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刹那♂×ハルナ.

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匿名ユーザー

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平和である。
平穏である。
何の変哲もない日常である。
そんな同じような意味の形容を重ねたくなるほど、最近の刹那の日常は平穏無事であった。
学園内に魔物が入り込んでくることもなく。
わけのわからん騒動に巻き込まれることもなく。
せいぜい龍宮&楓コンビからのセクハラといったドタバタがあるくらいの、刹那にとってはこの上なく貴重な『平凡な』日々を送っている。
ありがたい、まったくもってありがたい。
戦いの中でばかり生きてきた刹那にとって、なんでもない日常ほど得がたいものはないのだから。
だが、しかし。

「なんというか・・・暇だよなぁ」

学園内の食堂棟近辺をあてもなくうろつきながら、ぷはぁーっという溜息とともにそんなことを漏らす刹那。
罰当たりなことだ、とは思う。
平和であることを『暇』だなどといえるような立場でないのもよくわかっている。
わかってはいるのだが、暇と感じるもんは暇なのだ。

「まぁ、こんなに長い間何もなくてすむことなんて、なかったからな・・・」

そうひとりごちる。
そのとおり、刹那にとってここまで平和な日々が続いたことなどなかった。
ネギ子達と親しくなり、毎日が楽しく感じられるようになってからも、ときたま舞い込む仕事の依頼なんかで気を引き締めねばならない日々が断続的に続いたりしていたのだ。
だが、最近はそんな仕事の依頼すらまったく全然皆無なわけで。
刹那からすればむしろ不気味なくらい、何事もない。
いや何もないならこの機会にやりたいことを何でもやればいい。
むしろ刹那自身も「じゃあただぼーっとしてるのもなんだし何かするか」と思っていたのだ。
だが。

「はぁ~・・・何すればいいのやら・・・・・・」

この有様だ。
皆さんは経験がないだろうか。
突然自由な時間を手に入れて「何かやるぞ!」と意気込んでみたはいいものの、いざ何かしようとすれば何をすればいいかわからなくなったことが。
今の刹那はまさにその状態である。

明日太さんとの剣の稽古は済ませてしまったし。
お嬢様のそばにずっといるなんてのはできるわけないし。
ちび(今は人間大か)の相手をするなんてのは真っ平御免だし。
部屋にいたら楓と龍宮にセクハラされるし。
かといって、何かやりたいことがあるわけでなし。
ああホントどうするかな、と途方に暮れていた刹那の視界にふと入り込んできた、見覚えのある影。

「ふんっふふんふんふ~ん・・・・・・♪」

鼻歌まじりで、学内に植えられた木々が育ちも育って形成した林のほうを向きながら、なにやらスケッチをしている人物。

細長い長方形のレンズが入った下ぶち眼鏡。
意思の強そうな太い眉。
いたずらっ子のような輝きを爛々と放つ眼。
そして、何かの昆虫の触覚のようにぴょこんと立ったアホ毛。

刹那のクラスメイトにして図書館探検部の特攻隊長、そして刹那に絶賛片思い中――――もちろん刹那が知るはずもない――――の人物、早乙女ハルナがいた。

「あれ? 桜咲さんじゃない、珍しいねーこんなとこで」

「そ、そうですね」

『珍しい』、といわれて思わず苦笑する。
確かに刹那が食堂棟近辺をうろついていることはあまりない。
そして外でハルナと出くわすこともあまりない。
あまりない+あまりない=滅多にないつまり珍しいわけだ、納得。
もう少し外出するようにしよう、と心に思いつつ、ふとハルナの手元を覗く。
ハルナのスケッチブックには、本物をそのまま紙の中に取り込んだような見事な林の絵が描かれていた。

「うわ・・・すごいですね」

自分にはとてもできない芸当に、思わず心の底から賞賛する。

「いやいや~、すごくなんかないよ、これくらい基本中の基本だし」

なははっ、と照れ笑いをしながら謙遜するハルナ。
十分に凄いと思いますけど、という言葉が喉まで出かかった刹那だったが、ふとあることを思い出した。
別にそれほどたいしたことではないのだが、気になったので聞いてみる。

