毎●放送版うろたんだー1話「うろたんだー、地上に立つ!」

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匿名ユーザー

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だれでも歓迎! 編集

【注意】

 

・SNS「ボーカロイドにゃっぽん」の日記から、筆者本人が転載いたしました。

 


・うろたんだー毎○放送版をノベライズ化したという設定で書いています。
 ご自分のうろたんだー設定を大事にしている方は、引き返した方が良さげです。

・第一話なので『うろたんだーを知らない人』が読んでも分かるように書いてます。
 その割にはオリジ設定ありますけどね!!(駄)


・SSですが、全くショートではないです。
 かなりの【長文】なので気をつけましょう。

・ジャスティスは今回 出 ま せ ん 。
 村田隊長や小野寺好きな方は、申しわけありません。

・卑怯分が少ないです。というか今回無いんじゃないかコレ(´・ω・`)

 

(08.07.26:長文につき携帯から読めなかったので、前後編に分けました。一部修正)


【以下、本文】


 世間とは、かくも無情なものである。
 両親と喧嘩し上京、兼家出をしてから数週間。
 そのことを、彼女、亞北ネルは嫌という程思い知らされていたりした。
 ただ都会に来ただけで、やりたい事が見つかるなら苦労はしない。
 自分の世話がろくに出来る訳でもないのに、ろくな一人暮らしが出来る訳もない。
 そして後悔し帰ろうとしても、新幹線の席すら買えない金銭事情。

「……やってられっかー!」

 そんな感じでムシャクシャして、道端の石を蹴ったのが発端だった。


 ……拝啓お母さん。
 亞北ネルこと私は今――、

「ごめんなさいぃぃぃ!!」
「待たんかぃ、このアマァ!!」

 軽率にも周りを見ずに石を蹴り上げ。
 ヤクザの頭にぶつけちゃって、追っかけられてます。

 ……誰か助けて――!!


第一話「うろたんだー、地上に立つ!」


 麗らかな春の晴れた空。
 此処は埼玉のとある町。
 人で賑わう商店街…から、少し離れたと通りの真ん中で。
 その女性は何故か行き倒れていた。

「……大丈夫ですか?」

 彼女は通り掛かった男に話しかけられた。
 彼女の名前は弱音ハクという。
 珍妙な名前だが、これほど的確な名前もないだろう。
 名は体を表すと言う。
 …それが真実かどうかは、彼女を見れば明らかだ。

「……生きてますか?」
「……」

 言葉無く、しかしコクリと頷く彼女。
 ……彼女がこんな状態になっているのは、ここまでかと言われるほどの不運が為だ。
 駅前に行けば何かしらの勧誘のターゲットになりかけ。
 コンビニに行けばひったくりと勘違われ。
 良い話には必ず詐欺だとか、嬉しくない単語ばかりが付属する。
 ツキがない、薄幸、ネギ背負ったカモ。
 そんな彼女は、遂にと言うべきか、着の身着のままで倒れている。

「助け、要りますか?」
 ぐきゅるるる〜…

 返事の代わりに腹の虫。
 何とも器用というべきか、寧ろ溜め息を吐くべきか。
 ヨ・ワネ・ハークは器用貧乏なのか?
 …すんません、オーエンと語呂が似てたので(爆)

「……仕方ない」

 青マフラーをしたその男は、取り敢えず彼女の身体を抱き上げ。

「……」

 一瞬だけ顔を見た後、彼女を背中に背負って歩き始めた。
 意味深シーンですが、何もありません。
 無いったら無いのです。
 べっ、別にシリーズ後半で生きてくるはずの伏線だとかいうわけじゃないんだからねっ!///
 ……はいはい、ツンデレツンデレ。

 ……ところでマフラーの兄さん。
 狙ってないとは思うんですが、その状態だと背中にハクの胸が当たってますよね、明らかに。
 ……変われぇ!俺と変われぇそこのぉ!!


   /


 ……何でこんな事になったんだろう。
 中学の終り頃に、両親と居るのが理由もなく嫌になった。
 それで田舎を飛び出した事は後悔してるけど。
 こんな酷い罰として返ってくるなんて思ってもみなかった。
 そんな事を朧気に考えて、ネルは現実逃避しかけていた。
 けれど、ズシッと言う足音が彼女を現実へと引き戻す。
 恐る恐る振り向いたそこには、

「…随分と、手間かけさしてくれたなぁ、えぇ?嬢ちゃん?」

 ヤクザの幹部風な男と、若い男2人。
 男たちは、腕に拳銃を握っていた。
 …此処は住宅街の行き止まり。
 完全無欠に袋小路というやつだった。
 粗大ゴミぐらいしか無かった場所は、何ということでしょう。
 一気に処刑場の雰囲気を醸し出しています。

