※BL注意!※ 愛が足りない? ~ある晴れた日のジェミニの午後~

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匿名ユーザー

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うららかな日曜の午後。
オレは昼寝でもしたいところだが、生憎邪魔者がいた。
ベッドに寝転がったオレには目もくれずリンがテレビ画面を食い入るように見つめている。
コントローラを握った指先が忙しく動いている。
どうしても試したい格ゲーがあるとかでソフトを持ってゲーム機のあるオレの部屋にやってきたのだ。
普段は汚いと言って入ろうともしないくせに…。
「おっしゃぁー!死ねぇっ!」
勝者の雄叫びのような奇声を上げてコントローラーを大きく振った。
「おい、壊すなよ」
「ヒャッホー!連戦連勝!ぶち殺しまくったぁー!」
聞こえてねぇのかよ、こいつ。
「はー、咽乾いた。なんかちょうだい」
満ち足りた笑顔でくるりとこちらを向いたリンに「勝手に冷蔵庫ん中からなんか持ってけ」と言うと、「もう、サービス悪い」と言いながら冷蔵庫に這って行ってドアを開けて中を漁ってる。
勝手に人の部屋にやってきてゲーム機使ってしかも給仕しろってのか。
「なんでアンタの部屋の冷蔵庫にダッツが詰まってんの?」
ああ、もう。
「勝手に冷凍庫まで開けるなよ。何入れようがオレの自由だろ」
「…ま、いっか。変な玩具が入ってないだけで良しとするわ」
「お前な…」
ベッドの上で起き上がったオレをチラと見てリンは涼しげな顔でゲータレードのキャップを開けて勝手に口をつけてごくごくと一気に三分の一ほど飲み干すと、「はぁー、美味しい」と笑った。
「いきなり人の部屋に上がり込んでゲーム機使った挙句冷蔵庫の中漁ってくだらない詮索までして女として恥ずかしいと思わねえのか」
リンは突きつけられた人差し指を見ながら「指で人を指すなんて下品ー」と冷ややかな視線で返す。
「男の部屋で胡坐かいてペットボトルがぶ飲みしてるほうが下品だろ!」
「都合のいい時だけ男とか女とか使い分けるの、男の悪い癖のひとつだから直したら?」
ったく…なんでこう減らず口なんだか…。
「あーあ、もっとしとやかでたおやかな可愛らしい妹が欲しかったなー…」
「ちょっと!誰が妹よ!あたしだってもっときちんとした頼り甲斐のある弟が欲しかったわよ!」
「お前が妹だろ!」
「勝手に下にしないでよ!あんたが弟!」
「…」
「…」
…バカバカしい。
なんでこの穏やかな日にこいつとアホらしい言い争いしなきゃいけないんだ…。
「もうお前用事が終わったらさっさと出てけよ」
再びベッドに寝転がると「これ飲んだら言われなくても出て行くわよ」とまたキャップを開ける音がした。
ゴミまでオレの部屋に捨ててく気かこの野郎。
…まぁめんどくせーからほっとこう。
目を閉じて、こいつのことは頭から追い出して、兄さんのことでも考えよう。
レン――と笑う兄さんの顔が思い浮かぶ。
いろんな兄さんの顔を知っているのに、思い浮かぶのは大抵柔和に微笑んでいる顔。
柔らかくて、優しい、穏やかな笑顔。
まるで、憤怒なんて言葉は知らないかのような、優しくて可愛らしい微笑み――。
「なぁ…」
独り言でも言う気分で口を開いた。
「兄さんって…変わった人だよなぁ…」
「はぁ?」
目を閉じていてもこちらを向いてリンが素っ頓狂な声を出したのがわかった。
「どこがどう変わってるのよ。アンタみたいな奴と付き合ってるのは確かに変わってるけど」
付き合ってる――かぁ…。
「兄さん、ミク姉とよく一緒にオレのPV見てんの」
リンが無言になった。
「よく…わかんないよなぁ…」
何が面白いのか兄さんはミク姉と一緒によくオレのPVを見ている。
オレに隠れて――のつもりなんだろう。
そんな二人を見ているオレに気付くと、まるで隠れてエロビでも見ていたかのように顔を真っ赤にして必死に言い訳してる――あの、カッコいいな、と思って――と頬を染めて笑顔で誤魔化そうと一生懸命に。
そういう兄さんの顔も可愛いけど…
ふうと溜息をついた。
