二次創作 素人が小説を書いてみた 「目覚め」

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 半円形の空間の中央に、一本の柱が天井に届くほどの高さでそびえたっている。
 良く見ると、その柱は透明なガラスで出来ていて、何本ものケーブルが、その柱と見間違う培養槽につながっていった。不思議な液体で満たされた培養槽の中には、一人の少女が宙に浮くようにして眠っている。
 膝下まで届く、青緑色の長い髪。左腕には製造番号とおぼしき数字「01」。
これらを見る限り、少女は人の手によって創られた、「人の形を模した生命(いのち)」であることは間違いない。
 少女を生み出した人物、「神岡修造」こと、神岡博士は、培養槽のコンソールを操作しながら、自分が彼女にしてやれる最後の選択をしようとしていた。
 神岡博士は、「遺伝子工学」と呼ばれる研究を専攻しており、その道では知らぬものが居ないほどの第一人者であった。
 だが、個人で出来る事には限りがある。彼の研究はほぼ完璧であったが、生命を人工的に生み出すという行為を「神への冒涜だ」とか「生命の軽視だ」と騒がれ世間の風当たりは冷たかった。
 それでも彼が研究を続けてこれたのは、彼の研究を必要としてくれている人たちが居たからに他ならない。
 事故で子供を失ったり、どうしても子供が欲しい夫婦など、今まで様々な人たちに会ってきた。彼が今まで出会ってきた人たちは彼が生み出した新たな命を真剣に愛してくれた。その光景を見るたびに、彼の心は嬉しさと、ほんの少しの寂しさに包まれる。彼自身も事故で娘を亡くしてしまったからだ。
 でも、それでいいのだとも思っていた、これは贖罪であり、懺悔なのだから・・・
 そんなある日のこと、彼の元に一件の依頼が舞い込んできた。
 その依頼とは、彼にしてみれば意外なものだった。世界の子供が欲しい人達の為に、博士に研究機関の主任になって欲しいとの事だ・・・・
依頼の主は、世界的に有名な研究機関「コスモス」。
 最初はなんの冗談かとも思った、「コスモス」こそが世界的に「遺伝子工学」を否定してきたのだから・・・・
 しかし博士は、その申し出を受ける事にした。真の意味で、子供が必要な家族全てに、幸せを届けられるならそれに越した事はない・・・・
 そう思っての決断だった。すぐに博士は「コスモス」と連絡を取り、必要な資料や道具を一式もって「コスモス」へと向かった。
 最初の内は、順調に進んでいた。
 研究所長は、全てを博士に任せるといい、個室まで用意して、そこで研究を続けるように言った。
 なれない場所での研究に少し戸惑ったりもしたが、慣れてくるにしたがって博士の研究は飛躍的に進んでいった。
 そして、一人の新たな命が誕生した。
 「遺伝子工学」の「バイオロイド」研究から派生した新たな分野、歌によって人の心身のケアを目的とした人造人間「ボーカロイド」。博士は、その最初に生まれた命に「初音ミク」と名づけ、自分で育てる事にした。
 始めは研究の為の育児のはずだった、研究者として育児をこなし、冷静に研究結果をレポートに記していく。
 しかし、いつからだっただろう?彼女を本当の娘として育てていったのは。
 生み出された命とはいえ、人となんら変わら無い彼女に、博士はいつしか亡き娘の面影を重ねていたのだ・・・・
 幸せな時間だった、娘が亡くなって傷ついた心が癒されていくのを博士は感じていた。
 だが、そんな幸せは長くは続かなかった・・・・・・
 「ボーカロイド」研究を、悪用しようとする人々が現れてきたのだ。
 博士はその事に危機感を覚え、どうしようか考えていた。幸い、研究は、博士と数人の信頼できる助手しか関わっておらず、研究内容が漏れる心配は無かった。博士が心配したのは、娘、ミクの事だ。
 いくら「コスモス」が、素晴らしい研究機関だとしても、あくまで民間の企業である。研究を、悪用しようとする企業に買収されてしまえば、博士が考えているより悪い事になりかねない。
