕凪を引っ張り上げ、ちびを庇おうとするが、間に合わない。
ちびは消える、何の疑いもなくそう思った。
しかし――――――――

「神鳴流奥義――――――――百烈、桜花斬っ!」

――――ちびが振り向きざまに放った一閃が、魔物共を一瞬で消し去った。

「んななななっ・・・・・?!」

「おお、今のお前よりよほど役に立つな」

「えへへ~」

「やかましい!」

おいおいおい、どういうことだ!?
ちびを呼び出したのは俺で、ちびにできることは一番俺が知っているはず、なのに。
いきなりでかくなるわどこかから夕凪そっくりの刀を引っ張り出すわおまけに百烈桜花斬までぶっ放すわ一体何がどうなった?!
もう何がなんだかわからなくなって頭を抱える俺。
しかし、龍宮もちびもそんな俺のことは全力スルーだ。

「おい刹那、とりあえずこいつらをさっさと始末するぞ」

「はい、任せてください~!」

「お前が言うなお前が! ・・・仕方ない、いくぞ!」

こっちの困惑もそっちのけの龍宮にもその元凶のちびにも腹が立ったが今はそうも言っていられない。
手の中の夕凪を握りなおし、俺は取り囲む魔物達の真っ只中へと切り込んだ。



「ふぅ、どうにか片付いたな」

「ああ、これで終わりだ」

地べたに座り込みながら、龍宮に確認する。
龍宮のほうも、木に体を預けてはいるが、俺よりも多少余裕が残っているようだ。
・・・まぁ、今回龍宮の余裕をなくさせたのは主に俺が原因なのだが。
そして、まったく余裕綽々ではしゃぎまわってる馬鹿が一名。

「わ~い、やったやったやりましたぁ~!」

「ハイハイ」

ちびがぴょんぴょん跳ね回るたびに、楓に結われたサイドテールも揺れる。
こいつも結構暴れまわったはずなのだが、どこにこれだけはしゃぐ元気があるんだろう。

「そういえば刹那、夕凪はどうだ? 今でも重いのか?」

「え? ・・・いや、そういえばちびが来てからはそんなことはなくなったな」

確かに、そのとおりなのだ。
情けない話だが、ちびが駆けつけてくれてから夕凪を異常に重く感じるということはなかった。
おかげで、それまでのように魔物共に苦戦することもなく撃退できた。
しかし、なんでまたこんなことが――――――――?

「あのあの、それってつまり、わたしが来たからそうじゃなくなったってことですよね?」

「あ? まぁ、そうなるなぁ」

「じゃあじゃあ、やっぱりわたし、あるじ様のお役に立ててますよね? やったぁ~~~!!」

「ハハハ、確かにな」

「あのなぁ・・・・・・・」

さもうれしそーに飛び跳ねるちびと、にやつきながらそれを見つめる龍宮。
もう突っ込む気力すら起きない、よくよく考えれば俺は今日ひたすら突っ込んでただけだった気がする。
今日の突っ込みの特売はおしまいだ、頼むから騒がないでくれ。
がっくりとうなだれた俺。
するといつの間にか、後ろからちびが近づいてきていた。

「えへへ・・・あるじ様ぁ・・・」

「・・・なんだ? いきなり変な声出して・・・」



ぎゅっ



「・・・・・・・・・・へっ?」

「んなっ!?」

「あるじ様、大好きです~♪(すりすり」

んなあああああああああああああっ?!?!?!
いきなり抱きついてくるというちびの予想外の行動に、俺の脳内はパニックパレード大行進状態に陥った。
あ、アホかお前は俺の式神だろっていうかなんでこんなやわらかいんだいくら大きさが普通の女の子と同じだからってああそうか式神のサイズが大きくなったんだからやわらかいのも当然かってそんな問題じゃねえええええええ!!!