あんなに泣いて、バカバカってオレを責めたのに、兄さんの中ではもう消化できちゃったことなんだろうか。
普通、見たくもないもんじゃないか?
自分の「彼氏」が他の女と浮気してた、共演女優と浮気してたPVなんて…。
思い出したくもない嫌な思い出のはずなのに、それをなんで見てるんだろう。
兄さんたちに気付かれないように気配を消して物陰からこっそり観察していたことがある。
ミク姉は「ほえー」という言葉でも発していそうな顔で顔を赤くして、兄さんはボーっと画面に食い入るように見つめていた。
かすかに染まった頬は可愛いけれど…なんでそんな顔して見とれちゃってんの?
オレが、兄さんを裏切って浮気してたことなんかなかったことみたいに…。
「オレ、本当に兄さんに愛されてるのかなぁ…」
兄さんは無欲な人だけど、本当は無関心なんじゃないかって不安になる。
もっと、縛って、愛情でがんじがらめに動けなくなるくらいオレに執着を見せて欲しい…。
「バカね」
辛辣な口調でリンが言い放った。
「お兄ちゃんがアンタの愛とやらを疑ってないのにアンタはお兄ちゃんの愛を疑るの?」
そういうつもりじゃ…
目を開けてリンのほうへ視線を送ると真面目な顔でこちらをじっと見つめている。
「アンタ、お兄ちゃんのこと愛してるって言うわりにはお兄ちゃんのことよくわかってないわね」
「…お前はわかってんのか?」
「アンタよりはね」
リンは空になったペットボトルを屑かごに放り投げるとソフトをしまって立ち上がった。
「アンタ、強欲なのよ。お兄ちゃんに愛されてるだけで満足できないなんてワガママもいいところ。お兄ちゃんの信頼を裏切って浮気しておいて許してもらったら許してもらったで不満なんて自分勝手すぎ。お兄ちゃんはバカじゃないからアンタが浮気したこと忘れたわけじゃないのよ?許しただけ。どうして許せるのか、アンタみたいなバカでワガママで強欲な男には一生わからないでしょうけれどね!」
それだけ一気に言うと「邪魔したわね。ちょっとは部屋片付けなさいよ」と言い捨てリンは出て行った。
乱暴に閉められたドアの軋みにまた溜息が漏れた。
「…何がわかってんだよ…」
オレにはさっぱりわからない。
兄さんが、どうして許せてしまうのか――
前も、そうだ。
レオンが来日した時、兄さんは無理やり犯されて身体にたくさんの傷を負わされ泣いていた。
傷だらけの身体で、オレに嫌われるんじゃないかって、泣いていた。
なのに、兄さんはあいつともう一度話したいと言って、あいつのために涙を流して必死に訴えていた。
人工物であることにコンプレックスを抱いているあいつに「俺たちは人形じゃない、心がある」と…。
そして、今はなぜかあいつを「友達」と認識している。
かつて自分を無理やり犯して手酷い傷を負わせた男を――
わからない…
オレは、あいつよりひどいことを兄さんにした。
オレを信じて疑わない兄さんを騙し、嘘をついて人間の女を抱いていた。
強姦よりも何よりも手酷い裏切りだ。
兄さんをあんなに泣かせてしまったのは初めてだった。
許してもらえたのは…よかった。
けど…なんだろう……この心に消えない不安は…
オレが兄さんを求めれば、相変わらず可愛らしく恥じらいながら受け入れてくれる。
だけど、オレを愛しているなら、もっと束縛して、嫉妬して、決して逃さないようにオレを捕まえていてよ。
息苦しくなるくらいの愛が欲しい。
身動きできないくらい、兄さんの愛でオレをがんじがらめに縛って欲しい…
「やっぱ、ワガママかなぁ…」
瞼を閉ざすと眠気で身体の力が抜けて行く。
開け放った窓からそよそよと心地よく身体を撫でて行く風は兄さんの微笑みみたいだった。




自ブログにUPしたレンカイ前提リンレンSSです。

浮気云々の話は流星Pの「SPICE!」にインスパイアされて書いた長編小説でレンが浮気をしたエピソードを指しています。

レオンの話も初めて書いた長編小説の話です。

前の投稿もそうですが、転載なのでサイドストーリー的なSSが多くなってしまってすみません。

今度はサイドストーリーではない(注釈の要らない)SSを投稿しようと思います。

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