 そこで博士は、ミクを研究所から外に逃がす事にした・・・・・
 培養層の中の少女、ミクが 静かに目を開ける。
 「あれ?お父さん?こんな時間にどうしたの?」
 ミクはまだ、起ききれてない寝ぼけ眼で、目の前の父、神岡博士に尋ねた。
 「起きたのか?すまんな、こんな時間に、でもちょうど良かった。今から起こそうと思ってたんだ」
 コンソールでの最後の作業を終え、博士は培養層の中の水を抜くボタンを押す。
 培養層の中の水が排水されていく中、ミクはいつもと違う父の雰囲気に、質問せずには居られなかった。
 「今日のお父さん、なんか変だよ、どうかしたの?」
 博士はその質問には答えず、培養層の中から出てきた娘に優しく語りかけた。
 「ミクは前から外に出たがっていただろう? でも、朝は人目について大変だから、こんな時間になってしまったんだ、許しておくれ」
 「え、本当に? 本当に外に出ていいの!」
 ミクは、外に出れる事を素直に喜んだ。そんな娘の姿に罪悪感を感じながらも、博士は話を続ける。
 「あと少しで迎えの人が来るから、その人が来たら一緒に行くんだ」
 「え、一緒に来てくれないの?」
 父が一緒に来てくれないことに、少し落ち込むミク。博士はそんなミクの頭を優しく撫でる。
 「あ」
 「大丈夫、その人は父さんの知り合いだから。それに、友達を欲しがっていただろう。その人のところに一人息子が居るんだが、ミクと同じくらいだからきっと仲良くなれるよ」
 「ち、ちがうよ、それは嬉しいけど・・・・そんなんじゃないもん・・・・・」
 頭を撫でられながら、ミクは、少し不満そうに唇を尖らせた。
 コンコン
 控えめなノックの音が室内に響く
 「開いてるよ」
 博士がそう言うと、扉を開いて一人の男が入ってきた。
 「おう、久しぶりだな、神岡。何年ぶりだ?こうして会うのは?」
 扉を開けて入ってきた男。「神楽 修司」は、久方ぶりの友との再会を喜ぶ間もなく、いきなり質問をしてきた。
 「本当にいいのか?」
 「ああ、もう決めた事だ」
 「そうか」
 そんな短いやり取り。
 神楽は、ミクの方に向き直ると自己紹介を始めた。
 「俺の名前は、神楽 修司。お譲ちゃんの名前は」
 「は、初音ミクです。はじめまして、神楽さん」
 「修司でいいよ、おれは、ミクちゃんて呼んでいいかな」
 「は、はい、修司さん。大丈夫です」
 「良い子じゃないか」
 神楽は、博士に話を振る。博士は満足そうに頷いた。
 「もう、いいのか?」
 神楽は博士に聞いてみる。
 「あと少し待ってくれ」
 博士はポケットから、小指程の大きさのクリスタルを取り出すと、それをミクの首に掛ける。
 神楽は驚いた。それは、博士が亡き娘の形見として、持っていたものだから。
 何も知らないミクは、それを手にとって見る。それは本当に綺麗なクリスタルだった。
 「お父さん、これは何?」
 ミクは初めて見るクリスタルを、興味深げに覗いている。
 「それは、お守りさ」
 「お守り?」
 「そう、ミクがずっと、無事に暮らしていける用に・・・・・・」
 「そんな、大げさだよ、すぐに帰ってくるから」
 「ああ、そうだね」
 「もう、心配しすぎだよ?」
 「はは、さぁ、もう行きなさい、あまりのんびりしてると外に出られなくなるよ?」
 「は~い、行こう?神楽さん」
 ミクはそう言って神楽の腕を掴んだ。
 「あとは頼んだよ、神楽」
 「おう、まかせとけ」

 ミクは知らない、自分の父が、なぜこの時間に外出を許可したのか?
 なぜ自分で連れて行かないのか?
 そして、自分の身にこれから起きる事も・・・・・
 今はただ、満点の星の下を、神楽に導かれて歩く・・・・・
 運命に、導かれるように・・・・・

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