「ボス、どうしますか」
「弾ぁ無駄にすんな。……2,3発ぐらいにしとけ」
「分かりました」

 近寄って来る男たち。
 それを目は閉めず、けれど怯えは隠せず壁際に寄るネル。
 これ、第一話なんですか?
 初っ端からクライマックス(オワタ的な意味で)過ぎね?
 そんな視聴者の困惑に応えるように。


「数人で女の子一人を取り囲むなんて、褒められたものじゃないですねー」


 突然、袋小路に綺麗な声が聞こえた。
 透いた旋律の様でいて、しかし何にも消されぬ通る声。

「なっ、誰だ!!?」

 堅気ではない兄さん方は辺りを見回し、声の主を探す。
 しかし、その音源は分からない。

「何があったかは知りませんけど、他人から見れば貴方たちは悪人にしか見えませんよー」
「で、出て来い!!」
「はいはい、出て行ってあげますよー。
 ……我こそは!強きも弱きも関係無く、悪を滅ぼす正義の味方!」

 その威風堂々とした声と共に。
 ネルが立っていた壁が、切断されて後ろに倒れた。

「はぇ…?」

 支えが消え、倒れる形になったネルの体を誰かが支える。
  ポニーとストレートを足して2で割ったような、見慣れない髪型。
 麗らかな春のこの時期に、少し暑そうな生地の長袖。
 そして最も奇妙な事に、右手にネギを持っている。
 珍妙な格好をしたその人物は、堂々と宣言した。


「――初音ミク、ただいま参上ですっ♪」


 カメラ目線が決まってる、それはネルと同い年ぐらいの少女だった。
 髪型は、理由があるのでツッコまない様に。
 セリフ終了と同時に、


 ドッカアァァーン!!!!!


 極太の、緑の火柱が立ち上がるッ!!!
 まるで外国の戦隊ヒーローの演出ッ!
 サンプル見たい人は「KAITO 700人」でニコるんだ!!
 ……にしても、突然現れたのに不自然すぎませんか、この演出?

「演出は、何時でも使えるAさん特製簡易花火でした♪」

 あ、説明乙です。
 ……いや、この時点だとAさん言われても誰だか分かりませんって。

「ちなみに、もう一個仕掛けておきました」

 筆者すら無視して、笑顔でネギに付いたボタンを押すミクさん。
 同時に火柱が立ち上がった。
 男たちとネルたちの間に、である。

「う、うわっ!」
「このっ、クソッ!服に火がッ!!」

 喚き、慌てる男たち。
 彼らが怯んでいる隙に、ミクはネルへと呼び掛けた。

「そこの子、走るよ!」
「え…は、はいっ!」

 返事と共に、ミクはネルの腕を掴んで引っ張った。
 混乱し、けれど引かれるがままに走るネル。

「た、助けて…くれて、ありが…と……っ!」

 呼吸もせずに走り出したからか、息も絶え絶えに成りながらもネルは言う。
 それに少しだけ振り返って、ミクは答えた。

「いえいえ、どう致しましてっ♪」

 にっこり微笑む彼女。
 その表情に、思わずネルは見惚れた。
 女も惚れる、かわいかっこよさである。
 …しかし、その笑顔は直ぐに曇った。

「うわ、あの人たち付いて来ちゃったか」
「えっ!?」

 ネルは後ろを見て確認する。
 そこには、確かにさっきの兄さんたちが走っていた。
 銃を出していないのは、人目では拙いと自粛したからだろう。
 しかし、捕まればどうなるかは分かったものじゃない。
 予想していない訳では無かったけれど、ネルは思わず慌てる。

「ど、ど、どうしようっ!!?」
「逃げるしか無いんじゃない?」

 返すミクは、しかし逆に落着いていた。
 壁際に置いてあった、ボロっちいローラーボードを蹴り飛ばす。
 そして走りながらその上にネルを乗せ。

「落ちないようにね、危ないから」

 ネルの手を引いたまま、加速した。
 ……ネルは、とんでもない速さの風が顔に当たるのを感じる。

「うわわわっ!!?」

 あまりもの勢いに、後ろへ吹っ飛びそうになるボード。
 左足で浮かんだ側を踏み倒し、何とか転倒だけは免れた。
 けれど、直後に手を握っているミクが軌道を変える。

「―――っ!!」

 もはや声を出す力も惜しんで、必死にボードの制動をする。
 必死なネルと対称に、ミクは全くもってのんきだった。
 呼吸の1つも乱れていない。
 その上、手に持ったネギをかじかじと、微妙に擬音を立てながら食べている。
 …え、それ本物の部分もあるんですか?