「ば、馬鹿、離せ!」

「や~です~、わたし疲れちゃいましたから、おんぶしてくださいです~」

「なんっでそうなる! いいから降りろ!」

「やだったらやです~♪」

「いい加減にしろ! おい龍宮、お前も何とか・・・・・・」

「仲がいいな刹那、では私は先に失礼するよ」

「待てぇぇぇぇぇぇ!!」

そう叫んでみても、龍宮はこちらを振り返ろうともせずにすたすた行ってしまった。
ちくしょう、今度あんみつにわさび仕込んでやる。
ふとそのとき、真っ先に疑問に思わなければならないことがいまさら疑問として浮かんだので、その当事者であるちびに聞いてみる。
・・・馬鹿だからあまり答えに期待はしてないが。

「そういえばお前、なんで人間大になったんだ?」

「ふぇ? 知らないです、気がついたら大きくなってました」

駄目だ、要領を得ない。
だがしかし、想像はできる。
おそらくこれも世界樹の悪さのひとつだろう(すりすり)、なにせちびを性転換したのはほかでもない世界樹なのだから(すりすり)。
まったく、あの大木はなんか俺に恨みでもある(すりすり)うぜぇぇぇぇぇ!!!

「おいこら! いい加減に離れろちび!」

そういって、俺に頬ずりを繰り返しているちびを放り投げようと、ちびの腰のあたりに手を伸ばす。
しかし・・・・・・


ふにっ


「――――きゃああああっ?! お、おしり触るなんて、あるじ様のえっちぃ~~~~~!!!」

「ななな、ちがっ、誤解だってうわちょっと待て落ち着けぎゃああああ!!!」

――――ちびが“女”だということをうかつにも失念して行動した俺は、ちびの放った(おそらく全力の)雷鳴剣をモロに喰らって、気を失ってしまったのだった。


「う、う~~~ん・・・」

「あ、あるじ様、目が覚めましたか!?」

「あ、ああ・・・・」

気がつくと俺は、ちびに膝枕されて寝かされていた。
いくら自分の式神とはいえ、女の子に膝枕されるなどということは気恥ずかしいことこの上ないのですぐにでも起き上がりいのだが、まだ体がしびれて動いてくれない。

「ごめんなさい、わたし、わたし・・・・・・」

「気にするな、俺も悪いしな」

そういって苦笑いする、そのつもりがなかったとはいえセクハラ行為を働いてしまったのは確かだからなぁ。
だが、そうでした~と言って笑われるとどうにも腹が立ってしまう、これは不条理なんだろうか。

「あの、あるじ様」

「ん、なんだ?」

ふと笑うのをやめて、真面目な表情でこちらを見つめるちび。
何事かと思って、じっとちびの顔を見守る。
やがてちびは、ゆっくりと口を開いた。

「――――わたし、お役に立てましたか?」

――――いきなり何を。
さっきまで役に立てた立てたとはしゃいでいたのはどこのどいつだ、という言葉が喉元まで出かかったが、ちびの真剣そのものの表情を見て無理やり飲み下した。
そして、安心させるように笑顔で――――そういえば、今日こいつに向かって笑ったのは初めてじゃないか?――――はっきりと、誉めてやる。

「ああ、助かった。 ありがとうな」

そういってやると、ちびは小さく微笑んだ――――それはまるで、月光のように穏やかな笑顔だった。
その笑顔で見つめられるのがなんとなく気恥ずかしくて、つい顔を背けてしまう。
だが、ちびはそんなことはお構いなしで俺の顔を無理やり捻じ曲げて自分の正面に持ってくると、妙なことを言い出した。

「あ、あるじ様、ちょっと目を閉じてください~」

「何? なんでまた・・・」

「いいからいいから、ほら~」

「わかった、わかったよ」

まったく、今度は一体なんなんだ?
そうは思いながらも、一応目を閉じてやる。
すると――――――――


ちゅっ


「――――はぁぁぁぁぁっ?! お、おまっ、お前何を・・・・・・っ?!?!」

「えへへ、じゃあわたし、お先に失礼します~」

「コラァァァァァァァ!?」

俺の怒鳴り声などお構いなしに、一目散に走り去るちび。
まさか自分の分身にキスされるなどとは夢にも思わなかった俺は、しばらくそこで立ち尽くすしかなかった。
一体、何がどうなってるのか、さっっっぱりわからない。
とりあえず今わかることは、俺の式神であるちびせつなが女になったどころか人間大のサイズになり、そのうえ俺にキスまでした、ということだけだ。
そして、しばらくほうけていた俺は我に帰ると、仕方なく部屋へと戻る道をたどった。