「あれ、でも早乙女さんって美術部とかじゃなくて、漫研でしたよね・・・?」

「あー、これは今度描いてる漫画の背景の資料兼練習。 写真でもいいんだけど、今回は余裕あるし、ちょこっと予行練習しとくかなー、みたいな?」

いや疑問形で答えられても反応に困りますが、事情はわかりましたハルナさん。
つまり今描いてる漫画のどこかで林(森かもしれない)が出てくるシーンがあって、その練習もかねてここでスケッチをしていると、そういうわけですね。
まぁちょっと間違ってるかもしれないがそんなに問題はないだろう、と自己納得しつつ、刹那がハルナの再開したスケッチと林を見比べていると。

「あ、ヤマカガシだ」

茂みの中からごそごそと、小さな蛇が顔を出した。
それほど大きくない奴で、小さい身体の半分ほどだけを林の茂みからにょっきりと伸ばしあたりを窺っている。
マムシとか青大将とかそんなのなら大事だが、こいつは毒もないし可愛いもんだ。
などとのんきに思っていると。

「え? 桜咲さん何だって?」

「ああ、ヤマカガシですよ、ほらアレです」

刹那に言われ、興味津々と言った様子でスケッチブックから顔をあげるハルナ。
ではあったのだが。

「・・・・・・・・・・・・」

その顔がみるみるうちに引きつり青ざめていく。

「・・・ね、ねぇ、桜咲サン? あ、あれって、もしかして・・・・・・ヘビ?」

そう尋ねる声が震えている。
だがしかしこの鈍さ無限大を地でいく男は、そんな様子にまったく気付くことなく、

「ええ、小さいけどヘビですね。 大丈夫ですよ、毒があったりするわけじゃ――――」

刹那がそこまで言った、次の瞬間。

「――――いいいいやぁぁぁぁぁぁぁヘビヘビヘビぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!! ああああっち行ってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

大・絶・叫。
さらにパニくった勢いでそのまま刹那におもいっきり抱きつくハルナ。
普段の刹那であればうまいこと身をかわせただろうが、あいにくハルナの絶叫でピヨピヨ状態になっておりとっさに動けなかった。
だがそんなピヨピヨ状態が続いたのもハルナに抱きつかれるまで。
ハルナに抱きつかれた瞬間、刹那の意識は――――良くも悪くも――――ハルナに押し当てられたある一部分に集中する。
勘のいい読者であればもうお気づきであろう。
なかなか注目を浴びないが(実にもったいない)、ハルナ自慢の一品であり、何気にトップ四天王に次ぐサイズを誇る――――ハルナのやわらかい胸が、思いっきり、刹那の腕に押し当てられていた。

「ちょちょちょ、さ、早乙女さん落ち着いて・・・・・・っ!」

「だだだ、駄目なのヘビとか爬虫類はっ! ははは早くどっかやっちゃって桜咲さぁぁぁぁぁぁぁん!!!」

刹那の静止もむなしく、さらにきつくきつくきつく抱きついてくるハルナ。
もちろんそれに伴い胸のほうもさらにぎゅぎゅーっと押し付けられるわけでありまして。
いやはやただでさえ純情というかウブというかヘタレな刹那君はもう大変でござーますよ。

(う、ううう腕に滅茶苦茶やわらかいものがこれってどう考えてもさささ早乙女さんのいや待て落ち着け意識するな俺意識したら負けだ負けだ負けだやわらか負けやわら負けやわ負けやわ負けやわ)

とまぁ、こんな感じのテンパりっぷり。
頭に血が上りきってしまってもう何がなんだか。
その影響で眼までグルグル回しながらもなんとか茂みのほうに目をやり、ヘビがいなくなっていることに気付いた刹那が最後の理性を総動員してハルナに呼びかける。

「ほ、ほほほほら早乙女さんもうヘビはどっか行っちゃいましたから大丈夫ですよ!」

「ふぇっ・・・? ほ、ホントだ・・・・・・ってごごごごめんね桜咲さん!」

そのまま飛びのくように刹那から離れるハルナ。
理性が崩壊する一歩手前だった刹那は、心の中で大きな安堵の溜息をつきつつ、乾いた笑いを浮かべる。
そして何度も頭を下げるハルナをなだめながら、心の底からこう思った。

――――暇だっていい、退屈だっていい。 こんな心臓に悪いアクシデントが起きるくらいなら。

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