 ……と、とにかく。
 彼女は何処からどう見ても、珍妙であり超人でもあった。

「待てやこのぉっ!」
「そんなんで待つ人はいませんって〜」

 かなり危ない状況なのに、彼女は何処か楽しげだ。
 相手は挑発に乗ったのか、憤怒の表情を隠し切れずに追って来る。
 けれども、ミクの足取りはとてつもなく速く、少しも低下していない。
 ボードに乗っていなかったなら、ネルは疲労で倒れていた事だろう。
 このままなら逃げ切れるかも…と期待を抱いた瞬間。
 曲り角で向きを変え、ネルはその目を疑った。

「え、えぇっ!?」

 ミクたちに向かい、止まっている引越し業用のトラックが一台。
 その横をゆっくり、ぶつからないように進む、配送トラック。
 その速度たるや、亀の如く。
 このままネルたちが走っている間には、到底動いてくれそうも無い。
 ミクも、ぶつかるのを避けて立ち止まる。
 ミクに足でボードを押さえられ、ネルは何とかぶつからずに済んだ。
 尤も衝撃は殺し切れず、ミクに抱き付く形になってしまうが。

「…このままだとちょっと立ち往生、かな?」
「そ、そんな…」

 さあっと青ざめるネル。
 後方から2人分の足音。
 人生終了のお知らせが見えかけた時。


「いやいや、此処はそういう場面じゃないでしょ?」

 ミクは、ネルの手をくいと引っ張った。
 ローラーボードに乗ったままだったので滑って宙に浮かぶネル。
 それを抱き抱え、ボードに乗って彼女は言った。

「逆に考えるんだ。
 相手が退くまで待つんじゃなくて…」

 現れ、ネルの方に来る男2人。
 それに向かい、あろう事かミクは地面を蹴った。
 ロケットスタートするローラーボード。
 その上で少し腰を落とし。

「乗り越えちゃえば良いと考えるんだ♪」

 何と彼女は、高々とジャンプした。
 そして唖然とする男Aの顔に、ボードを思いっきり蹴り飛ばす。
 バ コ ン 。

「Noooooo!!!」

 英語ですね、きっとウリィの代りとかなんでしょう。
 真っ二つに折れたボードと共に、のけ反って倒れる男A。
 しかし、まだまだ彼女の攻撃は終わらないっ!!

「それっ♪」

 何と、もう1人の顔を足蹴に跳んだーっ!!
 鼻血出し倒れる男B!!
 対して、反動を利用してミクは何とトラックのコンテナに着地ーっ!!
 鮮やかです!!
 同じ踏み台の黒い○連星と比較すると、泣きたくなるぞ男AB!
 ……まぁ、彼女を敵に回した時点で涙目エンドなのは確定ですけど。

「暫くは、屋根伝いに逃げよ。
 ここら辺は家が密集してるみたいだし」

 ネルを下ろし、ひょいと軽く民家の屋根へとジャンプで跳ぶ彼女。
 ……その軽い動きを見てネルは、思わず息を呑んだ。
 ――広がる、地平線。蒼穹に向かって跳ぶ、ミクの姿。
 ふわりと舞う髪は美しく、輝きを伴い弧を描く。
 背筋を走る電流。寒さに因らず、立つ鳥肌。
 それがあまりにも美しすぎて、思わずネルは溜息を吐いた。

「…ねぇ、行くよー?」
「……あ、は、はい!」

 魅入った対象であるミクに呼ばれ、はっとするネル。
 慌ててネルが跳ぼうとしたちょうどその時に。

 ガコンと大きく、トラックが揺れた。
 それで重心がずれて「きゃあっ!?」倒れるネル。
 そして立ち上がる間も無く、配送業用のトラックは進んで行く。

「え、ちょ…っ!」

 ミクも慌てて追いかけるが、車の速度を超えるのは流石に無理だった。
 当然、ネルも、そんな所から飛び降りる度胸はない。

「嘘ーーっ!!」

 ああ、トラックが行く……。
 何か何処かから、ド○ドナが聞こえて来そうです。
 ……洒落になってねぇよ。


     /


「……すみません……本当に、すみません……」

 そう言って、弱音ハクは頭を下げた。
 此処は市内のドーナツ屋『UROTAN』。
 その客席の隅でハクは縮こまっていた。

「別に良いですよ。困った時はお互い様ですし」

 にこりと笑いながら、彼女の面前に居る男がハクに話しかける。
 逞しく、かつ優しげな雰囲気を持つ好青年だ。
 何故か、少し蒸し暑いのに青いマフラーをしている辺りは妙ではあるが。
 まぁ、アイスを食べているので暑くない訳では無いだろう。
 ……そんな感じの朗らかな彼に対して、しかしハクは気まずそうな表情をしている。
 その理由は、テーブルの上を見れば明らかだ。
 ……。
 ………。
 …………すんません、ツッコんで良いっすか?