――――その後、部屋に帰った俺を待っていたのは。
修羅のごとき形相で待ち受けていた楓と龍宮による圧倒的なセクハラまがいの暴力と、ボロボロになった俺を手当てするちびの、愛らしい笑顔だった。


その3



「なんだかすごく楽しそうなことをしているな。なんの踊りだ」

「踊りとはなんのことでござるか」
「コントローラーを替えただけのことだ。踊っているわけではないぞ」




 土曜日の昼。どうもこの二人はヒマならしく、また例の革命的ゲーム機器を起動させては対戦をしている。今回はまた見慣れないものを手に持って、二人してその操作性の難しさに手を焼いているようだった。
 これはなんと形容すればよいのか。右手で持つ部分と左手で持つ部分が完全に分かれていて、コードでつながっているタイプのコントローラー。ヌンチャクのようでもあるが…それを持った二人を傍で見ていると、なんだか「消火器を持った警備員」と「十手(じって)&ちょうちんを持った江戸時代の町奉行」みたいだ。

「よし、私が1着だ」
「いやぁ虹道はなかなかキツいでござるな~」

 今度はカーレースですか。






 …さて、先日よりナニがアーなってアレがコレなわけだが、一体どうすればいいだろうか。
 まともな日本語に言い換えるとつまり、ちびせつなが一介の女の子になってしまったという話だ。
 そしてあろうことかちび自身が独自に力を解放、ついては調整をする術を身につけ、いまはこのとおり



 すー。  すー。



 人間サイズの状態でひと様のベッドを占領し、気持ちよさそうに寝ているのである。
 おかげでわたしゃソファーで雑魚寝ですよ。

「(寝るときぐらい小型に戻ってくれよな…。)」

 そう思うものの、この寝つきのいい娘っ子は布団に入れば3秒で夢の世界に旅立てるらしい。
 そして一度ボヤージに出れば現実世界に連れ戻すことがなかなか困難なのだ。
 ベッドの愛しきぬくもりを取り戻すためには、相手より先に占領するしかないということがこの一晩で充分に判った。



 それかいっそのこと、眠っている隙に召喚を解除してお札に戻してしまうのが一番楽か。



 けれどもなぁ…気が引けてしまうのは何故だろう。
 式紙というのは本来、自分の身代わりであって、その用途・目的さえ済めば紙に戻すのが筋なわけだが。このちび(大)の場合、なんで女になったのかとか議論しているうちに目的が分からんくなり、それっきり居候っぽくなってしまった。今はまるでそこに居ることが使命のようにすら思われる。

 で。このままでよいのかと。

 少なくとも、ベッドがひとつ足りなくなるのは大きな問題じゃないか。
 雑魚寝が苦手なわけではないが、それでも、マイホームでベッドがそこにあるのにずっと雑魚寝ってどうよ。
 やっぱりなんとかいい機会を狙って、紙に還すべきだと思うんだ。



 すー。  すー。



 …しばらくその寝顔を眺めている自分に気が付いた。いかんいかん。何もヤらしい事は考えてないけどね。
 ただ、ちょっと癒される気がしただけ。

 …どんな夢をみているのだろうか。って考えるまでもないか。頭の弱いこいつのことだから、きっと食べたいと思ったものが次々と出てきて願ったり叶ったり~な夢とかだろうさ。

「………ん………むにゃ…このちゃん………」

 このちゃんはあげません。



 しかしいつまで寝るつもりなのだろうか。もうそろそろ昼食時といってもよい具合だ。
 昨晩さんざん試してみて、まったく効果のなかったことだが、いまいちど肩をゆさぶったり起きろーと声をかけたりしてみる。
 とその時、背後でゲームをしていた二人が白熱を極めたらしく