 回転寿司ってレベルですらねーぞ!!


 座っているから高さは無いとはいえ。
 ハクの頭より高く積み上げられた皿の柱。
 それが、ざっと3本。
 さらに、小さい皿の柱が数本ある。
 1皿100円だとしても、2万は軽く超えています。
 そしてハクは1円すらも持っていない。
 ……となると、目の前のこの人に奢らせてしまう事になる訳で。

「でも、これは…」
「どうせ無料ですから。あ、何か追加します?」
「いえ、もう…大丈夫です…」

 何でもこのマフラー、この店の関係者らしく、商品を幾ら食べてもタダらしい。
 従業員割引きを超えている辺り、かなり重役なのかもしれない。
 そんな訳で、本当に気負いはしなくても良いのだが。
 ハクは、部外者なのにタダ食いをした事にも反省の念を抱いていた。
 ……なるほど、これ以上無い程のお人好しだ。
 その上、薄幸なんだから、人生大変なんだろうなぁ、ハクさん。

「…えと、あの…カイトさん、でしたよね…?」
「はい、そうです」
「順番が逆なんですけど…その、助けて頂いて、ありがとうございます…」

 ぺこりと頭を下げるハク。
 どう致しまして、と答えて何気なく窓の外に目を見やった彼は。
 突然、表情を変えてテーブルの下に潜り込んだ。

「……え?」
「す、すいません…少し隠れさせて下さい…!」

 何故か、カイトは声で表れるほどに焦っているようだった。
 一体何故かと思い、ハクはガラス張りの窓の外に視線を向ける。


 ……走るトラックの上に、這いつくばって蒼白になった金髪の少女が居た。
 以下、ハクさんの反応です。







   ……(´Д` )


   ……(´Д`;)



   Σ(´Д`|li)


 次いで現れる、そのトラックを追いかける緑髪の少女。
 追付けてはいませんが、何処のハヤテ君ですかこの子。
 少し苦しげな顔をしているものの、車とほぼ等距離を保つ速さで走ってます。
 トップアスリート涙目。

   Σ(゜Д゜`;;)

 ほんの一瞬で過ぎ去るトラックと何か。
 思わず、目じゃなくて首で追うハクさん。
 初めて電車に乗った子供みたいに、席に膝付いて見送るハク。
 …完全に足元のカイトを忘れてますね。
 カイトは、ハクのその動きで大体の状況を察し席に戻った。
 ふぅ、と目を閉じながら息を吐き、彼は尋ねる。

「……行きました?」
「うん、危機は去ったわよ。
 けど、緊急事態とはいえ、女性の足元に潜り込むのは紳士として失礼じゃない?」
「……えっと、弱音さん…でしたよね。

 すいません、驚かしちゃいまして……で、めーちゃん何時から居たの?」

 言って、彼は左手を腰に当て、テーブルの横に立つ女性へと視線を移した。
 ハクもその会話で気付き、その女性へと視線を移す。
 ――そこには、絶世の美女がいた。
 まるで雑誌のモデルのようなスタイル。
 赤で統一された服を着こなし、その眼は自信に溢れ光っている。
 されども嫌味さは欠片も無い。
 美しく、かつ格好良いという言葉がよく似合う。
 そんな、『めーちゃん』と呼ばれた彼女は。

「え?あんたがこの人連れてこの店入った時から」

 さらりと。
 普通なら間違いなくストーカーと認定される事を口走った。

「……めーちゃんって、怖い人だったんだね」
「そこ、ヘッドセットで通報しようとしない。
 あんたが急に家出したと思って、見つけたら女連れなんだもん。
 脅し、からかいのネタとして、持ってて損は無いじゃない。
 ……ま、ミクを見て隠れたから違うって分かったけど。
 それにそんな甲斐性持ってる子じゃないね、あんたは」

 あっはは、と快活に笑う彼女。
 それを聞いて、溜息を吐きながら呆れ顔をする彼。
 会話の早さにようやく付いて来たハクは、そのやり取りに少し入ってみた。

「……えと、ご家族の方ですか?」
「ん?あぁ、初めまして。こいつの姉のメイコです」
「あ、初めまして…。弱音ハク、です」

 ぺこりと、会釈をするハク。
 そのせいで、彼女は見逃した。
 名前を聞いた直後に、一瞬メイコがカイトをちらりと見た事を。

「……なるほど、ね」
「……はい?」
「いや、こっちの話よ。よろしくね、ハクちゃん」

 にこりとメイコは笑いかける。
 変な感じを覚えつつも、ハクも彼女へと微笑み返した。
 ……少し笑顔が引きつってるのは、慣れてないからですよ、念の為。


  /


 ……さて、結論から言うと。
 ミクとネル、はぐれてしまいました。

「…疲れ、た……」

 揺れるトラックの上で、僅かな凹凸を必死で掴んでいたのである。
 風圧や緊張による疲労も加わって、ネルはぐったりとしていた。
 おまけに、何ということか。
 彼女は携帯すらも落としていた。

「…ホント、有り得ない」

 倉庫らしき場所に辿り着き、運転手が何処かに行って。
 それで今すぐに降りる必要が無いという事が、ネルを誘惑した。
 ……暫く、休みたい。
 そう思って、仰向けになってネルは寝ていた。
 安心しきって、体から完全に力を抜いて。

「す…すみません、ボス…」

 だから聞き覚えのある声を聞いて、ネルは自分の耳を疑った。
 …ちらりと見たそこには、先程ネル達を追いかけた男たち。

「……!!?」

 焦って、自分の口を覆う彼女。
 折角逃げたのに、何で、また。
 歯噛みして、ネルは自分の不運を呪う。
 下手に動けば、静か過ぎる倉庫の中ではすぐに見つかる。
 そう思ってネルは耳をそばだて、男たちの隙を探そうとした。

「…逃がしたか、まぁ良い。ただ、次の仕事では絶対しくるな。
 何しろ成功すりゃあ旨いが、失敗したら最悪、組織揃って豚箱行きだ」
「は、はい、ボス!」

 ……今日は一体どれだけ付いていないのか。
 ネルは気絶しそうにすらなった。
 …この男たちは、とんでもない悪事をしようとしているらしい。
 その最終打ち合わせが、まさに今のようらしかった。
 バレたら、間違いなく……。

「……ようやく、パーツが全部揃ったんだ。
 苦労したぜ、これさえありゃ正義の味方だか何だかしらん奴等にさえ邪魔されん。
 この巨大ロボさえあれば!!」

 ピッという音。
 同時に、体が傾いている事にネルは気が付いた。

(……ひ、開いてる!?)

 ネルの想像通り、トラックのコンテナが大きく、中心から分かたれている。
 左右に開く鉄の入れ物。
 その縁に手をかけ、ネルはぶら下がった。
 男達の反対に開いた側に居たのが、不幸中の幸いである。

「……素晴らしい。流石はウン千万の資金をかけただけはある」

 陶酔する様に、ボス格らしい男が言う。
 しかし、そんな科白を聞いて居られるほどネルに余裕は無かった。
 ただでさえ疲労があるというのに、指先だけで全体重を支えているのだ。
 単なる少女がそれを持続するのは、到底無理な話だった。

(…もっ、駄目…ッ!)

 無情にも、重力が彼女の体を捉える。
 同年代の平均体重よりも軽い彼女は、しかし軟着陸すら出来ず。
 どさりと、大きな音を立てて墜ちた。

「! 誰だ!!」

 ……気が付けば、彼女は組み伏せられ、ボス格の男に見下ろされていた。
 もはや、ネルに抵抗する体力は残されていない。

「ボス、聞かれていたようですが、始末しますか」

 鈍く輝く、鋼の塊。
 それを向けられ、ネルは覚悟した。
 だが、


「……いや、こいつもコクピットに乗せろ」

 その発言に、思わずネルは首を上げる。
 ニヤリと笑うボス格の男。

「全てが終わってから殺す。だが…それまでは、人質だ」
「アン…タ……」
「何だね?」
「……一体、何を……する気なのよ…」

 その質問に、ボス格の男は笑顔のまま返した。

「他の組から警察から何もかも、邪魔する奴らを倒し。
 銀行、博物館…奪える物は何でも奪う。 ただそれだけだ、簡単だろう!」

 高笑うボス格の男。
 不意に明かりが倉庫に灯り、ネルは抵抗する気さえ失った。
 横たわるその鉄の塊は、ビル一つに丸々相当する巨体だった。
 一体どうなってしまうのか、ネルは予想すら出来ず、気絶した…。



   (CM)→後編へ続く!

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