「ノロいんだよゴリラがぁぁ!!」

 という龍宮の怒号でちび(大)が飛び起きた。
 いきなりの大声に反応して眠りから覚めたはいいが、また目がとろんとして寝ぼけてますといった表情を作っている。

「ふぁ…このちゃん…あ、いたいた~」



 ぎゅ



「こらこらこら俺はこのちゃんじゃないぞ、おいっ。おいって」
「ん…」

 寝ぼけすぎだっ!式紙のくせにリアルな体温とやわらかさがあるから心臓に悪い。
 そしてまた、胸元にうずめた顔を横に向けてふぅ。と深呼吸をつきそのまま落ち着いてしまう。
 困る。すごく困るんだ。体温が2℃ばかり上がりそうになる。

 仕方がないので目下10cmの位置にあるおでこの髪を左右に分け、用意ができたところで軽くでこぴんを一発入れてやった。

「あぐっ」

 さすがにそれで意識が戻ったか、目を見開いて状況を確認し、3秒ほどたったところであわてて身を離した。

「お、おはようございます………主様…」
「あーその呼び方はしなくていいって…言いにくいだろうし」
「でも他にどう呼べば良いのか分からないので…」

 そらまあ。お互いに刹那さんとかせっちゃんとか呼び合うのは変な気分になるしな。
 こっちからすれば、「ちび」とか「おまえ」ぐらいでよさそうな気はするが、向こうは自分のことをどう呼ぶべきか…

「適当に、あんたとかあなたとかそっちとか、そういう風でいいんじゃないか」
「………おはようございます、あなた」

 違う違う。そういう意味じゃない。
 しかも顔を赤らめて言うのはますます間違ってる。

 とにかくそろそろ昼食の時間なわけだし、起きるよう呼びかける。それに応じてちび(大)はやっとのことでベッドから抜け出した。
 そういえば服が制服のままだ。パジャマのひとつぐらい買ってやるべきなのだろうか。

 もぞっと動いたちび(大)が、ちょっとうつむき加減で話しかけてくる。

「お、ぉトイレ…」

 いってらっしゃいよ。



 さてそれであの二人のことだが、ゲームを終わらせたかと思えば今度は何かカードゲームとかやってるではないか。

「ライフは残り1になるまでは好きなだけくれてやるでござる」
「…怒狂ゴブリンで1点、弧状で3点すべてプレイヤーに」

 とにかくはたらいてはくれなさそうだ。
 そういや食材も何もないんだった。腹が鳴るまえに買い物に出なくては。

「そういや今日は山に修行には行かんのか?」
「アンタップアップキープドロー島を一枚出して…ああ、もうちょっとしたら行くでござるよ。終了」
「そうか。…オラッ、メア様召喚で場のクリーチャータップタップタップそして召喚酔いナシにより攻撃5点」
「はい(´・ω・`)」

 賑やかなのを横目に、外出の準備をする。
 …金降ろさなきゃだな。

「ちび。買い物いくぞ」
「あ、はいっ」

 手洗い場で洗顔、歯磨きとせっせと済ませて片方の髪をくくっているちび(大)に声をかけ、連れて来させる。
 ドアを開けて外に出た瞬間、すうっと風が吹いて、それが涼しく感じた。

「何を買いに行くんですか~主様」
「…食材とデザートとおまえの着替えかな」



 本当は小型に戻ってくれりゃ、負担が少なくてすむんだけどなぁ。
 人権意識というやつだろうか。本人がこのサイズを気に入ってしまって、元に戻ってくれん以上は食事も作ってやらにゃいかんし、服も買ってやらなきゃ…って、世話がかかるな…。

「お料理私がやりましょうか~?」
「ん?」

 料理。できるのか。

「出来るかどうか分かりませんが、お役に立ちたいので頑張ります!」

 無謀な。

「…俺が指導するから、やれるだけやってみな。ただしナベとフライパンは俺の領域だからな」

 言うと嬉しそうに、はい。とうなずいてトコトコとついて来る。



 並んで歩いてみれば、それほど足並みが変わらないことに気付く。
 やはり自分の分身か。しかし、どちらかというと双子の兄弟のように思えてしまうところだ。

 頭ん中はまるでちがうと思いたいけどな…。






タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

目安箱バナー